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戦いの後に

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「ふーん」

 ドークドーンの中心部に用意されている、聖アルトリス王国用の外交官の館。
 エリア王女一行も一時的に滞在しているその館の部屋の一室で、カインは床に座らされていた。
 カインの目の前の椅子に座っているのはニコニコと楽しそうに微笑む白いドレスを纏った少女と……不機嫌そうなセイラである。
 壁にはアインがよりかかっているが、時折向けられるセイラの視線を黙殺している。

「で、その後どうなったの?」
「え、いや、どうって……納得……したかは分かんないけど、互いに剣を収めて「会わなかった」ことになったよ? ツヴァイにキースって人ともう一人の女の子の体も回収して貰ったし、それが効いたのかな?」
「ふーん。よかったね、大問題にならなくて」
「うっ」

 まあ、冷静に考えれば他国の首都近くの鉱山で他国の人間が大規模破壊を起こしたのだ。
 対外的にはアルヴァの仕業ということで片がついているが、普通に考えれば国際問題である。
 それだけでなく、聖アルトリス王国内部の問題だけでも「勇者」と殺し合いをしているのだ。
 対外的には「地方貴族の息子で冒険者」なカインの一方的な責任問題である。
 しかもエリア王女の護衛という立場上エリア王女の監督責任にも話が及びかねないし、そもそもパーティ自体の連帯責任になる可能性だって充分にあった。
 そうなれば、此処にいるエリア王女やセリスにも問題が広がったのである。

「……えっと、それは大変申し訳ないと思ってる」
「なら目を見てくれる?」
「うぐっ」

 セイラの氷のように冷たい瞳と目を合わせていると、カインの背に思わず汗が流れるのが分かる。
 トールと相対した時だって、こんなに恐ろしいとは思わなかっただろう。
 更に言えば、ずっとニコニコしているエリア王女も怖い。
 具体的に言うと、超怖かった。

「あ、アイン。何かフォローを」

 カインに錆付いた玩具か何かのような動きで見つめられて、アインはふむと頷いてみせる。

「まあ……そうだな。今回カインは私に巻き込まれた側だ。責があるとすれば私にある。カインをそのように一方的に責めているというのは良くないと思うが」
「アインはいいよ。結果から言えばアルヴァが厄介な事するのを防いだ形になるし。大体、責任とって死のうとかした人にこれ以上何か言えないもの」

 問題は、と言ってセイラはカインをビシッと指差す。

「カインの行動! いい、カイン。僕はね、カインが面倒事に首を突っ込んでいくのはもう諦めてるの」
「うっ」
「でもね、後先は考えて! 報告・連絡・相談のホーレンソーが大事とか言ってたのはカインでしょ!? 違う!?」
「そ、その通りだね」

 さっと目を逸らすカインに、セイラは「僕の目を見る!」と叱りつける。

「今回の件だって、あのツヴァイとかいう奴に話する前に僕か姫様に相談してれば幾らか話は違ったんじゃないかな!?」
「で、でも。僕のカンだったし……そんな不確定な話で王族に話を持っていくわけには」

 カインの正論にセイラが何かを言おうとする前に、エリアが「まあ」と声をあげる。

「嫌ですわ、カイン様。私がそんな薄情な女だと思ってらっしゃるのですか?」
「へ?」
「私だってカイン様の「カン」に助けられたことのある身ですのよ? そのカイン様が嫌な予感がすると言えば、協力は惜しみませんのに。カイン様は、私の事を信用しておられませんのね?」
「え、いえ。そういうわけでは……」

 カインの言葉を遮るように、エリアはセイラの胸元に崩れるように倒れこむ。
 少しばかりわざとらしい動きだが、カインにはそれにツッコミを入れる度胸は無い。

「ああ、セイラ。カイン様ったら、積み重ねた恩を返す機会を私に与えてくださらないのですよ? 積もり積もっていく一方ですというのに」
「酷い男ですよね、エリア様。あの男、ああやって他人に恩を売っていくクセに返せそうなタイミングではサラッと独力で解決してのけるんですよ?」
「ええ、酷いですわ。こうなったらもう私をカイン様に差し上げるしか」
「あ、それはダメです」

 パッとエリアとセイラは離れると、軽く牽制しあうように視線を交差させ……何事もなかったかのように微笑んで視線をカインに戻す。
 その奇妙な連携にカインは脂汗を流しっぱなしであるが、やはり怖くてツッコめない。

「で、カイン。話を戻すけど、僕だってアインとは仲間のつもりなんだから。声をかけるべきだったんじゃないかな? 姫様を連れて行けないのは分かるけどさ」
「まあ、私だって荒事には慣れていますわよ? それに命の系統の魔法の心得だってありますわ。セイラでなくとも私を連れて行ってくだされば、その勇者の説得も楽でしたでしょうに」

 そしてセイラとエリアは再び牽制するように視線を交わすが、やはり数瞬にも満たない間のことである。
 そろそろ耐えられなくなってきたカインはアインに再び視線で助けを求め……仕方なさそうにアインは咳払いをする。

「そのくらいにしておけ。要は自分だってカインの役に立てたと、連れて行ってほしかったと。つまりはそういうことだろう?」
「そうだね」
「そうですわね」

 セイラとエリアが頷くと、アインはカインに「だ、そうだが?」と促す。
 そしてこういう流れになればどうするべきかは、カインはよく分かっている。

「ごめん。僕の気遣いが足りなかった。次からは気をつける」

 そう言って頭を下げれば、セイラとエリアは顔を見合わせた後にカインへと優しく微笑む。

「分かってくれればいいんだよ」
「ええ、そうですわね」

 そうして、カインは勇者より怖い女性陣の追及より解放された。

 ……ちなみにではあるが、具体的にどう気をつけるか突っ込まれる前に不自然にならない程度に迅速に逃げるのがポイントである。
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