587 / 681
連載
世界会議の前に16
しおりを挟む「……これは……!」
カインの中から溢れ出た力に、トールは一瞬怯むが……すぐに表情を引き締めなおす。
今のは抑え付けていたものを解放した余波であって、驚くような事ではない。
それに気付いたのだ。だが……同時にこれ程の力を持つ者の正体にも思い至り、しかし剣に魔力を集中している状況では「目」にまで割く余裕はない。
「お前、勇者か……! でもなんで……いや、知ってるぞ。転生者か!」
「どうだっていいことだよ。僕は、「この世界」に生きてるんだ」
カインの剣に、白い光の輝きが集まり始める。
魔法石の色もそれに合わせるかのように白に変わり……それを見て、トールは鼻でせせら笑う。
「……確かに驚いたけどよ。いいのか? 此処から先は本気の殺し合いだぜ」
「いいさ。もう覚悟は出来た」
「そうかよ」
トールは、カインが勝てるはずがないと知っている。
理由は単純だ。
たとえカインの魔力がトールより上であったとしても、トールが剣に限界まで魔力を注ぎ込むほうが早い。
故に、それまでにカインが剣に注ぎ込んだ魔力では対応できない。
「……後味は悪いけどよ。もう引けねぇ。恨むなよ……!」
「くっ……ツヴァイ! 何をしている! さっさとカインを連れて行け!」
アインは何処かに居るであろうツヴァイに向けて叫ぶが、返答は無い。
ならばカインを力尽くで何処かにぶん投げてやろうかとも思うが、アインの手はそれを躊躇する。
それでも、此処でやらねばカインは自分諸共死ぬ。
それがどうしても許容できずに、アインは手を伸ばそうとして……しかし、カインの声に手を止める。
「……僕の後ろにいて、アイン」
「馬鹿を言うな! お前、自分を盾にする気じゃ」
「大丈夫。信じて」
その言葉に、アインは何も言えずに黙り込み……カインはありがとう、と呟く。
そして、トールは……何かを諦めるような無表情で宣言する。
「魔剣技ッ! ソウルブレイクゥゥハリケェェェン!!」
それは、不可視の爆発の連鎖。
大地も空気も何もかもが高速で弾け飛んでいくようなその光景に、アインは死を予感し……しかし、カインはその轟音にも負けぬ声で叫ぶ。
「……ツヴァイ!」
その声と同時に空から背後の物陰から飛び出してきたツヴァイがカインとアインの襟を掴み、超高速で転移魔法を起動する。
それは「かろうじて」発動できるレベルの粗雑な魔法陣と、粗雑な座標設定。
転移事故すら発生しうるソレをツヴァイは無理矢理発動し、不可視の破壊が届く直前で三人の姿は掻き消える。
「なっ……!」
それに驚いたのはトールだ。
魔族がそういう魔法を使えるのは知っていたが、こんなタイミングで発動するとは思ってもいなかったのだ。
効果範囲が激しく崩れ行くのすら目に入らず、トールはカインの姿を探す。
「くそっ、ど、こに……」
それは、上空。
丁度大人三人分はあろうかという光が集まり、カイン達の姿が現れる。
有り得ない。
こんな冗談じみた奇跡は、普通は起こらない。
ツヴァイがそれを狙って必死で座標調整をしたとしても、有り得ない。
あんな雑な転移魔法では、周囲の土の中に転移したとしてもおかしくはない。
何処かわけのわからぬ場所に転移していても、誰も疑問には思わない。
むしろそうあるべきであり、こんな事は絶対に起こらない。
だが、起こった。
いや、起こした。
カインが忌み嫌った勇者の力が、小さな偶然と僅かな奇跡を幾つも連鎖させた。
「魔剣技!」
「う、おおおおお!」
トールが再び剣に魔力を注ぎ込む。
だが、間に合わない。
間に合うはずが無い。
先程とは逆。
カインの方が先に魔力を注ぎ始めているが故に、トールは間に合わない。
「ライト……」
トールの状況はカインとは違う。
カインは、大切な仲間を守る為に剣をとった。
トールもまた、大切な仲間の為に剣を握った。
だが、カインはその為にいつもは反発する悪友にも頼った。
大切に思う人の為に、奇跡を起こそうとした。
今、トールはたった一人だ。
それでも、トールは負けられなかった。絶対に、負けられなかった。
故にトールは今、「限界」を超えた。トールの剣に魔力が注がれる速度が、僅かに速くなる。
全力ではないが、それで充分。
「魔剣技! ソウル……スラァァァッシュ!」
「スラッシュ!」
二つの魔剣技がぶつかり合い、空中で弾ける。
巻き起こる魔力爆発は視界を塞ぎ……しかし、それ故に互いは互いを仕留めていないと理解している。
あるいは、今の攻撃でトールが限界を超えていなければトールが重傷で決着がついていたかもしれない。
あるいは、そうなった後でもトールが諦めず血みどろの殺し合いになっていたかもしれない。
だが、そうはならなかった。
ほぼ無傷の二人は地面に降り立ち、暴れるアインをツヴァイが離れた場所へと運んでいく。
「う、おおおおおお!」
粉塵の中から現れたカインが拳を握り、トールの顔面に手加減無しの一撃を入れる。
無茶をしたせいで身体の動きが僅かに鈍くなっていたトールはそれを避けきれず、鈍い音と共に頭を地面にめり込ませる。
「ぐあっ……」
頑丈なトールの肉体はそれで死ぬような事は無く、しかし脳がぐらぐらと揺れるような感覚はトールに「立ち上がる」ということをさせはしない。
「……くそっ、殺せよ」
もう、勝てない。
それを悟ったトールはそう呟くが……カインは、それを見下ろしたまま「嫌だね」と答える。
「お前はアインを殺そうとしたけど、元をただせばお前だって悪くない。だから、お前だって本当は此処で殺される理由なんてないんだ」
「なんっだそりゃ。覚悟が出来たんじゃなかったのかよ」
トールが舌打ちすると、カインは剣を鞘におさめて小さく息を吐く。
「覚悟が出来てるのと、実際にやるのとは別だろ? 殺す数なんて、少ないほうがいいに決まってるんだ」
「……そりゃそうだ」
トールが力が抜けたように溜息をつくと、カインの顔を見上げる。
「で、俺を生かしてどうしようってんだ」
「話を聞け。理解する努力をしろ。「見て判断する」のは重要だけどさ。「ちゃんと話を聞く」のが大事ってのくらい分かるだろ?」
「……納得するかは別だぞ。もう一度話を聞いてやっぱりあの女が悪いと判断したら」
「大丈夫さ。アインのやることにはちゃんと理由があるし、それに正直だ」
カインはそう言うと、トールへと悪戯っぽい笑みを向ける。
「アインは嘘をつくくらいなら黙りこむ。そういう分かりやすい奴なんだ……まあ、本人には秘密だけどね」
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。