勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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世界会議の前に16

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「……これは……!」

 カインの中から溢れ出た力に、トールは一瞬怯むが……すぐに表情を引き締めなおす。
 今のは抑え付けていたものを解放した余波であって、驚くような事ではない。
 それに気付いたのだ。だが……同時にこれ程の力を持つ者の正体にも思い至り、しかし剣に魔力を集中している状況では「目」にまで割く余裕はない。

「お前、勇者か……! でもなんで……いや、知ってるぞ。転生者か!」
「どうだっていいことだよ。僕は、「この世界」に生きてるんだ」

 カインの剣に、白い光の輝きが集まり始める。
 魔法石の色もそれに合わせるかのように白に変わり……それを見て、トールは鼻でせせら笑う。

「……確かに驚いたけどよ。いいのか? 此処から先は本気の殺し合いだぜ」
「いいさ。もう覚悟は出来た」
「そうかよ」

 トールは、カインが勝てるはずがないと知っている。
 理由は単純だ。
 たとえカインの魔力がトールより上であったとしても、トールが剣に限界まで魔力を注ぎ込むほうが早い。
 故に、それまでにカインが剣に注ぎ込んだ魔力では対応できない。
 
「……後味は悪いけどよ。もう引けねぇ。恨むなよ……!」
「くっ……ツヴァイ! 何をしている! さっさとカインを連れて行け!」

 アインは何処かに居るであろうツヴァイに向けて叫ぶが、返答は無い。
 ならばカインを力尽くで何処かにぶん投げてやろうかとも思うが、アインの手はそれを躊躇する。
 それでも、此処でやらねばカインは自分諸共死ぬ。
 それがどうしても許容できずに、アインは手を伸ばそうとして……しかし、カインの声に手を止める。

「……僕の後ろにいて、アイン」
「馬鹿を言うな! お前、自分を盾にする気じゃ」
「大丈夫。信じて」

 その言葉に、アインは何も言えずに黙り込み……カインはありがとう、と呟く。
 そして、トールは……何かを諦めるような無表情で宣言する。

「魔剣技ッ! ソウルブレイクゥゥハリケェェェン!!」

 それは、不可視の爆発の連鎖。
 大地も空気も何もかもが高速で弾け飛んでいくようなその光景に、アインは死を予感し……しかし、カインはその轟音にも負けぬ声で叫ぶ。

「……ツヴァイ!」
 
 その声と同時に空から背後の物陰から飛び出してきたツヴァイがカインとアインの襟を掴み、超高速で転移魔法を起動する。
 それは「かろうじて」発動できるレベルの粗雑な魔法陣と、粗雑な座標設定。
 転移事故すら発生しうるソレをツヴァイは無理矢理発動し、不可視の破壊が届く直前で三人の姿は掻き消える。

「なっ……!」

 それに驚いたのはトールだ。
 魔族がそういう魔法を使えるのは知っていたが、こんなタイミングで発動するとは思ってもいなかったのだ。
 効果範囲が激しく崩れ行くのすら目に入らず、トールはカインの姿を探す。

「くそっ、ど、こに……」

 それは、上空。
 丁度大人三人分はあろうかという光が集まり、カイン達の姿が現れる。
 有り得ない。
 こんな冗談じみた奇跡は、普通は起こらない。
 ツヴァイがそれを狙って必死で座標調整をしたとしても、有り得ない。
 あんな雑な転移魔法では、周囲の土の中に転移したとしてもおかしくはない。
 何処かわけのわからぬ場所に転移していても、誰も疑問には思わない。
 むしろそうあるべきであり、こんな事は絶対に起こらない。
 だが、起こった。
 いや、起こした。
 カインが忌み嫌った勇者の力が、小さな偶然と僅かな奇跡を幾つも連鎖させた。
 
「魔剣技!」
「う、おおおおお!」

 トールが再び剣に魔力を注ぎ込む。
 だが、間に合わない。
 間に合うはずが無い。
 先程とは逆。
 カインの方が先に魔力を注ぎ始めているが故に、トールは間に合わない。

「ライト……」

 トールの状況はカインとは違う。
 カインは、大切な仲間アインを守る為に剣をとった。
 トールもまた、大切な仲間キースの為に剣を握った。
 だが、カインはその為にいつもは反発する悪友ツヴァイにも頼った。
 大切に思う人アインの為に、奇跡を起こそうとした。
 今、トールはたった一人だ。
 それでも、トールは負けられなかった。絶対に、負けられなかった。
 故にトールは今、「限界」を超えた。トールの剣に魔力が注がれる速度が、僅かに速くなる。
 全力ではないが、それで充分。

「魔剣技! ソウル……スラァァァッシュ!」
「スラッシュ!」

 二つの魔剣技がぶつかり合い、空中で弾ける。
 巻き起こる魔力爆発は視界を塞ぎ……しかし、それ故に互いは互いを仕留めていないと理解している。
 あるいは、今の攻撃でトールが限界を超えていなければトールが重傷で決着がついていたかもしれない。
 あるいは、そうなった後でもトールが諦めず血みどろの殺し合いになっていたかもしれない。
 だが、そうはならなかった。
 ほぼ無傷の二人は地面に降り立ち、暴れるアインをツヴァイが離れた場所へと運んでいく。
 
「う、おおおおおお!」

 粉塵の中から現れたカインが拳を握り、トールの顔面に手加減無しの一撃を入れる。
 無茶をしたせいで身体の動きが僅かに鈍くなっていたトールはそれを避けきれず、鈍い音と共に頭を地面にめり込ませる。

「ぐあっ……」

 頑丈なトールの肉体はそれで死ぬような事は無く、しかし脳がぐらぐらと揺れるような感覚はトールに「立ち上がる」ということをさせはしない。

「……くそっ、殺せよ」

 もう、勝てない。
 それを悟ったトールはそう呟くが……カインは、それを見下ろしたまま「嫌だね」と答える。

「お前はアインを殺そうとしたけど、元をただせばお前だって悪くない。だから、お前だって本当は此処で殺される理由なんてないんだ」
「なんっだそりゃ。覚悟が出来たんじゃなかったのかよ」

 トールが舌打ちすると、カインは剣を鞘におさめて小さく息を吐く。

「覚悟が出来てるのと、実際にやるのとは別だろ? 殺す数なんて、少ないほうがいいに決まってるんだ」
「……そりゃそうだ」

 トールが力が抜けたように溜息をつくと、カインの顔を見上げる。

「で、俺を生かしてどうしようってんだ」
「話を聞け。理解する努力をしろ。「見て判断する」のは重要だけどさ。「ちゃんと話を聞く」のが大事ってのくらい分かるだろ?」
「……納得するかは別だぞ。もう一度話を聞いてやっぱりあの女が悪いと判断したら」
「大丈夫さ。アインのやることにはちゃんと理由があるし、それに正直だ」

 カインはそう言うと、トールへと悪戯っぽい笑みを向ける。

「アインは嘘をつくくらいなら黙りこむ。そういう分かりやすい奴なんだ……まあ、本人には秘密だけどね」
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