勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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世界会議6

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「……私からもよろしいですか?」

 どうやって議論を元の方向に戻すかとアルムが考えていると、一人の少女が立ち上がる。
 最前列のほうに座っているところから見ると四大国の誰か……といってもまだ発言していないのは聖アルトリス王国の代表者だけではあるが、少なくともアルムの知らない少女は立ち上がると、優雅に一礼をする。

「皆様隙あらばザダーク王国の話題に持っていきたいようですが……正直、うんざりです。今回の議題はアルヴァの本拠地である「次元の狭間」への侵攻戦。確かその先鋒がどうのという話を先ほどまでされていたはずですわよね?」
「如何にもその通りです、エリア王女様。かなり話がズレてしまったようではありますがな」

 シャイアロンドが重々しく頷くと、その少女……エリアは困ったようにシャイアロンドを見る。

「シャイアロンド様、貴方も反省なさるべきですわ。議論が脱線したのは貴方にも責任がありましてよ?」
「これは痛い所を突かれましたな。しかも各国の足並みを乱した元凶である貴国に言われてしまうとは、この身の未熟を感じます」
「あら、その足並みを揃える為の会議でしょう? まさか舞踏会のおつもりだったのですか? 「会議は踊る」という言葉があるそうですが、まさにそのような感じでしたものね?」

 笑顔で視線をぶつけ合うシャイアロンドとエリアだったが、ルーティの咳払いを受けてエリアがはっとした顔をする。

「と……失礼しましたわ。話を最初に戻しますわね。先鋒の件ですが、我が国としてはこだわるつもりはありません。単純に戦力という面でいえば、ザダーク王国の方々が相応しいと考えている程です」

 その言葉に議場が再びざわめく。
 先程から聖アルトリス王国の主代表であるはずの大臣がずっと渋い顔で黙っているのもそうだが、聖アルトリス王国の発言としてザダーク王国を推薦するような発言が出たのに驚いたのだ。
 そしてその反応は織り込み済みだったのだろう、エリア王女は笑顔を形作って辺りを見回す。

「皆様も理解しておられることとは思いますが、次元の狭間なる場所はアルヴァ達の本拠地と思われる場所です。そして、つい先日。この都市近くの鉱山にアルヴァが出現した事も皆様お聞き及びかと思います」

 それは、この会議の為に人が集まる直前の頃の話だ。
 サイラス帝国の発表によると、ドークドーンの近くの私営鉱山付近にアルヴァが複数出現。土砂崩れを誘発し現地の人間を皆殺し。
 騎士団と居合わせた聖アルトリス王国の新たな「勇者」の協力でこれの討伐を成し遂げた……というものだった。

「アルヴァとは一体居れば小さな村は簡単に滅ぼすと言われた存在。それが複数もいれば、街の一つ程度簡単に滅ぼされるかもしれません」

 その言葉に異を唱える者は居ない。実際、小国の中にはアルヴァの襲撃で滅ぼされた国もある。
 その跡地にはすでに別の国が出来ていたりするが……中小国にとって、アルヴァの問題は決して他人事ではないのだ。

「……そうしたアルヴァの本拠地に攻め込むということは、入ると同時にアルヴァの大群が襲ってくるかもしれないという事。先程キャナル王国のアンナ様は「アルヴァに一対一」という優しい表現をなさいましたが、アルヴァと多対一に持ち込まれる可能性の方が大きいのです。そんな英雄が「本当」にいるのかを考えて頂きたいと思います」

 エリアの言葉に反論できる者など居ない。
 アルヴァと一対一で勝てないなどとは、中々言えないだろう。
 どの国だってプライドにかけて「やろうと思えば出来る」と答えるに決まっている。
 あるいは、「他の国の騎士団もいればやれる」と思って強気に出られるかもしれない。
 だが「多対一」という現実を突きつけられた時にそれを押し通せる者は多くない。
 誰だって「誰が考えても出来るはずのないと思う事を出来ると言い張って大被害を出した愚物」なんてものにはなりたくないのだ。

 そうして静まり返った議場で、エリアは声を響かせる。

「……されど、アルヴァに一矢報いんとするからこそ皆様は此処に集まったのでしょう? そして出来れば、積極的にその意思を貫かんとされている」

 成る程、上手い話運びだとアルムは感心する。
 徹底的にやり込めただけでは、聖アルトリス王国の現状では反発を招くだけだ。
 特にあの大臣とやらが発言していれば、同じ事を言ったとしてもブーイングか陰口が相当数あっただろう。
 だが、あのエリア王女はどうやら違うようだ。恐らくはルーティ同様政治畑の人間ではないのだろうが、人を惹きつける何かがあり、本人もそれを自覚している。
 そしてそれをフルに使い、逃げ道を潰した後に中小国を持ち上げる事で、彼女の望む方向への「通り道」……中小国にとっては「逃げ道」に見えるだろうが、ともかく落とし所を用意しているのだ。
 問題は、それが何であるかだが……。

「ですから、主力とは別に別働隊を作る事を我が国は提案致します」

 そうしてエリアから出た発言に、モカは目を丸くし……アルムはほう、と感心したように呟いた。
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