勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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アルヴァ戦役5

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 転移光が一斉に弾ける、何処か神々しくもある光景。
 それと共に「全員、整列!」という美しくも激しい声が響く。
 この場にいる者達ならば飽きるほど聞いた騎士達の整列音が響いた直後、光は消え「そこに在ったもの」の全容が晒される。
 だがそれでも……訪れたのはざわめきでも驚愕でもなく、沈黙であった。
 呆れたからではない。
 驚きでもない。
 
「ザダーク王国軍、ならびに指揮官のファイネル。ここに参上した」

 そこに在ったのは、赤一色の兜と鎧を纏ったフル装備の騎士達。
 人類風に表現するならば、まるで真っ赤な鮮血のような。
 魔族風に表現するならば、まるで魔王の赤き瞳のような。
 完全に統一された装備を纏った騎士達の前に立つのは、美しい金髪を靡かせた赤き鎧の騎士。
 塗ったのではない、自然の持つ色のみが放つ艶やかにして完全なる赤。
 それもまた人々を黙らせるのに一役買っただろうが、重要なのはそこではない。
 魔族の……魔人の騎士団。
 完璧に統率された「騎士団」としての姿を明確に示された事実に、人々は押し黙ったのだ。
 それはいわば、国々が「冒険者」に対して潜在的に抱いていた怖れと根本は同質だろう。
「こいつ等が完璧に統率されたらどうなってしまうのか」という、怖れ。
 それが統一された騎士装備という形で明確に示されてしまったのだ。
 この中で唯一目に見えるほど驚いていなかったのは、すでに「それ以上の光景」を見ていたルーティ程度のものだろう。
 だがそれでも、別の事実で驚いてはいた。
 それはザダーク王国軍が完全に統一された装備で現れたことである。
 軍事演習を見学したルーティは知っているが、「魔王軍」は四つの軍で構成されている。
 ザダーク王国軍が「魔王軍」の各軍からの選抜者である以上、他の国のようにそれぞれの軍の制式装備で現れるのが通常であっただろう。
 実際、ルーティが見た時に各軍の装備は相当に違っていた。
 これは装備を用意する時間や手間、予算もそうだが……所謂派閥的な問題も絡んでおり、「一応」形として纏まっているが故に存在する問題だ。
 それが無いということはつまり、ザダーク王国はそれらの問題を完全にクリアしているということになる。
 その理由が「魔王ヴェルムドール」への忠誠であることは明らかであり……「派閥」などというものについて彼等に投げかけても、きっと首を捻るか嘲笑されるであろうことは明らかだった。

「……どうした?」
「あ、ああ。俺が総指揮官のトールだ。歓迎する」
「そうか……ん?」
「あれ?」

 ファイネルに手を差し出したトールはファイネルの反応に訝しげな顔をし……しかし、自分自身も悩むような顔になる。
 そしてしばらく黙った後に、ファイネルに「何処かで会ったっけ?」と問いかける。
 まあ、前にルーティの屋敷で会った時には出会い頭に顔面に拳を叩き込まれたのだから記憶が曖昧になっていても仕方がない。
 もちろん拳を叩き込んだ張本人であるファイネルはしっかり覚えているが、これ幸いと「どうだったかな」と返す。
 そしてそれを思い出させないために、差し出された手を思い切り握る。

「とにかく、よろしく頼むぞ総指揮官?」
「こちらこそ。よろしく」

 トールがそう答えると、ファイネルは頷いて握っていた手を離す。

「さて、それで? いつ出発するんだ?」
「まだ数日かかると思う。別働隊の編成もあるし、突入した後の作戦もある」
「そうか」
「丁度会議をやってるんだ。三人とも参加してくれないか?」

 トールがそう言って三人の指揮官達を順番に見回すとスペシオールは頷くが、テルドリーズはむっつりとした顔のまま押し黙っている。

「テルドリーズ?」

 トールの問いかけに、テルドリーズは答えない。
 その視線はファイネルへと固定されており……含まれる挑むようなその色に、当然ファイネルが気付かないはずもない。

「随分と刺激的な視線を送ってくるじゃないか。どうした、あー……テルドリーズ、でいいのか?」
「ああ。サイラス帝国軍の指揮官の任を預かったテルドリーズだ。お前が「雷刃」か?」

 懐かしい呼び名だ、と思いながらファイネルは薄く笑う。
 ザダーク王国が建国されてより個人の武勇の意味は薄くなり、その「呼び名」が誇りだった日々も今は遠い。

「そう呼ばれた事もあるな」
「そうか。初代ソードマスターの話が我が家には伝わっていてな。尊敬すべき武芸者だと聞いたことがある」
「初代ソードマスター……?」
「デュークという名前だ。あまりメタリオらしい外見ではなかったかもしれんがね」

 テルドリーズにそう言われて、ようやくファイネルは「ああ」と頷く。

「そういえば、そんな奴もいたな。それがどうした」
「挑みたいと常々思っていた。今回を逃せば恐らく次は無い……これもアトラグスのお導き。俺と仕合って貰いたい」

 戦うのが好きなのだろう、爛々と目を輝かせたテルドリーズを一瞥すると、ファイネルは「断る」と一言で切って捨てる。

「な、何故だ! 俺では不足だというのか!?」
「いや、普通に迷惑だろう。総指揮官が会議だと言ってるのにお前、それを放るつもりか?」
「べ、別に今すぐと言うつもりはない! その後に……」
「それも断る。さあ総指揮官、会議をやろうじゃないか」
「あ、ああ」

 ファイネルがトールの肩を叩いて連れて行くのをルーティは微笑ましいものを見る目で見ていたが……ふと、整列するザダーク王国軍の中から聞き覚えのあるくぐもった笑い声が聞こえてきた気がして振り返る。
 だが、フルフェイスの赤騎士達の個人の判別などつくはずもなく……気のせいかと自分も会議用のテントの中へと戻っていく。
 まさか、自分の知っている「ザダーク王国の重要人物」などがこの中に混ざっているはずも無い。
 そう、自分を納得させながら。
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