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連載
アルヴァ戦役6
しおりを挟むルーティ達がテントの中に消えた後、遅れて出現した転送光の中から全身鎧ではない……しかし同じデザインの赤い鎧を着けた小柄な少女が現れる。
「やれやれ……無事にお披露目は終わったようじゃの」
その少女……アルムはそう呟くと、近くで驚いて固まっていた聖アルトリス王国の騎士の腰の辺りを軽く叩く。
「え、あ……っ?」
「ぼけっとしてるところすまんのう。わしはザダーク王国軍の副指揮官のアルムじゃが、ウチの指揮官は何処かの?」
「あ、し……失礼しました! 各軍の指揮官は今そちらのテントで会議中です! 御用があればお取次ぎ致しますが」
「ああ、いや。無用じゃ」
何処にいるか分かればとりあえず用はないので、アルムは手を振って否定する。
常に後ろに引っ付いていたいとかそういう欲望をさておけばファイネルは実務に関しては結構ポンコツなので、本気で無用であったりする。
「会議をやっておるということは、出撃にはまだ時間がかかるのじゃろ?」
「数日はかかる見込みと伺っております」
「そうかえ。では野営場所を整えねばならんな。何処ならいいかの?」
「はっ、特に決まっておりません」
「ほー? なら、その辺の隅を借りるとするかの。全員、速やかに移動開始!」
アルムの号令に合わせ、明らかに訓練され統一された動きで反転した赤騎士達は「誰も居ない場所」を目指して歩き出す。
当然だが、このぽっかりと空いた中央区画を使うと言い出すほどアルムは愚かではない。
場所を指定されていたから転移はそうなるようにしっかり調整したが、だからといって此処に野営場所を定めれば悪目立ちする。
場合によっては支配欲の表れだとか、そういうことを言い出す輩もいるだろう。
そうなればヴェルムドールの目指す「調和」とは大きく外れることは確実であり……逆に進んで端っこに位置することで、少しでも存在感を増そうと早めに来て中央付近に陣取った中小国からの反感を買わずに済むのである。
「ああ、場所を決めたら指揮官殿に伝えたいのじゃが、お主に伝言しておけばよいのかの?」
「はい。万が一会議が長引き交代した場合でも、交代者に間違いなく申し送りますので」
「うむ、承知した」
そんな会話をしている間にも赤騎士達はこの中央を取り巻く各国陣地の更に外側……誰も居ない場所ですでに陣地の設営を開始している。
それが目に入ったのだろう、聖アルトリス王国の騎士は目を丸くしていて……アルムは「そんなに珍しい光景ですかのう」と声をかける。
「あ、いえ、その。なんというか。ちょっと驚きましたもので」
「もっと蛮族だと思っていましたかな?」
「い、いえいえいえ! とんでもない!」
明らかに「そう思っていました」という表情だが、アルムはそれを小さく笑って見逃す。
確かに人類に伝わっている「魔族」は個としては強いが群としての行動が出来ない蛮族だし、実際ヴェルムドールに統率されるより以前はザダーク王国の魔族も実際にそうだっただろう。
そうではなくなったのはヴェルムドールが「四方将」と「四方軍」を定め、その下に魔族を組み込んでからだが……此処に来るにあたって、わざわざ「そう見える」ように統一された鎧を新調し統一された動きが出来るようにゴーディの監修の元で猛訓練を施しているのだ。
マイナス要素を徹底的に排除した「統一感のある」ザダーク王国軍は狙い通り規律ある軍といった印象付けを出来たようで、そこに話しかけやすい印象のあるアルムが出てくることで「脅威」のイメージを薄めさせる事にも成功している。
そう、単純に「魔族は規律ある行動が出来る」だけでは畏怖にしかならない。
アルムの役割は、いわばアメなのだ。
だからこそアルムは幼い少女のような笑みを形作ってみせる。
「ふふ、別にそのくらいで怒りはせんよ。そういう「誤解」が広まっているのは知っているしのう?」
「は、はあ……」
ばつの悪そうな顔をする聖アルトリス王国の騎士をポンと叩くと、アルムは笑顔のまま身を翻す。
「まあ、アルヴァを倒しに行く仲間なんじゃ。これを機会に誤解が解けて仲良くなれるといいんじゃがの?」
その言葉に聖アルトリス王国の騎士は黙っていたが……やがて静かに「そうですね」と呟く。
あくまで彼個人の見解であるのだが、とりあえずアルムの任務はその言葉を引き出しただけで成功といえるだろう。
彼の鎧は聖アルトリス王国の王国騎士団のものだが、重要人物が集まるテントの付近の警備を任されているという事は「上」とまではいかずとも「完全な下っ端」でもない中くらいの位置だろう。
そんな彼が「亜人論」だとかその手のものの影響下にないのは今の会話からでも明らかで、それは王国騎士団が「そうである」とある程度判断する材料にもなる。
問題があるとすれば神殿守護騎士団のほうだろうが……まあ、そちらについては今はいいだろう。
何はともあれ、「完全に手遅れとは言い切れない」と分かっただけでも収穫なのだ。
「さて、ではわしも行くかのう」
「あ、はい。お気をつけて」
思わずそんな言葉が出たのだろうが、そんな彼の言葉にアルムは「そちらもしっかりのう」と返して、設営中の陣地へと向かっていった。
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