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連載
アルヴァ戦役7
しおりを挟む設営中のザダーク王国の陣地ではあちこちで忙しく赤騎士達が動き回っているが、よく観察してみれば何人か動きが怪しい者がいたりする。
いや、それだけではない。明らかに先程居なかったであろうという者が混ざっている。
他の赤騎士と同じ赤い鎧なのだが、他と比べるとかなり体格のいい男。
やはりフルフェイスで顔は分からないのだが、周囲の赤騎士がその男にはどうも配慮しているように見える。
すでに出来ているテントの中から罵声と共に蹴りだされた赤騎士もいる。
何やらやれやれとでも言いたげな様子のその赤騎士が何処かに行くのを不思議そうな顔で見ていた赤騎士がそのテントへと近づいていくが……大男のほうはラクター、蹴りだされたのはサンクリード、今テントに近づいているのはヴェルムドールであったりする。
ハッキリ言って三人がこんな格好をしている意味は全くないのだが、意外にもこういうことが三人とも好きだったりするのでどうしようもない。
ちなみにヴェルムドールとサンクリードは「反応を直接確かめる」という理由で先程の整列にもしっかり混ざっている。
勿論、この後サンクリードとラクターは「将」としての格好に着替える予定だが……それはさておき。
サンクリードが蹴りだされた後のテントに、ヴェルムドールは何事かと顔を突っ込む。
「なんで戻ってくるのよっ!」
すると顔面に……正確には下ろした兜のバイザーに何か堅い物がガツンと音を立てて当たって跳ね返っていく。
「……イクスラースか。なんだいきなり」
「え、ヴェルムドール?」
当然ダメージなどあるはずもなく、ヴェルムドールはその堅い物が飛んできた方向に視線を向けると……そこには胸元を白い布のようなものでおさえたイクスラースの姿があった。
どうやら少し厚手のワンピースのようなモノのようだが、あれは確かイクスラース用の鎧の下に着るものではなかっただろうか?
肩口に肌色が見えているところを見ると、いつものドレス姿でもないようだ。
ちらりと見える素足は白く、どうやらブーツも履いていないようだ。
そうやってイクスラースの姿を上から下まで見て、ようやくヴェルムドールは着替え中であると理解をする。
「そういうことか」
恐らく着替え始めたタイミングか何かで先程のサンクリードらしきものが入ってきたのだろう。
イクスラースは別働班に組み込まれる予定ということで……あとついでに体格の問題でアルムやラクター同様に後々の合流班になっていたが、確か「到着したら着るわよ、重いもの」とか言って鎧を着ていなかったのだ。
衣装も確か合わせでのデザインだったはずだが……こちらでまとめて着替えようと考えていたのが見てとれた。
「だから向こうで着替えてから来ればいいと言っただろう。アレのタイミングの悪さは今に始まったことでもあるまい」
呆れたように言うヴェルムドールにイクスラースは無言のまま固まっていたが……やがてふう、と溜息をつくとヴェルムドールに微笑みかける。
「ええ、そうね。貴方の言うとおりだわヴェルムドール」
「そうか」
「ええ」
ヴェルムドールに背中を見せない動きでイクスラースは少しずつ後ろに下がり……そこの机に置いてあった長杖を手に取る。
「で、ヴェルムドール。貴方はこのテントに何の御用なのかしら?」
「む?」
言われてみれば、特にヴェルムドールはこのテントに用事は無い。
流石に一般兵のフリをするのはこの辺りまでだが、今すぐ着替える必要もない。
「今は……特にないな」
「あら、そう。なら何の用事も無くこのテントに入ってきた……と」
「そうなるな」
ヴェルムドールが頷くと、イクスラースは笑みを微かに深める。
片手に持った長杖を操りにくそうにしながらもヴェルムドールに向け、イクスラースは「あのね」とヴェルムドールに極めて優しい声で囁く。
「貴方も同罪だということ、分かってるのかしら。さっさと出て行かないと土撃をブチ込むわよ?」
「む、そうか。気が利かなかったな」
「気が利かないで済む段階じゃないでしょ! 貴方ちょっと生き物として必要なものが欠けすぎてるんじゃないかしら!?」
長杖を投げられたヴェルムドールは自分の鎧にガンと当たる音を聞きながら慌ててテントから退散する。
だが、流石にヴェルムドールとて着替え中に入るのが悪い事くらい知っている。
知っているが「着替え中」であるかどうかなど見なければ判断できないし、見るつもりで見たわけでもない。
更に言えば本人がちゃんと「防御」していたのだからあそこまで怒らずとも……などと考えているのだが、そんなことを言えば更にイクスラースが激怒するであろう事くらいはヴェルムドールにも分かる。
「……一応言っておくが、わざとではないぞ」
テントの外に出た後にヴェルムドールが一応そう伝えると、長い……とても長い溜息がテントの中から返ってくる。
「知ってるわよ。貴方がそんな器用だったら、誰も苦労してないもの」
「そうか」
「……ほんと、困った人ね」
そんなイクスラースの声を背に、ヴェルムドールはテントの前から離れていった。
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