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アルヴァ戦役10

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 ようやく始まった「別働隊」についての会議だったが……メンバー発表の段階となると、収まったざわめきが再び広がっていく。

「勇者の坊主。その「カイン」ってえのは……ひょっとしてカイン・スタジアスか?」
「ああ、そのカインだ。知ってるのか?」

 テルドリーズは苦々しい顔をすると、こめかみをトントンとたたき始める。
 テルドリーズだけではなく、他の何人かも同じ顔をしており……トールは「それなりに有名人らしいことは知ってるが……何か問題でもあるのか?」と問いかける。
 トールとしてはエリア王女の推薦という事もあって断りきれなかったのだが、何か問題があったなら突っぱねればよかったと内心で苦々しい気分である。

「……知ってるっていうか、有名人だろ。キャナル王国の内戦を収めた功労者のうちの一人だってのは、ある程度以上の奴なら誰でも知ってるしな」

 まあ、それだけじゃねえが……とテルドリーズは呟き、隅の方に座っている「冒険者ギルド代表」の男に視線を向ける。

「おい、冒険者ギルドの。カインを聖アルトリスの代表にしたってえのは……そういう立場と考えていいのか?」

 そういう立場、というのはつまり「冒険者ギルドは有名冒険者を一つの国の代表として貸し出すような……そういう肩入れをするのか」という意味であり、もっと言えば「お前等は聖アルトリス王国の特別な味方であると考えていいんだな」という問いかけでもある。
 問われた男もそういう話を理解できる教養を持った男であった為、慌てたようにブンブンと首を横に振る。

「と、とんでもありません! 冒険者ギルドは常に中立! 今回の作戦でもそうあれとギルドから厳命されています!」
「じゃあ、カインの件はどう説明する」
「そ、それは……その、カインは聖アルトリス王国貴族の一員でもありまして! そちら方面から命令が出たと聞いております!」
「ほお?」

 つまり「冒険者」としては中立であっても「貴族」としては一つの国の命令に従う義務がある……という理屈だ。
 これが平民であれば特に縛られるものではないのだが、しっかりとした立場のある貴族は「国に忠誠を誓っている」という建前がある為こうした事も起こるわけである。
 まあ、そもそも貴族かつ有名冒険者というカインが特殊な立場と言えばそこまでなのだが。

「そこまでにしましょう。理由も分かって、人数も分かったのです。聖アルトリス王国からは、剣士カインを代表に合計四名。それで良いではないですか」
「む……」
「ルーティ様がそう仰るのであれば我が国としても言う事はありません」

 ルーティの言葉にテルドリーズが黙り込み、アンナが賛同する。
 それで「終わった」と判断したジオル森王国のスペシオールが「では、次は我が国ですね」と微笑む。

「ジオル森王国からは、我が国の英雄にして生きる伝説でもあるルーティ様が参加されます。他の者は足手まといになる為、参加は無し。以上一名です」

 実際にはレナティアという少しばかり厄介なモノがいたりするのだが……今は「弓」である為、ルーティも申告していない。

「なるほど、妥当な人選ですね。すると伝説のアルスリスボウもこの場に……?」
「いいえ。しかし、勝るとも劣らぬ弓が私の手にはあります。ご心配には及びません」

 実際、「魔弓レナティア」は性質としてはアルスリスボウに非常に酷似している。
 むしろ、安定性はともかく破壊力では勝るかもしれない弓だ。
 本人の扱いにくい性格を除けば、この場に持ってくるのは正解だとルーティは思っていたし……むしろ、持ってこなければ無理矢理着いてきていただろう。

「なら、次はキャナル王国ですね。流石に英雄ルーティ様には見劣りしますが……光剣騎士団の副団長のロドリー。それと、彼の直属部隊から二十人を出します」

 合計二十一人。人数の多さは、同時に自信の無さでもあるだろう。
 しかし安全策とも言え、それを茶化す者など此処にはいない。
 特に誰も何も言わず、テルドリーズは軽く咳払いをする。

「なら、次はサイラス帝国だな。うちからは二代目ブレードマスターであるアゾートが出る。神器グラディオブレード付きでな……。それ故に、一人だ。あの動きについていける奴が他にいねえんだ」

 そもそも「ブレードマスター」という称号は、あらゆる刃を自由自在に扱うという所から呼ばれた称号であるという。
 その変幻自在の動きは、重装が中心のサイラス帝国の騎士団とは何かと連携しにくいのだろう。

「ま、こんなもんだ。最後はザダーク王国だな。どんな奴を出すんだ? まさか王様自らご出陣とか……」
「そのまさかだ」

 場を和ませようとしたテルドリーズの冗談に、ファイネルは真剣な口調でそう返す。

「我が国からは西方将サンクリード、南方将ラクター、魔人イクスラース。そして王国最強たる魔王ヴェルムドール様が出る。以上四名が別働隊に参加する。以上だ」
 
 魔王ヴェルムドール。
 ザダーク王国の国王ヴェルムドール。
 文字通り、一国の王である。
 そして、随分前から噂される「新たな魔王」でもある。
 そんな人物が出ると聞かされ……テントの中は、今までで最大のざわめきに覆われるのであった。
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