勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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連載

連鎖崩壊5

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 コツン、コツンと石の床を歩く音が響く。
 アールレイ魔法学園。
 キャナル王国の誇る魔法使いの養成機関である歴史ある学び舎は今、幾つかの死体と破壊痕……そして、静寂に満たされていた。
 開かれた学び舎であるアールレイ魔法学園は「防御」という面では優秀とはいえない。
 太陽の光や風を良く取り込み、学生に過ごしやすく設計された空間も。
 威圧感のないように広く設計された入り口や窓も。
 防御という面では全てが頼りない要素になってしまうし、そもそも「何処にでも現れるアルヴァ」相手に体力の無い魔法使いだけでは不安要素が大きすぎる。
 結論としてアールレイ魔法学園は防御を早々に放棄し、他の避難拠点の支援に向かうべく移っていったのだ。
 そしてそれは各所の避難拠点の防衛力を高める事に繋がったのだが……そんな場所に今、誰が居るというのか。
 その「誰か」の姿を一言で表すならば、「鎧を着た青髪のメイド」であった。
 ウェーブがかった青い髪を揺らし歩くその姿には一切の隙はなく、そして誰もがその女性がただのメイドなどではないことに気付くだろう。
 メイドナイトのレイナ。そう呼ばれる彼女は、アールレイ魔法学園の廊下を静かに歩いていた。
 誰も居ないように見えるこの場所に隠れている生存者を助けに来た……というわけではない。
 此処からの避難は完璧に完了しており、学生も教師も避難民も……それこそ猫一匹残ってはいない。

 では何故、レイナは此処にいるのか。
 レイナに限って気紛れや偶然という言葉とは程遠く、その足取りにも迷いは無い。
 廊下を進み、扉を開き、更に進み……やがて現れた階段をレイナは下りていく。
 頑丈な石造りの階段を降りていき……まるで神殿か何かのように白い石壁で囲まれた地下室へとレイナは辿り付く。
 いや、文字通りそれは地下神殿……あるいは美術館であるかのようだ。
 白壁で囲まれた空間は広く、壁には金糸で縁取ったタペストリーや何らかの道具を飾ったショーケース。
 床には赤絨毯が敷いてあり、部屋の最奥のケースと……その奥の肖像画へと繋がっている。
 肩までの長さの、ふわふわとした金色の髪。
 同系色の目は丸く可愛らしく、優しげな笑みがその口元には浮かべられている。
 纏う服は「賢者」たるもののみが許されるという聖銀を編みこんだローブ。
 その手に持つのは、アルトルワンドを授かる前に持っていたという千年樹と光の魔法石の杖。
 やがて「大賢者」とまで称えられる少女テリアの姿が其処には描かれており、最奥のケースには書かれたタイトル通りであれば「とあるもの」が飾られていたはずであったが……それはケースの中には無く、代わりにその隣に肖像画そっくりの少女が立っている。

「……どちらさまでしょうか? 申し訳ありませんが、忙しいので……お引取り願えますか?」

 少女は優しげな笑顔をレイナへと向けると……無数の氷針を空中へと浮かべる。

「命の神の、御許まで」

 少女の軽く指を鳴らす合図と共に氷針はレイナへと殺到し……しかし、その全てが到達前にレイナの周囲に展開された水の魔法障壁マジックガード・アクアに弾かれる。
 軽い驚きを浮かべる少女に、レイナは少しだけ悲しそうな表情をする。

「テリアの遺髪。そんなものが残されていたとは」
「おばあちゃんになってからのものですけどね。私も、そんなものが残されているなんて知りませんでした」
「その物言い。貴女の記憶と人格はどうやら「本物」を模しているようですね」
 
 融合したアルヴァの人格が残っていれば、今のような物言いにはならない。
 テリアの言い方は、「テリアの死後」から意識が連続しているようなものであった。
 それはつまり、「テリア」としての自意識があることを意味している。
 ならば勇者リューヤと旅をしたテリアは当然人類の味方であるはずだが……レイナは一切の警戒を解いていない。
 先程攻撃された事を考えれば当然だが、レイナの警戒はそこ以外にもあった。
 そしてそれは、レイナが此処にやってきた目的そのものでもある。

「それで、貴女は何処の誰で……此処に何を?」
「私はレイナ。ただの旅人に過ぎません。目的ですが……この国を覆う障壁の性質に変化がありました。侵入者を検知する為のものから、別の何かへ……。その起点を追って来たに過ぎません」
「なるほど」

 テリアは納得いったように頷くと笑みを深め、杖でカツンと床を叩く。

「かの高名な伝説のメイドナイトにお会いできるとは光栄です。目的も達せられたようですし……お引取り願えますか?」
「残念ですが、出来かねます」
「……何故?」
「貴女のしようとしている事が恐らく、この世界に許された限度を超えているが故に」

 レイナはそう答えると、一歩だけ歩みを進め……テリアは、レイナへと杖を突きつける。

「私のしようとしている事が理解できるとでも言うつもりですか」
「いいえ?」

 テリアの問いに、レイナはいつも通りの調子でそう答えてみせる。

「私に理解できるのは、人の領分を超えた魔法を貴女が行使しようとしている事。そう、恐らくは……この国に存在する魔力全てを使うような、そんな凄まじい魔法を」
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