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連載
アルヴァ戦役22
しおりを挟む極彩色の空を貫く雷光は、次元城アヴァルディアにいるルーティにもよく見えていた。
「あれは……ファイネルの電撃砲」
「とんでもない威力だね、ありゃ。杖魔の馬鹿でも防げるか分かんないぞ」
「私もあれ程のものは初めて見ます」
建物の屋根の上でルーティと会話しているのは、一本の弓。
傍から見れば寂しい一人言だが、近寄ってみれば弓が喋っている事に気付くだろう。
弓魔、あるいは魔弓レナティア。
そう呼ばれるのが今ルーティの持つ弓であり……今この場には、彼女達二人しか居なかった。
「しかし困ったね。まさか分断されるとは思わなかったよ」
「可能性としては考慮していました。まさか此処まで大掛かりとは思いませんでしたが」
そう、別働隊の面々はどういう組み合わせかは分からないが、見事に分断されていた。
それは囮だとか動く壁だとか落とし穴だとか、そういう力尽くでどうにかできるものではなく……「空間転移」による分断であった。
歩いていて突然、前触れもなく転移させられてしまったのだ。
「大掛かり、ねえ」
「魔族の空間転移ですら何らかの予兆があります。それが全く無いとなると……相当練り上げた罠であったように思いますが」
「まあ、うーん」
「……なんですか、そのハッキリしない返答は」
レナティアが人型をとっていれば微妙な表情をしているであろう態度に、ルーティはむっとした顔をする。
知っていることがあるなら言えとばかりに弓を軽く振ると、レナティアは仕方ないとばかりに溜息にも似た声をあげる。
「此処はさー、次元の狭間なんだよ」
「そうですね。それで?」
「此処では、通常の空間における法則は適用されない。具体的には空間転移の魔法を下手に使えば何処に飛ばされるか分からないくらい歪んでる、らしい」
「らしい?」
「杖魔が言ってた」
かつて四魔将と呼ばれた中で最も魔法に詳しかった杖魔が調べた限りでは、この次元の狭間という場所は「座標」を設定できない空間であるらしい。
たとえば今いる地点を仮に「X22、Y17、Z34」という地点であったと仮定しよう。
これが通常空間であれば、この座標は何百年たとうと変わることはない。
地形の隆起や陥没などでその地点に何かがあったりなかったりという変化はあるだろうが、それでも座標だけは変わらない。
その辺りが転送事故の原因の一つでもあるわけだが、次元の狭間の場合にはこれが適用されない。
同じ「X22、Y17、Z34」から一歩も動かずとも、次の瞬間には「X87、Y105、Z339」になっているのかもしれないのである。
これは通常あり得ない事だが、次元の狭間は常に狂い続けているのである。
先程のXYZの例えになるが、仮にそうした方式で通常空間の座標を定義したとすれば次元の狭間はこの「XYZ」の定義ではなく何か別の記号で表現せねばならないような「何処か」に存在していると杖魔は推測した。
これは次元の狭間が通常の空間とは連続していない「特殊な手段」を使ってのみ行き来できる場所であるが故ではないかと杖魔は考えたが……同時に、次元の狭間内は次元の狭間内でしか通用しない移動方法があるとも考えた。
「あの陰険な杖魔のことだから、その辺をある程度解明して実際に罠を張ってたとしても僕は驚かないね」
「……では、杖魔が今此処に?」
「さあね。そんな事より、お仲間見つけた?」
「待ってください。まだ上手く貴方の「目」を使えてないんです」
そう、ルーティの目元にはまるで眼鏡か何かのように赤いレンズのようなものが浮いていた。
魔力の輝きを宿したそれはレナティアの持つ「遠見」の魔法であり、レナティアと契約する事でルーティも使えるようになったものだった。
裸眼に望遠の機能をつけるが如きこの魔法は流石のルーティと言えども中々使いこなせるものではなく、望遠の倍率を変えながらあちこちをルーティは探っていた。
「……あれは!」
「お、魔王様ご一行見つけた?」
「いえ、セイラさんとシャロンさんですね。アインとかいう人もいるようですが」
「ふーん。あのカインとかいう奴はいないの?」
「いませんね……心配です、そちらに行きましょう」
早速動こうとするルーティに、レナティアは「おいおい」と言って押し留める。
「そんな場合かよ。大元を叩くのが先だろ? フォローし合ってどうするよ。目指す場所は一緒なんだから、さっさと進むべきだ。進める実力がない奴をゴールに連れて行ってやった所で、無残に死ぬだけだぜ?」
「……それは」
「考えようによっちゃ、今の状況なら雑魚アルヴァ相手に死なない程度の実力さえありゃ街中の方が安心だ。わざわざ城に連れて行く必要はねーよ」
確かに、連合軍の本隊の活躍でアルヴァの大部隊はそちらに誘い出され街中には少ない数のアルヴァが残るのみだ。
だが、城まではそうはいくまい。城に連れて行けば、確実に激戦になる。
そうなれば、守りきる事など到底不可能だ。
「元より此処に来た時点で覚悟完了だろ? お互いの無事を祈るってことで、先に進んどこうぜ。魔王様ご一行が見つからないなら尚更だ」
レナティアの実に筋の通った言葉にルーティは少し考え……心の中で三人の無事を祈ると、身を翻し城に向かって駆け出した。
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