勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
641 / 681
連載

アルヴァ戦役26

しおりを挟む

 玉座の間に辿りついたヴェルムドールは、目の前の光景が一瞬理解できず眉をぴくりと上げた。
 崩れた天井、片付けられた瓦礫。
 居並ぶ聖鎧兵と思わしき黄金の騎士達と、中央のテーブルセット。
 そして……見間違えようもない命の神フィリアと、イクスラース。

「……フィリア」
「ええ、貴方とも……貴方の後ろにいる方とも直接会うのは初めてですね?」

 ヴェルムドールの後ろにいるのはイチカ一人。
 呼ばれて、イチカはすっと前へと進み出る。
 その手にはすでに剣が握られており……うっすらと魔力すら通っているのが見える。

「何故、此処にいるのですか」
「そうだな。此処にいるはずのアルヴァクイーンは何処へ行った」

 イチカとヴェルムドールの問いにフィリアは答えず、しかし静かに口を開く。

「貴方達が此処に来た目的は分かっています。グリードリースの魂……それが欲しいのでしょう?」
「……何故そう思う」
「ダグラスに会った事は知っています。彼ならきっと、私達の過去をも話したはず。ということは……私を倒す事の意味をも知り、その対策を整えようとするでしょう」

 フィリアは手の平を上に向け、その手の上に輝く珠のようなものを生み出す。
 自ら発光するソレは強力な魔力を秘めている事が遠目にも分かり……魔法ではなく、どうやら魔法具の類のようであった。

「現実的な対策としては、もう一人の「魔王」を用意すること。ヴェルムドール……貴方が新たなる命の神となった後でも貴方の意志はその「魔王」に引き継がれ、あるいはその「もう一人」が命の神となった場合でも貴方に敵対する可能性は低くなる。そして、そのもう一人の可能性は……恐らくは、この子」

 フィリアに見られ、イクスラースは後ずさりヴェルムドール達の方へと行こうとする。
 こうやって近くに居てもフィリアは、全く隙が無い。
 この場に留まっても、もはやメリットが見えなかったのだ。 

「……それを妨害に来たというわけ、か?」
「いいえ?」

 フィリアの予想外の返答にヴェルムドールは少し驚き……しかし、次の言葉を紡ぐ前にフィリアは言葉を続ける。

「もう一人の魔王を……この世界の魔王を生み出す。それ自体には、賛同しましょう」

 その言葉と同時にフィリアの手の中の輝く珠がフワリと浮かび上がり……何かを察したイチカが走り出し、その眼前に黄金の騎士が一瞬で立ち塞がる。

「この……!」
「貴方の欲しがったであろうグリードリースの魂から余分なものを削ぎ落としたのがこれです、ヴェルムドール」

 輝く珠は一瞬のうちにイクスラースを貫き……いや、貫かずに体内へと入り込む。
 一種の魔力体のような代物であった輝く珠はイクスラースの内部で解け、その魂へと……肉体へと融合していく。
 それは元々イクスラースが持っていた力……そしてグリードリースが持っていた力、そして溜め込んでいた力。
 元々の器を遥かに超える力が身体の中で荒れ狂い、イクスラースはがくりと膝をつく。

「くっ……あっ……」
「心配することはありません。余分な魔力は貴方の身体を強化し、強化された身体に合うように体内を巡る魔力も増える。そうして貴方の身体は限界を超え次の段階へと至るでしょう」

 フィリアはイクスラースをそう言って見下ろし……その次の瞬間、斬りかかってきたイチカの剣を一瞬で手の中に生み出した剣で受け止める。
 ギイン、という音と共に受け止めた剣を見つめ、フィリアは小さく息を吐く。

「絶剣……ですか。魔神の悪ふざけ、世界の理を裂く刃。危険なものは処分したつもりでしたが……どうやら、新しいもののようですね?」
「絶剣エンドロウ。貴方を殺す為の刃です、フィリア」

 不可視の速度で放たれる斬撃の嵐を、フィリアは涼しい顔で受け止めていく。
 ヴェルムドールですら見失う速度の斬撃を受け止めるフィリアの剣の腕がイチカと伯仲しているのは見て明らかで、その事実にイチカから舌打ちのようなものが聞こえてくる。

「素晴らしい剣技です。かつての世界にも、これ程までの域に到達した者は居ないでしょう」
「馬鹿にしているのですか……!」

 イチカの攻撃に「盾」が加わり、速度が更に増す。
 変幻自在の攻撃をしかし、フィリアは最低限を捌いてバックステップで後方へと下がる。

「いいえ、純粋に賞賛しています。貴女が記憶を継承し続けていたのは私の不手際……無駄に苦しめてしまいました。惜しむらくは、貴女は魔神と関わりが深過ぎる」

 フィリアのもう片方の手にも剣が生まれ……ヴェルムドールの剣を受け止める。

「それがお前の論理か、フィリア。犠牲を悪とは思わんのだな」
「それを悔いて躊躇う時期は通り過ぎました。犠牲なしに迎えられる明日は無く、世界は常に澱みを押し付ける先を探して歪み続ける。貴方とて、それをしなかったとは言わせませんよヴェルムドール」

 ……確かに、した。
 邪魔な西部の魔族を一掃し、ジオル森王国のサリガンの魂を少しばかり弄った。
 キャナル王国でも、結果的には内政に関与し第一王女の派閥を排除した。
 そうしなければ始める事すら出来なかったからだが、確かにヴェルムドールとて犠牲を生み出している。

「確かにな。だが、俺はそれを善だと肯定したことはない」
「肯定など必要ありません。ですが統治者であらんとする者ならば知る時が来る。自分がやるか、他人がやるか。結局はそれだけの差だということに」

 フィリアはヴェルムドールの剣を弾き返し、再び距離をとる。
 その姿は、神話で語られるような「女神」とは違う……歴戦の強者そのものであった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。