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アルヴァ戦役27
しおりを挟む「だがそれは、悪だ」
「誰かが悪にならねばならないのなら、それは私がなるべきです。命の流れを管理する、私こそが」
言いながらも、フィリアは斬撃を捌き続けている。
魔法の一つも飛ばず、黄金の騎士達も動かないこの攻防は様子見のようなものだが……それでも、フィリアの技量が相当なものであることは疑いようもない。
考えてみれば、闇の神ダグラスから聞いた過去の話が真実であるならばフィリアは当時の魔族や歪神を相手に戦い抜いた神々の一人だ。
戦いの経験が無いわけはなく……むしろ、先頭に立っていたと考えるのが自然だろう。
「自分を悪と認めるのか」
「絶対的な善であることで世界を導けるならば、そう在りましょう。そうでないから、私は犠牲を出さないことを諦めたのです」
イチカとヴェルムドールの斬撃を一人で捌ききったフィリアはバックステップで下がり……その間を塞ぐかのように、黄金の騎士が立ち塞がる。
イチカは即座にそれに斬りかかろうとするが……ヴェルムドールは手を伸ばしてそれを抑える。
「……一つ聞かせろ」
「答えましょう」
「何故、俺を……「魔王」を巻き込んだ。先代のグラムフィアを死に誘導したのもお前だろう?」
そう、そこだけが分からなかった。
フィリアの行動に、「暗黒大陸」は必要ない。
いや、グラムフィアについては人類領域に魔族を送り込んでいた関係上、ある程度までは理解も可能だ。
だが、ヴェルムドールに関しては別だ。
フィリアは明らかにヴェルムドールにターゲットを絞り、イクスラース……そしてイクスラースの中に自分の影すら仕込んでヴェルムドールを仕留めに来た。
世界の安定という意味であれば、ヴェルムドールがジオル森王国と友好を結んだ時点でヴェルムドールはむしろ「安定を作る側」に移行したはずだし、そう努めてきた。
そこに至るまでの過程が強引だったのは認めるが、それ以降は積極的に安定に寄与してきている。
それでもヴェルムドールを狙ってきたのは何故なのか。
何故そうまでしてヴェルムドールを殺そうとするのか。
それが、どうしても理屈に合わないのだ。
「……魔王が問題なのではありません。貴方が問題なのです、ヴェルムドール」
「俺が、か?」
「そうです、ヴェルムドール。貴方とてダグラスから話を聞いたのであれば、自分がどのような存在であるかは理解しているでしょう?」
それはつまり、「神」に何かあれば成り代われる存在である……ということだろう。
だが同時にフィリアが言っているのは、その「先」にあるものであろうこともヴェルムドールは理解していた。
「俺は積極的に神に成り代わろうなどとしたことはない」
「そうですね」
「お前が言うのは……俺が神に成り代われる存在であることそのもの……」
だが、それではイクスラースが新たな「魔王」になることを助けようとしている事の説明がつかない。
今も一体の黄金の騎士が戦いの余波があれば動けないイクスラースを守れるように布陣しているのも、その疑問に拍車をかける。
つまり、「魔王が神になれる」事自体はフィリアにとって問題がないのだ。
ならば、いったい何が。
「魔王」になったイクスラースと、ヴェルムドールの違い。
それは、つまり。
「……まさか。魔神か」
魔神。
あの誰よりも立ち位置の不明な神こそが、フィリアの懸念。
グラムフィアとヴェルムドールの共通点であり「魔王となったイクスラース」の差といえば、それしかない。
「その通りです」
ヴェルムドールの呟きにフィリアは答え、頷いてみせる。
「誰も、あの魔神の恐ろしさに気付かない。貴方という……魔王という神の卵を遊びのように創り出し、存在するだけで世界の魔力を歪神などというものを産み出す域まで高めてしまうアレが世界を覗いている事の恐ろしさを、考えもしない。そんなモノが固執する「魔王」というモノがどれ程危うい可能性を秘めているか知ろうとすらしない」
その可能性とは……歪神のことだろうとヴェルムドールは考える。
おそらく、グラムフィアは歪神に進化しようとしていた。
勇者に追いつめられた結果ではあっただろうが、グラムフィアは身をもってそれを証明したと言えるだろう。
神の卵とフィリアが称した魔王は、同時に歪神の卵でもあるということだ。
だがそれはやはり、ヴェルムドールを殺す理由にはならない。
となると……問題はヴェルムドールではなく。
「魔神……いや、魔神に送り込まれた俺という存在を危険視しているんだな、お前は」
「その通りです、ヴェルムドール。貴方が送り込まれた事で私は考えました。魔王という存在なくとも暗黒大陸の魔族達はそれなりにやっていた……そこにわざわざ新たな魔王を送り込む理由は何かと。「魔王」に固執する理由は何かと。そして不完全な召喚魔法の実行によるものと思われる、すでに魔神の世界への接触が一回……それにより歪神が目覚めかけました。その影響もすでに世界に出始めています」
その「接触」は、確かにヴェルムドール達による魔神召喚の影響だろう。
それに関しては間違いなくヴェルムドールに非があるのだが……。
「私は世界を守らなければなりません。貴方を滅ぼし……その後は歪神を今度こそ滅ぼし、この世界から魔神の影響を排除します」
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