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アルヴァ戦役29
しおりを挟む「再びの朝の訪れを望む汝に、影法師が闇の中から囁く。嗚呼、嗚呼、悲しき哉。君とは長くも短い付き合いであったと」
イクスラースの手の先に、闇の魔力が集う。
まず最初に辿りついたライトエレメントとウインドエレメントが斬り裂かれ、幻か何かのように霧散する。
フィリアの手にある剣は、恐らくは魔力体に著しい効果のある剣。
命の神であるフィリアのことを考えれば、恐らくは……その正体は命属性の剣、ライフソード。
「すでに此処は夜の世界、闇の国。此処においては影ならざる汝は存在することを許されず。故に、汝の声は響かない。故に、汝の手は触れられない。故に汝は万物に影響を及ぼす事あたわず」
ファイアエレメントとアクアエレメントが斬り裂かれ、霧散する。
「故に、汝の姿すら此処では消え行く。それすなわち汝の忘却、汝の消失。全てが定められしことなれば、不要なる己が身を恥じよ」
アースエレメントが……ダークエレメントが、やはり霧散する。
だが、もういい。もう充分だ。
集まった闇の魔力はもう誰にも……ヴェルムドールを除けば、もう誰にも止められはしない。
「此処に汝の墓標は無く、此処に汝の証は無い。ただ、忘却の彼方に消え行け」
闇の魔力が、渦巻く。
間違いなく最高の出来、最高の威力。
放たれる一撃は、すなわち必滅。
「影世界の……異邦人ッッッ!!」
フィリアの足元に、影よりも遥かに深い「黒」が円形を形作る。
ならば、もう避けることは不可能。
たとえ防ごうとも、影世界の異邦人はしつこくフィリアを飲み込もうと襲い続ける。
「……なるほど」
だが、その必滅の一撃はフィリアが地面に突き刺した剣の一撃で吹き散らされる。
「なっ……」
「私以外の神にならば、今の一撃は届いたかもしれません。闇魔法とはそれ程に厄介です」
絶句するイクスラースから視線を外し、フィリアは別方向へと視線を向ける。
そこには、「離れた位置」から剣を振りかぶるイチカの姿。
「斬・遠撃七連」
振り下ろした剣の動きは、やはり不可視。
だが遠距離から放たれた魔力の刃は空気を切り裂き、フィリアへと襲い来る。
「魔法剣技ですか……奥義中の奥義故、大技しか見たことはありませんでしたが」
「望みとあらばご覧にいれましょう」
魔力の刃をフィリアが打ち落としたその直後、すでにイチカはフィリアの眼前まで迫っている。
「斬・八百九十四連撃」
それは、かつてイチカがジオル森王国で見せたものよりも更に……いや、次元の違う斬撃。
あれが斬撃の極致であったならば、これは辿り付く事すら馬鹿馬鹿しく思える夢想の斬撃。
一撃ごとに必殺を込めた斬撃の嵐は、想像が追いつく限りの全てを微塵とするだろう。
……だが。
それは当たれば、の話である。
避けるより防ぐ方が現実的な速度で繰り出されていたとしても。
避けてしまえば、それは何の意味も持たない。
だから、たとえば……バックステップしたフィリアとイチカの間に黄金の騎士の一体が入り込み、安全圏まで退避する間の一瞬を稼いだとしたら。
「……!」
そう、それをフィリアは実行した。
黄金の騎士すら微塵とするイチカの一撃を、それによって一瞬を稼ぎ回避したのだ。
「素晴らしい技です。その技であれば、絶剣に頼らずとも……いえ、絶剣でなければ耐えられませんか」
残念そうに言うフィリアの周囲に、複数のライフソードが浮かぶ。
それは意思を持つかのように飛翔し……その全てが、イチカに剣先を向ける。
「貴女もまた、魔神の手駒の一つ。残念ですが此処で……」
剣を迎撃し再び一撃を見舞おうとするイチカに向けフィリアは剣を発射しようとし……しかし、別方向から轟音と……何かが崩れ落ちる音を耳にしそちらへと振り向く。
「……なんと」
そこにあったのは、二体の聖鎧兵が崩れ落ちる光景。
そして……魔力を込め輝く魔剣を手に走ってくる、ヴェルムドールの姿。
剣の内の二本をフィリアはヴェルムドールへ向けて放つが、防御に優れたゴーディに師事したヴェルムドールの剣は、それを難なく弾き叩き落す。
ならばと放った残りの剣もヴェルムドールは叩き落し、脅威の消えたイチカが再びフィリアへと迫る。
いや、イチカだけではない。イクスラースもまた、更なる魔法を唱え始めている。
「……螺旋の理を此処に。輝きは捩れ、暗闇を穿つ。集え、集え。個が軍となるように、暴徒が革命を為すように、愚直なる信念が不変に穴を穿つように。集え、捩れ、穿て。今日この時、新たな破壊を示せ」
唱える魔法は、星光の螺旋槍。
かつて魔王シュクロウスが得意としていた、人の限界を超えた魔法。
かつて魔王シュクロウスでもあった魔王イクスラースであるからこそ放てる、蘇りし超魔法。
「星光の螺旋槍!!」
「……くっ!」
迫る螺旋の光をもフィリアは切り払い、出現させた無数のライフソードを射出しイチカの足を止める。
だが、それでもフリーになったヴェルムドールは止まらない。
残る聖鎧兵が駆け寄るよりもヴェルムドールの方が速く、しかしフィリアとて徒手空拳ではない。
「おおおおおおおっ!」
振り抜いたヴェルムドールの剣がフィリアの剣とぶつかり、激しく魔力を散らす。
神であるフィリアの魔力とも拮抗するヴェルムドールの魔力を秘めた魔剣とライフソードは互いに譲らず……しかし、ヴェルムドールは宣言する。
「……俺達の勝ちだ、フィリア。負けを認めろ」
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