勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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アルヴァ戦役36

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「……なに……?」
「そんなことより! 本題始めようぜ。僕に何か文句あるんだろ?」

 ヴェルムドールからヒョイと離れた魔神はフィリアの近くへ歩いていくと、クイクイと指で招くポーズをしてみせる。
 それは挑発のポーズにも似ていたが……フィリアはその魔神の姿をじっと見下ろすのみだ。

「おいおい、どうしたよフィリア。僕を覗けると思ってるわけじゃないだろ?」
「……そうですね。私の力を持ってしても覗く事ができないようです」

 どうやらステータス確認魔法で魔神の中を見ようとしていたのだろう……フィリアは小さく溜息をつくと、魔神を睨みつける。

「ですが、貴方が本人で無い事くらいは分かります。今の貴方は周囲の魔力を集めて出来ただけの人形。そうでしょう?」
「うるさいね、君は。僕は僕以外の何者であったこともないよ。用件を言う気がないなら僕から話を進めてあげようか?」

 魔神はそう吐き捨てると、フィリアの眼前まで進み出る。

「いいかい? 僕は君が妄想するほど何かを考えちゃいない。世界は根っこの無い悪意に満ちているし、欲という球根の無い善意は無い。確かに僕も多少手を出しちゃいるが、その全ての責任を僕に押し付けられても困るぜ?」

 それは過去現在でこのレムフィリアに起きた全てについてを語っているのだろう。
 やれやれとでも言いそうなポーズをする魔神を、フィリアは見下ろし睨みつける。

「そんなものを押し付けるつもりはありません。ですが、貴方は何も考えずにこの世界に手を出したと? 何も考えずに二代目以降の魔王を送り込んだというのですか」
「そうだよ? まあ、ヴェルムドールに関しては面白くなるかもって予感はあったかな? 君が勇者なんてものを用意したからね」

 クスクスと笑っていた魔神はしかし、その笑みをピタリと真顔に切り替える。

「だからまあ、僕は幾つかの結末を予想していたんだ」

 たとえば、魔王ヴェルムドールと勇者カインが戦う結末。
 この結末はヴェルムドールがイクスラースを殺した時に有り得たかもしれない。
 多少の縁とはいえ友人であった「少女イース」の死を何らかの方法でカインは知り、彼女の為に「勇者」として立ち上がりヴェルムドールの前に立ったかもしれない。

 たとえば、魔王ヴェルムドールと人類連合軍が戦う結末。
 勇者伝説の強く残るレムフィリアではいつでも有り得た結末であり、いつでもこの結末へと転がり落ちただろう。

 たとえば、魔王ヴェルムドールと命の神フィリアが殺しあう結末。
 今の状況はそれに近いが、ヴェルムドールの積み重ねた行動によって回避されつつある。
 正直な話でいえば魔神は、この結末になるのではないかと予想を立てていた。

「しかしまあ、蓋を開けてみればお話し合いの場に呼び出されたときたもんだ。でも、ヴェルムドールの性格を考えれば有り得た事ではあるかな?」

 ヴェルムドールの性格を魔神が一言で評価するなら「地味」の一言に尽きる。
 世界など武力に任せて征服してしまうのが一番早く、それを出来るだけの戦力を持っていたはずなのにしなかった。
「勇者など殺してやる」ではなく「勇者をそもそも召喚させない」世界情勢作りに勤しむなど、魔神でなくとも予想できなかったに違いない。
 
 世界平和。
 皮肉な事に、ヴェルムドールはレムフィリアの誰よりも真面目にそれに向けて取り組んでいた。
 
「君は正しく臆病者だったよヴェルムドール。返り討ちにしてやるなんていうのは誰でも言える。力と恐怖で支配するのは馬鹿にだって出来る。フィリアにしたってさっさと戦って倒してしまえばいいものを、なんとか出来ないかと僕まで引っ張り出すのは君くらいのものだろうさ」
「……許すつもりはないが、ソレはソレなりに世界の事を考えている。ならば妥協点を探ろうとするのは当然の事だ」
「その「当然」を「当然」と思わない奴が多いって話なんだけどなあ。まあ、いっか」

 ヴェルムドールの答えに肩を竦めると、魔神はフィリアへと向き直る。
 イチカのこと、イクスラースのこと。ヴェルムドール自身が殺されたこと。
 正直に言って、フィリアと命を賭けた戦いをする理由は幾らでも揃っていた筈だ。
 ヴェルムドール自身、その方向へ進んでいたはずだ。
 だがそれでも、ヴェルムドールはフィリアの行動の中に潜む「フィリアなりの正義」を考慮し妥協点を探ろうとしている。
 そのあり方は合理的ではあるが……世間一般では「慈悲深い統治者」と呼ばれる事もあり……口の悪い者は「弱腰の理想主義者」とも呼ぶだろう。
 ヴェルムドールがどちらでもない事は明白だが、そういった者達のとる行動と似通っている事は実に面白いと魔神は思う。

「ならまあ、仕方ない。教えてあげようフィリア。僕はこのレムフィリアに何の興味も野望も抱いてはいない。この世界に火薬を満たしたのは僕かもしれないが、火をつけて悲劇に仕立て上げたのは他ならないこの世界の人類自身だとも」
「……その火薬が無ければ、世界は一度滅びなかった」
「知ったことじゃないね。僕は火をつけろと唆した覚えは無い」

 始まりは、魔神の降臨。
 それだけは、間違いない。
 たとえ、その先の全てがレムフィリアに生きる者達の間違いだとしても、それだけは。

「何故ですか。何故、貴方はこの世界に手を出したのですか」
「その辺りの認識が僕とは違うんだけど……そうだなあ。なんとなく、さ」

 魔神がそう答えると同時に……フィリアの手に現れた神々しいばかりの輝きを放つ大剣が、魔神に向かって振り下ろされた。
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