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連載
アルヴァ戦役37
しおりを挟むそれは、紛れも無くライフソードであった。
恐らくは相当の魔力を込めたであろうそれは先程までフィリアが使っていたものとは比べ物にならない程の輝きを放ち、魂ある者が見ればそれだけで畏怖するであろう威圧をも放っていた。
「命の力」という生命の根源に近い魔力を凝縮したグレートライフソードとでも呼ぶべきそれは魔神に振り下ろされ……避けも防ぎもしない魔神を、一閃した。
「……なっ……」
そう、一閃した。
確かに魔神の頭部から足元までを断ち切る一撃は繰り出され、グレートライフソードはその身体を間違いなく通り抜けた。
「魔力体……いや、それでは説明がつかんな」
説明を求めるようにサンクリードはイチカを見るが、イチカもまた首を横に振る。
イチカとて魔神と一緒に過ごしていた時期はあるが、あんな技を使った覚えは無い。
そしてヴェルムドールにも、今の現象は理解できなかった。
剣が対象を通り抜けるという現象はエレメントなどを普通の剣で斬った時に起こる現象ではあるが、それはあくまで普通の剣の話だ。
魔力を通した剣であれば魔力体は普通に斬れるし、斬れずとも干渉することは出来る。
だから、たとえ魔神が魔力の神であろうと……あんな風に剣という形で纏まった魔力に一瞬で干渉できたとしても、それは「ぶつかる」だけで通り抜けるということは有り得ないのだ。
「おっそろしい奴だなー。いきなり本気で斬りにくるのかよ」
「……今、何をしたのです」
「何したと思う?」
おどけるように言う魔神に、フィリアは再度斬り付ける。
縦、横、斜め。
数度の斬撃もやはり同じようにすり抜け、魔神の身体に触れることは全く無い。
無数の斬撃の中で肩を竦める魔神を、誰もが理解できないものを見る目で見る。
幻ではない。
確かに此処にいる。
なのに、全くフィリアの斬撃が幻にそうするかのようにすりぬけている。
「なんなら、アレ使ってもいいよ? ほら、この場所にご大層に溜めてるヤツ。ひょっとしたら僕を倒せるかもしれないぜ?」
「くっ……!」
再度振るわれたグレートライフソードを魔神は、今度は手の平で受け止める。
先程までとは違う感覚にフィリアは動きを一瞬止め……その一瞬で、グレートライフソードが弾けるようにして消え去ってしまう。
「ほーら、剣消えちゃった。どうするよ?」
「何故。何故本体でも無い貴方にこんな力が……!」
「そこだ。ヴェルムドールは君の計画が穴だらけだと言っていたけど、そもそも僕に関する認識が間違ってるんだ」
ヴェルムドールも間違えているけどね、と呟く魔神の手の中には先程消えたはずのグレートライフソードが現れ、その手の中で霞のように溶けて消えていく。
「ヴェルムドール。君の中には僕に関するヒントがあったはずだよ」
「……どういう意味だ」
「あ、やっぱ無理かな。君の材料になった彼は、もう残滓もほとんど残っちゃいないか」
魔神はそう言うと、辺りを見回し……カインを指差して微笑む。
「あるいは、そこの勇者君」
「え、僕!?」
「そうそう、君だ勇者カイン君。君なら分かるかな?」
言われたカインは助けを求めるように辺りを見回し……そして、困ったように「と言われても……」と答える。
ヴェルムドールとカインの共通点。
ヴェルムドールの中にかつて在り、今もカインの中にあるモノ。
「……異界の知識。そんなものがお前のヒントになると?」
そう、かつてヴェルムドールがヴェルムドールとなる前の材料になった男……「リョウ」の持っていた知識。
そして、異界に生まれこの世界に「転生」したカインの持つ知識。
だが……そんな魔神の正体に繋がるような知識を「リョウ」は持っていただろうか?
「神様の定義」
魔神の言葉にヴェルムドールは眉を潜め、カインは考えるように黙り込む。
「カイン君。君が居た世界における「神様の定義」を言ってみてくれるかい?」
「え、ええ? ええっと……祈ったりする存在で、宗教によってそれぞれで……」
「なるほど。どんな神様がいるのかな? 概要でいい。答えてくれないかい?」
フィリアの前から、カインの方へと歩いてくる魔神を見て後ずさりながらカインは「えっと……」と言いよどむ。
「僕の居た世界……っていうか国では、人間っぽい神様の話がありました」
「なるほどなるほど。たとえば、そこのアホ女神みたいに何かを司ったりする神様かな?」
「そ、そういうお話もあったけど……どっちかというと人間より凄い人達みたいな……」
「人を超えた人こそを神と定義したわけだね。他には? 他にはどんな定義がある?」
カインに迫る魔神を見ながら、ヴェルムドールは自分の中にほとんど残っていない「リョウ」の知識を探る。
神の定義。
何故そんなものを魔神が聞きたがっているのかは……恐らく、魔神を誰かが「魔神」と呼んだ理由がそこに在るからだろう。
ならば、魔神の望む答えは……「神の定義」は何か。
ヴェルムドールは記憶の中を探り……一つの知識の欠片を見つけ出す。
それはこの世界においては何の価値もなさそうな、そんな知識の欠片。
だが……恐らくは、これこそが。
「……そうか、そういうことか。なるほど、確かに俺の解答では足りなかった」
ヴェルムドールの呟きを聞きつけ……魔神が、期待の表情で振り返った。
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