勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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アルヴァ戦役38

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 神。
 信仰の数だけ神は居て、神の数だけ神の定義はある。
 その実在非実在はさておいて、意思ある生き物は様々な「神」を見出してきた。

 たとえば、とある者は「神は世界を創りしものである」と定義した。
 神こそが全能であり、神の世界とは遥か天の果てにあると夢想した。
 死後の世界、神々の世界……様々な「神」や「世界」が信仰の数だけ生まれた。
 
 そして、とある者は……世界に存在するあらゆるものに「神」を見た。
 地を照らす太陽に。
 世界を駆ける風に。
 雄雄しき大地に。
 果て無き海に。
 様々なモノに「神」を見たのだ。
 それは自然信仰とも呼ばれ、しかし発生しやすい信仰の形でもある。

「なるほどなるほど、自分では考えの及ばないモノを神と定義したわけだね。それで?」
「もっと正確に言えば、「力」そのものを神と信仰したのだろう」

 畏怖すべき力が向けられる事を恐れたか、その力を授かる事を願ったか……それは定かではない。
 だが、往々にして人は「力」に神を見る。
 そしてそれは、「魔力」に関しても同じ事が言えるはずだ。

「……つまり、お前は「魔力の神」ではあるが、単に司るだけの力の代行者ではない。「魔力という力」そのもの……ということ、か?」
「80点。まあ合格をあげてもいいかな?」

 そう言って笑うと、魔神は指をパチンと鳴らす。
 ただそれだけのことで次元の狭間の極彩色の光は忙しく色を変えて点滅を始める。
 再びパチンと魔神が指を鳴らすと極彩色の光は元に戻り……たったそれだけの事実で、今のヴェルムドールの言葉の正しさを証明したかのようである。
 だが、それでも「80点だ」と魔神は言う。

「僕を魔神と呼んだ奴の意図はその通りだ。僕にフィリアの剣が通じなかったのもその理由で正しい。僕で僕を斬ろうったって、斬れるはずがない」

 そう言って魔神がフィリアに視線をちらりと向けると……フィリアは全く納得していない顔で魔神を睨みつける。

「……魔力の神であるというのはともかく、魔力そのもの? 世界の魔力を使い切れば弱体化するか死ぬとでも言うつもりですか」
「いや、別に? ていうか勇者カイン君、君の世界に魔法はあるかい?」
「え、ええっ!? いや、此処みたいなのは無かった……と思いますけど」
「だよね。君の世界にはこの世界みたいな魔法なんてない」

 魔神の発言の意図が分からず目を瞬かせるカインに魔神は頷いてみせると、ぱっと手を広げる。

「でもね、そんな世界にも魔力はあるんだ。だから世界は繋がる」

 そう、何にでも魔力は宿っている。
 人に、世界に、魂に。
 ……いや、宿っているという表現では足りない。
 たとえそれを観測できない場所であろうと、確かにそれは存在している。
 世界は……いや、あらゆる全ては魔力で満たされているのだ。
 だから数多の世界は産まれてくる事が出来た。
 そして魔力は様々な形で世界に姿をあらわし……人はそこに、自らの届かぬ「何か」を幻視する。
 姿や定義は精霊だの悪魔だのと人によって様々だが……大概の者は、そこに「神」を見る。
 それは、子が親を想う本能にも似ているだろうか。
 ある場所では神が世界を創造し……ある場所では世界が神を産んだ。
 またある場所では神を否定し、ある場所では神をも超えるモノが生まれた。
 定義も何もかもがバラバラでも、神を想わぬ世界は無く。
 神ですら、自らの届かぬ何かを幻視した。
 そうした数多の想いは、あらゆる全ての根源たる魔力にも形を与える。
 すなわち、魔なる力の神。
 数多の想いと、数多の祈り。意思あるモノの数だけ幻視された神が、そこに生まれたのだ。

「面白いとは思わないかい? 被造物が、造物主を産むというこの矛盾。けれどとにかく、こうして魔力は一つの方向性を得てしまったわけだ」

 故に、魔神に決まった姿は無い。何故ならば、意思あるモノの数だけ姿があるが故に。
 故に、魔神に名前は無い。何故ならば、意思あるモノの数だけ名前があるが故に。

「しかし、こうして意思を持ってみると実に退屈だ。何しろ何もかもが分かってしまう。ありえた過去、ありえる未来……時空と因果を超える大冒険だろうが、僕にとっては結末の分かった本みたいなものさ」

 故に、魔神は視界を閉ざした。
 何処でもない場所に真っ暗な空間を作り、全てを流れるままに任せるようにした。
 すると、どうだろう。時折見る世界の、なんと輝いて見えることか。
 これでいいと満足するも、そんなものは長くは続かない。
 無限の時間の果てに、魔神はやがて飽いていく。

「だからね、レムフィリアに来たのもそう深い理由は無い。あえて言うならまあ……新しい出会いを求めて、かな?」
「そんな、理由で……!」

 怒りのためかフィリアは拳を握り、身体を震わせる。
 フィリアの想像していたような恐ろしい計画など、最初から無かった。
 だが……想像など出来るはずも無いつまらない理由で世界のバランスは大きく崩れ、それをやったのは想像以上に強大な……倒そうと考えることすら馬鹿馬鹿しい相手。

「そんな理由とか言うなよ。価値観は意思の数だけ存在するんだ。僕の価値観も尊重してくれないかな?」
「……それは、無理だろう」
「ん?」

 魔神という存在の出鱈目さに誰もがどうしたものか考え付きもしないその中でただ一人、ヴェルムドールのみが口を開く。
 魔神はヴェルムドールへと振り向くと、表面上は……あくまで見た目だけは無垢な少女のような笑みを浮かべてみせる。

「ああ、ヴェルムドール! 君は中々素敵だったよ。結末を見てしまいたいと思ったのは久しぶりだった」
「そうか」
「そうさ!」

 楽しそうに笑みを深め……魔神は、首を傾げてみせる。

「……で、何が無理だって?」
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