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アルヴァ戦役39
しおりを挟む「同じ生き物同士ですら、価値観を尊重しあえる例は稀だ。お前ほど価値観が違えば、尊重どころか理解さえ得るのは難しいだろう」
「ほー、言うねえ」
魔神はヴェルムドールの元へ歩いていき……真下から、その顔を見上げる。
「計算高い君の事だ。僕がどうしようもない短気で、君にいきなり攻撃する可能性も考えていたはずだけど……どう防ぐつもりだったのかな?」
魔神がヴェルムドールの服の装飾に手を伸ばし触れると、ただそれだけで装飾が掻き消える。
いつでもこう出来るという脅しだろうが……ヴェルムドールはその様子をじっと見たまま、怯えた様子も無い。
「……へえ?」
その様子に興味が出たのだろうか。魔神は笑みを浮かべ、ヴェルムドールにぴたりとくっついてみせる。
手を胸元に触れ、まるで恋人のような寄り添い方だが……その距離は、いつでもヴェルムドールを殺しにかかれる必殺の距離でもある。
「魔王は、魔神の縮小版だ。それで間違いは無いか」
「間違ってはいないね。だから魔王は神になれる。存在が似通っているから、世界のシステムに組み込まれてしまうのさ」
それは、いわばレムフィリアの自己防衛機能。
世界の安定に必要な神というものを失った時、それを支障なく代行できるようなものを生成する。
それに最も手軽で手近なものが「魔王」であるが故に、神の消失と同時に魔王が神へと変化するのだ。
「世界のシステムか。だが、先程のお前の話を事実とするなら……それもまたお前自身だろう?」
「そうとも言えるし、違うとも言える。僕はヒトでいえば脳のようなものだ。君が自分の身体の血の一滴まで把握してはいないように、意図的に視界を狭めた僕が知覚する範囲はとても狭い。どこでどんなモノがあるかを把握しているわけじゃない」
「だろうな」
ヴェルムドールはそう呟くと、魔神が消した装飾の辺りを指でなぞり始める。
「先程はしなかった話だが……お前が魔族の神ではないように、俺の本質もきっと魔族の王ではないのだろう」
魔神が魔力の神であり、魔王がその縮小版だというのなら……ヴェルムドールの本質は魔力の王。
それ故に、ヴェルムドールは命の神にしか出来ない生命の創造……の限定版である魔族の創造が出来るのだろう。
命の種に接続できるのも、それ故であり……無尽蔵にも思える魔力も、魔力の王であるが故だ。
魔王に魔族が従うのも、その潜在的な魔力の高さ故にヴェルムドールこそが「王」であると理解できてしまうからなのだろう。
だからこそ、ヴェルムドールは種族魔王なのだ。
その世界にたった一人の、魔力を統率する王。
並び立つ者など、自然に発生するはずも無い。
「考えてみれば、これ程に単純なことは無い。グラムフィアが魔法解除などを開発したのも、ひょっとすると「魔王」という存在の真実に本能で気付きかけていたからかもしれないな」
「へえ、それは面白い見解だ……それで? 結局何が言いたいんだい?」
面白がるような魔神にヴェルムドールは魔神が消した装飾の辺りをトントンと指で叩いてみせる。
「ん?」
「俺が言いたいのは……こういうことだ」
ヴェルムドールが再度指で叩いた、その瞬間……魔神が消した装飾が、何事もなかったかのように其処に現れる。
それは魔神がヴェルムドールにしたことと全くの逆であり……その事実に、魔神が感心したような声をあげる。
「は、はは……なるほど、なるほど! 確かに、確かにそうだ! 君が僕の縮小版であるならば……ヴェルムドール! 僕に出来ることは確かに君にもある程度は出来る! だがまさか模倣どころか応用するとは!」
「簡単なことだ。理屈を理解したならば発展させるのは知性ある者の義務だろう」
ヴェルムドールの返答に魔神はキョトンとしたような顔をして……その後、パッと離れてお腹を押さえて笑い出す。
「義務、義務か! ははは……あははっ! 君こそ他人と価値観を共有できてないんじゃないのかい!? そんな勤勉な事を言える奴は、数多の世界を見回してもそうはいないぜ!?」
「そうかもしれないな」
ヴェルムドールの答えに魔神は更に笑い声を大きくし……目の端に涙すら浮かべ、それを指で拭う。
「はあー……面白かった。なんだよ、さっきの価値観云々っていうのは自己体験かよ。意外と寂しい奴だな、君は」
「そうでもない」
「へえ? 何故だい?」
ヴェルムドールは答えず、周囲を見回し……再度、魔神へと向き直る。
「理解者がいる」
「理解者、ねえ。理解するけど行動しないっていうのは、下手な敵対者よりタチ悪いぜ?」
魔神はそう言ってこの状況を見守るだけだった者達へと振り向き……そこで「おや」と声をあげる。
再度魔神がヴェルムドールのほうへと振り向くと……そこには、ヴェルムドールの背後に控えるようにイチカが立っている。
「別に来なくて良かったんだぞ、イチカ。こいつのコレはただの嫌味だ」
「……それでも。たとえ何も出来ずとも、私の貴方への想いを否定されるのは我慢できません」
それにヴェルムドールが口を開くその前に「あー、もう!」という叫び声と足音が聞こえてくる。
「どういうノリよ、これは! どう考えても大人しくしてるのが最高のサポートでしょうに……ああ、もう!」
大股で歩いてくるイクスラースはヴェルムドールの隣に立ち、イチカと睨みあった後にヴェルムドールの服の裾をぎゅっと掴む。
「言っとくけど、今の私にはさっきの貴方みたいな真似はできないわよ」
「期待はしていない」
アッサリと答えるヴェルムドールをイクスラースは睨みつけ……その後、深い溜息をつく。
「……でもまあ、想いの否定が云々っていうのはまあ……ある程度同意するわ。貴方は寂しい奴なんかじゃない。他の連中もそう言うと思うわよ?」
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