勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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アルヴァ戦役40

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 ヴェルムドールに寄り添う二人。
 イチカに関してはある程度そうなる要素はあったが……魔神を前にして敵対も辞さないほどに入れ込むと予想できていたかどうか。
 イクスラースに関しては、本人すら中々認めたがらないそういう感情があるのは明らかだ。
 他にもこの場には居ないが、ヴェルムドールに浅からぬ思いを抱いている者は他にもいる。
 肝心のヴェルムドールが驚くくらいに頑固かつ真面目なせいで誰ともそういう関係に至ってはいないようだが……そういう感情ではなくとも、ヴェルムドールを「魔王」という枠ではなく信頼している者も大勢居る。
 そうなったのはある意味でヴェルムドールが「臆病」に振舞ってきたせいであろう。
 そしてそれはレムフィリアの神々に「魔王ヴェルムドール」という存在を注目させ、ある程度好意的にさせた原因でもある。

 そう……驚くべき事実だが、ヴェルムドールがこのレムフィリアに生まれ落ちてから魔神と今再会するまでの間……ヴェルムドールは世界のバランスに影響するほど大きな魔法というものを、使用していない。
 中規模の魔法や規模の割には魔力の消費が大きい魔法といったものは何度か使用しているが、それだけである。
 これは大きな力を持つ者としては非常に珍しい事例だ。
 何しろ、生まれながらにせよ後天的にせよ大きな力を持つ者は自分の力を存分に発揮する場所を求めたがる傾向にある。

 自分の限界を知る為。
 自分を制御する為。
 何らかの理由で力を発散させなければならない。
 理由は様々だが、全力の破壊行為に走る事だけは同じだ。
 そうして放たれた強大な魔力は大抵大なり小なり世界のバランスを一時的に崩す事になるのだが……それは往々にして、本人に何らかの災難となって返る。
 まあ、その辺りが所謂「振りかかる不幸」だの「力を持つ者の試練」などといったものの真実だったりするのだが、それはさておきヴェルムドールのこれまでの歩みの中で、ヴェルムドールの行動に起因するトラブルの類は驚くほど少ないと言っていい。
 たとえばイクスラースの件にしたところで、ヴェルムドールはその強大な魔力に任せて大魔法と呼ばれる類の魔法を連打する事だって出来ただろう。
 それはフィリアの影や聖鎧兵の類の出現を許すことなく問題を片付ける事を可能にした手段のはずだが、ヴェルムドールはその手段をとっていない。
 まあ、そうした場合は魔神の予想した「カインとの戦い」の結末に至っていただろうが……意図的か無意識でか、ヴェルムドールはそれを回避した。
 政治的にも同様だ。
 魔王軍という個々の能力においても最強の軍を構築したヴェルムドールは、それを背景にした武力外交で要求を通すことも充分にできた。

「逆らえばロクなことにならない」と実体験を持って示すのは非常に有効な手段であり、過去様々な事例を見てきてもそれ以上に短期間で効果をあげられる手段は無い。
 それに伴う反発も武力と恐怖で抑えつけてしまえば、憂いも無いだろう。
 簡単であるが故に誰もがとる手段だが、ヴェルムドールは「まとも」な政治的手段のみで人類国家と渡り合っている。
 魔王軍はあくまで相手国に「武力」というカードを切らせない為の防御手段であり、それはジオル森王国に演習という形で一部公開する事によって伝播を狙った。
 勇者伝説すらもそのカードを大きく見せるのに一役買い、事実「勇者トール」というカードを手に入れた聖アルトリス王国ですらそれを切り札に大きく動くような事はなかった。

 そして、「軍事力はあっても侵略せず。交渉と取引は公正に」という姿勢はジオル森王国を中心に広まり、サイラス帝国との一部の交渉開始の助けともなった。
 胡乱にも思えるこの手段はヴェルムドールとザダーク王国というものの誠実さを示し、亜人論が席巻する中にあっても「正しさ」の御旗を簡単に譲りはしなかった。
 これは聖アルトリス王国において王権側が勇者というカードの取り扱いについて真剣に悩む契機となり、結果として勇者トールとの戦いすら現状では回避されている。
 この結果に至るには軍事を含む内政、そして外交のどちらが欠けても無理であっただろう。
 そうして結果が出てみれば「魔王ヴェルムドール」という男は積極的な平和志向であるということが良く分かる。
「主義者」でないのはいざとなれば戦いも辞さないからであるが……ともかく、これは「人類」にとっても「神々」にとっても歓迎すべき事であるのに変わりはない。
 唯一命の神フィリアについては魔神への警戒から魔王ヴェルムドールに対する態度を硬化させているが……。
 ……そこまで考えて、魔神は「なるほど」と頷く。

「君も中々に賢しい奴だね。僕と世界の話から、そんな事を考えたのかい」
「俺が何を考えているのか分かったとでも?」
「分かるさ。育てた覚えも産んだ覚えも無いが、僕は君の親でもあるんだぜ?」

 魔神はヴェルムドールに正面から寄り添ったまま、にやりと笑みを浮かべる。

「この世界に新しいモノをねじ込もうとしているんだろう? ヴェルムドール」
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