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26話
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「ちょっと、まだ帰ってもらったら困りますよ」
瑞貴の机の引き出しを片っ端から開けていた琴葉が振り返る。
瑞貴としては勝手に引き出しを開けないで欲しいとは思うのだが、どうせ言っても無駄だろうと諦める。
「折角なんですから、六花さんには遠竹君の特訓を手伝ってもらいませんと」
「なんで特訓なんかしてんの?」
きわめて常識的な反応を返してくる六花に、瑞貴は答えを返す。
「えっと、諸事情ありまして。強くなりたいんです」
「諸事情って何?」
当然の反応だ。
だが、こっちの問題に六花を巻きこんでいいものかどうか、と瑞貴は言葉に詰まる。
「こっちの世界で虐殺をしたがってる赤マントを迎撃する為ですよ」
瑞貴が悩んでいる間に琴葉がサラリと説明してしまい、六花はキョトンとした顔で瑞貴を見る。
「そうなの?」
「あ、はい」
瑞貴が答えると、六花は手に顎をのせて、何か考えるような素振りを見せる。
「遠竹が、赤マントを……ねえ?」
「ミズキが、じゃない。倒すのは私」
茜の言葉を聞き流し、六花は部屋の中をぐるぐると回り始める。
部屋の中央でピタリと止まって瑞貴と、茜と……琴葉の顔を、順番に眺めて。
「無理じゃね?」
六花はそう言うと、瑞貴達を順番に指差す。
「人間と、赤マントっぽくない赤マント。ついでにこっくりさん。そんなので、どうやってアレに勝とうっての?」
それは、琴葉も懸念していた事ではある。
純粋な戦力の不足。
絡め手で戦う事は出来ても、勝利にはどうしても純粋な力が必要になる。
そしてそれは、たった一人が加わる事で大きく解消される。
「だから、六花さんの力が必要なんですよ。貴方の力が加われば、ボク達の勝率は上がりますから。ね、協力して頂けませんか?」
「やだね、断る」
立ち上がって手を差し出す琴葉に、あっさりと……しかし明るい表情で六花は答える。
「あのさ。アタシが協力する理由がねぇんだけど。つーかお前さあ、今アタシをこっくりさんの契約で縛ろうとしただろ。ナメてんの?」
「穏便な方法だと思ったんですけどね」
「そうかい。言い残す事はそれだけか?」
琴葉と六花との間で、さっき以上に不穏な空気が、殺気が広がっていく。
六花にとってみれば誰かに嫌われるのは嫌だが、ナメられるのは何より嫌いだった。
そこに無遠慮に踏み込んでくる琴葉は、六花にとって敵でしかない。
敵である以上、切り刻む。
それは、とても簡単な事だ。
このまま剣の姿に戻って、まずは煩い口ごと頭蓋を両断する。
そこまで考えて、六花は腕を水平に胸にあてる。
この腕の向きで、六花は元に戻った時の向きを変える事が出来る。
あとは、このまま腕を振りぬくだけ。
琴葉は、まだ構えてすらいない。
いざ振り抜こうとしたその時、琴葉が口を開く。
「遠竹君、貴方に問題を出します」
「こ、琴葉さん?」
「貴方が赤マントと戦うにあたって、最大の懸念事項は何ですか? 解決方法と合わせて答えてください」
何を言っているのか、瑞貴には理解できない。
瑞貴だけではなく、六花まで理解できないという顔をしている。
瑞貴の膝に座ったままの茜と、六花と向き合ったままの琴葉だけが涼しい顔をしている。
「ヒントです。例えば赤マントがこの周辺に現れたとして、一番防がなければならない事は?」
それは、簡単な質問だ。
耕太や綾香達、あるいは普通の人を巻きこまないようにする事だ。
だが、それを可能にする為の方法が分からない。
赤マントと戦えば、必ず何かしらの騒ぎになるだろう。
それを防ぐために出来る方法が、瑞貴にはたった一つだけ思いついていた。
「懸念事項は、関係ない人を巻きこまない事です。解決方法は、赤マントを弾き飛ばす事。それで、最悪の事態は防げます。ですよね、琴葉さん」
琴葉は頷き、六花が理解できないといった顔をする。
「何言ってんだ? 弾き飛ばす?」
「そうです。遠竹君は、世界を混ぜる力を持っています。ダストワールドから、この世界への正式な案内状を作れるんです」
六花は鼻を鳴らすと、琴葉を睨みつける。
そういうことか、と理解する。
潤沢で新鮮な感情の数々……ダストワールドとは違い、自力で何かを生み出していく世界。
そこに受け入れられるという事は、捨てられた感情から生まれたダストワールドの住人達の夢の一つでもある。
「なるほどな、アタシを買収しようって事か」
「貴方が望むなら。ただ、先程お話した相手は、力ずくで奪いに来るでしょうけどね」
六花は不機嫌そうに頭を掻いて踵で床をドンドンと踏みならす。
しばらくそうしていた後に六花は、瑞貴の方へと向き直る。
これは、明らかに買収だ。
瑞貴は、前に琴葉から聞いた言葉を思い出す。
ダストワールドには何もない。
だからこそ焦がれ、こちらの世界を目指す。
その気持ちを取引材料にする自分が今、とても卑怯な事をしてるんじゃないだろうかという思いが瑞貴の中に広がっていく。
「おい、遠竹。この化け狐はやめといたほうがいいぜ。こいつ、用意周到に既成事実とか狙ってくるタイプだ」
「人聞きの悪い事言わないでください」
六花は琴葉の言葉を聞き流すと、瑞貴の肩に手を置く。
思わずビクリとする瑞貴だが、六花の表情からは、先程までの殺気は消えている。
「遠竹が決めろ」
そう言うと六花は、瑞貴と茜の正面に座りこむ。
瑞貴の机の引き出しを片っ端から開けていた琴葉が振り返る。
瑞貴としては勝手に引き出しを開けないで欲しいとは思うのだが、どうせ言っても無駄だろうと諦める。
「折角なんですから、六花さんには遠竹君の特訓を手伝ってもらいませんと」
「なんで特訓なんかしてんの?」
きわめて常識的な反応を返してくる六花に、瑞貴は答えを返す。
「えっと、諸事情ありまして。強くなりたいんです」
「諸事情って何?」
当然の反応だ。
だが、こっちの問題に六花を巻きこんでいいものかどうか、と瑞貴は言葉に詰まる。
「こっちの世界で虐殺をしたがってる赤マントを迎撃する為ですよ」
瑞貴が悩んでいる間に琴葉がサラリと説明してしまい、六花はキョトンとした顔で瑞貴を見る。
「そうなの?」
「あ、はい」
瑞貴が答えると、六花は手に顎をのせて、何か考えるような素振りを見せる。
「遠竹が、赤マントを……ねえ?」
「ミズキが、じゃない。倒すのは私」
茜の言葉を聞き流し、六花は部屋の中をぐるぐると回り始める。
部屋の中央でピタリと止まって瑞貴と、茜と……琴葉の顔を、順番に眺めて。
「無理じゃね?」
六花はそう言うと、瑞貴達を順番に指差す。
「人間と、赤マントっぽくない赤マント。ついでにこっくりさん。そんなので、どうやってアレに勝とうっての?」
それは、琴葉も懸念していた事ではある。
純粋な戦力の不足。
絡め手で戦う事は出来ても、勝利にはどうしても純粋な力が必要になる。
そしてそれは、たった一人が加わる事で大きく解消される。
「だから、六花さんの力が必要なんですよ。貴方の力が加われば、ボク達の勝率は上がりますから。ね、協力して頂けませんか?」
「やだね、断る」
立ち上がって手を差し出す琴葉に、あっさりと……しかし明るい表情で六花は答える。
「あのさ。アタシが協力する理由がねぇんだけど。つーかお前さあ、今アタシをこっくりさんの契約で縛ろうとしただろ。ナメてんの?」
「穏便な方法だと思ったんですけどね」
「そうかい。言い残す事はそれだけか?」
琴葉と六花との間で、さっき以上に不穏な空気が、殺気が広がっていく。
六花にとってみれば誰かに嫌われるのは嫌だが、ナメられるのは何より嫌いだった。
そこに無遠慮に踏み込んでくる琴葉は、六花にとって敵でしかない。
敵である以上、切り刻む。
それは、とても簡単な事だ。
このまま剣の姿に戻って、まずは煩い口ごと頭蓋を両断する。
そこまで考えて、六花は腕を水平に胸にあてる。
この腕の向きで、六花は元に戻った時の向きを変える事が出来る。
あとは、このまま腕を振りぬくだけ。
琴葉は、まだ構えてすらいない。
いざ振り抜こうとしたその時、琴葉が口を開く。
「遠竹君、貴方に問題を出します」
「こ、琴葉さん?」
「貴方が赤マントと戦うにあたって、最大の懸念事項は何ですか? 解決方法と合わせて答えてください」
何を言っているのか、瑞貴には理解できない。
瑞貴だけではなく、六花まで理解できないという顔をしている。
瑞貴の膝に座ったままの茜と、六花と向き合ったままの琴葉だけが涼しい顔をしている。
「ヒントです。例えば赤マントがこの周辺に現れたとして、一番防がなければならない事は?」
それは、簡単な質問だ。
耕太や綾香達、あるいは普通の人を巻きこまないようにする事だ。
だが、それを可能にする為の方法が分からない。
赤マントと戦えば、必ず何かしらの騒ぎになるだろう。
それを防ぐために出来る方法が、瑞貴にはたった一つだけ思いついていた。
「懸念事項は、関係ない人を巻きこまない事です。解決方法は、赤マントを弾き飛ばす事。それで、最悪の事態は防げます。ですよね、琴葉さん」
琴葉は頷き、六花が理解できないといった顔をする。
「何言ってんだ? 弾き飛ばす?」
「そうです。遠竹君は、世界を混ぜる力を持っています。ダストワールドから、この世界への正式な案内状を作れるんです」
六花は鼻を鳴らすと、琴葉を睨みつける。
そういうことか、と理解する。
潤沢で新鮮な感情の数々……ダストワールドとは違い、自力で何かを生み出していく世界。
そこに受け入れられるという事は、捨てられた感情から生まれたダストワールドの住人達の夢の一つでもある。
「なるほどな、アタシを買収しようって事か」
「貴方が望むなら。ただ、先程お話した相手は、力ずくで奪いに来るでしょうけどね」
六花は不機嫌そうに頭を掻いて踵で床をドンドンと踏みならす。
しばらくそうしていた後に六花は、瑞貴の方へと向き直る。
これは、明らかに買収だ。
瑞貴は、前に琴葉から聞いた言葉を思い出す。
ダストワールドには何もない。
だからこそ焦がれ、こちらの世界を目指す。
その気持ちを取引材料にする自分が今、とても卑怯な事をしてるんじゃないだろうかという思いが瑞貴の中に広がっていく。
「おい、遠竹。この化け狐はやめといたほうがいいぜ。こいつ、用意周到に既成事実とか狙ってくるタイプだ」
「人聞きの悪い事言わないでください」
六花は琴葉の言葉を聞き流すと、瑞貴の肩に手を置く。
思わずビクリとする瑞貴だが、六花の表情からは、先程までの殺気は消えている。
「遠竹が決めろ」
そう言うと六花は、瑞貴と茜の正面に座りこむ。
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