婚約から始まる「恋」

観月 珠莉

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*16* 冷や汗ドライブ

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『さくら、聞こえているかい?』
「ごめんなさい。聞こえているわ。」
『都合、悪いかな?』
「後で電話しても良い?」
『出先なの?迎えに行くよ。そのままランチに行こう。』

拓実くんは、出先だと判った途端、今までに無い程に強く誘う。
今日の拓実くんはどうしてしまったんだろう…?

「ごめんね。兎に角、また連絡するから!!」

私はそう言って、強制的に会話を終わらせた。

「王子様のお出ましか?」
「そういうのでは無いわ!!」
「お姫様を待ち合わせ場所までお送りしましょうか?」

直嗣さんは、優しい言葉を使っているものの…何だか、そこはかとなく不機嫌さを感じる。

「いいえ。このまま家までお願いします。」

宝生院家にて目の当たりにした男二人で勝手にヒートアップを進んで再現したいとは思わない。

「わかっているとは思うが、今の状況で別の男が居るのは状況が加速する可能性がある。」
「拓実くんはそんな関係じゃないわ!!」
「モテるのは結構だが、軽率な行動は控えてくれ。」
「…はい。」

拓実くんからの電話は、有り得ないくらいに車内の温度を急激に下げた。
電話が来る前までの会話が麗らかな春の気温だったとするならば、電話後は、ブリザードが吹き荒ぶ真冬の氷点下のような…そんな違い。

「おまえの来週の仕事の予定はどうなっている?」
「えぇ~と、来週は火曜日と水曜日が連休で金曜日も休みです。」
「では、また来週火曜日の夜に情報交換するぞ。」
「…せっかくの連休なのに…。」
「何か言ったか?」
「いえ、何でもありません。」

一方的に予定を言い渡されるのはどうなんだろうか?
…そうこう考え事をしている間に、私が住む独り暮らしの建物に到着した。
直嗣さんって口は悪いけれど、運転は上手なのよね…意外と。

「ありがとうございました。」
「あぁ。」

そうお礼を言って車を降りた矢先、

「さくら!!」

拓実くんが叫びながらエントランス側から走り寄ってくる姿が目に飛び込んできた。
嗚呼…神様、ちょっとぐらい空気読んでよ~ッ!!

「拓実…くん?」
「さくら、どうして…?」
「あ…いや、これは違うの!!」
「何が違うの?」
「それは…その~…。」
「さくら、このままじゃ良くないよ!!今から家元のところへ行って、この拗れた状況を修復しよう!!」

送ってくれた直嗣さんにお礼も言えないまま、私は拓実くんに強く手を引かれ車から引き離された。

直嗣さんの車は、暫く停車していたけれど、特にクラクションを鳴らすでも無く、そのまま行ってしまった。
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