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人が覚悟を決めるときってどんなときだろう。喜びや嬉しさを感じて、次に繋がる覚悟を決めるときもある。反面、悲しさや悔しさ、怒りを感じて、より上を目指す覚悟を決めるときもあるだろう。私、秋川透が人生をかけた覚悟を決めたときを現す感情と言えば、それは「焦り」だった。
………ザァァァァ…ザァァァァ……
ー…ガチャ…キィ…ー
「…あれ、いるの?連絡したんだけど返事なかったからまだ仕事かなって。突然来てごめんね。今日この近くで仕事でさ。いきなりすんごい降りでさぁもうやんなっちゃう。とりあえず着替えさせてもらおうかな………って……思った…んだけど………」
今日は彼の家の近くで打ち合わせがあって、定時近くまであった仕事は、終わり次第直帰の予定だった。仕事は滞りなく終わり、打ち合わせ相手とも、「ここのコーヒーおいしいですね~、次の打ち合わせもここにしましょうか~」なんて話しながら、和やかに解散したのだ。その後突然のゲリラ豪雨に見舞われ、かつ私は傘を持っていなかったなんて、そんな不幸を除けばいつもの日常であったはずだった。
雨に打たれたのは時間にして数分だったように思うけど、近くの軒先でハンカチを探す間に、服や髪から滴り落ちる雫で足元には水たまりができるほどには見事に濡れきってしまった。ため息も逃げ出すほどの雨にほとほと参った時、彼の家がここから近いことを思い出した。
付き合って8年になる彼とは同棲とまでは行かずとも、お互いの家の合鍵を持っていて、家の中にはしばらく居座れるほどの日用品を置いている。だからほんとに、軽い気持ちだった。彼が不在のときに合鍵を使ったことなんて今までにもあったし、今回みたいな不測の事態に着替えを取りに来たことだってある。
だから今日もあまやどりさせてもらってあわよくば、今日は金曜日で、明日はお互い仕事が休みなんだし、そのまま泊まって、あぁこの前彼と一緒に買ったワインなんてあけちゃって、今日の雨にはびっくりしたね~なんて些細な日常の不幸を笑って、そんな一日になればいいなんて思っていたのは事実だった。
玄関には見慣れないヒールの高い靴と彼の質のいい革靴が水たまりをつくっていて、あぁ彼も同じこの雨の被害者だったかなんて過るほどには現実を受け入れていた。彼の家というこの場にそぐわない見知らぬ女の子が目を見開いて私を見つめていることも、その手には彼の品のいいワイシャツが握りこまれていることも、その後ろからはシャワーの音が鳴り響いている現実も、ひどく冷静に頭の裏の裏の引き出しにしっかりと保存されてしまった。
研ぎ澄まされた聴覚は閉まったはずの玄関扉の奥から聞こえる雨の音を拾って、その音は彼との思い出が詰まった記憶の引き出しを無作法に開けまくって、特に整理されていたわけでもない頭の中を静かに、そして激しくかき乱した。
ーガチャー
「どうしましたか?そんなとこで立ち止まって…っ!」
雨の音はクリアに拾う耳は、シャワの音が止まったことには気が付かなかったらしい。シャワールームからはほんのり顔を赤らめた彼が部屋着を纏って出てきた。ワイシャツをいまだに強く握りしめる彼女に声をかけ、その視線の先に私がいることを確認するや否や、今度は顔を青くしてこちらへやってくる。
「違います!あなたは今誤解している。弁解をさせてください」
何事も冷静に卒なくこなす彼がすごく慌てていることは情報として視覚から入手できたけれど、耳の方は相変わらず雨の音しか拾わなくて、赤くなったり青くなったり忙しないなぁとか、そんなに握りしめたらワイシャツにシワが寄るなぁとか、彼の着ている部屋着はこの前一緒に買い物に行ったときに買ったやつだねとか、あぁそうだその時に私の分もお揃いで買ったよね、など一気に頭の中を駆け巡った。彼はまだ真剣な表情で私に語りかけていて、あの、とりあえず着替えさせてほしい、だなんて言ったらさすがに場違いかなぁ、なんてことも考えていた。
「…っくしゅん!」
「…っ!とにかくあなたもそのままでは風邪をひきます。まずは体を温めて着替えてください。シャワーを使って、」
「……シャワー…?」
そうだ、彼はシャワーを浴びていた。そこの彼女は?ワイシャツに尚シワを寄せる彼女も浴びたのかな?
くしゃみが出たことで体中に冷たい戦慄が走った。いや正確にはくしゃみからじゃない、もっと前から、彼女が握りしめるワイシャツを視界に捉えたときから、私の体は、心は、寒さに震えていた。
「聞いていますか?まだ誤解しているでしょう。なんにせよまずは体を温めないと…っ!透!」
何かを言う彼に、あーうん、とか、わかった、とか、ありがとう、とか、またね、とか、いろいろ言って、気がついた頃には私はまたこの雨に身を任せていた。
そういえば、あのカフェで和やかに解散したあの人もこの雨の被害者になっていなければいいなぁなんて、ふと思いながら走った。こんな濡れネズミ、タクシーも電車も乗れっこないや、なんて思ったら笑えてきて、二駅先の自分の家までただひたすら雨に打たれた。
冷静沈着、慌てない騒がないがモットーな彼、横峯律は私の友人からも「大人オブ大人」の称号を得ており、「詳しくは知らないけど、きっとスパダリだよね!」だなんて影で言われている。きっとも何も、彼女の私から見ても彼は本物の「スパダリ」ってやつであるのだから、日々感謝の意を何度表しているか分からない。今度数えてみてもいいかもしれないな、なんてくだらないことを考えてしまう。
真面目で勤勉、部下に慕われ上司からも一目を置かれる、実績も常にトップで、何事も卒なくこなす、それはもうスーパーエリートマンである、らしい。仕事のことはあまり話さないけれど、不定休の私に合わせてたまに平日に有給をとってくれるときも、ひっきりなしにメールが入ってきているようで、よくチェックしているし、たまに書斎に籠もってしまう時もあるので、なかなかにして忙しい人なのだろうなと思う。
高身長高学歴高収入を見事物にしている彼が身につけるものはハイブランドのものばかりで、しかしそこにやらしさなどは感じさせず、紳士のオーラを滲み出させるばかりか、彼のために用意されたブランドなのではないかと、なぜイメージモデルをしていないのかと小一時間は悩めるほどには、洗礼された大人である。
そんな彼は家事も卒なく器用にこなす。毎日取替えられるシーツに、溜まることのない洗濯物。冷蔵庫の中には常に作り置きのタッパーが並んでいて、またそのどれもおいしい。几帳面さが滲み出る、散らかることを知らない部屋。まさに完璧を極めた男である。
対する私は、シーツをこの前洗ったのはいつかだなんて考えても無駄な記憶力しかないし、洗濯物をそううっかり溜めることなんてしばしば。ベランダで始めた家庭菜園は2日で根こそぎ枯らし、冷蔵庫には賞味期限切れの納豆が並んでいる。ちなみに萎びた野菜とか昭和の肉とかが出てきたりなんてことはしない。なぜなら冷凍庫はアイスの溜まり場だし、野菜室は使ってすらないのだから。
「彼氏が「大人オブ大人」であるなら、あんたは「ずぼらオブずぼら」ね」と笑ったのは私の幼稚園の頃からの親友で、いい得て妙なことを言うなと思ったし、仕事のネタになるなぁなんて呑気なことを考えていた。もしかしたらそんな呑気なことを言っていたからバチがあたったのかもしれない。
prrrrr…prrrrr…
電話の音に意識が浮上する。少し記憶が曖昧だがここは私の家で、どうやらなんとか帰ってこれたらしい。仕事柄体力が底辺の私は二駅分の距離を動いただけで、玄関で力尽きたようで、早くシャワーを浴びなければ、と考えて固まる。シャワーという言葉は今の私には禁句のようで、先程の光景が思い出されて心が痛みを感じる。
上気した頬と、ワイシャツを握りしめる彼女。彼女の訴えかける視線に隠された熱を知ってしまった私は、逃げるように去ることしかできなかったのだ。
また意識が遠のいて座り込みそうになるのを、未だ鳴り響く電話の音が阻止してくれる。
鞄の中のスマホに手をやって一つ深呼吸。
「…彼からでありませんように…」
意を決して見たスマホには、親友の名前が光っていた。ほっとして電話に出る。
「…もしもし…」
『っ!おそい!ずっとコールしてるのに、何してたのよ!死んでるんしゃないかって、心配したわよ』
「…あ、ごめんね。ちょっと出られなくて…」
『…?あんた何か声変よ?風邪引いてるの?』
「え、そんなことないと、思うけど」
『ふーん。まぁいいや。あたしさ、やっと明日1日休みとれたの。先週帰国してからずーっと働き詰めよ、やんなっちゃう!それで今日会えないかなって思って電話したんだけど、いい?…とりあえず雨も酷いし、あんたの家に向かってるから鍵あけといて』
「嬉しい。大丈夫だよ。私ももう家にいるから待ってるね、かぎあけと…、っ!」
立ち上がろうとしたその時、くらりと立ちくらんでしまった。その瞬間いきなり寒気が襲ってきた。
ガチャン…!
『…?透?大丈夫?なんの音?』
これは案外体調が良くないのかも知れないと自覚しただけで、人間の心は弱くなってしまうらしい。
「…、!ごめ、ん。ちょっと…だめ、かも…」
『…は?透?ちょっと、透?どうしたの?』
どんどん意識が遠のいて、電話の音が遠くなる。
『ちょっと!返事しなさいよ!透!…………、あんのばかっ!運転手さんちょっと急いで!親友がピンチなの!…………っ…shit!あの男はこんなときになにやってるのよ…!』
電話口から慌てた声が聞こえたけれど内容までは到底理解できなくて、くらくらする頭と悪寒の走る体を抱きかかえるようにその場に伏して、私はそのまま意識を飛ばした。あんなに聞きたくないと思った律の声が聞こえた気がした。
………ザァァァァ…ザァァァァ……
ー…ガチャ…キィ…ー
「…あれ、いるの?連絡したんだけど返事なかったからまだ仕事かなって。突然来てごめんね。今日この近くで仕事でさ。いきなりすんごい降りでさぁもうやんなっちゃう。とりあえず着替えさせてもらおうかな………って……思った…んだけど………」
今日は彼の家の近くで打ち合わせがあって、定時近くまであった仕事は、終わり次第直帰の予定だった。仕事は滞りなく終わり、打ち合わせ相手とも、「ここのコーヒーおいしいですね~、次の打ち合わせもここにしましょうか~」なんて話しながら、和やかに解散したのだ。その後突然のゲリラ豪雨に見舞われ、かつ私は傘を持っていなかったなんて、そんな不幸を除けばいつもの日常であったはずだった。
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だから今日もあまやどりさせてもらってあわよくば、今日は金曜日で、明日はお互い仕事が休みなんだし、そのまま泊まって、あぁこの前彼と一緒に買ったワインなんてあけちゃって、今日の雨にはびっくりしたね~なんて些細な日常の不幸を笑って、そんな一日になればいいなんて思っていたのは事実だった。
玄関には見慣れないヒールの高い靴と彼の質のいい革靴が水たまりをつくっていて、あぁ彼も同じこの雨の被害者だったかなんて過るほどには現実を受け入れていた。彼の家というこの場にそぐわない見知らぬ女の子が目を見開いて私を見つめていることも、その手には彼の品のいいワイシャツが握りこまれていることも、その後ろからはシャワーの音が鳴り響いている現実も、ひどく冷静に頭の裏の裏の引き出しにしっかりと保存されてしまった。
研ぎ澄まされた聴覚は閉まったはずの玄関扉の奥から聞こえる雨の音を拾って、その音は彼との思い出が詰まった記憶の引き出しを無作法に開けまくって、特に整理されていたわけでもない頭の中を静かに、そして激しくかき乱した。
ーガチャー
「どうしましたか?そんなとこで立ち止まって…っ!」
雨の音はクリアに拾う耳は、シャワの音が止まったことには気が付かなかったらしい。シャワールームからはほんのり顔を赤らめた彼が部屋着を纏って出てきた。ワイシャツをいまだに強く握りしめる彼女に声をかけ、その視線の先に私がいることを確認するや否や、今度は顔を青くしてこちらへやってくる。
「違います!あなたは今誤解している。弁解をさせてください」
何事も冷静に卒なくこなす彼がすごく慌てていることは情報として視覚から入手できたけれど、耳の方は相変わらず雨の音しか拾わなくて、赤くなったり青くなったり忙しないなぁとか、そんなに握りしめたらワイシャツにシワが寄るなぁとか、彼の着ている部屋着はこの前一緒に買い物に行ったときに買ったやつだねとか、あぁそうだその時に私の分もお揃いで買ったよね、など一気に頭の中を駆け巡った。彼はまだ真剣な表情で私に語りかけていて、あの、とりあえず着替えさせてほしい、だなんて言ったらさすがに場違いかなぁ、なんてことも考えていた。
「…っくしゅん!」
「…っ!とにかくあなたもそのままでは風邪をひきます。まずは体を温めて着替えてください。シャワーを使って、」
「……シャワー…?」
そうだ、彼はシャワーを浴びていた。そこの彼女は?ワイシャツに尚シワを寄せる彼女も浴びたのかな?
くしゃみが出たことで体中に冷たい戦慄が走った。いや正確にはくしゃみからじゃない、もっと前から、彼女が握りしめるワイシャツを視界に捉えたときから、私の体は、心は、寒さに震えていた。
「聞いていますか?まだ誤解しているでしょう。なんにせよまずは体を温めないと…っ!透!」
何かを言う彼に、あーうん、とか、わかった、とか、ありがとう、とか、またね、とか、いろいろ言って、気がついた頃には私はまたこの雨に身を任せていた。
そういえば、あのカフェで和やかに解散したあの人もこの雨の被害者になっていなければいいなぁなんて、ふと思いながら走った。こんな濡れネズミ、タクシーも電車も乗れっこないや、なんて思ったら笑えてきて、二駅先の自分の家までただひたすら雨に打たれた。
冷静沈着、慌てない騒がないがモットーな彼、横峯律は私の友人からも「大人オブ大人」の称号を得ており、「詳しくは知らないけど、きっとスパダリだよね!」だなんて影で言われている。きっとも何も、彼女の私から見ても彼は本物の「スパダリ」ってやつであるのだから、日々感謝の意を何度表しているか分からない。今度数えてみてもいいかもしれないな、なんてくだらないことを考えてしまう。
真面目で勤勉、部下に慕われ上司からも一目を置かれる、実績も常にトップで、何事も卒なくこなす、それはもうスーパーエリートマンである、らしい。仕事のことはあまり話さないけれど、不定休の私に合わせてたまに平日に有給をとってくれるときも、ひっきりなしにメールが入ってきているようで、よくチェックしているし、たまに書斎に籠もってしまう時もあるので、なかなかにして忙しい人なのだろうなと思う。
高身長高学歴高収入を見事物にしている彼が身につけるものはハイブランドのものばかりで、しかしそこにやらしさなどは感じさせず、紳士のオーラを滲み出させるばかりか、彼のために用意されたブランドなのではないかと、なぜイメージモデルをしていないのかと小一時間は悩めるほどには、洗礼された大人である。
そんな彼は家事も卒なく器用にこなす。毎日取替えられるシーツに、溜まることのない洗濯物。冷蔵庫の中には常に作り置きのタッパーが並んでいて、またそのどれもおいしい。几帳面さが滲み出る、散らかることを知らない部屋。まさに完璧を極めた男である。
対する私は、シーツをこの前洗ったのはいつかだなんて考えても無駄な記憶力しかないし、洗濯物をそううっかり溜めることなんてしばしば。ベランダで始めた家庭菜園は2日で根こそぎ枯らし、冷蔵庫には賞味期限切れの納豆が並んでいる。ちなみに萎びた野菜とか昭和の肉とかが出てきたりなんてことはしない。なぜなら冷凍庫はアイスの溜まり場だし、野菜室は使ってすらないのだから。
「彼氏が「大人オブ大人」であるなら、あんたは「ずぼらオブずぼら」ね」と笑ったのは私の幼稚園の頃からの親友で、いい得て妙なことを言うなと思ったし、仕事のネタになるなぁなんて呑気なことを考えていた。もしかしたらそんな呑気なことを言っていたからバチがあたったのかもしれない。
prrrrr…prrrrr…
電話の音に意識が浮上する。少し記憶が曖昧だがここは私の家で、どうやらなんとか帰ってこれたらしい。仕事柄体力が底辺の私は二駅分の距離を動いただけで、玄関で力尽きたようで、早くシャワーを浴びなければ、と考えて固まる。シャワーという言葉は今の私には禁句のようで、先程の光景が思い出されて心が痛みを感じる。
上気した頬と、ワイシャツを握りしめる彼女。彼女の訴えかける視線に隠された熱を知ってしまった私は、逃げるように去ることしかできなかったのだ。
また意識が遠のいて座り込みそうになるのを、未だ鳴り響く電話の音が阻止してくれる。
鞄の中のスマホに手をやって一つ深呼吸。
「…彼からでありませんように…」
意を決して見たスマホには、親友の名前が光っていた。ほっとして電話に出る。
「…もしもし…」
『っ!おそい!ずっとコールしてるのに、何してたのよ!死んでるんしゃないかって、心配したわよ』
「…あ、ごめんね。ちょっと出られなくて…」
『…?あんた何か声変よ?風邪引いてるの?』
「え、そんなことないと、思うけど」
『ふーん。まぁいいや。あたしさ、やっと明日1日休みとれたの。先週帰国してからずーっと働き詰めよ、やんなっちゃう!それで今日会えないかなって思って電話したんだけど、いい?…とりあえず雨も酷いし、あんたの家に向かってるから鍵あけといて』
「嬉しい。大丈夫だよ。私ももう家にいるから待ってるね、かぎあけと…、っ!」
立ち上がろうとしたその時、くらりと立ちくらんでしまった。その瞬間いきなり寒気が襲ってきた。
ガチャン…!
『…?透?大丈夫?なんの音?』
これは案外体調が良くないのかも知れないと自覚しただけで、人間の心は弱くなってしまうらしい。
「…、!ごめ、ん。ちょっと…だめ、かも…」
『…は?透?ちょっと、透?どうしたの?』
どんどん意識が遠のいて、電話の音が遠くなる。
『ちょっと!返事しなさいよ!透!…………、あんのばかっ!運転手さんちょっと急いで!親友がピンチなの!…………っ…shit!あの男はこんなときになにやってるのよ…!』
電話口から慌てた声が聞こえたけれど内容までは到底理解できなくて、くらくらする頭と悪寒の走る体を抱きかかえるようにその場に伏して、私はそのまま意識を飛ばした。あんなに聞きたくないと思った律の声が聞こえた気がした。
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