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【番外編】プリティなウサギ
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20**年○月☓日 PM12:10
都内某ビル7階
……ザワザワザワザワ……
「……なぁ律。そろそろじゃねーの?『春野徹』先生の記者会見」
「はい。お昼のニュースの後に始まります」
「あ、何一人テレビ繋いでんだよ!俺にも見せろ」
「ちょっと…狭いですよ、寄りすぎです」
「最新機種のくせにちっせー画面だな」
「今ある最大サイズのスマホに文句つけないでください」
「にしても、受賞から1ヶ月経っての記者会見って、えらく引っ張ったよなぁ」
「準備に手間取ったようですよ」
「?記者会見ってそんな準備することあるのか?」
「さぁ?私からはなんとも………始まりますよ」
同日 PM12:15
「………これでお昼のニュースを終わります。
引き続き、今年度〇〇賞受賞作品『パン屋の激動』の作者『春野徹』先生の記者会見をお送りいたします。フラッシュの強い光にご注意ください」
△△テレビ、第一スタジオ
………パシャッ……パシャパシャ………
穴「……はい。今年度〇〇賞受賞作品『パン屋の激動』の作者『春野徹』先生の記者会見を執り行いたいと思います。司会は△△テレビ、アナウンサーの穴田が担当いたします。さて、これから『春野徹』先生がご登壇なされますが、これより先、音声を変えてお送りいたしますのでご了承ください」
………ザワザワ…ザワザワ………
音声を変える?ってなんだ?
あれ?これ生放送だよな
………ザワザワ…ザワザワ………
穴「…先生がご到着なされたようです。ではご入場していただきましょう。『春野徹』先生です。拍手でお迎えください」
おおおおおおー!
パチパチパチパチ!!!
パシャッパシャパシャッパシャッパシャパシャパシャッ!!
パチパチパチパチパチ!、パチ…パチ………パチ…
ん?
んん?
穴「春野先生、はじめまして。△△テレビアナウンサーの穴田と申します。本日はよろしくお願いいたします」
春『はじめまして。春野徹です。よろしくお願いします』
………ザワザワ……ザワザワ………
うさぎだ
うさぎがいる
うさぎがしゃべってる
………ザワザワ……ザワザワ………
穴「この度は〇〇賞受賞、おめでとうございます」
春『ありがとうございます。皆さんに本をお手にとっていただいたおかげです』
穴「本来ならば、ここで受賞作品『パン屋の激動』について、お聞かせいただきたいところなのですが、記者の皆様も困惑されてカメラに収めることも忘れてしまうほどらしいので、まずは春野先生について、いくつかご質問させていただけたらと思います」
春『そうですね。私も記者会見は初めてですが、この異様な空気を払拭しなければならないという使命感は強く持っています』
穴「私も何度か記者会見のアナウンサーとして司会進行を務めてまいりましたが、こんなにも異様な空気を感じるのは初めてですね」
春『ですよねそうですよねこれが普通な訳ないですよね』
………ザワザワ……
うさぎが空気を気にしてしゃべってる
あんな格好して出てくる割には空気気にしてる
なんか若干参ってる感がある
と、とととりあえず写真取らなきゃっ
そ、そそそうだなっ
………パシャパシャ
穴「まず、『春野徹』先生といえば、新作発売日以降、夜通し本を読み続け寝不足になる読者が続出し、読了後の余韻から会社や学校を休んでしまう人も多く現れ、それにより経済が回らず暫くの間は株価も暴落してしまう程の衝撃を世の中に与えてしまう、経済改革大臣からも目をつけられているとされる、今をときめく作家であらせられますが、そのことはご本人である春野先生はご存知でしたか?」
春『聞き捨てならない言葉がいきなりたくさん降ってきて全く情報が整理できませんが、知らぬところで多大なご迷惑をおかけしてるみたいですね、すみません』
穴「ちなみに発売日は朝から書店前に並ぶ列が甚大ではなく、道路交通状況を著しく乱してしまうことから、先生の新作発売日を出版社が公表しないという暴挙に出たところ、それでも初版がわずか数時間で完売し重版が確定しましたが、初版を狙っていたのに買えなかったコアなマニアからクレームの電話が殺到したことで出版社の回線がパンクし、届いたメールとはがきはまるで呪詛の如く恨みつらみが書かれていたことから、出版社と書店で協議した結果、次号第6作にあたる『パン屋のケーキは甘い』より、金曜日の書店閉店後に特設レジにて購入する形がとられた、というある種伝説が起きたことも、ご存知でしたか?」
春『それちゃんと特別手当でてますよね?会社に言ってきっちり戴いてくださいね?なんかほんとすみません』
穴「今なお出版業界で語られるその事件、その名も『春野徹事変』が起きた時に発表された、先生の第5作目『春のパン屋は桜を愛する』は、先生にとって初めての映画化となり、新人俳優を起用した映画は興行収入歴代トップを誇り、またもや先生の名が世間に広まった素晴らしい作品でしたね」
春『ありがとうございます。……でもあまり褒められている気がしないのはなぜでしょうか』
穴「また、先生の第7作『秋のパン屋は木の実にときめく』は、続編のような位置づけになっており、近々ドラマ化を予定されているようですね」
春『書き手としては続編というつもりで書いた覚えはありません。ただ『秋のパン屋は木の実にときめく』は『春のパン屋は桜を愛する』と同じ時間軸、世界観を意識して書いたので、前作に出てきた主人公が今作は名前だけ出てきたり、前作で匂わせた事実が今作で解明されたりしています。なので続編のように感じられたのかもしれませんね。今回ありがたい事にドラマ化のお話を頂いたのも事実です。ひとえに皆様の応援のおかげだと理解しております。ドラマ化の詳しい情報は社に尋ねてください。書籍に関しても、どちらも手にとっていただければ幸いです』
穴「なるほど。私も個人的にどちらも拝読させていだきましたが、映画化ともなった前作から、より深い世界観で描かれていて、前作を知らなくても分かる内容ですが、知っていればより深く楽しめる作品となっていました。一ファンとして、ぜひ2冊共に読んでいただけるといいかと思いますが、くれぐれも経済活動を優先しつつでお願いします」
春『そうですね。全く知りませんでしたが、普段通りの日常生活を送りながら読んでいただけると嬉しいですね。ありがたいはずなのに胃が痛くなってきましたね』
穴「さて、ここまで数々の社会現象を巻き起こしてきた『春野徹』先生がこの度、ご自身の第8作目に値する『パン屋の激動』にて、映えある〇〇賞を受賞なされたことは、世間の人気に文学界が追いついてきた感覚を味わう出来事でありましたが、やはりそれ以上に、性別年齢不詳という謎のベールに包まれてきた春野先生が表舞台に出てくるということに、世間は歓喜に溢れました」
春『そんな大げさな』
穴「かくいう私も、アナウンサーであると同時に先生の一ファンでありますので、記者会見に当たるアナに抜擢されるよう、それはもう随分と汚い手を使ってこの場にいる限りであります」
春『それは言っちゃって大丈夫なやつですか?カメラ止めなくてもいい?』
穴「しかし、いざ打ち合わせが始まると、そこにはうさぎの着ぐるみ…またそれがプリティでキュートであったものですから、今ここにいる記者の方々同様、果てしない衝撃を得ました。まさか、春野先生とは、うさぎさんであったのかと」
春『うさぎさんではないんですけどね』
穴「あの時はあまりの衝撃によりお尋ねすることができず、アナウンサーとして失格でしたが、今日はとことんいくと決めて参りましたので、ずばり!お尋ねします!春野先生は、うさぎさんなのですか?」
春『うさぎさんではないんですけどね。その眩しい目を曇らせることは私もしたくありませんが、人間です』
穴「!!人間で、あらせられましたか」
おおおおおお!
人間だってよ
うさぎじゃないのか
素顔はうさぎでしたって社にメールしちゃったよ
穴「では、人間であらせられる春野先生が、プリティでキュートなうさぎさんに変身なされたのには、どのような経緯があったのか、お聞かせ願いますか?」
春『そうですね、この部分は割と序盤にとっとと済ましてしまいたかったお話でしたので、ここまで引っ張られて記者の方々以上に私も戸惑っているのですが。お答えするに、私の作品扱ってくださっているIU出版の意向と、私自身がプライベートを守りたいとする気持ちを抱き合わせた結果、うさぎさんになることが決まった次第でして』
穴「なるほど。さすがはベールに包まれた作家、プライベートを大切にされているのですね。ということは、そのうさぎさんは先生のご趣味、ということでしょうか?はっ!まさか次の作品にも影響してくるとか?!」
春『期待させて申し訳ありませんが私の趣味でもなければ次の作品にもいや次の次の作品にもこれから先ずっと影響してこないかと思われます。ちなみにこの着ぐるみの由来に関しては、企画制作担当のIU出版代表取締役と文芸部編集長に聞いていただければいいかと思いますよ。着ぐるみを着ることについて、結局最後まで心配していたの、私だけですからね』
穴「受賞会見にしては、受賞発表からだいぶ日を空けての今日を迎えておりますが、我々メディアは都合上準備期間と受け取っておりました。その間先生はどのようにお過ごしになられていましたか?」
春『これはもしや受賞における心情について問われていますか?正直、受賞速報が流れましたときは私も光栄な限りでありました。しかしその後すぐに事態は着ぐるみの企画制作に変わっていきましたので、出版社の方々にはもう少し、受賞したという情緒といいますか、大事にしていただけたらなと思っていました。今もどちらかと言うと、この記者会見後のことを考えるとどきどきして今すぐにでも帰りたい心境です。え、正直着ぐるみってありなんですか?なしですよね』
穴「なるほど…では、うさぎさん変身事件の謎も解けたところで、これより先の質問は記者の方々にお任せ願いたいと思います。それでは春野先生、今回受賞されました先生の最新作『パン屋の激動』について、お話いただけますでしょうか。ずばり、一言で作品を表すとすると?」
春『私の魂の問いかけは可憐にスルーなんですね。味方なんてどこにもいないっ!』
穴「なるほど!いい得て妙な表し方ですね!確かに最新作『パン屋の激動』に出てくるクロワッサンは、自分だけ異質な存在であることを自覚しつつも、運命の波には抗えず、まさに、味方なんてどこにもいない世の中を激動の渦に陥りながら渡り歩いていく、スリルある話でありました」
春『言いたいことは違ったんですけど、私の作品をそのようにロマンチックにまとめていただいてありがとうございます』
穴「では、これより先は記者の方々からの質問に移らせていただきます。先生、記者の皆さんよろしいでしょうか」
春『もうなんとでもなれですね。いつでもどうぞ』
同時刻
都内某ビル7階
「………おい、とおるさん、着ぐるみ越しでも伝わってくるほどだいぶ参ってるな。大丈夫か?」
「………この記者、なかなかいい着眼点で作品を読んでいますね」
「そこかよ!てゆかなんだこの着ぐるみ。記者会見でこれって、いいのか?」
「かわいいでしょう、あげませんよ」
「いらねーよ!!」
△△テレビ、第一スタジオ
穴「……さて、そろそろ会見終了のお時間がやって参りました。記者の皆さん、ここからは質問の方を簡単にまとめていただくよう、お願いいたします。………はい、〇〇テレビ、記田さん」
記「春野先生、この度は受賞おめでとうございます。〇〇テレビの記田です。今作『パン屋の激動』に出てきたカツサンドは、先生が書かれてきた今までの作品の中でも、異質なキャラ設定となっており、読者の中にも、「先生の作風が変わったが、私生活に何か変化があったのか」といった推察をされる声が多々ありました。カツサンドを手掛けたその時の心境と、また私生活の方での変化等がもしありましたら、教えていただけると幸いです」
春『そうですね。カツサンドというより『パン屋の激動』は、実は私が作家になる前から考えてきたネタでして。今回ようやく日の目を見ることになったので、ある意味7年前から温めてきた作品と言っても過言ではありません。そうするとやはり少し作風が古くなるというか、今までと違うテイストになったのは否めませんね。7年も前の、新人作家とも言えない昔のテイストが残った作品になっていますので、そう言った意味でも楽しんでいただければ、と思います。ちなみに私生活の方も激動の日々を送っていますが、お話することはありませんので、ご容赦ください』
穴「春野先生へのプライベートな質問はお断りいたしますので、記者の皆さんはご配慮の程よろしくお願いします。さて先生、会見もそろそろ終盤ですが、なんとここで、できたてほやほや最新作のお知らせがあるとか!」
春『はい。私の第9作目になる最新作を、来月にはお届けできることとなっております。ぜひお手にとっていただけたら幸いです』
穴「また経済改革大臣の心労が祟る時期になりますね。一読者として今から楽しみです!」
春『…社会現象の方は皆さんで協力してなんとか乗り切っていく方向で、お願いいたします…』
穴「とはいっても、大臣も先生の熱烈なファンのお一人だとうかがっていますので、いずれ対談など組まれると楽しいかもしれませんね。ね、記者の皆さん」
パチパチパチパチパチパチパチ!!!!!
春『せ、政治介入は認めません!』
穴「では、これをもちまして〇〇賞受賞『パン屋の激動』作者、『春野徹』先生の記者会見を終わります。先生、ありがとうございました。またお会いできる日を楽しみにしています」
春『こちらこそ、ありがとうございました。次お会いする機会があればもう少し優しいコメントをしていただけることを期待しています』
穴「では、放送はこれより切り替わりまして、お昼のワイドショー『とんでも!Q』をお送りします」
都内某ビル7階
………ザワザワ…ザワザワ………
「…なんか、まさに、激動の記者会見だったな…」
……ピロン………
「お?春野先生からか?」
「いえ、担当の織田くんからです」
「…お前、担当と連絡とってんのかよ…ちなみになんて?」
「…今晩は肉が食べたいそうです」
「おお~お疲れさんだな~」
「すみませんが、午後休暇をもらいます」
「え?」
「しまった。寿司だと思っていたのに。予想が外れました。肉を仕入れに行ってきます」
「は?どこまで」
「常陸牛を」
「い、今から茨城まで?!」
「失礼、急ぎますので」
「おま、午後の会議どうすんだよ」
「代役をたてます、正宗、よろしくお願いします」
「はあああああ?!いやむりだから!つーか部長になんて言うんだよ!そんな私的な理由!」
「『お話することはありませんので、ご容赦ください』と。では」
「え?あ、おい!…まじで行ったよあいつ…」
……ガチャ……
「…ただいま~…」
「おかえりなさい」
「律ぅ~、疲れたよ~」
「お疲れさまでした。受け答えも凛としていて、素敵でしたよ」
「えぇ~?見てたの~?照れるなぁ……あ、いい匂い~~!!お肉?!」
「ええ。常陸牛を」
「うわ~~!!用意してくれてたの?!うれし~!ありがとう!!」
「透のためならなんでも」
都内某ビル7階
……ザワザワザワザワ……
「……なぁ律。そろそろじゃねーの?『春野徹』先生の記者会見」
「はい。お昼のニュースの後に始まります」
「あ、何一人テレビ繋いでんだよ!俺にも見せろ」
「ちょっと…狭いですよ、寄りすぎです」
「最新機種のくせにちっせー画面だな」
「今ある最大サイズのスマホに文句つけないでください」
「にしても、受賞から1ヶ月経っての記者会見って、えらく引っ張ったよなぁ」
「準備に手間取ったようですよ」
「?記者会見ってそんな準備することあるのか?」
「さぁ?私からはなんとも………始まりますよ」
同日 PM12:15
「………これでお昼のニュースを終わります。
引き続き、今年度〇〇賞受賞作品『パン屋の激動』の作者『春野徹』先生の記者会見をお送りいたします。フラッシュの強い光にご注意ください」
△△テレビ、第一スタジオ
………パシャッ……パシャパシャ………
穴「……はい。今年度〇〇賞受賞作品『パン屋の激動』の作者『春野徹』先生の記者会見を執り行いたいと思います。司会は△△テレビ、アナウンサーの穴田が担当いたします。さて、これから『春野徹』先生がご登壇なされますが、これより先、音声を変えてお送りいたしますのでご了承ください」
………ザワザワ…ザワザワ………
音声を変える?ってなんだ?
あれ?これ生放送だよな
………ザワザワ…ザワザワ………
穴「…先生がご到着なされたようです。ではご入場していただきましょう。『春野徹』先生です。拍手でお迎えください」
おおおおおおー!
パチパチパチパチ!!!
パシャッパシャパシャッパシャッパシャパシャパシャッ!!
パチパチパチパチパチ!、パチ…パチ………パチ…
ん?
んん?
穴「春野先生、はじめまして。△△テレビアナウンサーの穴田と申します。本日はよろしくお願いいたします」
春『はじめまして。春野徹です。よろしくお願いします』
………ザワザワ……ザワザワ………
うさぎだ
うさぎがいる
うさぎがしゃべってる
………ザワザワ……ザワザワ………
穴「この度は〇〇賞受賞、おめでとうございます」
春『ありがとうございます。皆さんに本をお手にとっていただいたおかげです』
穴「本来ならば、ここで受賞作品『パン屋の激動』について、お聞かせいただきたいところなのですが、記者の皆様も困惑されてカメラに収めることも忘れてしまうほどらしいので、まずは春野先生について、いくつかご質問させていただけたらと思います」
春『そうですね。私も記者会見は初めてですが、この異様な空気を払拭しなければならないという使命感は強く持っています』
穴「私も何度か記者会見のアナウンサーとして司会進行を務めてまいりましたが、こんなにも異様な空気を感じるのは初めてですね」
春『ですよねそうですよねこれが普通な訳ないですよね』
………ザワザワ……
うさぎが空気を気にしてしゃべってる
あんな格好して出てくる割には空気気にしてる
なんか若干参ってる感がある
と、とととりあえず写真取らなきゃっ
そ、そそそうだなっ
………パシャパシャ
穴「まず、『春野徹』先生といえば、新作発売日以降、夜通し本を読み続け寝不足になる読者が続出し、読了後の余韻から会社や学校を休んでしまう人も多く現れ、それにより経済が回らず暫くの間は株価も暴落してしまう程の衝撃を世の中に与えてしまう、経済改革大臣からも目をつけられているとされる、今をときめく作家であらせられますが、そのことはご本人である春野先生はご存知でしたか?」
春『聞き捨てならない言葉がいきなりたくさん降ってきて全く情報が整理できませんが、知らぬところで多大なご迷惑をおかけしてるみたいですね、すみません』
穴「ちなみに発売日は朝から書店前に並ぶ列が甚大ではなく、道路交通状況を著しく乱してしまうことから、先生の新作発売日を出版社が公表しないという暴挙に出たところ、それでも初版がわずか数時間で完売し重版が確定しましたが、初版を狙っていたのに買えなかったコアなマニアからクレームの電話が殺到したことで出版社の回線がパンクし、届いたメールとはがきはまるで呪詛の如く恨みつらみが書かれていたことから、出版社と書店で協議した結果、次号第6作にあたる『パン屋のケーキは甘い』より、金曜日の書店閉店後に特設レジにて購入する形がとられた、というある種伝説が起きたことも、ご存知でしたか?」
春『それちゃんと特別手当でてますよね?会社に言ってきっちり戴いてくださいね?なんかほんとすみません』
穴「今なお出版業界で語られるその事件、その名も『春野徹事変』が起きた時に発表された、先生の第5作目『春のパン屋は桜を愛する』は、先生にとって初めての映画化となり、新人俳優を起用した映画は興行収入歴代トップを誇り、またもや先生の名が世間に広まった素晴らしい作品でしたね」
春『ありがとうございます。……でもあまり褒められている気がしないのはなぜでしょうか』
穴「また、先生の第7作『秋のパン屋は木の実にときめく』は、続編のような位置づけになっており、近々ドラマ化を予定されているようですね」
春『書き手としては続編というつもりで書いた覚えはありません。ただ『秋のパン屋は木の実にときめく』は『春のパン屋は桜を愛する』と同じ時間軸、世界観を意識して書いたので、前作に出てきた主人公が今作は名前だけ出てきたり、前作で匂わせた事実が今作で解明されたりしています。なので続編のように感じられたのかもしれませんね。今回ありがたい事にドラマ化のお話を頂いたのも事実です。ひとえに皆様の応援のおかげだと理解しております。ドラマ化の詳しい情報は社に尋ねてください。書籍に関しても、どちらも手にとっていただければ幸いです』
穴「なるほど。私も個人的にどちらも拝読させていだきましたが、映画化ともなった前作から、より深い世界観で描かれていて、前作を知らなくても分かる内容ですが、知っていればより深く楽しめる作品となっていました。一ファンとして、ぜひ2冊共に読んでいただけるといいかと思いますが、くれぐれも経済活動を優先しつつでお願いします」
春『そうですね。全く知りませんでしたが、普段通りの日常生活を送りながら読んでいただけると嬉しいですね。ありがたいはずなのに胃が痛くなってきましたね』
穴「さて、ここまで数々の社会現象を巻き起こしてきた『春野徹』先生がこの度、ご自身の第8作目に値する『パン屋の激動』にて、映えある〇〇賞を受賞なされたことは、世間の人気に文学界が追いついてきた感覚を味わう出来事でありましたが、やはりそれ以上に、性別年齢不詳という謎のベールに包まれてきた春野先生が表舞台に出てくるということに、世間は歓喜に溢れました」
春『そんな大げさな』
穴「かくいう私も、アナウンサーであると同時に先生の一ファンでありますので、記者会見に当たるアナに抜擢されるよう、それはもう随分と汚い手を使ってこの場にいる限りであります」
春『それは言っちゃって大丈夫なやつですか?カメラ止めなくてもいい?』
穴「しかし、いざ打ち合わせが始まると、そこにはうさぎの着ぐるみ…またそれがプリティでキュートであったものですから、今ここにいる記者の方々同様、果てしない衝撃を得ました。まさか、春野先生とは、うさぎさんであったのかと」
春『うさぎさんではないんですけどね』
穴「あの時はあまりの衝撃によりお尋ねすることができず、アナウンサーとして失格でしたが、今日はとことんいくと決めて参りましたので、ずばり!お尋ねします!春野先生は、うさぎさんなのですか?」
春『うさぎさんではないんですけどね。その眩しい目を曇らせることは私もしたくありませんが、人間です』
穴「!!人間で、あらせられましたか」
おおおおおお!
人間だってよ
うさぎじゃないのか
素顔はうさぎでしたって社にメールしちゃったよ
穴「では、人間であらせられる春野先生が、プリティでキュートなうさぎさんに変身なされたのには、どのような経緯があったのか、お聞かせ願いますか?」
春『そうですね、この部分は割と序盤にとっとと済ましてしまいたかったお話でしたので、ここまで引っ張られて記者の方々以上に私も戸惑っているのですが。お答えするに、私の作品扱ってくださっているIU出版の意向と、私自身がプライベートを守りたいとする気持ちを抱き合わせた結果、うさぎさんになることが決まった次第でして』
穴「なるほど。さすがはベールに包まれた作家、プライベートを大切にされているのですね。ということは、そのうさぎさんは先生のご趣味、ということでしょうか?はっ!まさか次の作品にも影響してくるとか?!」
春『期待させて申し訳ありませんが私の趣味でもなければ次の作品にもいや次の次の作品にもこれから先ずっと影響してこないかと思われます。ちなみにこの着ぐるみの由来に関しては、企画制作担当のIU出版代表取締役と文芸部編集長に聞いていただければいいかと思いますよ。着ぐるみを着ることについて、結局最後まで心配していたの、私だけですからね』
穴「受賞会見にしては、受賞発表からだいぶ日を空けての今日を迎えておりますが、我々メディアは都合上準備期間と受け取っておりました。その間先生はどのようにお過ごしになられていましたか?」
春『これはもしや受賞における心情について問われていますか?正直、受賞速報が流れましたときは私も光栄な限りでありました。しかしその後すぐに事態は着ぐるみの企画制作に変わっていきましたので、出版社の方々にはもう少し、受賞したという情緒といいますか、大事にしていただけたらなと思っていました。今もどちらかと言うと、この記者会見後のことを考えるとどきどきして今すぐにでも帰りたい心境です。え、正直着ぐるみってありなんですか?なしですよね』
穴「なるほど…では、うさぎさん変身事件の謎も解けたところで、これより先の質問は記者の方々にお任せ願いたいと思います。それでは春野先生、今回受賞されました先生の最新作『パン屋の激動』について、お話いただけますでしょうか。ずばり、一言で作品を表すとすると?」
春『私の魂の問いかけは可憐にスルーなんですね。味方なんてどこにもいないっ!』
穴「なるほど!いい得て妙な表し方ですね!確かに最新作『パン屋の激動』に出てくるクロワッサンは、自分だけ異質な存在であることを自覚しつつも、運命の波には抗えず、まさに、味方なんてどこにもいない世の中を激動の渦に陥りながら渡り歩いていく、スリルある話でありました」
春『言いたいことは違ったんですけど、私の作品をそのようにロマンチックにまとめていただいてありがとうございます』
穴「では、これより先は記者の方々からの質問に移らせていただきます。先生、記者の皆さんよろしいでしょうか」
春『もうなんとでもなれですね。いつでもどうぞ』
同時刻
都内某ビル7階
「………おい、とおるさん、着ぐるみ越しでも伝わってくるほどだいぶ参ってるな。大丈夫か?」
「………この記者、なかなかいい着眼点で作品を読んでいますね」
「そこかよ!てゆかなんだこの着ぐるみ。記者会見でこれって、いいのか?」
「かわいいでしょう、あげませんよ」
「いらねーよ!!」
△△テレビ、第一スタジオ
穴「……さて、そろそろ会見終了のお時間がやって参りました。記者の皆さん、ここからは質問の方を簡単にまとめていただくよう、お願いいたします。………はい、〇〇テレビ、記田さん」
記「春野先生、この度は受賞おめでとうございます。〇〇テレビの記田です。今作『パン屋の激動』に出てきたカツサンドは、先生が書かれてきた今までの作品の中でも、異質なキャラ設定となっており、読者の中にも、「先生の作風が変わったが、私生活に何か変化があったのか」といった推察をされる声が多々ありました。カツサンドを手掛けたその時の心境と、また私生活の方での変化等がもしありましたら、教えていただけると幸いです」
春『そうですね。カツサンドというより『パン屋の激動』は、実は私が作家になる前から考えてきたネタでして。今回ようやく日の目を見ることになったので、ある意味7年前から温めてきた作品と言っても過言ではありません。そうするとやはり少し作風が古くなるというか、今までと違うテイストになったのは否めませんね。7年も前の、新人作家とも言えない昔のテイストが残った作品になっていますので、そう言った意味でも楽しんでいただければ、と思います。ちなみに私生活の方も激動の日々を送っていますが、お話することはありませんので、ご容赦ください』
穴「春野先生へのプライベートな質問はお断りいたしますので、記者の皆さんはご配慮の程よろしくお願いします。さて先生、会見もそろそろ終盤ですが、なんとここで、できたてほやほや最新作のお知らせがあるとか!」
春『はい。私の第9作目になる最新作を、来月にはお届けできることとなっております。ぜひお手にとっていただけたら幸いです』
穴「また経済改革大臣の心労が祟る時期になりますね。一読者として今から楽しみです!」
春『…社会現象の方は皆さんで協力してなんとか乗り切っていく方向で、お願いいたします…』
穴「とはいっても、大臣も先生の熱烈なファンのお一人だとうかがっていますので、いずれ対談など組まれると楽しいかもしれませんね。ね、記者の皆さん」
パチパチパチパチパチパチパチ!!!!!
春『せ、政治介入は認めません!』
穴「では、これをもちまして〇〇賞受賞『パン屋の激動』作者、『春野徹』先生の記者会見を終わります。先生、ありがとうございました。またお会いできる日を楽しみにしています」
春『こちらこそ、ありがとうございました。次お会いする機会があればもう少し優しいコメントをしていただけることを期待しています』
穴「では、放送はこれより切り替わりまして、お昼のワイドショー『とんでも!Q』をお送りします」
都内某ビル7階
………ザワザワ…ザワザワ………
「…なんか、まさに、激動の記者会見だったな…」
……ピロン………
「お?春野先生からか?」
「いえ、担当の織田くんからです」
「…お前、担当と連絡とってんのかよ…ちなみになんて?」
「…今晩は肉が食べたいそうです」
「おお~お疲れさんだな~」
「すみませんが、午後休暇をもらいます」
「え?」
「しまった。寿司だと思っていたのに。予想が外れました。肉を仕入れに行ってきます」
「は?どこまで」
「常陸牛を」
「い、今から茨城まで?!」
「失礼、急ぎますので」
「おま、午後の会議どうすんだよ」
「代役をたてます、正宗、よろしくお願いします」
「はあああああ?!いやむりだから!つーか部長になんて言うんだよ!そんな私的な理由!」
「『お話することはありませんので、ご容赦ください』と。では」
「え?あ、おい!…まじで行ったよあいつ…」
……ガチャ……
「…ただいま~…」
「おかえりなさい」
「律ぅ~、疲れたよ~」
「お疲れさまでした。受け答えも凛としていて、素敵でしたよ」
「えぇ~?見てたの~?照れるなぁ……あ、いい匂い~~!!お肉?!」
「ええ。常陸牛を」
「うわ~~!!用意してくれてたの?!うれし~!ありがとう!!」
「透のためならなんでも」
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