うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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BIG SHIO 1

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今日の千葉の海は異様な静けさと殺気を漂わせていた。

赤い水中用蟲王スーツを身に纏い潜行を始めた江月は、すぐにこの異変を察知。甲殻のような装甲の上にさらに纏っている粘液を増量し、警戒レベルを上昇。粘液は自在に変形し、武器とも盾ともなる異能を発揮することができる。
 
だがそれでも不安は拭えない。何かが違う。おかしな違和感が続く。微細な海流の変化も、音の歪みも、すべてが異常に感じられた。
 
(なんだ今日は、まるで海がダンジョンのように魔力が濃いぞ…)
 
そこで潜行を中止すると、船に戻ることに決めた。日を改めよう。君子危うきにステイアウェイ。ここで引き際を間違えてはいけない。
 
だがそう浮上を開始するとほぼ同時に、海の底から無数の怪しいうねりが押し寄せてきた。
 
姿をみせたのは口の裂けた老婆のような顔を持つモンスター怪魚。襲ってくる時は基本猛っているが、今日は何時にも増して猛り狂っている。だというのにすぐさま襲いかかっては来ず、通り過ぎると鮫のように周囲をとり囲んで回りはじめる。

(なッ…!?)
 
これでは船に戻れない。このまま浮上してしまっては漁船まで襲われ沈められてしまう。しかしそれだけでも厄介なのに、そこからさらに巨大な影が海中の暗闇から浮かび上がった。
 
それは背丈がビルの三階分はあろうかという巨大で魚風味な異形の女。胴体が銀色をしたリュウグウノツカイなのは他のモンスター怪魚と変わらぬが、不気味にも胸から上が人の形をしている。
 
(もしや濡れ女!?それもボス級かッ!!)
 
デカくて黒い長髪をこうも気持ち悪く波に揺らめかせている相手を人魚とは思いたくない。人+魚で人魚と呼べなくもないが、目はカレイかヒラメのようなやや突き出た魚眼で顎はチョウチンアンコウ。一番妥当な線で分類するならば、やはり妖怪の濡れ女。
 
周囲のモンスター怪魚の群れは濡れ女に従うように、ぐるぐると泳いでいる。鋭いヒレと牙を持つ怪魚たちのポテンシャルも、かなり上昇している様子。下位を従えその能力を上昇させる特徴からも、ボス級に違いない。
 
スーツの背面に装備した増設アームを展開し水中戦モードに移行。甲殻各部にあるフィンを伸ばし、左脚部も展開しレッドスライムによるハイドロジェット推進もオン。そして左腕に装着した盾鋏を構え、右手にミスリル靴箆を握ると魔力を注ぎ高周波震動させる。
 

――戦闘開始。
 
まずは囲みを破る為モンスター怪魚の群れに飛び込むと、増設アームを突き刺すように繰り出す。だかこれは容易く躱されてしまう。水中ではレッドスライムによるハイドロジェット推進を駆使しても、やはり動きは劣ってしまう。完全に補足されている状態なら、それもなおさらのこと。
 
怪魚たちはその攻撃で隙が出来たとばかりに背後から襲い掛かる。敵に晒された無防備なスーツの背面へと。
 
(岩塩剣山ッ!)
 
しかしそこで岩塩が急激に成長。ハリネズミの不如く鋭く無数に伸びる。それが背に迫っていた怪魚の頭に突き刺さり、水流を赤く染め掻き乱す。空かさず振り向きざまのミスリル靴箆で頭を半ばまで切り裂く。高周波で噴出した気泡に軌跡を描かせ、さらに近づく端から切り刻む。だが倒しきるまでには至らず、思ったほど数が減らない。
 
(こいつら…!)


30秒ほどの間に4~50は攻撃を加えた。が、倒せたのは2か3。対してコチラはそれだけで増設アームが馬鹿になり、咬みつかれた事で甲殻を貫く傷を何か所も受けた。
 
そこへ濡れ女が迫ると長い腕が水をかき、津波のような一撃を生む。その水撃に襲われ上下も分からぬ状態になったところで、さらに硬い壁に叩きつけられた。
 
(ぐっ…ぬぉおおっ!)
 
激突の衝撃で巨大赤蠍製の増加装甲がビシリと嫌な音を立てる。壁かと思われたのは濡れ女の長大な尾。水の重みとの間で擦られ続け、セイゴに当たる部分でさらに装甲を削られた。
 
このままではジリ貧だ――。
 
吹き飛ばされる波に揉みくちゃにされながら胸に手を当てる。ここには大事にとっておいた切り札が眠っている。いまが使い時か。
 
(…ッ…ッッ…!)
 
そう思うと、塩太郎の方から意識に語りかけてきた。このピンチに際し、自ら立つことを選んでくれたのだ。
 
(ッ!出てくれるのか塩太郎!よし、ならば今こそキミをこの大いなる名で呼ぼう……!)
 
気力を高め魔力を練り上げると、それを魂の繋がりで塩太郎へと注ぎ込み高らかに名を叫ぶ。


「ビッグ塩ォォー!ショウタイム!!」

 
すると胸から生えた塩太郎はメキメキと大きさを増し、立場が逆転するとその精神の中へと吸い込まれていったのだった。
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