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ダンジョンインパクト
しおりを挟む柄にもなく日記をつけようと思う。
いや…、これは記録というべきか。ともかくオレが体験し見聞したことを、ノートに書き残しておこうと考えている。
まず、オレはしがないサラリーマン。仕事は肉体労働と事務仕事半々くらい。それ故にゴリゴリのガテン系って訳でもなく、どちらかといえば見た目はヒョロくてオタな一般人。
そんなオレが日記をつけようと思い立ったのは、うちの冷蔵庫がおかしくなったから。
うん、といっても冷えなくなったとか故障したとか、そういう理由ではない。なんと、突如として冷蔵庫の中が真っ黒になってしまったのだ。
これはバカや頭のおかしい奴と思われない為にも、もう少し詳しく説明しよう。
今日、いつものように借りているアパートに仕事場から帰宅した。で、発泡酒でも飲もうかと冷蔵庫を開けたのだが、中が真っ黒だったのだ。むぅ…意味が解らない。うちにあるのは2ドアタイプの小さな古びた冷蔵庫。上が冷凍庫で下が冷蔵庫の…まぁどこにでもあるヤツ。
冷静にいったん冷蔵庫のドアを閉めて、冷凍庫の方を開けてみる。と、こちらはいつもと変わりない。しかしもう一度冷蔵庫側のドアを開けてみると、やっぱり真っ黒。それはもう墨のように真っ黒だ。
そこでこの怪奇現象の謎を究明するべく、手近にあったティッシュペーパーの箱を手に取った。そしてその箱で墨の様な冷蔵庫の中の真っ黒に触れてみる。
『とぷり…』
「…ッ!」
冷蔵庫の中の真っ黒は、ティッシュペーパーの箱が触れるとまるで水面のように波紋を描いて揺れた。驚いた…。暗闇のようになんの抵抗もなくスッと箱が差しこまれると思っていたら、まったく思いもよらぬ反応だ。
それからはティッシュペーパーの箱以外にも様々なモノで冷蔵庫の中の真っ黒に触れてみる。
ボールペン、ハサミ、爪切り、爪楊枝、目に付くモノを次々試してみる。が、結果は同様。とぷりと真っ黒が水面のような波紋を描いて揺れるのみ…。
それでは最後にと、玄関にあったビニール傘を冷蔵庫の中の真っ黒に挿し込んでみると…。
「んな…ッ!?」
ビニール傘は明らかに冷蔵庫の厚みを無視して真っ黒に挿し込まれた。本来ならば突き抜けている長さなのに…。驚きつつもしばらく搔き回してビニール傘を取り出してみるが、ビニール傘にも冷蔵庫側にもなんの変化も見られない。
「むむぅ…」
唸りしか出てこない。これは…アレだろうか。
最近世間を騒がせている、謎の連続ダンジョン発生事件。この科学文明の発達した地球になぜかファンタジー感溢れる雰囲気のモンスターが跋扈するダンジョンがあちこちに出現しているという。
テレビやネットのニュースでは、終始その話でもちきりだ。
政府はこの現象を、特異迷宮の出現やら中にいる化け物のことを特異外来種などと呼称。が、それらがゲームのモチーフになるような神話や伝説で語られる存在と非常に酷似していた為に全く馴染まず、普通にダンジョンやモンスターと呼ばれることの方が多い。
で、そのせいでオレも交通渋滞に巻き込まれたり得意先にも支障が出たりと迷惑を被っていたわけだが。
しかしそんなダンジョンが、まさかオレの借りているアパートの部屋の小さな古びた2ドア冷蔵庫を出現場所としてしまったということなのだろうか…??
だが、まだ断言はできない。なんらかの異常現象には違いないが、まだうちの冷蔵庫がダンジョンだと決まったわけではない。
「よし、じゃあ指で触ったらいったいどうなるんだ…?」
勇気を持って、初めての真っ黒タッチ。
しかし直前で怖くなり何度も引っ込めるという無駄なムーブを数度繰り返した後、ようやく冷蔵庫の真っ黒に手で触れてみた。
『とぷり…』
よかった。うん…大丈夫。戻した指先を確認してもなんの痛みもないし、皮膚が焼けたり爛れたりもしていない。
「ならば…」
ではと意を決し、冷蔵庫の中の真っ暗に頭を突っ込んでみる。
すると…世界は青く輝いていた。
青白く光る天井。大きな石を煉瓦状に組んだ青い壁と床。そして頬に感じるのはかすかな冷気。だが冷蔵庫に頭を突っ込んでいるからというわけではなさそうだ。
それはまさに、テレビで公開されていたダンジョンの中の様子と非常に酷似していた。
「まさか…本当に…??」
思わず口から洩れた声が、反響したように耳にかえってくる。首を巡らして周囲を見渡すと、そこは学校の教室2つ分くらいはある広い部屋。天井も高く3メートル以上はあるだろう。そしてオレの正面に見える壁には、錆びて古めかしい鉄扉が据えられていた。
ダンジョンだ!ホントにホントにホントにホントにダンジョンだ!!
どうしよう!?興奮と緊張と動揺が綯い交ぜになった状態で、頭を冷蔵庫から抜いた。するといつもの明るい蛍光灯の光と、嗅ぎ慣れた自分の部屋の匂いがオレを迎えてくれた。うむむ、やっぱりここはオレの部屋で、どういうわけか冷蔵庫だけがダンジョンと繋がってしまったようだ。
「ハハハ…」
気持ちを落ち着かせる為に、何か言葉を紡いでみようかとしてみたが、口から出たのは何とも情けない乾いた笑いだけだった。
まさか、そんな。うちの冷蔵庫がダンジョンになるなんて…!
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