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戸惑いと計画立案
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10分後、気持ちを落ち着かせるために一度アパートを出ることにした。
夜風にでも当たって、頭を冷やそうと考えたのだ。そうだ、それがいい。ついでに少し歩いて、遅くまでやっているスーパーで夕飯を買おう。今日は冷蔵庫内の余りモノで自炊して済まそうとしていたのに、冷蔵庫があんな状態ではどう取り出していいのかすら見当もつかない。
スーパーでは見切り品のシールの貼られた弁当と、飲みたかった発泡酒を買い帰路に着く。でもレジでおつりの小銭を取りこぼしてしまうなど、いまだ部屋にダンジョンがあるという動揺から回復できていないせいだろう。
「ふぅ…。こんな時こそ冷静にならねば…」
そう反省しつつ視線を足元からあげると、ふと近くのゴミ捨て場が視界に入った。そしてそこに捨てられていた少年野球用の木製バットに、なんとなく目が吸い寄せられた。
そこでゆっくりとゴミ捨て場に近づき、木製バットを手に取ってみる。
自宅にダンジョンが出来たという危機感からか、自然と身を守る武器を手に入れようという意識が働いたのだろうか。手にした木製バットは子供用なので小さく、大人が棍棒のように片手で振るには丁度良いサイズ。
しかもまだ表面に塗られているニスもしっかりと残っていて、太字のマジックでカツオと名前が書かれていた。ふぅむ、これはきっとカツオくんが成長したことで身体に合わなくなり、お役御免になって捨てられたのだろう。ならこのバットは、オレが身を守るためにありがたく使わせてもらおうかな。
こういう拾ったモノを盗む行為を、占有離脱物横領罪(せんゆうりだつぶつおうりょうざい)というらしい。もちろん犯罪だ。でも、うちの冷蔵庫からはいつモンスターが溢れ出してくるかもしれないのだ。捨ててあるモノ拾っちゃう悪い大人という自覚はあるので、どうかこれくらいは勘弁してほしい。
……。
そして、自宅にダンジョンがあるという落ち着かない日々を過ごし、遂に休日がやってきた。
その間、冷蔵庫はガムテームでグルグル巻きにしたうえ、扉面を壁側にして決して開かぬよう封印しておいた。念の為だ。だがその一方で、冷蔵庫の電源は抜かずにそのままにしている。
うん、つまりなんだかんだ危険を感じつつも、電源を抜いたりしてダンジョンが消えてしまっては面白くないと考えているのだ。
だってそうだろう。
冷蔵庫のダンジョンの事はオレしか知らないし、現状ではオレだけが利用できる。つまり貸し切り、独り占め状態だ。
ニュースではくれぐれも出現したダンジョンには立ち入らない様にと呼びかけている。が、それを真面目に聞く殊勝な国民は少ないらしく、毎日ダンジョンに誰かしらが入っては行方不明者になったというニュースが報じられている。
それにはダンジョンが持つ魔性が関係している。
ダンジョンに立ち入り生還した者が興奮して話した内容では、ダンジョンでモンスターを倒すと強くなれるらしい。それも倒せば倒した分だけ…。そんなのはまさにゲームの世界。さらにその強さは肉体にも様々な変化をもたらしてくれるらしく、視力が回復したり若返ったりとその恩恵が半端ない。
オレも裸眼視力が低く乱視もある為、メガネを使用している。だから思ってしまう。この煩わしさから解放されるだけでも、ダンジョンに潜る価値はあるんじゃないかと。
国もやっとこ重い腰を上げて規制に乗り出しているが、目立つ場所に発生したダンジョンを封鎖する以外には、これといった対策を打ち出せていないのが現状。
だが、オレは大人だ。
ゲーオタやアニオタではあっても、中二病を患った今時の中高生ではないのだ。故にダンジョン攻略には冷静かつ計画的に臨もうと思う。そう考えていくと、まずそのプロジェクトをどの程度の規模で行なっていくかのシミュレーションをしなければならないだろう。そう、つまりは個人で挑むのか?それとも多人数で挑むのか?だ。
しかしここで問題がある。
そもそもの問題として、オレには友達が少ない。そしてその数少ない友人たちもまた、同様にオタク。つまりいきなりダンジョンに連れて行っても、その戦闘能力の低さゆえに生還できない恐れが多分にあるのだ。これは冗談ではなく、ニュースで連日報じられていること。
友人なので部屋にダンジョンがあるという秘密については、ある程度守ってはくれるだろう。が、それもまあ完璧とまでは言い切れない。そう考えていくと、ダンジョン攻略プロジェクトをまずは自分ひとりの力で行なっていく必要があるだろうと結論付けた。
それに先に進めて余裕ができたなら、友人たちを指導する形でダンジョンに入れるのもアリだ。その時にオレがめっぽう強くなっていれば、友人たちのことも守れるし言う事にも従ってもらえるだろう。
「ふむ、そうだな。まずはソロでダンジョン攻略を始める…と」
用意したノートに計画を書き記していく。
「では、次はダンジョンに潜る為の装備について…と」
装備についてはある程度の当てがある。
先日拾ったカツオくんのバットもそうだが、オレはバイクにも乗っている。それは400ccの中型バイク。だからヘルメットや革のグローブとブーツ。それにプロテクターを内包できるライダージャケットなどが、ダンジョンに潜る時の防具として利用できる。
無論それだけでは不十分だろうから、その他にも防具や武器は買い足す必要があるだろう。ともあれなにを買い足すにしろ、一度ダンジョンのなかの様子を調べておくべきか。それによって買い足したいモノも変わってくるかもしれない。
「よし、まずはダンジョンの調査!それから買い出しだ!」
ノートを閉じると早速ダンジョンへと潜るべく、オレは準備を始めるのだった。
夜風にでも当たって、頭を冷やそうと考えたのだ。そうだ、それがいい。ついでに少し歩いて、遅くまでやっているスーパーで夕飯を買おう。今日は冷蔵庫内の余りモノで自炊して済まそうとしていたのに、冷蔵庫があんな状態ではどう取り出していいのかすら見当もつかない。
スーパーでは見切り品のシールの貼られた弁当と、飲みたかった発泡酒を買い帰路に着く。でもレジでおつりの小銭を取りこぼしてしまうなど、いまだ部屋にダンジョンがあるという動揺から回復できていないせいだろう。
「ふぅ…。こんな時こそ冷静にならねば…」
そう反省しつつ視線を足元からあげると、ふと近くのゴミ捨て場が視界に入った。そしてそこに捨てられていた少年野球用の木製バットに、なんとなく目が吸い寄せられた。
そこでゆっくりとゴミ捨て場に近づき、木製バットを手に取ってみる。
自宅にダンジョンが出来たという危機感からか、自然と身を守る武器を手に入れようという意識が働いたのだろうか。手にした木製バットは子供用なので小さく、大人が棍棒のように片手で振るには丁度良いサイズ。
しかもまだ表面に塗られているニスもしっかりと残っていて、太字のマジックでカツオと名前が書かれていた。ふぅむ、これはきっとカツオくんが成長したことで身体に合わなくなり、お役御免になって捨てられたのだろう。ならこのバットは、オレが身を守るためにありがたく使わせてもらおうかな。
こういう拾ったモノを盗む行為を、占有離脱物横領罪(せんゆうりだつぶつおうりょうざい)というらしい。もちろん犯罪だ。でも、うちの冷蔵庫からはいつモンスターが溢れ出してくるかもしれないのだ。捨ててあるモノ拾っちゃう悪い大人という自覚はあるので、どうかこれくらいは勘弁してほしい。
……。
そして、自宅にダンジョンがあるという落ち着かない日々を過ごし、遂に休日がやってきた。
その間、冷蔵庫はガムテームでグルグル巻きにしたうえ、扉面を壁側にして決して開かぬよう封印しておいた。念の為だ。だがその一方で、冷蔵庫の電源は抜かずにそのままにしている。
うん、つまりなんだかんだ危険を感じつつも、電源を抜いたりしてダンジョンが消えてしまっては面白くないと考えているのだ。
だってそうだろう。
冷蔵庫のダンジョンの事はオレしか知らないし、現状ではオレだけが利用できる。つまり貸し切り、独り占め状態だ。
ニュースではくれぐれも出現したダンジョンには立ち入らない様にと呼びかけている。が、それを真面目に聞く殊勝な国民は少ないらしく、毎日ダンジョンに誰かしらが入っては行方不明者になったというニュースが報じられている。
それにはダンジョンが持つ魔性が関係している。
ダンジョンに立ち入り生還した者が興奮して話した内容では、ダンジョンでモンスターを倒すと強くなれるらしい。それも倒せば倒した分だけ…。そんなのはまさにゲームの世界。さらにその強さは肉体にも様々な変化をもたらしてくれるらしく、視力が回復したり若返ったりとその恩恵が半端ない。
オレも裸眼視力が低く乱視もある為、メガネを使用している。だから思ってしまう。この煩わしさから解放されるだけでも、ダンジョンに潜る価値はあるんじゃないかと。
国もやっとこ重い腰を上げて規制に乗り出しているが、目立つ場所に発生したダンジョンを封鎖する以外には、これといった対策を打ち出せていないのが現状。
だが、オレは大人だ。
ゲーオタやアニオタではあっても、中二病を患った今時の中高生ではないのだ。故にダンジョン攻略には冷静かつ計画的に臨もうと思う。そう考えていくと、まずそのプロジェクトをどの程度の規模で行なっていくかのシミュレーションをしなければならないだろう。そう、つまりは個人で挑むのか?それとも多人数で挑むのか?だ。
しかしここで問題がある。
そもそもの問題として、オレには友達が少ない。そしてその数少ない友人たちもまた、同様にオタク。つまりいきなりダンジョンに連れて行っても、その戦闘能力の低さゆえに生還できない恐れが多分にあるのだ。これは冗談ではなく、ニュースで連日報じられていること。
友人なので部屋にダンジョンがあるという秘密については、ある程度守ってはくれるだろう。が、それもまあ完璧とまでは言い切れない。そう考えていくと、ダンジョン攻略プロジェクトをまずは自分ひとりの力で行なっていく必要があるだろうと結論付けた。
それに先に進めて余裕ができたなら、友人たちを指導する形でダンジョンに入れるのもアリだ。その時にオレがめっぽう強くなっていれば、友人たちのことも守れるし言う事にも従ってもらえるだろう。
「ふむ、そうだな。まずはソロでダンジョン攻略を始める…と」
用意したノートに計画を書き記していく。
「では、次はダンジョンに潜る為の装備について…と」
装備についてはある程度の当てがある。
先日拾ったカツオくんのバットもそうだが、オレはバイクにも乗っている。それは400ccの中型バイク。だからヘルメットや革のグローブとブーツ。それにプロテクターを内包できるライダージャケットなどが、ダンジョンに潜る時の防具として利用できる。
無論それだけでは不十分だろうから、その他にも防具や武器は買い足す必要があるだろう。ともあれなにを買い足すにしろ、一度ダンジョンのなかの様子を調べておくべきか。それによって買い足したいモノも変わってくるかもしれない。
「よし、まずはダンジョンの調査!それから買い出しだ!」
ノートを閉じると早速ダンジョンへと潜るべく、オレは準備を始めるのだった。
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