うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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指導をおねがいされる

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今日も瀬来さんをダンジョンで鍛えるため、バイクを走らせたオレ。しかし到着した先にはなぜか三人の女性が待ち構えているという罠が張り巡らされていたのだった。な…なんだと!?

ともかく近くのファミレスに入り三人から事情を聴くことに。なにせ内気なオタがいきなり三人ものうら若い女性を相手にするなど、無謀すぎる。

では、まずは瀬来さんから事情聴取。



「先週すごくステータスの上りが良かったから嬉しくってぇ、江月さんの話を友達にしたら興味あるって言うから連れてきましたぁ」
「いや、あの瀬来さん?秘密って、約束したよね?」

「あ、だから江月さんから教えてもらった内容は、話してませんよぉ。ちゃんと秘密にしてます。私が教えたのは、コーチしてもらってすごく良かった!っていう事だけです」

うむむ…、そんな風に朗らかに説明する瀬来さんには、おまえは一休さんかと言いたい。

「できたら私たち、女の子だけでパーティー組みたいんです!だから江月さん、おねがいします!」

釈然としない表情を浮かべていたら、申し訳なさそうなシワを顔に寄せた瀬来さんに手を合わせて拝まれた。

「「おねがいします」」

合わせてふたりの女性も頭を下げる。ていうか4人のテーブル席なのに、三人ともそっちに並んで座ることないじゃん。こっちの席オレひとりだけって、ちょっと傷つくわ。

でもまぁ、瀬来さんの目的は解った。友人もオレに鍛えてもらい、ゆくゆくは三人でパーティーを組んでダンジョンに潜りたいと。

「解ったよ。じゃあ初対面のふたりには、簡単に自己紹介をお願いしようかな」

ともあれ瀬来さんの強引な申し出をひとまず承諾。

ここでイヤですといってもただ空気悪くなるだけだし。それにもし断ったりしたら、瀬来さんがオレの知らない場所でふたりをダンジョンに連れて行き、後から大怪我しましたなんて聞いたら寝覚めが悪い。ならここは、三人纏めて面倒見たほうが一番いいだろう。

「じゃあ、ルウからいこうか?」

中央に座った瀬来さんが、自分の左手に座っている小柄な女の子を促す。



「はい…糧品瑠羽(かてしな るう)と言います。万智ちゃんと同じ大学生です」
『ガタッ!』

「え!?」
「あ…、いや。なんでもない。よろしく糧品さん」

「はい、よろしくおねがいします」

オレは糧品(かてしな)という苗字を聞いた途端、なぜか無性に「おかしいですよ!カテシナさぁん!!」と叫びたくなってしまった。が、糧品さんはいたって普通の真面目そうな女の子なので、目の前に座った屈強な男性から突然そんな事を言われたらビックリして泣き出してしまうかもしれない。

なので鋼の意志でその衝動を抑制した。

「あは、ルウって珍しい名前だよね。瑠璃(るり)のルに羽って書いてウって読むんだよ。江月さんも驚いた?」
「やめてよもぅ~、気にしてるんだからぁ」

どうやらオレが反応したのは珍しい名前が気になったのだと瀬来さんは思ったようで、仲の良い友達らしくじゃれ合うようにして笑っている。小柄で黒髪パッツンヘアーの糧品さんは、クラスにひとりはいる目立たない感じの女の子といった印象。そして気になる苗字のおかげで名前が一発で覚えられた。

「じゃあ、次はシズッチね」

次に瀬来さんが自身の右手に座る女性を促した。



「はぁ~い。うちは仁菜静絵(にな しずえ)いいますぅ。どうもよろしゅう」

関西訛りで、お下げに長い前髪をひとふさ顔に垂らしている女性は、仁菜静絵(にな しずえ)さんというらしい。ちょっと垂れ目な感じに微笑を浮かべているような口元が、なんとも不思議な色気を醸している。今風にいえばダウナー系美女といったとこだろうか。

「よろしく仁菜さん。おふたりとも自己紹介ありがとう。すでに聞いたと思うけど、瀬来さんのコーチを引き受けた江月と言います。どうぞよろしく」

と、オレも無難に自己紹介。彼女達からオレに求められているのは指導力だけなので、余計な事は言わずにすぐお約束事の説明に移る。

瀬来さんの時と同じく、条件として彼女たちには、『教えたことは他言しない事・指導中は指示に従う事・答えたくない質問には答えない事・指導中はオレの事をコーチと呼ぶ事』を約束してもらった。

…。

秘密、それはいつも儚い。

オレが考え付いた伸び代充填理論も生命エナジー吸収理論も、すぐに誰かが気付いてやがて広まっていくことだろう。いや、むしろ単にオレが知らないだけで、もうずっと以前に諸外国やこの国の政府なんかは知っていたことかもしれない。

でも先週の瀬来さんの反応を見る限りでは、まだ世間一般に浸透した情報ではない様子。なら、オレは自分の知り得た知識を可能な限り秘匿して、他人よりもずっと優位なポジションを得たい。


「「「おまたせしましたぁ~」」」
「お!ちゃんと防具を整えたね」
「はい」

全員でゴブリンダンジョンに移動し、先に着替え終わって外で待っていると着替えを終えた瀬来さんたちがプレハブ小屋から出てきた。友達もいることで、今日は瀬来さんもロッカールームで着替えていたようだ。

そして一緒に買い物にでも出かけたのか、三人は揃いのデザインのサイクリング用ヘルメットを被り、手には簡単ながら木製の盾と子供用バットを握っている。

「へぇ~、盾も用意したのか」
「ええ、コーチのスタイルを真似させてもらいました」

「また自慢してぇ、作ったのはウチやん。万智は何もしてないでしょ」
「えへへ。それくらい、いいじゃない。肩揉んであげたでしょ」

お、いいなぁ。瀬来さんのマッサージはオレも受けたい。それに誰のお手製かと思ったら、仁菜さんが造ったのか。

隙間の狭い多目的スノコに穴を空けて太い紐を通し、前腕と握り手で支持するのはオレの造ったバーベキューシールドと同じ構造。ただ鉄を加工する技術までは無かったらしく、代わりにスノコをペンキで黒く塗ってある。

軽そうだし武器を持っていないゴブリンを相手にする程度なら、この盾でも充分だろう。

「良く出来てるじゃないか。初めて作ったにしては上出来だよ」
「やぁ、こんな出来悪いの江月さんにそんな褒められると、照れてまうわぁ」

盾の出来を褒めると、仁菜さんが思いのほか好反応を見せてくれた。

訊けばオレが瀬来さんに貸したバーベキューシールドの話を聞いて作成したそうな。なるほど。女子大生たちとなんて話が合うかな?なんて思ってたら、意外なところに共通の話題があったものだ。

そんなやりとりの合間、少し離れた位置で不安そうな表情で子供用バットを振っていた糧品さん。そんな姿も気になったので声をかけて呼び寄せると、コーチらしくアドバイスしてみる。

「バットは基本肩に担ぐようにして。そこから腕を下に降ろすようにして前に振れば、威力をのせて振れるよ。後は横殴りに振るパターンも覚えておけば、最初のうちは大丈夫だよ」
「あ、ハイ!ありがとうございますコーチ!」

うんうん、ええ子やなぁ。

「えぇ~?江月さんルウにだけ優しいぃ!私の時はそんなに丁寧に教えてくれなかったでしょ~!」

糧品さんを指導していると、なぜか今度は瀬来さんが唇を尖らせて愚痴りだした。

「い、いや!瀬来さんは初めから出来てたから。筋が良かったから、何も指導する必要なかったんだよ」
「え、ほんとですか?やっぱり私って才能あります??」
「いや、ハハハ。まぁ、そうだね」

「いや、才能あったらゴブリン20発も叩く前に仕留められるよね」とか言ったらまた機嫌を損ねそうなので、言わないでおこう。これもまた、大人の処世術ナリ。

そして現在、オレはマスクは外しているものの特撮ヒーローに出てくる恐怖怪人蟲男といった風貌の蟲王スーツ着用で彼女達とお話をしている。だがその事には一切触れない糧品さんも仁菜さんも、随分と大人だなぁと感心致しました。
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