うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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エアホッケーとマッサージ

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焼き肉を食べた後でまた風呂に入るという精神的贅沢を終えたオレと美人女子大生三人。再び合流しユルユルと向かった先は、ゲームコーナーだ。

とはいえスーパー銭湯のなかにあるゲームコーナーなので、その規模はさして大きくはない。

入り口に目立つ大きなUFOキャッチャーが2台置いてあるほかには、ラムネ菓子なんかを掬って取るミニサイズのUFOキャッチャーちっくなゲーム機や格闘ゲームの筐体が数台。中央にはエアホッケーの台がデデンとスペースを占有し、壁際には暇を潰すお父さんたちの為にパチンコやスロットなんかが並んでいる程度。

たかがゲームコーナー、されどゲームコーナー。

それはゲームに慣れ親しんだオタが、女の子にカッコイイところを見せることのできる数少ないボーナスステージ。『よし、オレもUFOキャッチャーや格闘ゲームの腕を披露しちゃうぞ♪』と内心意気込んだのだった。

が、最近のイケてる女子大生たちは、そういったモノには一切興味を示さなかった。

それでも一応訊いてみると、「懐かしいとは思うけどぉ」・「せやねぇ、さして面白いとは思わんねぇ」・「う~ん…」とのことだった。最後の瑠羽が「う~ん…」とノーコメントだったのは、きっと真面目な子だからゲームセンターそのものに入ったことないんじゃないかな。

なのでオレは見せ場がなくて、ガッカリだ。

「なぁ万智ぃ、コレなら解るやろぉ。うちと対戦してみぃひん?」

お、まったくのスルーかと思いきや、仁菜さんが瀬来さんにエアホッケーゲームの対戦を申し込んだぞ。

「いいわよシズ!私のレベルアップした反射神経を見せてあげるわッ!」

お、それはいいな。オレも彼女たちがただゴブリンを殴り殺す姿しか見ていないから、どれくらい反射速度が上がったのか見てみたい。

『フゥン…カシャ!カシャ!コン!カッ!コッ!カッ!コッ!…カカッ!』
「「……」」

対戦が始まった。て、仁菜さんも瀬来さんも無言かい。

いや、だがそうではない。彼女たちは今、自分の上昇した能力を感じ取り、その力を発揮するのに夢中で興奮しているのだ。

『カッ!コッ!コカッ!…カシャ!コン!カッ!カカカッ!…』

勝負がつかない。おお、これは熱戦だ。



「うわぁ~!ママァ見て!あのおねえちゃんたち、すごいヨォ!!」
「まぁ、ほんとねぇ~」

「「「ざわ…がやがや…ざわざわ…」」」

幼い男の子の声を皮切りに、次第に増えていくギャラリー。しかしさもありなん。仁菜さんも瀬来さんのマッチは、オリンピックに出場する卓球選手さながらの速さでラリーを行なっているのだから。

『カコンッ!』
「あ~!しもたぁ~ッ!!」

なにかを仕掛けようとしていた仁菜さん。が、狙い過ぎたのかリズムを崩さずに返していた瀬来さんのパックを拾い損ねて失点した。

「やったぁ!!」
「「「おおおおぉ~(ぱちぱちぱち…)」」」

すると周囲から、なんだかゴルフトーナメントのような歓声と拍手が起きる。

「うちなんだか、目が疲れてしもうたわぁ。瑠羽ちゃん、交代せぇへん?」
「え…?私?」

「せやぁ、結構面白いでぇ。それに瑠羽ちゃんもダンジョンでどれくらい自分の能力が上がったか、興味あるやろ?」
「う、うん…(チラ)」

「ああ、行っておいで」

瑠羽がオレに同意を求めるような視線を向けるので、笑顔で送り出してやる。

「じゃあ次はルウが相手って訳ね♪容赦はしないわよッ♪」
「うん!来て万智ちゃん!」

ああ~…。いいなぁ…。ケンカしていたふたりが、こうして向き合って仲良くゲームに興じる姿。

あの泥酔おじさんらのせいで訊けなかったけど、食べて飲んでお腹も心も幸せになった頃を見計らい、オレはふたりにちゃんと仲直りができたのか訊きたかったのだ。

そういう微妙な問題を訊く時って、やっぱりタイミングが大切だって思うのよ。お腹が空いてイライラしていたり、汗で身体がベタベタしていて不快に思っている時にそんな質問をしたら、身体のコンディションに引っ張られてつい余計な事まで口走ってしまうかもしれない。それだとまた関係が拗れてしまうしね。

だから今日は三人を連れてスーパー銭湯にも来たし、焼肉も奢って気を落ち着かせようと考えてたのに、泥酔おじさんらのせいでとんだ事だったわ。

『カコンッ!』
「「「おおおおぉ~(ぱちぱちぱち…)」」」

お、今度は瑠羽が瀬来さんに勝利した。

真面目な瑠羽らしく、奇を衒わない手堅いディフェンス。それに焦れた瀬来さんが勢いよくシュートを決めたが、それもしっかりと防御されて戻ってきたパックを受け損ねていた。

「あぁ~くやし~ッ!師匠ッ、私の仇を取ってぇ!!」
「お、そうきたか」

どうやら今度は、オレの番だ。

『フゥン…カッ!コッ!カッ!コッ!カカッ!カシャ!カシャ!コン!!』

『カコンッ!』
「おっ?しまった!」

「え…??」

「「「おおおおぉ~(ぱちぱちぱち…)」」」

「瑠羽ちゃんすごいやん♪コォチにも勝てたねぇ♪」
「そ、そんなぁ…」

「師匠ぅ~~!わたしのカタキわぁ~!(ぽかぽか)」
「いやぁ油断した!瑠羽がこんなにやるなんて思わなかったよ!」

瑠羽はオレに勝ったことに呆然とし、瀬来さんはオレをぽかぽかとじゃれるようにして叩く。仁菜さんはオレがわざと負けたことが解っている様だが、瑠羽をしきりに褒めて持ち上げている。

うんうん、オレは大人であるからして、女の子には負けて華を持たせてやるのだとも。


…。


瑠羽たちはエアホッケーを通じて、自分達の身体能力の向上を理解したようだ。レベルが低い時は、レベルも上がりやすく数値の上昇も頻繁に起きるので、何とも言えない万能感を感じてしまう。

しかしそれも過ぎると、『このまま自分はもっと強くなれるのだ』と、増長しイキり状態になってしまう。そうするとドンドンとダンジョンの奥に潜ってしまい、手痛いしっぺ返しをダンジョンから蒙ることになる。だが、オレが指導している限り彼女たちがそうなることはないだろう。

なにせビビりで慎重派のオレが指導しているのだから。

オレはRPGでも、編成したパーティーメンバーが1人でも戦闘不能になるようなら、先に進むのをやめじっくりとキャラクターの育成に勤しむ。そういったルーチンワークのレベル上げも苦にならずに出来る粘り強さが、オタの強みなのだ。


ま、それはともかくとして、今日もスーパー銭湯最後のシメはマッサージになった。

オレがまだ一度も触れてもいない瑠羽の裸体に男性スタッフがついて触られては堪らん。と鋭く目を光らせていたが、どうやらオイルマッサージをするのは女性スタッフだけのようで、オレの心配は杞憂だった模様。

そして今回はオイルマッサージではなく、オレだけ普通のマッサージをお願いした。

オイルマッサージも気持ちいいのだが筋肉を酷使するような筋トレを行なうオレは、やはりきちんと筋肉を揉みほぐすマッサージを受けたほうが良いと判断した為だ。

「お待たせしましたぁ。…あ、この間のッ!」
「ん、この間のという事は…?」

「前はオイルマッサージされてましたよね。その時も担当させて頂きました」
「ああ!その節はどうも…」

タオルを敷かれた細長いベッドに俯せになっているので声しか解らないが、今日のマッサージを担当してくれるスタッフさんも以前オイルマッサージをしてくれた若いお姉さんスタッフのようだ。

「良く解りましたね」
「それは…こんな鋼鉄みたいな筋肉している人そうそういませんから」

「え?そんなに硬かったですか?」
「ああいえ!見た目の話です。それじゃ、マッサージ始めていきますね」

「あ、はい、おねがいします」

グイグイと肩を揉まれ、ツボを刺激される。う~…コレコレ!女性の指先は細いから、小さいツボにも綺麗にささってビンビンくる。

それにこの若いお姉さんスタッフの手はやけにあったかくて、マッサージをされてると気持ちが良いんだよね。

「(うわ…うわ…うっわぁ~…)」

時々なにかに驚いている風な呟きを漏らしているのが少し気になるが、それ以外はとても気持ち良く揉んでくれていて申し分ない。

『ぼすんっ』

と、腰になにかが乗ってきた。

「…ん?」

「ああいえ!背中ッ!背中の筋肉を揉むのに、横からだとちょっと揉み難くて。お客さんの筋肉凄いですから…」

「ああ、そういうことでしたか。…なんだか苦労させてしまってすみません」
「ああいえッ!全然ッ!そんなことないですから!…ただちょっとだけ腰の上に乗らせてくださいね…」

「そういうことでしたら、どうぞどうぞ。お姉さんくらいに乗られても、ぜんぜん重くないから大丈夫ですよ」
「で、ではマッサージしていきますね!(グッ!グッ!…)」

あぁ~気持ちいい。やっぱりグイグイとくる。お姉さんスタッフに乗られた腰も、じんわりとあったかくて気持ちいい。それに体重を掛けてしっかりとツボを押してくれるので、すごく身体の血流も良くなっていくみたいだ。

「(はあァァ…、あ…熱い…すごい…筋肉…)」

時折背に乗ったお姉さんがなにか独り言を呟いているような気がしたが、オレはまたしてもマッサージが気持ち良すぎて爆睡してしまった。


そして気付いたらもう終了時間になっていて、今回もマッサージの心地良さを最後まで堪能できなかった。

「ハァ…ハァ…ま、また絶対いらしてくださいね!」
「は、はい。…あのお姉さん顔が赤いですけど大丈夫ですか?」

「ああいえッ!これは全然ッ!な…なんともないですからッ!!」




うむむ…。ダンジョンで鍛え上げた筋肉をマッサージするのは、そんなにも大変だったのか。

それをおくびにも出さずに『また来てください』なんて言うお姉さんスタッフさんは、なんてプロ意識が高いのだろう。そこでオレはそんなプロフェッショナルなスピリッツに感銘を受け、裸の紙幣で失礼ながら¥2000ほどチップとしてお渡しした。

「ああいえッ!あんなに気持ち良かったのにこんなモノまで頂いたらッ!!」
「気持ち良かった?…いえ、こちらこそすみません、かたくてやり難かったでしょう。気持ちですからどうぞ取っておいてください」

「は、はい。それでは、ありがとうございます…」
「顔…赤いけどホントに大丈夫です?」

「は、はい!ほんとにコレはその…大丈夫ですから!」

店の外に出ると、オイルマッサージを終えた瑠羽たちもすっきりとした表情でオレを待っていてくれた。途中つまらないトラブルはあったものの、今回のスーパー銭湯の豪遊も、大成功と言っていいだろう。

めでたしめでたしだ。
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