うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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海底ダンジョンⅢ

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「キャアアッ!」

唐突に響き渡る悲鳴。それは順番にスライムをソフトタッチアタックで倒させている時に起きた。

ひとりが木の棒でスライムをソフトに押さえつけ、もうひとりが横からスライムの核を木の棒で突いて倒す。それを順に交代しつつ、瀬来さん>瑠羽>仁菜さん>シャークといった順番で行なっていた。

そんななか、シャークが押さえつけているスライムを攻撃した瀬来さんが、ミスッて反撃を受けたのだ。

すると慌ててもう一度と木の棒で突こうとした瀬来さんの腹部に、不定形になったスライムが跳ねベタリと張り付く。それに驚き、悲鳴をあげたままその場に立ち竦んでしまう瀬来さん。

が、慌てて救助に向かおうと手を伸ばしたその時。すぐそばに屈んでいたシャークが瀬来さんの腹部に張り付いたスライムを引き剥がそうと、ダイバーグローブをしたその両手で掴みかかったのだった。

「(じゅううぅぅ!)グゥ…ッ!?」
「馬鹿っ!早くスライムから手を離せシャークッ!」



「くそっ!手ッ!…手が抜けないッ!」
「わかった!じっとしてろ!(ずぶしゅ!ぐちっ!…ぼふん!)」

手刀をスライムに突きこむと、すぐにその核を握りつぶす。

「はぁ~~ッ…ビックリしたぁ…!あッ!シャークごめんね!大丈夫?」

スライムが煙となって消えたことで両手の解放されたシャークが、うっすらと白煙をあげるグローブを急いで脱ぎ捨てた。

「ああ、これくらいなんともないぜ。(べしゃ)チッ…、痛てて…」
「大丈夫かシャーク?どれ、診せてみろ」

座り込むシャークの前に屈んで、腕を見せてもらう。

と、ナイロン製のダイバーグローブを付けていた手の方は無事だったが、手首にかけての皮膚が薄く溶かされて赤くなっていた。傷的には擦りむいた程度のダメージではあるが、これでは海水にも滲みて痛むだろう。

(しかしコイツ、自分が傷つくのも恐れずにとっさに瀬来さんを守ろうとしたのか…、いいヤツだな)
(((…ッ…ッ……ッ)))

(ん…!?この感覚…もしや塩の粒たち…?ああ、シャークの濡れた黒髪についていた海水が乾いて出来た塩たちか。なになに…?ふんふん…。ほぉ、そんなことが出来るのか?え、手伝ってくれる?それは助かる)

「シャーク、ちょっとそのまま動かずに、じっとしておいてくれ」
「え?あ、ああ…」

オレはシャークの傷ついた両手を持つと、目を閉じて意識を集中する。

(【粘液】をベースに…【塩】少々…【強酸】はほんのちょっぴり…。あ、こんなもんで良い?ありがとう塩の精霊マニトウたちよ。よし…ではたくさん生み出していこう)

『じわわわわぁ~…』

シャークの傷ついた手を今までとは違った雰囲気の粘液が覆っていく。それは透明で透き通っており、すこしゼリーのようにぷるぷるとしている。

「ジャ、ジャング?コレ…、なにしてるんだ??」

「ん…ああ、まぁ言うなれば『なんちゃって滲出しんしゅつ液』だ。しんしゅつ液とは、簡単にいうと怪我などをした時に傷口から滲み出てくる血液以外の液体のことだな」

この滲出しんしゅつ液。傷の浅い場合には、消毒をしないで体から染み出てくるまま潤いを保つ湿潤療法で対応すれば、傷の治りが早くなるという研究データがある。だからこうしておけば傷の保護になるし、治りも早くなるはずだ。

今回はそれを塩の精霊の助けを借りて、スキル【粘液】と【塩】と【強酸】をバランスよく配合し作ってみた次第。感覚的には血液に良く似た配合になってるはずだから、これで覆っておけば酷い傷痕として残ることはないだろう。

「お…おう。そうなのか。すごいな…」
「へぇ~、コォチもまたへんなコトに詳しいんやなぁ~…」

ふふふ、どうだ。オタは科学考証に凝ったSF小説や漫画も読み漁るからな。そういったなかで用いられた現代科学についても、それなりに知っているのだぞ。


……。


で、なおもここは未だ海底ダンジョンの1層。

スライムの事をぷるぷるしててカワイイ等と言っていた瀬来さんたちもスライムから思わぬ反撃を受けたことで、改めて相手が恐ろしいモンスターだったことを自覚した様子。

そして先ほどの失敗からなにかヒントを得たのか、「ちょっと待ってくれ」とシャークが胡坐をかくと腰のベルトに差していたナイフを抜き、柄に巻かれていたパラコードを解き始めた。ちなみにパラコードとはパラシュートに使われるコードのことで、要するに丈夫なナイロンとかポリプロピレン、ポリエステルの紐のこと。

だがパラコードは太さが約4mm程度でも耐荷重は約250kgと強度が高く、現在ではアウトドアでもよく使われているモノだ。

「シャーク、何をするつもりだ?」
「まぁ見てろよ。コレをこうして(ぐるぐる…)こうすれば…(ギュッ、ギュッ!)。ほら!即席の槍の完成だ!」

シャークは解いたパラコードでスイカ割り用の木の棒にナイフを括りつけ、短槍を作ってみせた。

「おお、なるほど。器用なモノだなぁ!」
「へへへ…。どうも木の棒だと突く時に少しだけど抵抗があって狙いがズレるみたいだからな。この槍でなら、それも回避できると思うぜ」

さすがシャーク、見事なミリオタ脳。こいつロープワークなんかもマスターしてるんじゃないのか。

これによりその後はシャークがそんな短槍を2本も作ったことで大幅効率アップ。ソフトタッチアタックでスライムを見つけては倒す。彼女らの地味な無双タイムが始まった。ま、オレは2チームに分かれて行動する彼女らを見守るのに、気が気じゃなかったが。。。


「ヤッタァ!8匹目ぇ!」

愉しそうにガッツポーズをとる瀬来さん。でもそろそろこの海底ダンジョンに来てから3時間は経とうとしている。後の事もあるし、この辺が頃合いだろう。

「皆、もう3時になる。そろそろ切り上げようか」
「えぇ~ッ!?もぉ~ッ!?」

いやいや。瀬来シャークチームと、仁菜さん瑠羽チームに分かれてどちらが多くスライムを倒せるかなんて競争を始めていたが、もうそろそろ帰って寝ないと寝不足でお肌が荒れますよ。

「せやなぁ。コォチには帰りも運転してもらわなあかんし、また倒れられても困るからこの辺にしとこか万智~」

いや…あれ?仁菜さん帰りは運転してくれないの?いや、まぁ別にいいけども。

「そうですね、じゃあ帰り支度を―」
「あ、待ってくれよジャング!アタシもうすぐレベル3に上げれそうなんだ!」

そんあ瑠羽の言葉を遮って、シャークがうるうるお願いポーズを決める。コイツめ、どこでそんな事覚えたんだ。

「師匠~?」
「ああ、解ってるよ。じゃあ皆、もう少しだけシャークに付き合ってやろう」

「悪い!恩に着るぜ!」

鼻の下を擦りながらそんな事を言うシャークに、瀬来さんたちは帰途遭遇したスライムを全てシャークに譲ってやるのだった。

…。

「はい、おつかれさま。全員異常はないな~?」

ダンジョンの前室に戻ると、四人しかいないので見れば解るのだが一応確認に訊いてみる。

「「「はぁ~い、問題ありませぇん」」」
「………」

と、美人女子大生三人は綺麗に返事を返してくれるが、シャークだけがなぜか小難しい顔をして
首を捻っている。

「どうしたんだシャーク。なにか問題か?」
「いや…。レベルも3にまで上がってすっごく嬉しいんだけどさ…。なんか職業って欄も増えてて、そこに『職業:生徒』ってなってるんだ…。コレおかしくね?」

(なんですと!?…職業?どういうことだ?そんなのレベル37にもなるオレだって持っていないぞ??)

「あ…ウチも職業:生徒やて…」
「あ、わたしも…」

なんと、仁菜さんに瑠羽までもが…。

どういう事かと思って自分でもステータスを確認してみると。


レベル        37 
種族:       人間
職業:       教師

能力値:
筋力        212
体力        218
知力        215
精神力       240 
敏捷性       220 
運         133 
エロさ       1825

加護:
【塩の加護】

技能:
【強酸】1.1・【俊敏】・【病耐性】5・【簒奪】・【粘液】2・【空間】2・【強運】1.3・【足捌】・【瞑想】・【塩】5

称号:
【蟲王】・【ソルトメイト】・【しょっぱい男】


オレにもなぜか『教師』なんて職業が追加されていた。

で…またしても『器用さ』さんが行方不明…。おい、『器用さ』さんどこいった!?そして代わりに数値化された能力が『エロさ』って、どういうこと?しかも他の追随を許さない千ケタ台の圧倒的パワー。おもいっきり『エロ教師』ってことじゃんオレ。


「ん…?どないしたん万智?」

オレが自身のステータスのしょうもない変化に愕然としている脇で、なぜか瀬来さんもまたおかしな表情をして固まっていた。

「え~と、私…」
「え、もしかして万智ちゃんには『職業:生徒』って付かなかったの?」

「あ…いや、そうじゃなくてね、瑠羽。なんか私の職業…『鳴人の特待生』ってなってるんだ…。鳴人って…これ師匠の名前だよね??」

ファッ!?なぜに…!?おかしな顔をしてると思ったら、なに一人だけピンポイントでレアっぽい職業ゲットしてるの瀬来さん?え…と、もしかしていっしょに暮してて寝食共にしてるのが、親密な師弟関係と認定されたとか?

「エェ~そんなッ!万智ちゃんだけズルいですぅ!」
「そやぁ~!コォチ、これは一体どういうことなん?(ずいっ)」

そう言ってオレに詰め寄ってくる瑠羽と仁菜さん。

「あ、いや…!?待って、そんなのオレにも解らないって!もしオレに決められるなら、ふたりとも特待生にしてるって!」
「あ、待ってくれよ!それならアタシだって特待生の方がいいぞッ!」

いや話が面倒になるからシャークまで絡んでくるなよ。

「ああもう解った!みんなオレの特待生だ!どうにかするって!」

職業なんてそんな訳の解らないモノ、どうしようもないだろう。だが幸い瀬来さんが手にできたんだ。瀬来さんがどういう経緯でこの取得条件をクリアしたのかを調べていけば―。

「あ…。うちも職業『鳴人の特待生』に変わったでぇ。おおきにコォチ♪」



へ…、なに?そんなカンタンに変わっちゃうモノなの??

「わたしもコーチの『特待生』です♪」
「すげぇ…『職業:生徒』になったと思ったら、もう『特待生』か…。くぅ、燃えるッ!」

深夜に探索した秘密の海底ダンジョン。そんななかでオレ達は期せずして『教師』や『生徒』、さらには『特待生』なんて職業をゲットしたのだった。

う~む、これは海底だけに、さっぱりワケワカメだ。
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