うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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誤解

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素晴しかった。『一泊二日!ドキッ♡男はコォチだけやでぇ~♡伊豆海水浴旅行!』は、まさにオレ史上に残るドキッ&ムフフな金字塔を打ち建てた旅行となった。

そしてそんな海水浴旅行から帰ってきてから、二日が経過。

だが未だにオレと瀬来さんは共同生活を送っていて、一向に帰る素振りを見せない。まぁストーカー問題が解決していないのだから、当然ともいえるのだが。

しかしオレの部屋には瀬来さんの衣類がクローゼットの扉にハンガーで何着も掛けられていたり、テーブルの上に化粧品がそのままにされているようにもなってきた。どうも瀬来さんはオレといっしょなことで浮いた食費で新たな衣類を買い求め、次第に部屋の侵食を始めたようだ。

寝食を共にしつつ、部屋を侵食。うむむ…。

これが未だオレがボッチであり、彼女のいない状態であったのならウェルカムであったろう。何もしてくれなくても、可愛い女の子といっしょにいられるのはずっと夢だった。だが今のオレには瑠羽という可愛い彼女がいて、瀬来さんはそんな瑠羽の親友。

オレが決して彼女に手を出せないのを良い事に、ちょっと調子に乗っているのではなかろうか。

しかし、基本コミュ障なオレ。瀬来さんに「部屋にあまり私物を広げないようにね」とか「服とかキチンとしまっておくようにね」なんてことをうまく伝えられずにいた。

うん、なんとなくだけど。そういった細々としたことを指摘し器の小さいヤツだなぁなんて思われるのが、イヤだったのだ。うむむ、なんとも悲しき男の見栄…。でもそんな事を考えている時点で、自分でもオレって器が小さいんだななんて再認識してしまい、軽く凹んだ。

そして、そこにはまた葛藤も。

瞑想なんかで抑えてはいるものの、性欲そのものが消え去る訳ではない。なのでこのままでは、どこかで歯止めが利かなくなって暴発してしまうのではないかと。

そんなオレは今日も整体学校での授業を終えると、モヤモヤしながらも瀬来さんをバイト先へと迎えに行った。

…。

「む、すこし早く着きすぎたか?まだだいぶ早いな…」

邪魔にならぬところにバイクを停め、時間を確認。

すると、時刻は17時半。瀬来さんのバイトが終わるまでには、まだ30分もある。そこでどこか店にでも入って時間を潰そうかとも考えたが、最近はバイクでも駐禁を切られてしまう。なのであまりバイクから離れるのは、得策ではないだろう。

「あ、そういえば瀬来さん。バイト中にもだれかにジロジロ見られると言ってたな。そうだ、すこし様子を見に行ってみるか」

ダンジョンショップ・パレードの前の歩道は広く車道沿いの緑地のほかにも、歩道の真ん中に等間隔にブロックで囲われた木が植わっている。そんな歩道を通って、瀬来さんの様子を見に行った。幸い店内の様子は大きな窓のあるおかげで、外からもよく解る。

すると瀬来さんはスタッフの赤いポロシャツを着て、今日も元気に働いていた。

接客していたお客が去る背中に、お辞儀をする。そして出入り口の自動ドアまで視線でお客を追っていき、そこで外にいるオレに気がつき営業スマイルから普段見せる笑顔でちいさく手を振ってくれる。



うむ、カワイイ。そして相変わらず凶悪なお胸でいらっしゃる。

そしてアイコンタクトで『もう少しだから待っててね』と言っているのが解るので、それにオレも『大丈夫だよ』とちいさく手を振って返す。


そうしてひとまず満足し、バイクのとこへと戻ってきた。だがそこでなぜか、見知らぬ男達に取り囲まれてしまった。

男達の服装は多種多様で、統一性はない。

強いて言えば全体的に若いのが多いか。が、なかにはやや中年に近いのもいる。ただひとつ共通して言えそうなことはオレに対し敵意めいた視線を向けていることと、真面な一般人ならまだ働いている時間だということ。あ、ごめんふたつだったわ。

「…なんだね、チミたちは?」

そこでやや遠巻きにオレを取り囲む男達に、少々笑いを誘う言葉づかいで尋ねてみる。

男達の表情には、明らかにオレへの怒りが感じられた。が、同時に恐怖や警戒といった色も滲んでいたのだ。だから彼らがオレを取り囲んだのは、マッチョなオレに怯えての事と容易に推察できたから。

「アンタ…、あの子にいったい何をしたんだ!?」
「あの子に…?」

ひとりの男が述べた言葉に、首を傾げる。はて?何をって…、可愛くてお胸の大きな女子大生にパラサイトされてますが、何か?

「おまえが受付嬢ちゃんに酷い事してるってのは、わ、解ってるんだぞ!」

取り囲む男達のなかから、また別の男がオレを責める。うむ、だがちょっと待て。その『受付嬢ちゃん』というのはなんだ?

「おい、おまえたち」
「な、なんだッ!?」

「質問があるなら、答えてやろう。だがまず、おまえたちが何処の何者なのかを説明しろ」

すると男達はモジモジと互いをつつき合うようにして軽く揉めた後、ようやく「俺たちはギルドの受付嬢ちゃんを愛でるスレの者たちだ」と名乗った。

「そ、そうか…。だからそんな風に統一性がないんだな。まぁ解った。おまえたちは『ダンジョンショップパレードに勤めるバイトの女の子を、ファンタジーなギルドの受付嬢に見立てて愛でている』と、こう言いたいんだな?」
「そ、そうだ!」

ハァ、なんだよ。コイツら昔のオレと似たようなモンじゃないか。

「なるほど、ではオレも自己紹介しよう。オレはおまえ達が『ギルドの受付嬢ちゃん』と呼ぶバイトの女の子を、ダンジョンで戦えるよう指導しているコーチだ」

「ウソつけっ!か、彼女の弱みを握って…い、いやらしい事を強要してるんだろう!」
「そうだ、彼女を解き放て!彼女は人間だッ!」

おい、なんか〇シタカが混じってるぞ。それを言うなら、『彼女の人権を踏みにじるな!』とかだろうに。それに対してオレは『だまれ小僧ッ!』とでも返せばいいのか?さらに言えば、最近彼女にプライベート空間を侵食されているのはオレの方だ。

…。

「師匠~ッ!おまたせぇ~っ!」

しかしそんなところに、バイトを終えた瀬来さん登場。

屈託のない笑顔を浮かべた彼女は、オレが不穏な男達に囲まれていることも気にせずに大きく手を振り、お胸もばゆんばゆん弾ませながら駆けてくる。



しかし、そこで事件は起こった。

離れたところを歩いていた通行人が、落ちていたバナナの皮で滑って転倒。盛大にスッ転げ手に持っていた缶珈琲を天高く放り投げた。するとその珈琲缶が運悪く飛んできたカラスを直撃。カラスは人間に攻撃されたものと怒り、鳴きながらバーコード頭のおっさんへと襲いかかった。すると間違いでカラスから襲われたバーコード頭のおっさんは激しく取り乱し、たまたま横を走り抜けようとしていた瀬来さんを突き飛ばしたのだった。

「キャアアぁッ!?」

そんな謎のピタゴラ連鎖によって、バランスを崩す瀬来さん。

たたらを踏んで転びそうになる。が、それでもダンジョンでレベルアップしたことで得た脚力で転倒を回避。しかし大きく跳ねすぎてしまい木の枝にぶつかりそうな高さでこちらに向け飛んできた。

ま、それらが常人の動体視力約20倍でバッチリ視えていたオレには、瀬来さんをキャッチし損ねる方が難しいというモノ。見よ、華麗にお姫様抱っこでキャッチだぞ。

「(ぽすんっ!)はい、おつかれさま」
「え?…えへへ、ただいま。ってあれ?この人達…いっつも私の事ジロジロ視てる人達じゃないッ!?どういう事なの師匠!」

「ふぅむ…、そうだな。ではこの際だ。彼らにしっかりと説明してもらおうじゃないか」

瀬来さんをお姫様抱っこしたオレは、そう言って自称『ギルドの受付嬢ちゃんを愛でるスレ』の面々を見回した。

「そ、そんな…受付嬢ちゃんは身も心も、こんな男に奪われてしまったなんて…(ガクッ)」

「いやっ!まだだ!むしろ受付嬢ちゃんがいる今が好機っ!この男の非道な仕打ちの証拠を突きつけ、今こそ受付嬢ちゃんを助け出すんだッ!」
「「「おうっ!」」」

「いや、盛り上がってるとこ悪いけどさ。なんだその非道な仕打ちってのは…??」

抱きとめた瀬来さんを降ろし、盛り上がっている男達に問う。

「フ…証拠は押さえてあるんだ。コレを見て咆え面をかくなよっ!」

そう言うと、ひとりの男がオレと瀬来さんに通信端末で再生した動画を見せてきた。

「あ、これ私ッ!酷い!隠し撮りまでしてたんだ!」
「まぁまぁ。憤慨はもっともだけど、それはまた後で追及しよう」

見せられた動画には、カウンターに佇むバイト中の瀬来さんの姿が映っている。

「おい…、コレがいったいどうしたんだ?」
「ま、まだだ!クッ…待ってろ、すこし早送りしてやる…よし、コレを見ろ!」

うん。画面には相変わらず瀬来さんが映っているが…、客足もなく、ひとりカウンターに佇んでいる瀬来さん。あれ?なんかプルプルしはじめた。そして…顔を俯きがちにして、次第に頬を紅潮させていく…。あ、あれ?これって…。

ああ…、解った。オレはコイツらの言いたいことが、よく解った。

コレは、アレだ。エッチなビデオで、女の子が大人のおもちゃで調教されたりするヤツ。動画に映っている瀬来さんの様子は、まさにソレ。瀬来さんがバイト中にこっそり行っていた隠れ筋トレを、コイツらはそういったモノと勘違いしていたのだ。

「くぅ~~~ッ…」

どうやら瀬来さんも動画を見せられて理解できたらしく、顔を真っ赤に染めている。

「あ~…ゴホン、おまえたち。コレはだな、つま先立ちで息を止めるというトレーニングで、決しておまえたちが想像していたような事ではないぞ?嘘だと思うなら、自分達で試してみろ」
「そ、そんな馬鹿な!?」

「いや、バカはおまえたちだって。だいたいバイト中にそんなことしてたら、即クビになるだろうが!」
「「「グッ!くぅ…!」」」

打ちひしがれたように首をうなだれるギルドの受付嬢ちゃんを愛でるスレの面々。うん、まぁ一応ながら彼らなりに、瀬来さんのことを守りたかっただけのようだ。

しかしそれにしても、瀬来さんがいやらしい目でジロジロと視られていた理由が、まさか息止めつま先立ちのトレーニングのせいだったとは。

「うぅぅぅぅぅ~ッ!!(ぽかぽかぽか!)」

涙目で怒ってオレの事を殴ってくる瀬来さん。え、もしかしてオレが息止めを教えたせいだと思ってるの?えぇ~、そりゃないよ~。
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