うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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傷心の瀬来さん

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いつも明るく元気。調子の良すぎるところが玉に瑕だけど、いるだけで周囲を明るくしてくれる瀬来さん。そんな彼女の落ち込んだ横顔は、キュンとオレの庇護欲を搔きたてた。

彼女に普段の元気を取り戻させてあげたい。

でも、オレは落ち込んだ女の子を慰め元気づけてあげられるような、気の利いた事の言えるモテボーイではない。万年ボッチだったので、その自覚くらいはあるのだ。

「ゴハンはもう食べた?」
『ふるふる…』

「そうか、じゃあラーメンでも食べに行こうか?」
「うん…」

故にオレに出来る事といえば、ご飯をご馳走してあげるくらいのものだった。

…。

一時間ほど近所のラーメンショップで食事をし帰ってきた。

瀬来さんは中華丼を、オレはもう夕飯を済ませていたのでギョーザを頼んで間を持たせた。傷心の瀬来さんに配慮して、匂いのキツいニラやニンニクギョーザじゃなくて大葉たっぷりのシソギョーザでサッパリと頂いた。

『『しゃこしゃこしゃこしゃこ……』』

今は寝間着に着替え、寝支度に二人そろって歯磨き。

その様子はまるで同棲中のカップルのよう。だが、オレと瀬来さんは恋人同士ではないというなんとも奇妙な関係。

瀬来さんはオレの恋人の親友であり、オレは瀬来さんの親友の恋人。そんなふたりが同じ部屋で寝るために、一緒に歯を磨いている。

オレはグレーのスウェットを下に履き、上は黒のタンクトップ。瀬来さんもグレーのスウェットを下に履き、上は薄桃色のTシャツ姿。瀬来さんも自宅には戻れたが、お泊りセットはまだオレの部屋に置かれたままだからだ。

もはや瀬来さん専用となりつつある高級羽毛布団を敷いてやり、寝る前にシャワーを浴びにいった瀬来さんの事を考える。

(ストーカーのことについては、かなり堪えたみたいだったし。その後で弁護士と会ったりしてだいぶ神経をすり減らしたのか…)

オレは、たぶんバカだ。

子供時代に人間関係の構築に失敗してしまったが為に、嫌われたり敵意を持たれたりすることに悪い意味で慣れてしまった。だから幾ら他人に嫌われようが敵意を向けられようが、『だからなんだよ?』ってな感じでそれに真っ向から反発する反骨心というか、偏屈さを持ってしまった。

それ故に万年ボッチと化していたのだが、瀬来さんは違う。

彼女は明るく社交性に富んでいる。だから他人に嫌われたり敵意を向けられるという事には慣れていない。最近はダンジョン関係ですこしそういったことが遭ったらしいが、それもそこまで酷いというモノでもなかったようだし。

だから、そんな意味でネジのブッ飛んでしまったオレに、ナイーブな面を持ち合わせている瀬来さんの気持ちを推し量れる感覚は、欠如してしまっていると言っていいかもしれない。

でもそんなオレでも、好意を持った人間には優しく接したいと思うものなのだ。なのでなんとか瀬来さんを元気づけられはしないものだろうかと気を揉んでしまう…。

『ブォォォォォー…』

湯上りの瀬来さんがドライヤーで髪を乾かしている。それをロフトの上から半瞑想状態で見下ろしていた。

『(しゅわわぁ…、とろりらぁ…)』

しているのは気を練り、魔力へと変換するトレーニング。それに最近は左手に【塩】、右手に【粘液】と、個別にスキルを操作する術も鍛えていた。神の左手ならぬ、塩の左手、ぬるぬる右手だ。誰だ、いろいろと捗りそうなんて言うヤツは。

「ねぇ師匠…、師匠のほうは順調?」

ドライヤーを止めた瀬来さんが、髪を手櫛で纏めながらそんな事を訊いてきた。恋愛事情については瑠羽の口から聞いているだろうから、きっとその他の事だろう。

「まぁ学校の方は順調だよ。学んだことはしっかりと身に着けている」

これは本当だ。こんなオレでもダンジョンのレベルアップのお陰で強まった。そんな訳で高い能力で真面目に勉強すれば、たちまち知識は吸収し、技術的な部分での習得も極めて容易。

「そうなんだ…」
「ああ、良ければ勉強の成果を見せよう…か?」

オレはモテないボーイ。出来るのは精々がご飯を奢るくらいのモノ。でも、心と身体を癒す技術を整体学校に通い学んでいるのだ。そしてそれらはオレのなかで実を結びつつある。

「それって、ボキボキするやつ…?」
「いいや、筋肉の緊張を取るために普通のマッサージも勉強してるよ」

オレとしては瀬来さんの心と身体の疲れを取るためにマッサージをしてやりたいが、コレばっかりは身体に直接触れるので相手の了承なしには行えない。

「ああいや、気が向かなければいいよ。身体にも直接触れることになるし」
「じゃあ…、おねがいしよう…かな(ちら)」

「えっ?」
「だって…身体に直接触れるって言っても、江月さんもう私の胸とかおしり、採寸の時に触ってますよね…?」

「あ…」

そうでした…。

…。

こうして、瀬来さんへのマッサージをすることになった。今、オレの眼の前には高級羽毛布団のうえに俯せに横になっている瀬来さんの麗しき姿が。

瀬来さんも若干緊張しているようだが、オレもドキドキ。同じ部屋で暮らし、かなり近い距離で会話を交わしていたりもした。でもオレと瀬来さんは、決して長時間触れあったりはしなかったのだから。

唯一の例外は、寝る前のマッサージの時だけ…。

いつもはオレが瀬来さんから泊めてもらうお礼にと、してもらっていたマッサージ。だが、今夜は初めてオレが瀬来さんにマッサージを施す。立場が逆になったというだけなのに、何かやたらとドギマギしてしまう。。。

「じゃあ、いくよ…」
「はい、おねがいします…」

『すぅ~~ッ、さわゎ~~ッ…すぅ~~ッ、さわゎ~~ッ…』
「ん…ぅ…」

まずは背中から肩や腰に向けてを、手で押し延ばす様に広げていく。これにより筋肉の緊張の度合いや、身体の歪みなんかを推し量っていく。

「瀬来さんは姿勢が良いから、背骨の歪みは少ないね」
「んぅ…ッ、そうです…か…」

『すぅ~~ッ、さわゎ~~ッ…ぐっ、ぐっ、ぐっ、』

薄桃色のTシャツには、白で英字がプリントしてある。前の方が顕著だが、後ろにも襟元に少しだけプリントが入っている。オレはそんな瀬来さんの襟元から肩口にかけてを揉みほぐしていく。すこし首と肩周りに、凝りを感じ取ったからだ。

「ァ…ソコ、キモチイイ…」
「普段より凝ってるみたいだね。今日は精神的に疲れたのかな(ぐっ、ぐっ、ぐっ…)」

「あ、師匠…巧い、すごくキモチイイよ…」
「そうか、そう言ってもらえると、勉強した甲斐があったな(ぐにっ、ぐにっ、ぐにっ…)」

男の手で瀬来さんの肩を掴むと、両手で簡単に覆えてしまう。瀬来さんなんかけっこう肩幅あるように感じていたけど、こうして触れてみると、思った以上に細かったんだなぁ。

『(ぐにっ、ぐにっ、ぐにっ…)』

俯せの瀬来さんの横に、片膝立ちでその背を腰に向かって揉んでいく。寝支度をした後という事もあって、ブラジャーはつけていない。そんな瀬来さんの背中を、縦に押し込むのではなく横から押すように揉み込んでいく。

「あ、なに…これ?オイルマッサージとも違う、ぅ~うぅぅ~…」
「ふふふ、面白いだろ。人間の身体のツボというのは、砂地に寝転んだ時に、ちょうど境界線になる部分に集中しているんだ」

「あ…!ソコ!痛…でも痛キモチイイぃ…!」
「そうか、なら体勢を変えてもっと力の入るよう突いてやろう」

横向きの片膝立ちから、瀬来さんの身体を跨ぎ膝立の体勢に。しかしその女性の上に乗ったような感覚は、オレにもまた性的な興奮を齎してくる。

「ウッ…ソコ…ビンビンくる!師匠…もっとぉ…突いてェ…」

う、なんか…瀬来さんがエッチだ。

マッサージを受けながらの物言いが、なんというか…。そんな事言われると、オレは瀬来さんと、なんだか肌を重ねずにエッチでもしているような気分になってきてしまう。

ハッ…!もしかしたら、瀬来さんもそうなのか!?

「どう瀬来さん、気持ちいい?(ぐ~っ、ぐ~っ、ぐ~っ…)」
「ひぐぅ…、キモチ…イイよ…師匠…っッ!」

瀬来さんの心と身体の疲れを解きほぐす為のマッサージ。

でもそんなマッサージをしていると、ついオレの体温まであがってしまうのだった。
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