うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ツナミさんからのコール

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「それじゃあ師匠、いってきまーす♪」
「ああ、いってらっしゃい」

翌朝、瀬来さんは昨晩の事などケロッと忘れたように元気な笑顔で出かけて行った。

元気が戻ったようでなによりだ。え、昨晩の事?もちろん鋼の意志で自身のムラムラを押し殺し、最後はふわふわマッサージで瀬来さんには寝落ちして頂いた。

一時の感情に流されて瀬来さんに手を出してしまうなど、あってはならないことだからだ。

「ふぅ…。とはいえ、昨日はあぶなかったな…」

マッサージで寝落ちした瀬来さんの可愛らしい横顔…その唇に、『キスくらいしても…バレなんじゃない?』な~んて、少年漫画にありがちなドキドキを味わってしまった。

しかしオレの彼女になってくれたのは、瀬来さんではなくて瑠羽。そんな可愛い瑠羽を裏切る訳にはいかない。

「さて、手元も心細くなってきたし、魔石を売りに行くとするか」

まだ瀬来さんの荷物は残っているが、もう自宅に戻ると言っていた。なのですこしフライング気味にはなるが学校の授業料も支払わねばならない。だからその為には魔石を売りに行く必要があった。

『べ~~~ッ…べっ!』

ガムテープで施された封印を解く。うむ、ひさびさの冷蔵庫ダンジョンだ。

『とぷり…』

頭を真っ黒に潜らせると、ダンジョンの景色が目の前に広がる。青白い光を放つ天井。煉瓦状に組まれた石の壁と床。部屋の左手中央には通称『オヤッさん』と命名したダンボールの敷かれた簡易拠点。その横には古い布団が敷かれている。

左手の壁沿いには組み直したスチールラックがあり、その上には額に入れられたポスターや美少女フィギュアが飾られている。そしてその足元にはダンボールに入れられた大量の薄い本。

右手の奥にはキングゴキの外殻が積まれ、手前には冷蔵庫代わりとしてタッパーや発泡スチロールが…。

「ああ…。すっかり傷んでしまったな」

近付いて発泡スチロールの蓋を開けてみると、中に入れていた野菜はドライフラワーみたいカサカサに萎れていた。うぅむ、人参が朝鮮人参みたいになったな。

不幸中の幸いは生肉などが無かったことか。腐って悪臭を放つようなモノはなく、納豆はカチカチに乾燥してるものの生卵は外見的には変化が見られなかった。

「う~む、いずれにしてもこれらは処分か。もったいない事をした」

片手で拝んで、無駄にしてしまったことを詫びる。貧乏性なオレは食品をダメにしてしまった時に感じる罪悪感が常人よりも強いような気が。

「ふむ、そうだな…捨てるにしても、スライムに与えてみるか」

どうせ捨てるにしても、ゴミ袋に纏めて決まった日に出さねばならない。ならダンジョンに捨ててしまうのもアリなんじゃないだろうか。

よし、思い立ったら即実行。発泡スチロールの箱に処分する食材を纏めると、地下一層の扉を潜った。

『『『ぷるぷるぷる…てぃんてぃんてぃん…』』』
「おっ?なんだ、いつもより数が多い…?」

どういう訳なのか、地下一層の扉を潜ってすぐの所にも拘らず何匹ものスライムの姿があった。

「まぁいいか。ほら、おまえたちエサだぞぉ。そ~れトォトォトォ…」

まるで鶏に餌でもやるようにして枯れた野菜や納豆をスライムに与える。卵は投げると割れてしまうので、スライムの傍においてやった。

『(つんつん…にゅるん…じゅわわぁ~)』

食材に触れたスライムがそれらを体内に取り込み、酸を生成して分解を始める。

「フフフ…面白いな。人の身体が透けていたら、胃袋ってきっとこんな感じなんだろうな」

と、卵を取りこんだスライムが分解を始めるが、殻を溶かしきる前に卵を吐きだした。しかしその衝撃で柔らかくなった殻が割れ身が流れ出ると、慌てたようにして卵を再び取り込み分解を始めた。

「ふむむ、卵の殻は好きじゃないか。まぁ殻は骨と同じ成分。骨をいくらしゃぶってても、それ以上の栄養は手に入らないもんな」

今の行動を見るに、スライムは全身に味来のような味の解る感覚器官を備えているようだ。でなければ白身が出て来た途端に戻ったりはしないだろう。

しかしスライムや巨大ダンゴムシといったモンスターも、地球上にいる掃除屋的役割を持った生物などと同じのように感じられる。もし異世界があるとするなら、そこではそんなファンタジーな食物連鎖が連綿と続いているのかもしれない。うむむロマンだな。

で、そんなスライムでも骨は食べないと。なるほど、またひとつスライムについて理解が深まった。


…。


軽くダンジョン前室の掃除をして、魔石もある程度自身の生み出した空間庫に移した。こうしておけばいつでも魔石を売りに行くことが出来る。

そんなことを終えてそろそろ出かけようかと冷蔵庫ダンジョンから出てみると、テーブルの上の通信端末には着信を知らせる明滅が。

「ん、誰からだろう?瑠羽からのメッセージは朝一番に来たし…」

基本、友達の少ないオレに電話をかけてくるヤツなどいない。まぁ時折、むかーしむかしに懸賞のアンケートに答えるのに記入した個人情報が未だに売り買いされているらしく、たまに変なセールスの電話がかかってくるけど。アレもまたしつこいんだよな。

「あ、ツナミさん。連絡くれたんだ」

着信は伊豆の浜辺で連絡先を交換したツナミさんからだった。


スーパー銭湯のマッサージ店に勤めている、ちょっとキツ目の印象を受ける金髪ソバージュのイケイケ美人おねえさん。でもそんな外見とは裏腹に仕事も言葉使いも丁寧で、オレは彼女をマッサージの師として尊敬している。

「(ぷるるるる…ぷるるるる…プ)もしもし江月です」
『あ、え?江月さんですか?』

「はい、お電話いただいたのに出れなくてすみませんでした」
『い、いえ!いいんですっ!私も急に電話しちゃって…!』

ツナミさん、相変わらず腰が低いなぁ。でも接客業するには、これくらい腰低くしないといけないのかもしれない。オレも見習わないと。

「いえいえ。それで電話を頂いた件ですが、以前にお話ししたあの件ですか?」
『え、ええハイっ!そ、そのお話ですっ!』

オレとツナミさんは、伊豆の浜辺である約束を交わした。オレがツナミさんのトレーニングコーチに、ツナミさんはオレのマッサージの先生になるという約束だ。

「そうでしたか。オレの方はいつでも大丈夫ですよ」
『ほ、本当ですか!実は今日シフトの手違いで急に休みになってしまって…それで、鳴人さんのことを思い出して連絡してみたんです』

「なるほど。ということは、今日が都合が良いという事ですか」
『えぇ、まぁ…。ほんと急に変な電話しちゃってすみませんッ!』

「ああいえいえ、大丈夫ですよ。オレの方も今日でなければいけないという予定はないですから」
『え…!それじゃあ!?』

「はい、大丈夫です。じゃあ、どこでどうするか決めちゃいましょうか?」
『ハ…ハイッ!』

期せずして今日は、ツナミさんとのレッスンデーに決まった。

ま、整体学校で学ぶのも、ツナミさんから現職の技を学ぶのも同じこと。いや、ツナミさんからは現職な分、より実戦に即した接客も学べるかもしれない。

貴重な体験ができそうだ。うん、なんだかワクワクしてきたぞ。
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