うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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チャクラオン!

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思いもよらぬ事というのは、案外と起きるもののようだ。

例えばうちの冷蔵庫がダンジョンになった事が一番だが、今日、朝目覚めた時にはツナミさんの勤めているマッサージ店で働くことになるとはひとつも思わなかったし、そこに桂名が現れるとも全く思いもしなかった。

で、今は受付カウンターで桂名と由香という連れの女性にコースを選ばせている。

お店のスタッフさん達は、こちらを気にしつつもとばっちりを恐れて目を合わせないようにしている。そんななかツナミさんはというと、このお店でもエースなツナミさんは騒動が起きた時に丁度オイルマッサージの施術中だった。なのでオイル塗れの手で出てくる訳にもいかず、時々カーテンの隙間からハラハラとした顔を覗かせていた。うむむ、心配させて申し訳ない。

そうして3分ほど受付でどのコースにしてどっちがオレのマッサージを受けるかと軽く揉めた後、ようやく40分コースで由香という女性がオレのマッサージを受けることに決まった。

まぁその決定的な理由は、桂名がオレに無防備な背中を晒したくないとビビったから。

最初こそ『江月に由香のカラダは触れさせない!』と強気なことを言っていた桂名。だったが、オレがヤツに対し『ニヤニヤをした笑みを浮かべつつボキボキと指の骨を鳴らし、足先から頭の先までをジロジロと視やる』という精神攻撃を行ったことで、その強気はポキリと折らせてもらった。

桂名に女性の前でカッコつけさせたくなどなかったし、実際に桂名がオレのマッサージを受けるのであれば、ま、それはそれで目一杯に痛めつける気ではいたけれど。

「由香!コイツに変なとこ触られたら大声で悲鳴をあげるんだぞ」

ちょっと待て、誰がそんなことするか。一般用のマッサージベッドは間仕切りもなく並んでいるのだぞ。そんなことするわけないじゃないか。

「はい、ではこちらのベッドに俯せに寝てください」
「は~い」

「江月!解ってるだろうな?変な事したらタダじゃおかないからな!」

うっさいな。おまえもさっさとベッド寝ろよ。お前を担当するスタッフさんが困ってるだろ。ベッドだってたいして離れていないんだから、細かいこと気にするなよ。

「はい、ではタオルをかけますね。どこが辛いとかありますか?」
「ん~、やっぱり肩と首、それに背中もすこし、かな」

ま、それはともかく接客モードで対応だ。

「わかりました。ではその辺りを重点的にやっていきましょう(さわぁ~~、さわわ~)」

ライトブラウンのバスタオルを掛けた背中に手を当て、由香という女性の身体を軽く揉みほぐしながら触診していく。

ふむ、やはりだいぶ背骨が曲がってるな。立っていた時の姿勢も猫背だったし、首もやや前につきでていた。そのため背骨の歪みと姿勢の悪さで、首肩周りの筋肉の凝り具合はかなり酷い。

『ぐっぐっ…もみもみ…』

(あ~…。これマッサージで揉みほぐすのメンドくさいなぁ。ヘッドハンギングインパクトで、ズビャっと背骨を真っ直ぐにすれば一発なのになぁ…)

しかし、このお店ではカイロプラクティクは行っていない。

なので、ツナミさんからもそういった施術はくれぐれもしないようにと前もって注意を受けている。よって、この場ではマッサージのみで対応しなければならないのだ。

「あぁ、そこ気持ちいい…、江月さん見かけによらずマッサージ巧いんだね」
「そうかい?それより一日中事務仕事で椅子に座ってるんだろ?肩がガチガチだ(ぐっぐっ…)」

「そうなのぉ!冷え性なのにクーラーも利き過ぎでさ、もうカラダに悪いったらないよ~」
「ふぅむ…これだけ凝ってると、お風呂に入っても簡単にはほぐれないだろう。夜はよく眠れてる?(ぐっぐっ…もみもみ…)」

この由香という女性。身体はかなり不健康な状態。特にオーラ視で気の流れを視たりしなくても、整体学校で学んだ知識だけで充分に不健康だと解る。

「え…?良く解ったね。なんか寝つきも良くなくてねぇ~、睡眠薬もらってるんだぁ。いつもはシャワーで済ませてるけど、やっぱり普段からお風呂も入った方がいいかなぁ」

おいおい、そりゃまた重症だ。このスーパー銭湯の温泉に入ったあとでこの凝り具合じゃ、自宅の風呂程度ではとてもじゃないが身体がほぐれないだろう。ほかにもなにか原因がありそうだ。

「もしかしてだけど、普段締め付け効果のある下着とか使ってない?冷え性は血行不良が原因だから、そういった下着を身に着けていると余計に血行が悪くなってむくみの原因にもなるよ(ぐいぐい…もみもみ…)」
「えっ!?なんでそんなことまで解るの…ッ!?」

「なんだ図星か。そりゃこうして身体を揉んで、状態を診ていれば解るさ(ぐいぐい…もみもみ…)」

ホントはよく整体学校でいっしょのグループになる色黒八重歯の後藤ちゃんが、何かの時にそんな事を言っていたから知ってたんだけど。

「あ…あの実はね、朝とか顔のむくみが酷くてェ、それでも悩んでたんだ…」
「うん、それはまぁ血行不良と寝不足が原因だろうなぁ。冷え性は体質的な面もあるけど、寝不足の原因は解る?(ぐっぐっ…もみもみ…)」

「…解んない、なんか寝ようとしても寝れなくて。神経昂ぶって寝られない感じ…」
「ふぅむ…神経がリラックスしないか。もしかして、寝る直前までずっと通信端末とか弄ってない?」

「エッ!?なんでそんなことまで解るの!?」
「いやいや、それは驚くほどの事じゃないよ。パソコンディスプレイなんかの光には、ブルーライトといって太陽光に似たモノも含まれているんだ。これを長時間、特に夜間に浴びていると睡眠ホルモンといわれているメラトニンの分泌が抑制されてしまうんだ。知らなかった?」

「え~、ブルーライトはなんか目に良くないって聞いたことはあるけど…。不眠症の原因にもなっちゃうなんて知らなかった…」
「そうか、まぁこれからは寝る前に通信端末を弄るのはやめて、睡眠の一時間前くらいからストレッチや瞑想をするのをオススメするよ(もみもみ…)」

「凄いねェ、江月さん結構勉強してるんだァ。会社勝手に辞めたって話聞いてたから、もっと不真面目な人だと思ってた」

失礼な。ちゃんと部長クラスもいる会議の席で、しっかり辞めますと意志を伝えたぞ。まぁ受理されたかは知らんけど。

「でもストレッチは解るけどぉ、瞑想ってナニ?ただ目を瞑ってればいいの?」
「目を瞑って呼吸を楽にして、無心になって心を休ませるんだ。え~と…解らない?」

すると再び『よく解らない』という返答が返ってくる。まぁ当然か。瞑想の良さは、心地良い瞑想を体験した者にしか解らないものな。

「はぁ~ッ、瞑想で身体がラクになるのなら、瞑想してみたいなぁ~」

ん…あれ?瞑想、そういえばスキル【瞑想】って、他人にも使えるのかな??

…。

以前に、オレはスキル【瞑想】を自己習得した。

下級霊との戦闘後、なんだかモヤモヤと気持ちが悪かったので塩サウナで全身塩塗れになり、一時間半に渡り熱いサウナの中で瞑想を行なうという苦行を経て、手にしたスキルだ。

このスキルを使えば、スッと瞑想状態に入れる。

ただあまりにスッと瞑想状態に入れ過ぎるので、なんだかありがたみがなくて普段はほとんど使っていなかった。いや、瞑想状態ってのは、集中し苦労した上で無何有の境地に達することができるのが良いのであって、例えばいきなり富士山やエベレストの頂上にポンとテレポート出来たとしても、さして嬉しくないのと同じ。麓から頑張って登頂したほどの感動は得られないのだ。

しかしこのスキル【瞑想】、便利なのは間違いない。

特に瀬来さんと一緒に暮らしている間には重宝した。瀬来さんが下で着替えていてそれが気になって集中できない時など、スキル【瞑想】の力を借りて瞑想状態に入って心を静めたことは一度や二度ではない。

でも今までこのスキル【瞑想】を他人に使ってみようとは、一度も思わなかった。これは果たして、他人にも使えるモノなのだろうか。

「瞑想、もしやれるならしてみたいんだ?(もみもみ…)」
「そうだねェ、なんか気持ちよさそう…」

そうか、なら試しにかけてみよう。

(【瞑想】のスキルよ、この者を無何有の境地に導きたまえ…レッツ、メディテーション!)

『ビヨヨヨヨヨヨ……』

オレの手から放たれた魔力の波動が、スキル【瞑想】の効果となって俯せに寝ている由香という女性に降り注ぐ。

『チィキィーーーン…!』

すると聖なるティンシャの如き音が頭の中で鳴り響き、手を触れている由香という女性の意識が、瞑想状態の入り口に入ったことを教えてくれた。

(おお、成功だッ!すごいぞッ!!)

なんとスキル【瞑想】は、他人にもかけることが出来た。いまのところの発動条件は、『相手が瞑想してみたいと思っている事』と、『直接相手に手を触れている事』だろうか。

『チィキィーーーン…チィキィーーーン…!』

よしよし、瞑想状態はいい感じで維持できている。この何処からともなく聞こえてくる聖なるティンシャの調べが続いている間は、安心して良さそうだ。

よし、では次のステージへ。

(オレのチャクラを通って溢れ出た気を手の平から彼女の身体に流し込み、彼女の身体のチャクラもまた覚醒させる…。さぁゆけっ、チャクラオン!)

『きゅわわわわわわ…』

(む…反応が悪い。しかしそれも無理はないか。彼女のカラダは今、相当に不健康。気の流れも非常に悪く、チャクラも完全に閉じきってしまっている…。この生命波動の低さ…この子スライムよりも弱いんじゃないかな)

『きゅわわわわわわ…ビョョョョ…』

(お、ようやく彼女のチャクラに僅かだが反応が見られた。しかし少しでも流れが生まれればコッチのモノ。あとは川の流れが土を削って流すように、どんどんと流れを太くしていけば…ッ)

『きゅわわわわわわ…ビョョョョ…ビキョ~~!』

うん、なんとかチャクラ半開きの状態まで持って来れた。でもまぁ、こんなもんかな。あとは気を循環させ体内を巡らせてやれば、冷え性なんかもだいぶ改善されるだろう。

(桂名よ、おまえには解るまい!このオレのチャクラを通して出る力をッ!)

ま、そんな桂名のヤツは別のベッドで俯せになり『あ~ソコ良い…』とか言いながらそれなりにマッサージを愉しんでやがる。あ、スタッフさん、ソイツにはもっとゴリゴリやっちゃっていいですからね。
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