うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

文字の大きさ
93 / 660

粘液の有用性

しおりを挟む
ここは冷蔵庫ダンジョンの地下9層。


なんということでしょう。

天井から降り注ぐ冷たい印象を受けるダンジョンの青白い光を浴び、ヤギほどの大きさもある巨大カマドウマたちが『びょんびょん』と激しく床を跳ねまわっています。煉瓦状に組まれた青いダンジョンの壁には、軽自動車のボンネットほどの大きさもあるカメムシが、『ギチギチ』と異様な音を立て蠢いています。

そこはまさに地底に生まれた地獄、名状しがたき悪夢のような光景が眼前には広がっておりました。


しかしそんなSAN値のガリガリと削れそうな光景にも、怯むわけにはいかない。なぜならオレは、誇り高き【蟲王】の称号を持つ者だから。

「あ~ゴホン!カマドウマの諸君!そしてカメムシくんたちもこんにちは!オレは蟲王ッ!だからおとなしく言うことをあッ…ちょっ!おまえら一気に集まるんじゃない!まて痛ッ…!おいコラ、バール齧るなってばッ!」

【蟲王】の称号を持つオレが大事な話をしようとしているというのに、巨大カマドウマも巨大カメムシもまったく聞く耳を持たず容赦なく襲いかかってきた。なんだよ、ふざけるなと言いたい。蟲王】の効果があるのってゴキブリだけじゃないか。

「クソッ…もう怒った!溢れ出ろ粘液、粘液大噴出オーバフローミューカス!!」

巨大カマドウマと巨大カメムシという、なんとも酷いモンスターに囲まれ襲いかかられたオレ。しかし慌てずに全身からモッタリと重くベタつきを伴った粘液を湧出させる。

それは、スキル【粘液】の効果。

スキル【粘液】は魔力を操作してやることで、粘液に様々な特徴を持たせることが出来るのだ。それによってさらさらヌルヌルのローションのような粘液を生み出すことも出来れば、焼く前のパン生地みたいにボリューミーかつベッタベタで重みもある粘液も生み出すことができるのだ。

『ムクムクムクゥ~…ギチギチッ!…ジタバタ…!』

ガチガチと大きな顎を噛み鳴らしオレに噛みつこうとしていた巨大カマドウマと巨大カメムシ。

だが生み出されたモッタリ粘液に阻まれ、それに噛みつくもベタベタに身体の自由を奪われながら押し返されていく。

「まったく…人の話を聞かないからそういう事になるんだ!」

そしてトリモチに捕まった昆虫などは、言うまでもなくもはやモノの数ではない。釣った魚を締めるくらいの感覚で、容赦なく頭部にエクスカリバールを叩きこむ。

しかしなぜ、自分だけがモッタリ粘液に包まれていても自由に動けるのか。

それは魔力を操作し、自身の周りの粘液だけはその粘性を下げているから。それ故に外はモッチモチの、内はトゥルントゥルンの特製小龍包状態なのだ。

とはいえ粘液には包まれているので行動範囲は限られてしまう。ゆえにエクスカリバールの届かない距離にいるモンスターには攻撃が出来ない。

しかし…。

「フフフ…この特製小龍包は、いや違った。特製粘液領域は伊達じゃないのだッ!(しゅびゅびゅ~!)」

自身を包む粘液の塊から、触手状の粘液が伸びて巨大カマドウマと巨大カメムシたちを絡め取ると、雁字搦めに締め付けやがてはその全身を粘液で包み込んでいく。

「「「(ぎゅちぃ!…ジタバタ…モガモガ…ッ!)」」」

ドロドロと溢れ出た粘液が、やがてモンスターの全てを包み込む。

(フフフ…この粘液を『たかが粘液』などと侮るなかれ。人間だって喉に餅を詰まらせれば死んでしまうのだからな。それはたとえモンスターといえども同じこと。昆虫という生物の形式を取っている以上、その生命を維持するのには呼吸が必要不可欠なのではないのか…?)

…。

『……ぼふっ…ぼふっ!…ぼふんっ!』

読み通りに窒息死した巨大カマドウマと巨大カメムシたちが、粘液の中で息絶え煙となって消える。

派手さは一切なく、非常に地味、かつスローリィなバトル。だが攻撃を全く受けず、一方的にモンスターたちを蹂躙できるとう点は非常に大きい。

(うむむ…【塩】のスキルもただ美味しい塩が手に入るだけではなく、使い方次第でかなり攻撃にも使えると解った。しかしそんな塩以上に、スキル【粘液】は攻防一体のスキルとして有用だな…)

粘液を魔力で操りロープや触手のように動かせば、それはもう手足が伸びたのと同じ。【強酸】が強力過ぎるが故に使いどころの限定されるのに比べ、その点【塩】も【粘液】もかなり使い勝手が良い。

とすると【強酸】はここイチバンの必殺技として温存しておき、通常は【塩】や【粘液】をメインに戦う戦闘スタイルを構築していく方向で考えたほうが良いのではないだろうか。

…。

「ぎゅちぃ!…モガ…モガ…ッ!」
「ギチギチッ!…モガモガ…ッ!」

粘液にトリモチの如く捕縛された巨大カマドウマと巨大カメムシたち。自由を奪われ、正しく手も足も出ない状態になっている。

そして半透明の粘液なので、その姿をつぶさに観察するのには非常に適しているとも言える。

「さて、ではまずは巨大カマドウマの方から調べていくか…」

恒例のアナライズタイムである。敵を知り己を知れば、ワンハンドレッドウォー・ノープロブレムなのだ。

巨大カマドウマ。サイズはヤギ並み。色は黒ないし焦げ茶のツートン。長い触角と肢が特徴。カマドウマらしく翅のないキリギリスとコオロギの合いの子みたいな容姿である。ま、モンスターなので顎は凶悪に化け物じみているが。

攻撃は強靭な後足で跳躍したジャンピングタックル。そのまま獲物を押し倒して嚙り付くという、至ってシンプルな攻撃手法を得意とするようだ。まぁ巨大で見た目が気持ち悪いという点を除けば、さして手強いという印象は受けなかった。

次に巨大カメムシ。サイズは軽自動車のボンネット並み。但し全身を硬い外骨格に覆われているので、軽自動車のボンネットよりは硬くて頑丈そう。色は木の葉のような鮮やかな緑色だが、デカいしギチギチ言っているので全然可愛気はない。

そしてなによりも臭い。ヘコキムシやヘッピリムシなんて呼ばれるように、巨大カメムシも通常のカメムシと変わらずに臭い匂いを分泌している。

防毒マスクを装着した蟲王スーツですら鼻をつく悪臭を感じるので、素の状態で匂いを嗅いでいたら戦闘不能に陥っていてもおかしくは無かったろう。

「うむむ…いずれにしても戦っていて楽しい相手ではないな…」

拘束し観察していたモンスターに止めを刺し周囲に目を向けると、その他の粘液に捕えられたモンスターたちも酸欠により徐々にその数を減らしていく。

「はぁ…、しかし。なんだってまぁ、うちの冷蔵庫ダンジョンにはこんなにも不快害虫みたいなモンスターばかりが目白押しなんだ。もしかしてアレか…深層意識を読み取って人間の嫌がるようなモンスターをダンジョンがチョイスしているのか…?」

そんな展開を、オレは悪夢ナイトメアシステムと呼んでいる。

いや、ホラー映画なんかによくあるのよ。人間が怖いと思っている存在にモンスターが姿を変え襲いかかってくるという展開が。有名なトコだと〇ルム街の悪夢とか、〇ーストバスターズの〇シュマロマンとかね。

昔のホラー映画は今みたいなCGじゃなくてパペット使ったりアレコレ工夫して特撮してるから、そういうの観るのが愉しくてホラーは割と観てる方だと思う。

(ふ~む、でもそれでいくと饅頭怖いの要領で、うまく誘導もできないものか…?)

「オホンオホン…!あ~、あ~。…あぁ怖かったぁ!うわぁ~!虫、怖いなぁ!でも美少女じゃなくて良かったよ!もしカワイイ美少女に襲われでもしたら、オレ腰抜かしてオシッコ漏らしちゃってたかも知れないなぁ~!(ちらちら)」

うん…何も起きない。まぁそうだよな、でもちょっとだけ期待したんだけど。

「はぁ…仕方ない。面倒だけど地下4層で【粘液】宝珠集めでもするかな…」

スキル【粘液】は非常に使い勝手のいい優良なスキルだというのが解ってきた。ならばこれをレベルアップしておかない手はない。


ダンジョン地下9層…、そこは巨大カマドウマと巨大カメムシという日陰の草むらにいるみたいな虫型モンスターの跋扈する地獄だった。

それにも飽き、やれやれとダンジョン地下4層に移動した。だがそれでもやっぱり巨大ナメクジも日陰の草むらにいるようなモンスターで、なんともいえない思いでオレは再びモンスターと戦い始めるのだった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

処理中です...