うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

文字の大きさ
99 / 660

夜のガサガサ

しおりを挟む
『ぴきぃーーーーん………!』

無念無想、無何有の境地。瞑想により自身の意識を深く深く心の奥底へ、はたまた遥か高く高く虚空の彼方へと飛ばす。塩サウナの中で。

しかし良い時間帯なので、塩サウナの中も結構な人の入り。

でもだからといって、ガヤガヤとした人の気配にも集中を乱してはいけない。沸き起こるサウナの熱気にも集中を乱してはいけない。心頭滅却すれば火もまた涼し、だ。

ただ、それを言ったお坊さんはそのまま焼け死んだそうだが。

ま、塩サウナで頭の上に塩をてんこ盛りにして瞑想するオレに、話しかけてくるモノ好きはいない。たぶん相当頭のイカれたヤツだと周囲から思われているだろう。が、それらは俗世の些事に過ぎないのだ。

そうして集中していると、やがてまた塩の精霊たちとのチャンネルが繋がった。

『ぴきぃーーーーん…!』
(((…ッ…ッ……ッ…)))

相変わらず何を言ってるのかも解らない。

が、意識や感情のようなモノがこちらに向いているのは、感じとれる。それでいい、オレはただ…彼らと向き合い心を溶け合わせればいい…だけ…。

(ざざ~ん…ざざ~ん…)
「…ハッ!?(ばっ!)」

あれ…?ああ、なんだ、サウナの中か。なんだか長い時間広い大海原を漂っていたような気がする。ム、それに気付けばもう一時間半も経っているではないか。

塩サウナで瞑想すると、どうも自然と90分コースになるみたいだ。なにか意味があるんだろうか。っと、いかんいかん。今日は瀬来さんとスーパー銭湯に来てるんだった。長湯するとは言っておいたけど、これはさすがに待たせてしまってるな。早く出ないと。。。

「……」

表に出て瀬来さんの姿を探すと、瀬来さんはソファーに腰かけドリンクを飲みながらつまらなそうに肢をぷらぷらと揺らしていた。うむむ、やはり少し待たせてしまったようだ。館内着で歩く人が多い中で、私服姿の瀬来さんは周りから少しだけ浮いて見える。

「や、すまない。遅くなってしまった」
「ううん…。なにかゴハンたべよっか」

あら、どうしたんだろう。やけにテンション低いな。いつもの瀬来さんなら怒るにしても、「もぉ!遅~いッ!」なんて言うはずなのに。

「……」

並んで歩きつつも、気になって横顔を覗きこんでみるも無表情。

怒っている訳でもないが、さりとて面白い訳でもない。そんな顔をしている。勉強している時はよくそんな顔でノートに向かってたっけ。

「…瀬来さんはなに食べたい?」

しかし女心の機微に疎いオレには、食べ物で機嫌を取るくらいしかいい案が思い浮かばない。くそう…桂名のヤツとか、ホントどうやって女の子の機嫌取ってるんだろ…。

「ん~、天ぷらとおそばとかは…?」
「お、いいね!たっぷり汗をかいたから、塩気のあるそばつゆを頂きたいね。それでサクッとした天ぷらも追っかけで頂いて。う~む、唾が出てきた…」

「あはは、でも師匠なら自前の塩があるじゃない」
「まぁそれはそうだが、それも料理と合わさってこその塩だろ?」

「そっか、料理と合わさってこその塩…か(ぽつり)」
「ん…、どうした?」

「ううん、なんでもない。あ、あそこの席空いてるよ師匠!」

………。

「(ずッ!ずばぞぞぞ!…むぐむぐ…サクッ!…もぐもぐ…)」
「(ずッ!ずるるっ…もぐもぐ…)」

ふたりでテーブルに向かい合い、ざるそばと天ぷらの盛り合わせを頂く。

瀬来さんはオレと食事をするとき、引っ張られるのか少しだけ行儀が悪くなる。でも、麺類は勢いよく啜るのが作法であろう。それにお淑やかに食べられるよりも、女の子でも瀬来さんみたいに食べっぷりのいいのを見る方が、オレは気持ちが良かった。

「瀬来さん、どうかした?今日は何か少し元気がないみたいだけど?」

訊かないのも優しさなのだろうが、さすがに気になったので訊いてみる。こんな時どちらが正解なのか、オレにはさっぱり解らない。

「んん~、ちょっと…色々とね…(カリッ、しゃくしゃく…)」

言葉を濁しつつ海老天を口に入れ、咀嚼する瀬来さん。

うむむ、どっちだろう?これは「もう訊かないで」っていうサインだろうか…。うん、でもそうだよな。ストーカー問題とか、色々とあったもんな。ストーカー男の母親にも襲われたりなんかしたら、さすがに後も引くはず。それを思い返したくはないのだろう。

それから、瀬来さんはオレにスッポン鍋がすこぶる美味しかった!なんて話をして、それ以上自身の悩み等について語る事はなかった。

…。

『ひゅおおおお~!ガサガサガサざざぁ~!』

瀬来さんをバイクの後ろに乗せ自宅に送り届けた後、オレは風の強く吹く川原にバイクを停め夜景を眺めていた。

『ファ…ン!ガタンゴトン…ガタンゴトン…』

遠くに見える陸橋を、光の帯のようになって電車が走り抜けて行く。そして川の水は、ダンジョン入り口の真っ黒のように暗い。

なんだろう、ひどく心がざわつく…。

別れ際、アパートの前でヘルメットを返しながら「師匠、いろいろとありがとね」と言った瀬来さんの言葉が、ヤケに心にひっかかったのだ。

言葉としては単なるお礼の言葉だった。が、どこかなにかの終わりを告げられているような…。

振りかえって瀬来さんのアパートのある方角を見てみるも、それで何かが解ろうはずもなく淋し気な風音だけが響いて耳を打つ。

(なんだったのだろう…?)

とはいえそれがオレに関係のない事ならば、余計な口出しはかえって不興を買うだけか。

(まぁ、瀬来さんのことだ。なにかあればまた遠慮なくオレに言ってくるだろう。気にはなるが、少し様子をみよう)

『ひゅおおおお~!ガサガサガサガサぁ~!』

そうだな、気分を変えよう。

うん、そう気分を変えて土手下の川を見下ろせば、景色もまた変わって見えてくる。淋し気に見えた夜の川辺の景色も「お、あの辺なんかいそう!」と感じさせるポイントがいくつもあった。

そう、オレは天然物のスッポンをゲットしたことで、味をしめていた。

いくらダンジョンでモンスターを狩ったところで、美味しい食材が手に入る訳ではない。うむ、獲物を狩って食す。キャッチ&イートでこそ、狩猟本能を満たすことが出来るのだ。

(そうだ、獲物を探そう…!)

オレはダンジョンでモンスターと戦う事で、原始的な本能が目覚めてしまったのだろうか。なんだかやたらと獲物を狩って食すという、キャッチ&イートがしたくてたまらない。

そこで土手を降り、川まで密生する葦をかき分けながら進む。足元は薄らとぬかるんでいるが、靴に滲みて来るほどではないな。よし、このまま一気に川べりまで行ってしまおう。

『がさがさがさ…』

あしだらけ、葦だ。葦が密生している。日本の神話には、可美葦牙彦舅尊《ウマシアシカビヒコジノミコト》という神が一番最初に登場する。

これは伊弉諾尊イザナギノミコト伊邪那美命イザナミノミコトが、天沼矛あまのぬぼこで日本国土を生み出す国造りの前に登場する神だ。

可美ウマシは美称。今であれば、『イケてる』とか、『素晴しき』と思えばいいだろう。葦牙アシカビは葦の若芽の事、彦舅ひこじは逞しい男性という意味で、まとめると『素晴らしい葦の芽の逞しい男性神』となる。

今の感覚だとちょっとピンと来ないかもしれないが、葦というのは刈っても刈ってもすぐに生えてくる植物。なのに、さらにその芽ぐらいに生命力つよつよな男の神様ということだ。

まぁ周囲に何もない古代人には、きっと神を例えるにしても他に例えようがなかったのだろう。

「お…ようやく川に到着か。さてライトオン、なにかいるかな…?」

川べりはブロック、護岸ブロックというのだったか。

斜面になった四角いコンクリートが並んでいる。そしてそんなコンクリートの斜面に光を当てると、ミニライトの光をチカチカと反射する小さな眼がいくつも見えた。

「む、あれはエビか…?おお、手長エビがあんなにたくさんいるじゃないか…!」

子供のころはよく川や池に出かけては生き物を捕まえていた。

ザリガニだとか、カエルやメダカ捕まえて飼っていた。だがそんな時に一緒に捕まえていた手長エビが美味しくいただけると知ったのは、つい最近のこと。これもまたサバイバル系動画を視聴して得た知識だ。

「ふむ、獲物としてはすこし小さいが、数としては申し分なし!天ぷらとか、かき揚げとか…っておんなじか。ともあれアイツらを捕まえよう!」

だが今回も例によってタモもなければ釣竿もない。でも大丈夫、スキル【粘液】を駆使すれば手長エビくらい容易く捕まえてくれよう。

「喰らえっ!粘液円蓋ミューカスドーム!(きゅばぁあ…ん!)」

投網の如く広がった粘液が、川面に着水しゆっくりと沈んでいく。

「む…やはり薄い粘液の膜だと、川の流れと水でだいぶ溶かされてしまうな…。これは魔力のコントロールが重要だぞ…、よっと…ッ!」

粘液のドームを着底させると、巾着の口を締めるように窄めていき手長エビたちを閉じ込める。そうして大きな袋の形状を形成すると、上部に設けた穴から少しずつ水を抜いて川から引き揚げた。

『ず…ざしゃあああぁぁ…(びちびちッ!びちびちッ!)』
「おおっ、すごい!大漁じゃないか!」

粘液ネットで捕獲にするには、少々獲物が小さすぎた。その為粘液円蓋で捕獲を試みたが、目論見通りに見事手長エビを大量ゲットすることが出来たぞ。

金額でいえばたいしたことはないのだろう。が、自分で食べる為の食材を手に入れるというのは、なんとも心躍るものがある。

「よしよし、手長エビくんたちよ。キミたちはお持ち帰りして美味しく頂くからな!」

そこそこ大きなビニール袋いっぱいにゲットできた手長エビたち。コレを土産に、オレは意気揚々と帰路につくのだった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

処理中です...