うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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手長海老

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ここはいつもの整体学校の教室。

「うおぉぉ超微細震動破ーッ!(ぶるぶるぶる…!)」
「お、イイ感じですよ武藤さん!」

なぜかオレの編み出した超微細震動破に強い関心を示したブルドック顔のおっさん武藤さん。度重なる指導と本人の弛まぬ努力により、武藤さんは超微細とはいかないまでも、『ほどほど震動破』を会得しつつあった。

「いやぁようやくここまで来たよズッキー、ありがとう!」
「おめでとうございます武藤さんッ(がしっ!)」

武藤さんは開業したときに、この震動破を自身の売りにしたいそうだ。脱サラしての第二の人生、ぜひ頑張ってほしい。

ただ、もう少し痩せたほうが良いかな。震動破を放つ時に顎についたお肉もぷるぷると震えて、どうにも笑いを誘うから。

そんな感じで愉しく整体学校で学んだ後は、温泉の銭湯で一風呂浴びる。

もはやオレのマッチョになった体格では、自宅の浴槽ではトランスフォームでもしない限り入浴不可。故に銭湯通いが日課になっていた。

「フゥ~~ッ、いい湯だった。やはり広い湯船で手足を伸ばせるのは最高だなぁ。ん…?」

風呂から上がりバイクを出す準備をしていると瀬来さんからメッセージが届いていることに気付いた。

ただ今の時刻は午後6時。10分ほど前に届いたメッセージには、『師匠、あそびに行っていい?』とある。むむむ、『いいけど、今日はもうお風呂も外食もないぞ?』と返すと、『それでもいい』と返ってきた。

なんだろう?風呂やメシのたかりではないようだ。

まぁいいか。それにしても瀬来さんも夜に男の部屋に遊びに行くとか、よっぽど信用されてるのか舐められてるのか。なんにせよ余り感心できないな。オレだって我慢するのが大変なんだぞ。

…。

ともかく帰路買い物を済ませ帰宅し部屋着に着替えていると、いくらもしないで瀬来さんが部屋の扉をノックした。む、随分と早いな。もしかしてメッセージを送った時には、もうこっちに向かってた?

「(がちゃ)やぁ、いらっしゃい」

扉を開けると、ブラウンのジャケットにジーンズ姿というラフなスタイルの瀬来さんが、大学で使う荷物とビニールの買い物袋を手に持って玄関に入ってきた。

「こんばんは師匠~。いやぁ~日が暮れると急に涼しくなるね~。あ、先トイレ貸して、なんだか冷えちゃって…(ガサガサ)」

瀬来さんは手にした荷物をオレに預けると、まっすぐトイレへと向かう。

オレはそんな荷物を部屋に置き、ガサガサと買い物袋の中身を確認すると、中にはおつまみとサワー類が何本か。瀬来さんはビールも好きだが、家飲みする時はお求めやすいサワー類をよく買う。オレ?オレは家飲みでは発泡酒ばっかりだよ。時々はウイスキーなんかも買うけどね。

「キャアアアァァーッ!」

と、そこに突然、耳をつんざく女性の悲鳴。

ていうかこれは、トイレに行った瀬来さんの悲鳴だ。

「瀬来さん!だいじょうぶッ!?(がちゃ)」
「え!ちょっ…ヤダ待ってッ!開けないでよッ!(ぐっ!)」

即座に救援に駆けつけると、瀬来さんが中から扉を押さえつける。くそっ、中で一体何が!

「(ドンドンドン!)瀬来さんッ!どうした!?」
「師匠~ッ!なんでバスタブにちっさな海老がたくさんいるのよッ!?ビックリしたじゃないッ!!」

ああ、なんだ。そのことか。

「手長海老だよ、捕まえたんだ」
「エェ~ッ!?…それがどうしてバスタブにいるの!?」

「泥抜きしてるんだ。泥を吐かせて糞もさせないと、捕まえて直ぐに食べると臭みがあるかもしれないから…」
「もぉ…ホントおどかさないでよぉ…(ショロロロロ…)」

(ホワッ!?え…瀬来さん…、も、もしかしてお話ししながら致してます!?)

そんな馬鹿な!瀬来さん、なんて不用心な…。あ…いや、これは常人では聞き取れないか。常人約20倍のオレだからばっちり聞こえてしまってるんだな…。

ハッ…いかんいかん!こんな恥ずかしい音を聞かれたと知ったら、瀬来さんが恥ずかしさにどうにかなってしまうかもしれない。うん、オレはなにも聴いてない!あ~あ~!何も聴いてないぞッ!!

そこで大袈裟に『ごほんごほん』と咳払いをしつつ、テーブルの上に買ってきたモノを並べる。

「(ジャ~ッ!がちゃ…)もぉ…ッ!オシッコ漏れるかと思ったじゃないッ!」
「いや、それはすまなかった。でも説明する間もなかったからさ…」

でも瀬来さんが大惨事にならなくて本当によかった。

もしあのまま瀬来さんが大惨事になっていたら、オレはダッシュで代わりのおパンツを買いに走らなければならず、瀬来さんは瀬来さんで手長海老で入れない浴槽と、トイレの狭間という超極小空間でシャワーを浴びねばならなかった事だろう。

「もう…。それで?あのエビちゃんたちは何なの??」

そうジト目でオレを睨む瀬来さん。

「だから手長海老だよ…。この間瀬来さんを送った後で、近くの川で捕まえたんだ。今日は手長海老で夕飯を食べようと思って…」
「え…それって料理するってことッ!?私もやりたいっ!(ぱあぁ~!)」



あ、瀬来さんの機嫌が直った。こういう時の瀬来さんはホント解りやすいな。

「よし、それじゃあ瀬来さんにも手伝ってもらおうかな」
「うん!私はなにすればいい??」

料理すると知ったらやけにテンションの上がった瀬来さん。
うん、ならいっしょに料理しようか。レッツ、クッキング!

…。

「瀬来さん。それじゃあまずは、服装をどうにかしないと。海老は揚げ物にしようと思ってるから、油跳ねとかしたら嫌でしょ?」

今の瀬来さんの恰好はジャケットにジーンズ姿とけっこうラフだが、オシャレラフなので油跳ねなんかで汚れたらそれなりに凹みそうではある。

「あ、そうか…、じゃあ師匠の服貸して~」

あ、なんかいつもの瀬来さんだ。

まぁいいよ、衣替えでまだ痩せてた頃の冬服が出て来たから。オレにはもう着れないし、最後に可愛くてお胸の大きな女子大生に着られたなら、オレが痩せてた頃に着ていた服も本望だろう。ホント…あの頃は女っ気なんか一切なかったからなぁ。


「(ごぞごそ…もそもそ…)どう、似合う?」
「ああ、すこし大きいけど、悪くないんじゃない?」

オレは、『ま、どれでも好きなの着てよ』と冬物衣類の入っていた収納ケースを指さした。そしてその中から瀬来さんが選んだのは、長袖のトレーナー。

「う~ん、やっぱり師匠って手足長いんだねェ~(ふりふり…)」

うん、瀬来さん肩ハミしてますよ。もっとタートルネックのとかあったでしょ。それに余った袖をそんなフリフリしてたら、お料理も出来ないでしょ。ちくせう。ちょっとアホな子みたいな感じなのに、可愛い女の子はどんな格好しても可愛いな。

まぁ気を取り直して、指示をだしていこう。

「は~い、じゃあ着替え終わったら手を洗って、テーブルの上にある野菜を切ってね」
「オッケー。でも師匠…、ニンジンとタマネギはかき揚げにするんだって解るけど、このキャベツはなんなの…??」

と、ここで瀬来さんが疑問に思ったのは、テーブルに置かれた半カット分のキャベツ。

「ああ、それは千切りにして。オレ、天ぷらをソースで頂くのも好きなんだ。だからかき揚げ天丼を作るのに、ご飯の上に千切りキャベツをたっぷりと敷いて、その上にかき揚げをオンしたうえで、中濃ソースをドバァ~ッかけて食べようと思って」
「え…!?なにそれすごい美味しそうッ!!」

「ハハハ、なら出来るだけ細かくキャベツを刻んでもらおうかな」
「は~い♪」

ふふふ…オレとて独り暮らしをしてはや数年、ご飯を作ってくれる彼女もいなかったし、食費を浮かせる為にそれなりに自炊を熟してきたのだ。なのでカンタンな料理ぐらいはそこそこ出来るのだぞ。


『タンタンタンタンタン…』

うん、瀬来さんが部屋のテーブルの上で野菜をカットしている。うちのキッチンは一畳もないので、ふたりはいられないので部屋の方で作業してもらう。よし、それはともかくオレも準備を進めよう。

「(がさごそ…くわん)そこそこデカい鍋ぇ~!」

流しの下から、そこそこデカい鍋をオレは取り出した。

解説しよう。そこそこデカい鍋とは、安月給だったオレが日々の食費を浮かす為にカレーやらお鍋やらを作り置きできるように買い求めた鍋だ。食生活を支えるうえで、コイツにはかなり助けられた。

「よし、これに油を張って…(とっとっと…)。続いてアルミホイルでドームを形成…(ガサガシャ…)」

解説しよう。アルミホイルでドームを形成とは、油を入れたお鍋の上にアルミホイルでドームを作り油跳ねを防ぐ防御機能の事。これをしないと、油が跳ねて後の掃除が大変なのだ。

「師匠、もうすぐ野菜切り終わるよぉ?」
「よし、では油を火にかけておくから見ておいてくれる?オレは海老の下ごしらえをしてくるから」

『ブゥ~~ン…(ぷくぷくぷく…)』

移動したユニットバスでは、延長コードで繋がれたポンプが浴槽に張った水に酸素を供給している。コレもオレが昔々に水槽で魚を飼っていた時のモノだが、『釣りでもした時に必要になるかも』と、ポンプだけはずっととっておいたモノ。それがこうして数年ぶりに日の目を見、かつ元気に動いている姿を見るとなにやら感慨深いものがある。

ふふふ、コレ全て貧乏性の為せる技也。

『(ぷくぷくぷく…)ぴちゃ!ぱしゃ…!』

浴槽の中の手長海老たちは一昼夜泥と糞を出させたので、もう充分だろう。もう少し糞を出させた方が良い気もするが、あまり長時間空腹にさせておくと、こいつらは共食いを始めるからな。この辺が頃合いだ。

「(ざしゃぁあ~っ…びちびちびちッ!)おお、まだ全然活きが良いな♪」

金ザルで手長海老を掬い上げてみると、思いのほか活きが良くて嬉しい。

「よし、ではサクッと水気を切ってしまおう。超…微細…震動破ァー!(ブリリュュュ……ッ!!)」

解説しよう。オレの編み出した超微細震動破は、水切りにも活用できるのだ。但し、余り激しくすると海老の身が粉砕されてしまうので、加減には注意が必要。

「師匠~ッ!そろそろ油が良い感じだよぉ~」

おお、そうか。では、揚げ始めようではないか。美味しく、そしてサクッとね。
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