うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

文字の大きさ
120 / 660

ロキ

しおりを挟む
「ぴぃぴぃ♪」

「ん…?にふふ。ハチミツ湯、お代わりするか?」
「「「ぴぃ」」」


オレはダンジョン前室で寛いでいた。そしてそこには、カード化して地下12層から連れ帰ったピクシーたちもいる。

モンスターはカード化することでダンジョンの制約から逃れられるようだ。ピクシーたちも最初に遭遇したときの攻撃的な態度は見られず、魅了を解いた後でも非常に友好的だ。

前室でカードから召喚すると、壁に並んだ美少女フィギュアを見て自分達も剥製にされるかと青い顔をしていた。が、美少女フィギュアが作り物だと解ると、フィギュアの持っていた剣などを奪ってチャンバラを始めだした。大事にしているモノなので、それは止めて欲しい。

で、今は遊び疲れた彼女たちにハチミツ湯を振る舞っている。

このハチミツも長らく台所に放置されていたモノ。だが、ハチミツは腐らないので安心。なにせエジプト王朝のあった時代のハチミツ壺が出土して、それでも品質に問題がなかったというほどなのだから。なのでピクシーたちも喜んでハチミツ湯を飲んでいる。

女性ひとりに、それを取り囲むように舞うピクシー。

絵画なら非常に画になる構図。だが、生憎と女性が美しい少女ではなくアマゾネスマッチョなところが減点だな。

だがどうだろうか、実に素晴らしい光景だ。まるで美少女フィギュアたちが命を持って動き出したかのよう。うむ、それはオタにとってはまさに夢の光景だ。

ところで男の身体から女の身体に変わってしまったが、意識は依然として男のまま。だから女の身体に変わったからといって男を好きになったりはしていない。なので綺麗で愛らしいピクシーたちに囲まれて、幸せだ。

そんな全裸にも見えたピクシーたち。だがなんと身体に超フィットした極薄スーツを着ていた。素材は植物の繊維のようで、なんとなく枝豆の豆を包んでいる薄い膜に似ている。全裸もいい。が、包まれてるのも嫌いじゃない。なのでオレはこの極薄ぴっちりスーツがいたく気に入った。

今も彼女たちを指先で触れたりくすぐったりして、極薄ぴっちりスーツの感触と肌ざわりを愉しんでいる。

まぁ自分が女性になったことで、自身に興味を持たないのか?という疑問もあることだろう。当然オレも自分の胸を触ってみたり下も確認してみた。でも、それだけだ。自分を視て特に性的に興奮したりとかはない。たぶんそういうのは、ナルシストの領域なんだろう。

それに付け加えて、ひとりエッチなどもしていない。理由は変にそういう快感を覚えて肉体と意識が強く結びついてしまっては、それが原因で元の身体に戻れないような気がしたから。

これがホイホイと男にも女にもなれるのなら、試してみてもいいだろう。が、やはり現状ではリスクが高すぎる。うん、女性の身体にも多少は慣れたが、やはりモテなくてもいいから男の身体には戻りたい。だから今は、性同一性障害が悩みのタネだな。

と、そういえば神話にも男から女になったという神さまがいる。

それは北欧神話のロキという神さま。このロキという神さまは、善というほど善ではなく悪というほど悪ではない。いうなればイタズラ好きでお調子者で、ほぼほぼにニュートラルな神だった。ただイタズラばかりするので、真面目な神々からはけっこう嫌われていたそうな。

聞き馴染みのない神の名だろうが、実はあの超有名な魔狼フェンリルの生みの親。

日本神話の伊弉諾尊イザナギノミコトも男の巨神でありながら、天照大神アマテラスオオミカミ月読尊ツクヨミノミコト素戔嗚尊スサノオノミコトと単身で生み出しているが、ロキが魔狼フェンリルを生み出すお話は曰くのある結構ダークなモノだったりする。


ある時、大神オーディンに呼ばれたロキ。

『んあ?オレのこと呼んだオーディン?(ほじほじ…)』
『ああ、ヌシちょっと巨人のとこまで偵察しに行ってくれへん?』

このオーディンという神は、北欧神話の最高神。

だが、世界の知恵や秘密を得るために片目を自ら潰したり、魔槍グングニルで自分ブッ刺したまま世界樹ユグドラシルで首吊りして9日9夜過ごすとかやってのける、けっこうアレな神だったりする。

その語源が『狂気、激怒(した者)の主』ということからも、そのアレっぷりが窺えるだろう。

『えぇ~ヤだよ、メンドくさいし(ほじほじ…)』
『いやロキよぉ!(ぽわわ~ん!)あの、オマエほらさ!ちょっと他の神々から馬鹿にされてるじゃん?そんなおまえが巨人のとこに偵察に行って、なんかスゴイ情報を持ち帰ってきたとするさ!そうするとわぁ~スゴ~イ!ってみんなおまえの事を見直すんじゃない?って、そういう話よ。うん!』

『えぇ~、ホントにぃ~??(ほじほじ)』
『うん!これはマジよマジ!ん~ワシもね、こんな難しい任務を任せられるの、ロキしかいないなぁ!って思ってるから!ね!行こう!行こうよ巨人のとこ!』

『そっか!じゃあ行ってくるお!ブ~ン!!』
(くくく…、あいつマジちょろいやん…)

とまぁ昔の神々はなぜか大概自分達を生み出した巨人、ないし巨神と争っている。平和な権力移譲が行われたのは、オレも日本神話くらいしか知らない。

伊弉諾尊イザナギノミコトが天照大神の産まれたことを喜んで、『うわぁ!めっさ凄い子生まれた!じゃ俺、伊弉冉尊カミさん地獄行って腐女子になっちゃったし、天照あと頼むわ!ジュワッ!!(ヒューン!)』てな感じだ。

北欧神話のオーディンもまた、男神と女巨人との間に生まれた半巨人的な存在である。ギリシャ神話でも超巨神ウーラノスが巨神クロノスによって倒され、巨神クロノスもまたゼウスによって倒されている。彼らもまた親子だ。

まぁその当時の人間からすれば巨大な恐竜の骨なんかを見てぶったまげつつも、『でも今はどこにも存在しない』>『なら遠い昔に巨大な存在は滅んだ』>『だったら神も自分達と同じくらいにダウンサイジングしてるやろ』的な思考の転がり方でもしたのだろう。


ともかく巨人たちの住む国、ヨトゥンヘイムに向かったロキ。でもそのままの姿ではアッという間に潜入がバレてしまう。そこでロキは、美しき女型の巨人へと華麗に変身した。

こうして絶世の女型巨人に変身したロキは、見事巨人たちの中枢に潜り込むことに成功。だがその美しい見た目が災いし、巨人族の王に見初められ押し倒されてしまった。

その時どうしてロキが変身を解いて逃げ出さなかったのかは不明。逃げられない状況だったのか、変身を解いたら殺されると思ったのか。

ともかく神であるロキは、女型の巨人への変身も完璧すぎたせいで妊娠してしまう。

そうして泣く泣くアースガルズに逃げ帰ってきたロキ。が、そこで『月をも噛み砕かんばかりの大きな顎を持った魔狼フェンリル』と、『どこまでも長く長大で置き場所にめっさ困る超巨大蛇ヨルムンガルド』と、『半分生きてて半分死亡、生と死の両属性を持つ不思議少女ヘル』を産み落とした。

が、神々はそんなロキを見て『おまえ何してんねんッ!』と、大バッシング。

で、『魔狼フェンリル』は荒野に緊縛放置、『置き場所にめっさ困る超巨大蛇ヨルムンガルド』は海に不法投棄。『生と死の両属性を持つ不思議少女ヘル』だけは言葉が通じたので、『素直に地獄に行くなら何もしない』と神々に言われ、『ほんなら地獄ヘルヘイムの所有権、ウチが貰うわ』とヘルは地獄に堕ちていった。

ロキは突撃潜入スパイ大作戦の結果妊娠してしまった事からお咎めなしだったが、生んだ子供たちはみな悲惨な状況に置かれた。

『オレ、オーディンの頼み聞いただけやのに…なんで、なんでこないに酷い事するんやぁ~!!』

コレがきっかけでロキの心は闇堕ちし、神々に復讐を誓う事になる。そして世界には終末戦争ラグナロクへと向かう風が、静かに吹き始めるのだった。


まぁ神話にも諸説ある。

違う話も知ってはいるが、このお話が一番しっくりとくると感じている。でなければロキもオーディンの息子を『チヤホヤされてて面白くないから』などという理由だけで殺したりはしないだろう。そこには過分に、ほかの神々が自分の子供たちにした酷い仕打ちが加味されているように思う。

またフェンリル達を巨人の妻であるアングルボザの心臓を、ロキが食べる事によって生んだとする異伝もある。

が、それこそ意味が解らない。きっと『心臓を食べる』というのは、直訳ではなく何かの比喩なのだろう。例えば『巨人の王のハートを射止めた為』とか。なのでロキの妻とされるアングルボザは存在せず、巨人の王もしくはロキが女型の巨人に変身した時の事を指しているとすると、実にスッキリと腑に落ちる。

「ぴぃ!」
「ん、またお代わりか?よし待ってろ、いま作ってきてやるから」

ロキという神…。

イタズラ好きで、お調子者で、嫌われ者。どことなくオレとは共通点が多いような気がして、オレはこの神さまを嫌いじゃない。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

処理中です...