うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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女子会鍋パーティー

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「瀬来さん、危ないから来るなと言っただろう…(ミューカスウォール)」
「えぇ~、だって戻ってくるの遅いんだもん」

オレは咄嗟に瀬来さんの視界から、背後の外殻置場を隠すようにして前に立ちはだかった。

なぜならば、人は隠そうとされるモノほど視たくなるから。そう、これは高度な心理戦。オレが真に瀬来さんに見られたくないモノは、ダンジョン入り口から見て左手の一角に纏まられたアニメポスターや美少女フィギュアなどのオタグッズたち。

しかしてその心理戦は功を奏し、瀬来さんは静かに粘液壁に包まれていくオタグッズには全く気付かずに、オレが背中に隠した外殻置場へと目を向け首を伸ばしている。

「あっ!アレってもしかして…!(タッ!)」

瀬来さんが脇をすり抜け外殻置場へと走る。無理にでも手を掴んで止めようかとも思ったが、もうピクシーたちもオタグッズも隠し終えたのでまぁ問題はないだろう。

「コレ、私の鎧!?作っててくれてたんだ!」
「あ、それは…」

「わぁ良く出来てる!あ、これがヘルメットね。ん、でもすこし変わったデザインじゃ…きゃあああ!!」

あ、瀬来さんが蠅の女王の頭をヘルメットと勘違いして手に取ってしまった。そしてちょっぴりグロテスクな顔に驚いて投げ捨てた。もう、投げたりしないでよ。

「ちょ!ちょっちょっ…!えええ江月さんッ…なによアレ!?」

バラバラになった蠅の女王のパーツを見ていた瀬来さんが、わたわたとオレの下まで這いずってきた。蠅女王のパーツ。組み上げて置いておくと今にも動き出しそうで怖かったから、バラバラにしたままだったんだよね。

「あれは蠅の女王の外殻。オレが出会ったモンスターのなかでも、一番手強かったボス級のモンスターだよ。そしてオレの左足を奪った相手でもある…」
「蠅の、女王…(ごくり…)」

「こ~ら、万智ぃ!さっき勝手に入ったらアカンて言われたやろぉ!コォチも、もっと万智のこと叱らんとあかんてぇ」

振り返れば仁菜さんもダンジョンの出入り口に上半身を覗かせていた。瀬来さんの姿を消えたのに気付いて追って来た様だ。

「な、解ったろ?このダンジョンはホントに危険なんだ。すぐ戻るから先に戻ってて」
「は~い」


……。


オレが部屋に戻ると、3人はすっかり野菜を切り終えて待っていてくれた。

「すぐ戻るって言ってたのに、遅かったね」
「ああ、ちょっとこのコンロを作ってたんだ(ゴトリ)」

ガラステーブルの上に置いたのは、巨大カメムシの外殻パーツを組み上げて作ったコンロ。なぜならばコンロはお鍋を煮るのに必要だから。そしてすでにしっかりと焙ってカメムシ臭さは飛ばしてある。

「コーチ、これがコンロなんですか??」
「なんだか一風変わった感じの焼き物みたいやなぁ~」

「まぁ見ててよ。コレをこうセットして…(カチャ)。いでよ炎よッ!(ボッ!)」
「「「えぇぇ~っ!なんでぇ!?」」」

お、今度は3人とも驚いてくれたぞ。やはり大きなリアクションがあると嬉しいな。

「実はコレ、炎の生み出せるファイヤーワンドなんだ」
「エッ!それじゃソレ、魔法の武器っていう事…??」

「まぁそうだけど、こうして煮炊きにも使えて便利だろ?」
「いやいやいや!そやないやろコォチッ!こないな凄いモン、売ったら一体幾らになると思っとるんッ!?」

「あ~それなんだけど、オレも最初は売り払おうと思ってネットのフリマに出品したんだ。けどイタズラと間違われて、アカウントBANされてオシマイだったよ」
「そか…、まぁ実物見んとコレの凄さは解らんかもしれんね~」

「えと…、コレも冷蔵庫のダンジョンで見つけたんですかコーチ?」
「ああ、そうだよ瑠羽。で、最初は売ろうと思ってたけど、使ってみたら意外と便利でガス代も浮くからさ。今じゃ重宝してるよ」

「ね、ちょっと触らせてもらってもいい?」
「ダーメ!加減を間違えれば火事になるから。今度ダンジョンのなかでならね」

「ちぇ~~~っ!」
「ハハハ、そう拗ねない。機会をみてちゃんと触らせてあげるから。あ、瑠羽。湯を沸かすからお鍋に水張ってもらってもいいかな?」

「はい、コーチ!」

……。

「さて、ではまずはコレでダシを取るよ。(ジャラ…)」

まず水を張ったお鍋に入れたのは、巨大カマドウマの肢の外殻を細かく砕いたモノ。

それをナイロンネットで纏めて投入してみた。暗い色で、見た目的にはワタリガニみたいに見えるし大丈夫だろう。この外殻からは、甲殻類みたいな良いダシが取れるのだ。

沸騰し過ぎないように弱火でゆっくりとダシを取っている間に、巨大カマドウマの肢の身を切り分けていく。

「わぁ…透き通ってて綺麗な色やねぇ♪」
「ほんと、でも随分とおっきい肉の塊だよ。江月さん、これ何のお肉?鶏肉っぽいし…ダチョウ?」

「ん~、まぁ似たようなモンかな…」
「あ、私解った!きっとエミューでしょ♪」

うん、ダチョウも巨大カマドウマも後足がとても発達してるし、よく似てると思うよたぶん…。

「(すんすん…)あぁ…すごく良い匂いがしてきたよ万智ちゃん」
「ほんとだ、良い匂い~」

「お、じゃあそろそろかな。もう蓋を開けて、なかのネットを取り出していいよ」
「はぁ~い。わぁ真っ赤だよ万智ちゃん♪」
「うん、それにいい香り~、もう涎出ちゃいそう!」

「なぁコォチ、そないに肉を薄く切ってどないするん?」
「ああ、折角だし最初はダシにサッと潜らせて『しゃぶしゃぶ』なんてのはどうかと思って」

「あ~それでポン酢も買っとったんやね!やりよるねぇ~コォチ!」
「ハハハ、まぁ初めてやる事だから美味いかどうかは解らないけどな。さ、今切った分で少し味見してみよう」

『ふつふつ』と湯気を立てるお鍋のなかに、お箸の先に摘まんだ薄切り肉を『しゃぶしゃぶ』と潜らせるとサッと色が変わる。それをみんなでタイミングを合わせて口に運んだ。

「ヤダ!美味し~~~ッ!!」
「コレ最高やんかぁ~!もぉ~早よ乾杯しよ~!」
「すっごく美味しいですぅ!」

うむ、とても綺麗で素敵な笑顔の花が咲いた。ありがとう、巨大カマドウマよ。

…。

「では、みんなとの仲直りを祝って…カンパ~イ!」
「「「カンパ~イ!!」」」

今夜は巨大カマドウマの『しゃぶしゃぶ』だ。しかも鍋とのコンバーチブルである。でもまずはカマドウマの身を薄くスライスして、みんなにしゃぶしゃぶを愉しんでもらう。

「(ほら…ルウッ)」
「う、うん!コ、コーチ、『あ~ん』て、してください…」

おお、瑠羽が手の空かないオレの為に『あ~ん』でお肉を食べさせてくれるとは。

「あ~ん…(もぐもぐ)うん!これは絶品だ!自分で食べるより数倍美味しいぞッ!」
「え、えへへ…」

「ほんならウチもコォチに食べさせたるわぁ。ふ~ッふ~ッ、熱いから気を付けてな。『あ~ん』」
「むはっ!仁菜さんまで?あ~ん…(もぐもぐ)うん!これまた美味しいッ!ほっぺが落ちそうだ!」

「あ!じゃあ私もしてあげる!(しゃぶしゃぶ…)はい『あ~ん』あっ!(つるんっ!)」
「(びたっ!)熱ッ!いや瀬来さんそういうオチはいいから…あ!胸の谷間に落ちた!ちょっ熱ッ!熱いから早く取って…!!」


こうしてしゃぶしゃぶを堪能した後はお鍋に移行。白菜椎茸人参に、豆腐に白滝に春菊。色とりどりの具材が鍋で踊る。そんな美味しい料理を肴に会話も弾む。テレビなどは一切付けずに、みんなで思い思いの事を話す。オレも中身が男だが身体は女なので、女子会鍋パーティーだな。

今日の仁菜さんは随分とお酒も進み、『ウチは生涯独身で通すつもりやから、コォチもその姿のままやったら一緒に暮らそなぁ』とダル絡みしてきた。

瑠羽は初めて口にしたアルコールに目を回しながらも、『万智ちゃんがいなかったら、私はずっと弱虫のままでした!』と、如何に瀬来さんが友達思いで頼りになる親友かを力説。

そんな瑠羽に絶賛される瀬来さんはというと、どういう訳か泣き上戸のスイッチが入ってしまいボロボロと泣きながら、『どうして私は男運がないのよぉ~』などと嘆きつつ酒を呷っている。

てんでバラバラ、みな好き勝手に話すカオス状態。

でもひとつだけ、共通していることがあった。

それは『みんなの事が大好きだから、もっと自分の事を解って欲しい』という想い。バラバラだけど心は繋がっていて、心は繋がっているけどてんでバラバラ。

でもそんな騒がしい空間に自分も混じれていて、同じ空気に染まれていることがオレにはたまらなく嬉しい日になったのだった。
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