うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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藻えよ!オレのソルト!

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仁菜さんと、とっても甘い夜を過ごした翌日。彼女は『バイクに乗るんはすこし怖いんよ』と言って、バスに乗り大学へと出かけた。

「さて、ではオレもそろそろ出かけるか…」

しかしてオレの出かける場所とは…?まぁそれは闇堕ちして長らく休んでいた整体学校へだ。

…。

「よ、佐藤。元気だったか?何、解らない?オレだよオレ、江月だよ」
「えぇ!?ズ、ズッキーさんだったんですか!な、その姿…どうしちゃったんですか一体!」

「どうもこうも無いよ。気付いたらこうなっちまったんだ」
「そ、そんなことってあるんですか!?あと…ボク加藤です」

マッチョから、なぜかアマゾネスマッチョなニューハーフに進化してしまったオレ。

だがスーパー銭湯で裸を晒したことで、気持ちもサッパリ吹っ切れた。なのでもうアマゾネスマッチョなニューハーフだろうと、堂々と学校にも行き授業を受ける。なにも尻尾や角が生えた訳ではないのだ。なら堂々としていればいい。

「でも…、それでしばらく姿をみせなかったんですね。武藤さんがズッキーさんに会いたがってましたよ」
「ん、そういえば武藤のおっさんの姿が見えないな。大概いつもこの時間はいたよな?」

「武藤さんならカリキュラムを終えて、無事卒業しましたよ。お店もオープンさせて、ボクらもオープンの手伝いに行ったんですよ」
「なんだ、そうだったのか。それは手伝えないで悪かったな」

「この名刺に書かれている住所がそうです。ズッキーさんが来たら渡すように頼まれてたんですよ」
「どれどれ、武藤整体院か。そのまんまだな、まぁ武藤さんらしくてコレも良いか。じゃあ今度、店に顔でも見せに行くとするよ」

『ばぁあん!』

と、そこに突然。乱暴に扉を開け、施術ベッドの並んた教室に小太りバーコード頭のおっさんが転がり込んできた。

「た、大変だぁ!ぞぞぞ…ゾンビがでたぁ!!」

(ん、あれは事務のおっさん…?)

すると慌てるおっさんを追いかけるようにして、建物の非常ベルまでもがけたたましく鳴り響く。

「キャアアアアアアッ!」

そして窓の外からも、絹を裂くような女性の悲鳴。

それに対して『なんだなんだ?』と窓際に近い生徒たちが集まり、窓から道路を見下ろして彼らもまた驚いた様子を見せる。なんだよ、一体何が視えたんだ?

「おい、どうした…アッ!」

窓に集まっていた生徒の肩越しに外の様子を窺うと、ボロをまとった汚らしいゾンビがフラフラと歩いているのが視えた。そしてそのゾンビが向かう先には、銀行員のような制服を着た若いOLの姿。しかも彼女は腰が抜けてしまったのか、アスファルトにへたり込んだまま迫るゾンビから逃げられずにいる。

それを3階の窓から見ている生徒たちは、しきりに「はやく逃げろ!」だの「立ってー!」と声をあげる。が、OLは恐怖に顔をひきつらせ震えるだけ。その一方で室内では部屋に転がり込んできた小太りバーコード頭のおっさんが、「早くっ!扉を塞ぐのを手伝ってくれ!」と叫んでいる。

(これは、一体どういう事だ…。ハッ!もしやこれが噂のダンジョンスタンピード!?すると遂にその時が来てしまったというのか…)

「お~い急げ!早く逃げろぉ!」
「うるさい邪魔だ、そこをどけっ!」

窓に張り付いて叫んでいるだけの生徒を掴み引き剥がすと、ゾンビめがけ鉄アレイを投げつけた。ちなみにその鉄アレイは、教室にあった備品だ。

『ゴッ!……どちゃ。(だぱぁ~…)』

回転しながら飛んでいった鉄アレイは、狙い違わずゾンビの後頭部にクリーンヒット。

そのままチョンマゲみたいに突き刺さった。その衝撃でゾンビはゆっくりと倒れ、アスファルトにはどす黒い血がゆっくりと広がっていく。

「「「ヒィッ……!」」」

だが、教室内はたちまち凍りついたような静寂に包まれた。見ていた生徒たちが、オレの行動をありえないとドン引きして息を呑んだのだ。

(え、なにこの空気?オレはただモンスターを倒しただけよ?ほら、今に煙になってあのゾンビも…って、あれ?なんでだ?なぜ消えない…ッ!?)

「「「ヒ……!」」」
「え…?」

教室にいる生徒たちが、一様にオレを恐ろしいモノでも視るような視線で後退る…。

(え…まさかオレ、ボクなにか殺っちゃいました的な…?コレってもしかして、なにかのドッキリだった?いや、でも、どう見てもゾンビだよな…)

「ヴヴヴヴぅ~ッ!(むくっ!ずりずりっ…)」

と、倒れたゾンビが頭に鉄アレイが刺さったまま再び動き出す。

(あ、ホラ見てみて!やっぱりゾンビじゃん。後頭部に鉄アレイ刺さって動いてるのは、どうみても人間じゃないよね!)

「キャアアア!だれかぁ、助けてぇ!」
「うん、だよねッ!よしきた岩塩投擲ソルトシュートッ!」

『ぐボッ!』

アスファルトを血塗れで這いずるチョンマゲゾンビの背中に、岩塩が直撃。すると聖なる塩の力で浄化された部分が分解されたようにして消えてゆき、ゾンビはようやくその活動を止めた。

「凄いッ!ズッキーさん、今なにをしたんですか!?」

『ばぁああん!ずだぁん!』
「わぁぁ!ゾ、ゾンビが来たぞぉ!」

一部始終を見ていた加藤が興奮した様子で声を掛けてきた。が、それに答える間もなく事態は進展。

今度は教室の扉が、廊下側からバンバンと激しく叩かれ始めた。とうとう三階にあるこの教室の廊下にまで、バーコード頭のおっさんが言っていたゾンビが押し寄せてきたらしい。

くそう…こんな事になるなんて思いもしなかったから、蟲王スーツをダンジョン前室に置いて来てしまったぞ。スーツも無しにゾンビと戦うなんて嫌すぎる。もしゾンビウイルスみたいなのに感染してしまったら、とんでもない事だ…。

ちくせう、こんなとき一体どうすれば…!

(ぽわわ~ん…鳴人よ、ソルトを信じるのだ…)
(ハッ!こ、この声は…ちっさい塩の神さまッ!?)

「―ズッキーさん!ズッキーさん!」
「ハッ…!?」

「急にボ~っとしてどうしたんです?早くさっきみたいに廊下にいるゾンビもやっつけてくださいよ!」

(いや、気の所為ではない!確かに今、ちっさい塩の神さまの声が聞こえた…。ならばッ!)

「加藤!佐藤!施術ベッドを運んで扉の前にバリケードを築くんだ!」
「え!?それで、ズッキーさんは!?」

「オレは瞑想する!」
「ちょ!こんな時にふざけないでくださいよ!」

「大真面目だ!とにかく時間を稼げ!そうすれば後はオレが何とかするからッ!」

「ほ、ほんとに頼みますよ!おい加藤!」
「おう、佐藤はそっち持ってくれ!後藤ちゃんはビビッて突っ立ってるだけのヤツにどくよう言ってくれ!」

「ウ、ウンッ!」

加藤、佐藤、後藤ちゃんの3人が協力してバリケードを築くために施術ベッドを運び始めた。よし、オレも急がなければ。

「こぉぉ~…、こはぁぁ~…。チャクラオン!レッツメディテーション!」

呼吸を整え、スキル【瞑想】を発動し立ったまま一息に瞑想状態へと入る。そして塩の精霊たちに、心の奥底から強く呼びかける。

(………ッ…ッ…ッッ…)
(そうだ…塩の精霊たちよ。うん、なんかピンチっぽいの。だから今こそ…おまえたちの力を貸してくれ…!)

(…ッ…ッ…ッ…ッッ…!!)
(そうか…応えてくれるのか!ありがとう…ッ!!)


『でぎゅぅぅぅぅんッ!しゅわッしゅわッしゅわッしゅわッ…』

塩の精霊たちと繋がったチャンネルから、精霊たちの気配が…、力がこの身に満ち満ちてゆく。目を開くと、五体からは輝く白い光が溢れている。

よし…今ならばイケるッ!

塩精霊ソルトマニトゥ~…変身ッ!(カッ!!)」

白い光が激しい閃光となって弾ける。と、白く輝く塩の鎧に身を包んだアマゾネスマッチョなニューハーフが姿を現すのだった。

『『ばんっ!ばあん!』』
「ぐっ!もう…持たなっ…!(ズルッ)」
「待たせたな!加藤!佐藤!(がしっ!)」

「ズ、ズッキーさん!そ、その姿はッ…!?」
「これぞ聖なる塩の衣…、聖塩衣(セイエンクロス)だ!」



「「せ、聖塩衣(セイエンクロス)ッ!(ごくり…!)」」
「もう大丈夫だ、今ゾンビどもを蹴散らしてやる…。藻えよオレのソルト!ペガサス…流星塩りゅうせいえんッ!(キュババァ!!)」

『『『ドッ!ばごぉーーんっ!!』』』

解説しよう。オタは常日頃からバトル系漫画やアニメを視聴し、日々技の研究には余念がないのだ。

「「そ、そりゃないよズッキーさぁん!!」」

オレは加藤と佐藤が協力して懸命に築き上げたバリケードごと、扉の向こうにいるゾンビをまとめて吹き飛ばしたのだった。
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