うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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世界の法則

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塩の精霊たちの力を借り、白く輝く聖塩衣を身に纏った姿へと変身したオレはゾンビどもを蹴散らした。

だが…。

(むぅ、やはり煙となって消えない。こいつらいったい何者なんだ…?)

倒したゾンビの傍らに屈んでよく観察してみるが、モンスターだというのに煙となって消えもしなければ魔石ひとつも落とさない。

(もしや…、ダンジョンでモンスターが煙になって消えるのはダンジョンの影響で、地上に姿を現したモンスターにはソレが適用されないのか…?)

「ズッキーさん、大丈夫ですか?」
『『『ぎゅうう!ぎゅうう!ぎゅうう…!ぎゅうう!ぎゅうう!ぎゅうう…!』

加藤に返事を返そうと顔を上げると、またみんなの持っている通信端末が一斉に音と振動を奏で出した。そして…それはよく知る緊急地震速報を知らせる音。

「教えてくれ加藤、何が起きたと書いてある!?」
「は、はい…え~と、エッ…!ダ、ダンジョンからモンスターが出て来たから、外に出ないようにって…書いてあります!」

ダンジョンが現れて以降、緊急地震速報はダンジョン関係にも使われていた。

「なんだって!それじゃあココだけの話じゃないってことか!?」
「どうやらそうみたいです!」

(なんてことだ…。だが、となればこうしてはいられない。早く瑠羽たちのいる大学に向かわねば!)

「え…?急にどこ行くつもりですかズッキーさん!?」

急いで走りだそうと身を翻したオレを、加藤が慌てて呼び止める。

「急いで行かなきゃならない所がある!」
「そんな!ズッキーさんがいなくなったら、ボク達どうすればいいんですか!?」

「む、むぅ…」

男達には自分の身は自分で守れと言いたいところ。だが、ここにはなんの戦闘能力も持たない後藤ちゃんみたいな女の子もいる。むむむ、やはり放り出していく訳にもいかないか…。

「よし、ならば仕方ない…。出でよピクシーV!」
「「「ぴぴぃ~!」」」

5枚の銀色金属板に魔力を籠めて宙に放つと、ルージュ・アジュール・ジョーヌ・ヴェール・ローズ。5人のピクシーが姿を現す。

「「「ぴぴぃ♪ぴぴぃ♪ぴぴぃ♪」」」
「いや待て待て待て。おまえたち!今はおやつの時間じゃないから…、後藤ちゃん!」

「は、ハイ!」
「この子らにココを守るよう指示しておくから、面倒をよろしく」

「え…!?」
「小さいけど、こう見えてかなり強い。だからほかの連中がちょっかい出さないように注意してみてて。で、この子らの機嫌が悪くなった時は…よっと、このハチミツを舐めさせて」

「え、今どこから…?」
「とにかくオレはもう行かなくちゃいけないから。あと頼むよ。佐藤と加藤も頼むな!」

「えぇ!?よく解らないんですけど、こんなちっちゃい子らで大丈夫なんですか?」
「少なくともおまえやゾンビよりは数段強いから安心しろ。それよりもしばらくは息を殺して、モンスターに見つからないようにしていろよ!」

「あ、そんなズッキーさん!まだ訊きたいことが…!」

まだ加藤や佐藤がオレに問いかけようと声をかけているが、それに答えている時間が惜しい。ピクシー達に念押しの魔力を注ぐと、オレは急いで階下へと向かうのだった。

…。

「む、これが今のオレか…?」

一階に降り建物のエントランスから外に出ようとして、ふと壁に掛けられていた大きな鏡に自身の姿が映り込んでいるのに目がいった。白く輝く、塩の鎧を着ている。そしてそれはオレのなかにあるイメージが投影されたかのように、蟲王スーツそっくり。全身を包む蟲王スーツを、パーツ単位の鎧にした感じ。

だが…。

「なんか、色が白だと物凄く弱弱しいな…」

蟲王スーツのデザインで色が白だと、羽化したばかりのセミみたいだ。

「と、こんなことをしている場合じゃなかった!急がないと…ムッ!」

建物から飛び出してバイクのもとへと向かおうとすると、今度は離れた場所の歩道の緑地からゾンビがわらわらと湧き出しているのが視えた。

「なんだあれは…?まぁいい、岩塩三日月斬(ソルトカッター)ッ!」

歩道に湧き出てふらふらと歩き出すゾンビの群れに、三日月状の薄く鋭い塩が何枚も襲いかかる。聖なる塩で出来たソルトカッターに細切れにされると、ゾンビは切断面から白い煙を沸き立たせながら崩壊していく。

そしてゾンビの湧き出ていた場所を確認してみると、そこは地下鉄の換気口。だが鉄格子の填められた重いコンクリートの蓋が捲れかえっている。

「いったい、これはどういう訳だ…?」
「「「ヴヴヴうぅぅ…」」」

「くっ、まだ出て来るか!ならば…巨大岩塩逆落とし!」
『『『ずどむ…ッ!』』』

巨大岩塩を生み出すと、換気口を完全に塞いでやる。これでゾンビどもが地上に這い出ようとしても、聖なる力を持った塩に触れて勝手に自滅していくだろう。

バイクを置いている場所に着くと、三階の窓から心配そうにこちらを見ている佐藤たちの姿が見えた。心配するなとサムズアップしてやると、それぞれにサムズアップや手を振って応えてくれる。

だいじょうぶ、ゾンビは大したことのない強さだった。ピクシー達なら充分に守ってくれる。問題は気まぐれな彼女たちがフラフラとどこかに飛んで行ってしまったりすることだが、魔力で念押ししたし後藤ちゃんにハチミツも渡しておいたから大丈夫だろう。

『リィン…』

と、三階の窓を見上げていると、赤いリボンを足首に巻いたルージュがオレのもとまで飛んでくる。彼女らにはその名にちなんだ色つきリボンを贈っておいたので一目で判別がつく。ちなみにオレによく噛みついてくるのもルージュだ。

「ぴぴぃ…」
「心配するな。用を済ませたらすぐに戻ってくるから。みんなのこと、頼んだぞ」

「ぴぃ!」

任されたとガッツポーズで応えるルージュにもサムズアップで応えると、彼女はその親指を蹴って勢いをつけると軽やかに飛び三階の窓へと戻って行った。おお、さすがルージュ。それって三倍速く動ける秘訣だよね?

「ライドオン!待ってろ瑠羽…みんな!今助けにゆくぞッ!」

世界の法則が変わってしまったことに対しての、言い知れぬ不安。

でも、今のオレにはそれに対抗できる力がある。不安と、焦りと、興奮。それらが綯交ぜになった思いを胸に抱き、アクセルをめいっぱいにあける。するとビル群に荒々しいエンジン音を響かせ、バイクは勢いよく走り出した。
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