うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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決意

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そんなこんなで一週間が過ぎ、世界は炎に包まれた。うむ、それはまるで火の七日間。

といってもその火をつけて回っていたのはゴブリン程度だったので、文明がまるっと滅んでなんかはいない。

で、そんなこんなとは、そんなこんなだ。

具体的にはこの一週間、オレは糧品宅のベランダに陣取ってスーツ造りに勤しんでいた。魔力を注ぐとモンスターの外殻が次第に溶けて柔らかくなる様が、飴細工のようで面白かったのだろう。しきりに瑠羽や瀬来さんがオレのもとにやって来てはアレコレと質問してくるので、彼女らには瞑想してみることを薦めた。

「どうしたらそんな事できるようになるの?」と訊かれても、オレにも理屈はよく解らない。

ただ、オレはオタで元から魔力やら魔法やらといったモノに、ゲームやアニメでよく慣れ親しんでいた。それにうちの冷蔵庫ダンジョンに潜るようになってからは自身の能力をより向上させるために、スピリチュアルな方面からのアプローチも行なっていた。

幸運の値を上げるために、『寝ている時に聞くだけで心が浄化され運が開ける聖なる周波数』なんてのを聞きながら眠ったり、瞑想を行なっていたのだ。

なわけで初めて手にしたスキル【酸】を使う時も、さほど苦も無く発動させることが出来た。

だがこれにより、スキルを発動させるには魔力を消費するという事を知った。いや、これは知っていたというべきか。まぁともかく魔力は気力を練り、高めていくことで魔力へと変換していく。その途上の、気力でも魔力でもない状態がオーラだ。つまりオーラをさらに高めていくと、魔力になるとも言える。

なので、『スキルを使用する大前提として魔力が必要で、魔力は気力から練らねばならない』という事になる。

というわけで彼女らには指導して、瞑想を実行してもらっている。

いっしょに暮している時にはオレの瞑想を見ても「ふ~ん」てな感じだった瀬来さんも、目の前でとても硬いモンスターの外殻が溶けた飴のように柔らかくなったり、オレが地上から3階の窓まで跳躍したり、はたまたピクシークィーンなんかを目の当たりにして、ようやくオレのしていた瞑想の大切さを理解してくれたようだ。

そんな感じで外の風はだいぶ冷たいものの、今は陽が射して暖かいベランダに美人女子大生三人が仲良く並んで座り、瞑想に勤しんでいる。

瑠羽はオレの説明を持ち前の真面目さで真剣に聞き、一番上達が早い。やっぱり素直ないい子だ。でも瀬来さんは、やっぱりやや集中力が散漫だな。

そして大暴落のショックで三日ほど寝込んでいた仁菜さんも、ようやく起きてこれたのでこの瞑想訓練に参加。彼女はだいぶ心を痛めてしまったので、ぜひこの瞑想で精神を回復させてほしい。

……。

今日も、ラジオからは国の説明放送が流れている。

『―でありまして、今回のモンスタースタンピードでは把握されていた地形影響型の他に、既存の地形に一切影響を与えずに発生する空間接続型と呼ばれるダンジョンが数多く発見され、それらにより多数の―』

うん、これは解る。

地形影響型とは、そのダンジョンが発生したためにビルの建築が出来なくなったり、地下鉄の路線が塞がれてしまうダンジョンの事。そして空間接続型とは、うちの冷蔵庫ダンジョンの事だな。

もしうちの冷蔵庫ダンジョンが地形影響型だった場合、オレの住んでいるアパートの一階部分は完全に破壊されてしまっていた事だろう。

そして今回のダンジョンスタンピードでは、そんな未発見の空間接続型ダンジョンから数多くのモンスターが地上に現れ猛威を奮った。オレが整体学校の近くで発見した地下鉄の換気口から溢れ出てきたゾンビどもも、そんな空間接続型ダンジョンのひとつから現れたモンスターだったようだ。

ちなみウチの冷蔵庫ダンジョンを確認したところ、多少はモンスターの数がいつもより増えているといった程度で、全く問題はなかった。

とすると、ダンジョンは定期的なモンスターの間引きを行なえば、スタンピードを起こさないのかもしれない。

『―でありまして、今回のモンスタースタンピードでは対特異迷宮特別災害出動と位置付け、特異迷宮から発生したモンスター、特異外来生物の駆除は現在も自衛隊が行なっており、事態は終息に向かいつつあると認識し、国民の皆様にはくれぐれも―』

うん、自衛隊は強かった。

オレも物資調達に出かけた時にチラリと見かけたが、厚手のジュラルミンや強化ポリカーボネイト製とみられる盾を構え、緑の迷彩服にヘルメット姿の自衛官がメイスでモンスターを倒していた。

そう、金棒。メイスだ。

オレが遭遇し呼び止められた自衛官たちは自動小銃を携えていたが、モンスターを駆除する部隊の自衛官たちはメイスでモンスターと戦っていたのだ。うん、その様はまるで神官戦士。

が、これも止む無い事であり、スタンピードの事態も想定して用意されていたのだろう。

大礼服並軍人警察官吏等制服着用の外帯刀禁止の件(たいれいふくならびにぐんじんけいさつかんりとうせいふくちゃくようのほかたいとうきんしのけん、明治9年太政官布告第38号)は、1876年(明治9年)3月28日に発せられた、大礼服着用者・勤務中の軍人や警察官吏以外は刀を身に付ける(=武装する)ことを禁じる内容の太政官布告。

いわゆる廃刀令が出されて以降、現在の日本人は刃渡りの長い刃物を帯びた者が街中を歩いていれば、酷い嫌悪感や恐怖を感じることになるだろう。それに配慮して自衛隊では銃剣以上の刃物は扱わず、モンスターとの市街戦闘に於いてはメイスを使用することに決めた様だ。

そして、対特異迷宮特別災害出動。

これまたなんのこっちゃ?なのだが、要するにダンジョンから出てきたモンスターを地震や台風などと同じに捉え、『自衛隊がモンスターを駆除するのは、地震や台風で自衛隊が出動するのと同じなんだよ』と言いたいらしい。

これは自衛隊に出動の命令を下し、その責任を負うべき総理大臣が真っ先に死んでしまったことに
起因する。

要するに政治家たちは、「自衛隊を軍事目的で出動させた際に生じる責任を、一切取るつもりはないであります!」と、言いたいらしい。全くとんだ連中だ。


………。


さて、糧品宅で生活する間、オレは率先して家事を手伝っている。

なにせオレが調達してきた食料は、ダンジョンモンスターである巨大カマドウマの肢。下手に触られて不審を持たれては、また説明がメンドーになってしまう。

なわけで今日も夕飯の支度をするべくキッチンに立っていたのだが、その時点けたままになっているラジオから不穏なニュースが流れてきた。

『速報です!つい先ほど、中国軍が佐渡島を占拠しました!繰り返します、つい先ほど、中国軍が佐渡島を占拠しました!』
「「「…ッ!?」」」

「コーチ!」
「うむむ…」

調理を手伝ってくれていた瑠羽が驚いてコーチとオレを呼んでしまっているが、これにはオレも呻り声しか出てこない。

佐渡島は言うまでもなく日本の国土で、新潟県の西部に位置する島。全域が新潟県の佐渡市に属している。それを中国軍が占拠してしまったというのだから。

遡る事ダンジョンスタンピードが全世界で発生した日から三日後の正午。

中国政府は、『日本がテロリストと結託した暴徒により混乱の極みにあると認識し、中国政府はこれを対岸の火事と見過ごすのではなく人道的見地から助力すべく、治安維持の為の部隊を送ることをここに決定した』と、報じたのである。

まぁお題目はさておき、要するに火事場泥棒である。

これに慌てた総理大臣不在の日本政府も、慌てて中国海軍の押し寄せる日本海に海上自衛隊の艦艇を集結させた。が、九州・山陰地方を狙うと見られていた中国軍に裏をかかれ、佐渡島を占拠されてしまったようだ。

が、これには様々な要因が絡んでいる。

この中国政府の発表と同時に、ロシアも日本に向けた軍事行動を行なうような動きを見せ、それに伴い韓国と北朝鮮もその動きに便乗しようと色めき立った模様。

というか佐渡島を攻略するなら、地理的にロシアか北朝鮮が手を貸さない事にはまず無理だろう。

それに日本は外交ルートでそれらをやんわり丁寧にお断りし続けていた。だが自国もダンジョンスタンピードに見舞われている最中にそれを無視して強硬に軍を日本に差し向けた中国は、隙をついて佐渡島を手にしたのだという。

後はいつもの如く「歴史的に見ても昔から佐渡島は中国の一部だった」等と言い出すに違いない。

「江月さん…」

ラジオの内容を聞き、いつの間にか瀬来さんも仁菜さんもオレの元に集まっていた。そのどちらも、とても不安そうな顔だ。

「うむむ…」

今回の中国の行動。「地球全体が不味いような時にいったい何してんだよ!」と、個人的には思う。が、まぁ彼らには彼らの言い分がまたあるのだろう。

日清戦争では1895年、日清講和条約(下関条約)締結により台湾は日本に割譲されたり、満州事変では1932年(昭和7年)3月1日に満洲国建国という、自国内に満州という別の国が出来てしまうというとんでもな事態が中国でも起きていた。

他にもアヘン戦争で香港が英国に割譲されたりと、領土問題では過去にも色々とあったのだ。

だから「強くなった今、やられたことをやり返して何が悪い?」というような考え方や行動にも、ある種納得のいく部分はある。うん、それは単なるイジメではなく、リベンジだからだ。

これがかつて歴史にあった、進んだ文明をカサに着た白人至上主義的な一方的な侵略であれば許さないところだが、それとは微妙に違うしなぁ…。

だが、「二十一世紀にもなった今も、人類は自己利益の追究と争いの怨嗟を絶ち切れないものなのか…」と、あまりの業の深さに慄くばかりだ。

「コォチ…?」
「ああ、大丈夫だ。たとえ何が来ても、瑠羽たちの事はかならず守るッ!」

そう強く宣言すると、ようやく顔にホッとした表情が浮かべた。

そうだ、彼女たちはオレが必ず守るのだ。

どこまでも人の善性を信じる、という人もきっと世界のどこかにはいるのだろう。だがオレは、他者を食い物にするのに平気で非道を為す人間がいるということを、知っている。

うん、それは嫌でも思い知らされた。

『人格の全てが悪人だという人なんていない』という論拠は、実際に被害に遭った者には無価値であり無意味なのだ。

そしてオレは、ヤクザ怖さに娘をさしだす親なんてのには、決してなりたくはない。親ならば我が子を守るためヤクザと刺し違えるくらいでなければ、というのがオレの自論だ。

かつて、日本はその覚悟と意地を欧米列強に対し、これでもかと示した。

それは第二次世界大戦という、悲しい戦争。そして当時未だに白人至上主義をふりかざす米国は、そんな日本の意気を挫きその息の根を止める為に、原子爆弾なんていう悪魔の兵器をふたつもドカンと民間人も大勢暮らしている街に落としたのだ。

結果、日本は戦争に負けた。

だが白人至上主義の蔓延る世界に、欧米列強に、初めて誇りあるアジア人種としてその立場を認めさせたのも、日本という国。

それは中国でも何処の国でもない、唯一日本の誇りといえるだろう。

故に、中国をはじめとしたその他アジア人種の国は、そのことで日本をひどく妬ましく思う。それらの国で日本がたびたび目の敵にされるのは、なにも過去に占領されたからどうのというばかりではないだろう。

それは彼らがついぞ敵わず屈した相手に、日本だけが最後まで噛みつき続けてみせたから。

自分達では獲得し得なかった誇りを、列強に認めさせたその覚悟を。日本だけが持っているのである。つまりはそれらの国は、こと底力のド根性という点に於いては、絶対に日本の下にしか位置できないのだ。

だが、それも悲しい戦争で、そんな誇りと牙を持った多くの日本人が逝ってしまった。だから良い悪いは別にして、それが今の日本のていたらくな現状なのであろう。

なら、何があってもオレだけは彼女たちを守るため噛みつくぞ。最後まで、たとえそれが、どんな相手ででもだ。
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