うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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生存

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朝10時、自宅。

『ニュースの時間です。まずは―』

佐渡島沖で突如謎の爆発を起こし沈没した中国海軍の空母。中国自慢の新造空母だったらしく、名を長江と言うそうな。

長江にはロシア製Su-33をベースに造られたJ-15(殲-15)という艦載機が多数配備されていているだけでなく、虎の子最新鋭のステルス機まで配備され、これにより日本海の制空権を確保する目論見だったようだが、それらは脆くも海の藻屑となって消えてしまった。

空母長江が沈没した原因はいまだ不明の様子。

だがここに来て中国側は、『中国人民解放軍海軍の空母が沈没したのは、日本のスーパー兵器による攻撃を受けたことに因るもの』として、激しく日本を非難しはじめた。

そして、なぜか映像の中で映し出されるお台場の風景とそこに聳える巨大な人型オブジェクト…。うん、ちょっと待って。それってビカビカ光るけど、飛んだり跳ねたりも出来ないよ。


最近はダンジョンスタンピードや中国の侵攻などがあったりして、オレもマメにテレビのニュースなどを観るようにしていたが、今日のニュースもまたぶっ飛んでいた。

するってぇと何かい?中国さんは日本が極秘に開発した水中用〇ビルスーツが、中国海軍自慢の空母を沈めちまったってぇ、そう言いたいのかい?

うむむ、あまりの驚きに、思わず思考が落語チックになってしまった。

ついでにマワシとマゲを結ったゴッ〇が、張り手で派手に中国空母を沈めるというシーンも思い浮かんだし。

にしても火事場泥棒的に侵略行為を行っておきながら勝手に自爆した挙句、それを日本側の責任にするというとんでも思考。さすがに『何言ってるんだ?』と、その思考パターンにはついていけない。

でもよくよく過去を振り返ると、『おいこらアヘン買えよゴルァ!なに買わない?よろしいならば戦争だ』と戦争ふっかけたジェントルメンな国と、言ってることは大体同じか。また『おまえ鉄道壊しただろ?なにやってない?ウルサイだまれ戦争だ』というのも、昔あったかもしれない。

まぁこれらの思考もだいぶ時代錯誤ではあると思うけれど。

ともかく中国としては、『過去にやられた事をやり返しているだけ』という考え方なのだろうな。そして混乱した世界の中で弱体化した国、ジャパンがまず標的として狙われたと…。

ともあれ中国側がこんな変な事を言い出すのにも、事情がある。

国際的なジャーナリストがコメントするには、『先のアメリカの牽制が一定の効果を齎し、まだ一度も矛を交えていない状態で新造空母を失った中国は、ここにきて若干弱気になっている』というモノだ。

現在、東南アジアには台湾を手中に収めたい中国の思惑を警戒し、アメリカ海軍となぜかそれにいつも便乗していつも動くス〇オチックなオーストラリア海軍がフィリピン沖に展開している。それに対抗するため、中国も東シナ海に中国海軍の主力を展開している状況。

そんな状況での、突然の新造空母沈没。中国にとっては、痛手どころの騒ぎではないだろう。

そこで軍を下手に動かしてアメリカを刺激し、本腰を入れて対応と取られるとそれはそれで困るのが中国。なので軍は動かさずに口撃で、ともかく日本に圧力を加えたいようだ。

な感じなので中国も、そして利益と体面上動いているアメリカも、面倒な直接衝突は避けたい様子。

テレビの国際的なジャーナリストに言わせると、『これによりひとまず硬直状態に入ったのでは?』という見方でも出来るようだ。


しかしそれとは別に、海外ではアジアンヘイトが高まりを見せていた。

世界にダンジョンが出来て大変な時なのに、他国に侵攻してしまう恥知らずなアジアの国。そして世界にダンジョンが出来て大変な時なのに、スゴイ薬が出来ても独り占めしようする浅ましいアジアの国。

と、日本と中国をいっしょくたにして叩くバッシングが起きたのだ。

『え、それを言うならロシアもでしょ!』と思うのだが、それについてはノーカンらしい。うん、それもまた実に自分達に都合のいい、利己的な考え方だと思うぞ…。

…。

『では、続いてのニュースです。昨夜零時半頃、台東区にあるコンビニにゴブリンの一団が押し入り、店の従業員と店内にいた客数名に怪我を負わせ、パンなどの食料品を奪って逃走したとのことです』

「え、やだ!私このコンビニ行った事ある!」

『―なお、ゴブリン達は駆けつけた警察官たちの姿を見てすぐに逃走し、店の従業員や客の怪我はいずれも軽傷だったということです』

「もぉ~!ゴブリンなんてダンジョンから出て来なければいいのにぃ~~!」

うん、どうもいっしょにニュースを観ていた瀬来さんは大変な事態になってる世界情勢よりも、コンビニがゴブリンに襲撃されたニュースの方が驚きだった様子。どうしても身近な方に目がいってしまうのは仕方ないか。

「(ぽちぽちぽち…)ん、これでよし…と。ほんならそろそろ準備して出かけよか」
「おっと、もうそんな時間か。大事なお得意先だからな、待たせたら不味い」

そう、新たに集め出したスライムのドロップが50kgを超えたので、今日は再び真田薬品へと納品と新年の挨拶に伺うのだ。


……。


「いやぁお待ちしてましたよ。あれ、江月さん?だいぶ痩せました?」
「ええまぁ、正月に少し身体を絞りまして…、でもボディビルダーにはよくあることですよ」

「はぁそうなんですか、それはまた大変ですね。あ、ではどうぞあちらの個室に…」

真田薬品のビルに着くと、すぐに担当の田所さんが出迎えてくれる。事前にアポイントの確認電話を仁菜さんが入れてたしな、さすが出来る系女子の仁菜さんは違う。

「田所さん、どうぞ本年もよろしくおねがいいたします…(スッ)」

個室に入ると、向かい合って座る前に丁寧な所作で田所さんに向け新年の挨拶をする仁菜さんに、慌ててオレも頭を下げる。新年の挨拶ってこのタイミングなんだ…、あ、でも座ってからじゃおかしいもんな。なるほど流石…。

「いえいえこちらこそ。それにしても、江月さんたちのお持ちになる素材は『質が良いからもっと欲しい』と、研究部署からせがまれてましてね。思っていたよりも早く届けてくださり助かりましたよ」

おお、そういうことか。初めて会った時より田所さんのオレ達への応対が丁寧な感じがしたが、その理由が解った。

「お約束通り前回と同じだけの量をお持ちしました。50kgです、どうぞお納めください」

そんな仁菜さんのセリフに合わせて、テーブルの上にクーラーボックスを載せる。

オレはこのくらいの重さ平気だけど、ナイロンのベルトを留めている金具がギチギチいって壊れそうだったよ。来る途中で抱えるように持ち替えていなかったら、きっと壊れてたな。

「(がぱっ…)おお、これはまた…!ありがとうございます。で、早速次の話なんですが…、またお願いできますか?」

メガネの田所さんが頬をかきながら申し訳なさそうに話す。

「ありがとうございます。それは構いませんけれど…、でもそんなにご入り用なんですか?」

元はゴミとして溜っていたモノだがらうちとしてはありがたい限り。だけど仁菜さんは気になったらしく理由を田所さんに訊ねた。

「(はい、ココだけの話にしておいて欲しいんですけど…、実は我が社も回復薬の開発に成功しまして…)」

「まぁ…!それはおめでとうございます!」
「すごい、じゃあ株価も急上昇じゃないですか!」

「(ああ…いえ、それはないと思いますよ。それを発表することは国から止められましたので…)」
「「…ッ!?」」

「(これもまたココだけの話にしておいてほしいんですけど…、糖野儀製薬さんのとこ。実はすでに、職員の方が何人も行方不明になってるんです…)」
「「…ッ!?」」

「(いやぁ~…、いったいどこの国がしたことなのか…。我々には一切知らされていませんが、まぁそういった事情があるので…江月さん達もどうかこの件はくれぐれも…)」

て、あれ…?今オレ達って、とんでもない秘密をサラッと明かされなかった??

チラリと横に座る仁菜さんの顔色を窺うと、やはりというか表情がスマイルのまま固まっている。だよね…。

「(田所さん。オ…、いや私たちにそんな話をして良かったんですか?)」
「(それなんですけど、どうも糖野儀さんとこでは出入りの業者も狙われたらしくて…。)」

そうか、それでオレ達にも相応の危険があると教えてくれたのか。良い人だな、田所さん。

「(今、出来るだけ多くの回復薬を作るよう我が社も国から命じられています。糖野儀さんとこに仕掛けられている海外からの攻撃的買収も、国が水面下で介入してそれを妨害しているようですし)」

ああ…それで糖野儀製薬の株価はあんなに爆上げしていたのか。そっと仁菜さんの横顔を見ると、わずかに頬が緩んでいる。うん…知ってた。糖野儀製薬の株買ってたもんね。

「(そんな訳ですので…、また江月さん達のお力を我が社にお貸しください)」

そんな風に深々と頭を下げる田所さん。

『また400万の売り上げだぁ♪』なんて浮かれ気分でやってきたオレ達とはえらい違い…。なにか悲壮な印象すら受ける。ただのサラリーマンな田所さんからすれば、今の状況は『とんでもないことに巻き込まれてしまった』と逃げ出したい思いなのだろう。

そんな訳でオレ達もまたその『とんでもないことに巻き込まれてしまった』という認識を共有しつつ、それでもなお金の魅力には逆らえずに『また近いうち納品します』と真田薬品ビルを後にした。


「カァ~!カァ~ッ!」
『(ざぁぁぁぁ…~ッ!)』

「「………」」

昼下がりの都心の小さな公園、樹木にとまったカラスが鳴き、木枯らしが砂埃を巻き上げる。

そんな公園の一角にあったベンチに並んで腰かけると、自販機で買ったペットボトルのお茶で手を温めながら、オレと仁菜さんはただ無言で景色を眺めていた。

「なんや、エライことに巻き込まれてしもうたなぁ…」
「うん…、これはちょっと予想外だ…」

「カァ~!カァ~ッ…!」

「どないする?」
「うん…、もっと強くなろう…」

オレは現在無職、ダンジョンショップが閉店してしまったことで魔石を売って金銭を得る事も出来ない。そんななか、ダメ元で連絡をいれてみたことで手にできたビジネスチャンス。この利益は大きく、サラリーマン時代の年収が300万そこそこだったオレからすれば、非常に魅力的なことこのうえない。

故にせっかく手にできたビジネスを自分から捨てるというのは、あまりにもったいなさ過ぎる。

「ほんまに大丈夫やろか…?」
「う~む、リスクという点で言えば、自動車を運転すれば事故のリスクがある。でも便利でそれが必要であれば、人はそれを利用する。投資や、火だって同じだ」

「カァ~!カァ~ッ…!」

「………」
「だから本当に大丈夫、とは言い切れないだろうな。なにせ今は、『ゴブリンがコンビニを襲う時代』だ。どんな生活を送っていたって、以前よりも格段にリスクは高まっているし…。ならオレ達に出来ることは、どんなリスクに遭遇しても負けない強さを身に着けるより、他にないんじゃないかな?」

どんな形であれ、生きてゆくにはお金が必要。そして生き抜く強さも…。

ならばそれらを齎してくれるダンジョンを自由に出来ているオレ達は、いま相当に恵まれていると言えるだろう。


『ザッ!がささ…どさっ!バッサッサア!』

なにやらさっきからカラスがやけにうるさいと思ったら、巣をビーストラットに狙われていたらしく二匹がもつれ合うようにして高い樹木から落ちてきた。

「ギュチィーッ!!」
「アホゥ!アホゥ~ッ!!」

生きるという事は、極論すれば生存競争。

綺麗とか汚いとか、体裁なんても二の次だ。それは大国同士の争いも、今目の前で繰り広げられている都会のカラスとダンジョンから出てきたビーストラットの戦いも、同じこと。

「そうやね…。強くなるより他は、ないんよね…」

そう呟く仁菜さんの綺麗な瞳の向けられた先では、土埃に塗れ全身から血を流して噛みつき合うカラスとビーストラットが、命をかけて自身の生存の為に戦っていた。
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