うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ダンジョンスタンピード第二波 武器

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(ここは…夢の世界?)

半瞑想状態で心と体を休めていた筈が、いつのまにやらフワフワとした感覚に包まれている。どうも疲れから、また寝落ちしてしまったらしい。

すると何も視えていない状態から、次第に空間が知覚出来てゆく。

(そうだ。どうせならまた塩の神さまが現れて、取得出来なくなってしまったスキルの獲得上限を解放してくれないかなぁ…)

なんて得体も無いことを思っていると、オレは青空のした冒険者ギルドの前に立っていた。

「ん…ここは?」

眼の前には洋風の建物。造りや間取りは変わってしまっているように感じるが、『少し前にも騎士風味な男と共にここを訪れたな』という記憶がよみがえる。

ああ。どうもこれは、狼みたいなモンスターと戦った異世界転移風味な夢の…続きらしい。

思い返してみると、リディス・レム・ノーストスというイケメン騎士と共にこの街へとやってきたのだ。そしてベオウルフの死体を冒険者ギルドで買い取ってもらい、金を山分けして別れた。

そうだ、この世界でのオレの名はソルト・エン・イチキログラム。旅の風来坊だった。

(とすると手持ちに余裕はあるが、今のうちに仕事を見つけておきたくて冒険者ギルドに来たのか…)

などと、なんとなく自分の行動にアタリを付けながら歩を進める。そうして建物に入ると、なかはウエスタンバーのような雰囲気。まだ陽も高いというのに何人かがテーブルで酒を飲んでいて、アルコールの匂いが鼻を突く。

だがカウンターの奥の棚には武器やら薬品、それに魔法のスクロールらしきモノまで置かれていて、ここがただの酒場ではなく冒険者の集う場所だということを示している。

「おい小僧、ここはテメェみてぇなガキの来るところじゃねぇぞ」

テーブルで酒を飲んでいた顔に深い傷のある男が、入った途端オレに向けそんな事を言う。『おお、なんてテンプレな…!』と男のセリフに驚いていると、どういう訳かオレの身体はみるみるうちに縮んでしまった。

(ナッ…!?)

先ほどまでは、確かに蟲王スーツ風味な鎧を着ていた筈。だというのに今は縮んで子供の手足。しかも服装までもがガサガサとした肌触りの悪い、麻のボロ服に変わってしまっている。

こ、これはまさか異世界モノあるあるの、『無駄にサクッと若返ってしまう』ではないかッ!

大抵は神さまとかにボーナスで若返らせてもらったりするのだが…、まさか昼間から酒を飲んでクダ巻いてるチンピラ冒険者に若返らされるとは思ってもみなかった。

そう自身の変化に驚愕していると、今度は顔に傷のある男といっしょに飲んでいた背の低い出っ歯が口を開く。

「へっ…クソガキが。ガキはママのミルクでも飲んでるんだなッ」
「なにッ…ぐぅ!?」

すると今度はチビ出っ歯の言葉通りに、無性に喉が渇いて母乳が飲みたくなってきた。

(バカなッ、なんだコレは…!?いや、そういうプレイに興味はあるが…ってそういう話じゃない!)

うむむ…どうやらこの世界、口にした言葉がかなりの力を持つ様子。いわゆる言霊というヤツの、強力に作用する世界のようだ。恐らくはその力を用いて、チンピラ冒険者たちはオレに口撃をしかけてきたらしい。

(よし…だがそういうことか、ならオレも試してみよう)

今なら丁度子供の姿だし、どうせなら子供ムーブで反撃だ。子供は思った事を脊髄反射で口にするからな。その毒舌は荒削りながらも、一切の容赦がないのだ。

「わぁ~!おじさん顔に凄い傷ッ!『でも…そんなに深い傷だったら、きっと何年経っても痛いよねェ…?』」

そうオレが口にした瞬間、顔面傷男の顔がサッと青ざめる。

まさか自分が反撃を受けるとは思わなかったのだろうか。なんでだろう?やられたらやり返されるのは、当然じゃんね?

「う…ヤメろ!ぐぅぅうう…!」

するとチンピラ冒険者の顔に走った古傷から、『ぷつり』と音がして皮膚が裂ける。そうしてたちまち顔面を血で染め男は、苦悶の声をあげた。

「野郎ッ!やりやがったなッ!」

それを視て立ち上がったのは隣のチビ出っ歯、腰のダガーを引き抜きこちらに向ける。もはや口撃だけではなく、物理攻撃も行う所存のようだ。うむむ…。

対してオレの方はというと、子供の姿から元の姿へと。

どうやら口撃は一定の時間が過ぎるか術者の集中が途切れると、解除されるモノらしい。だが大人の姿には戻ったものの、オレはまだ『母乳飲みたい』とか思っていた…。

しかしそれも、目の前にいるチビ出っ歯をどうにかすれば解除されるはず。

「あれあれぇ~?視ればモノ凄く大きくて立派な歯だね!これはスゴイ!『そんなに凄いのなら、その歯はもっともっと成長するんじゃない!?』」
「な…おまえ…!?」

人の外見を貶めるような言動は非常に宜しくないが、仕掛けてきたのは向こうだしこの際容赦はしない。

『スカーンッ!』
「ごハ…ッ!?」

次の瞬間、チビ出っ歯が何かを言い放つ前に前歯が凄まじい勢いで伸びた。

前歯は木の床に突き刺さり、チビ出っ歯はその成長に体内のカルシウム分を奪われたのか、老人のような骨の細さに変わり果てている。なんだかコレ…、口の減らない桂名みたいなヤツが来たら最強の世界だな。

しかしこれにより、オレの感じていた母乳飲みたい欲求も霧散した。

(さて…このふたりどうしてくれよう)
「おい、いい加減にせんかッ!」

オレがチンピラ冒険者にどう始末をつけようかと一歩踏み出すのと、大きな叱責の声が建物内に響き渡るのがほぼ同時だった。

「ぐ…はぁ…」
「…うぅ」

しかもその叱責の声はオレの発動させた言霊による口撃をも無効化し、チンピラ冒険者らが元の姿へと戻ってゆく。

そうして現れた声の主は、革の服を着込んだお髭のダンディマッチョ。どうやら凄い人っぽいのの登場だ。そんな人物が建物の奥から、まっすぐオレの前へとやってくる。

「あまり力をひけらかすな…」

と、ダンディマッチョに真っ直ぐと目を見据えられ、怒られるオレ。

強烈な視線に射竦められる思いがするが、『先に仕掛けたのは向こうなのに、なんでオレだけが怒られんの?』との感情が湧いてくる。

なのでそれに対し反発したくなった。しかし怒らせると怖そうな相手だったので、やめておいた。

だがなにか忠告をしてくれてるようなので、代わりに『忠告痛み入る』と言ったら、ホントに胸が痛くなってきた。

それを視て、あからさまに長い溜息をついて呆れてみせるダンディマッチョ…。なんだよ、こっちはまだ加減とか解んないんだから、しょうがないだろ。

そんなダンディマッチョの態度に軽くムカついたので『ちょっと煩い蠅を追っ払っただけだ』と返すと、今度は悲鳴をあげながらチンピラ冒険者らが蠅人間へとバキバキ変身してしまい、『おまえマジでやめろ!』と本気で怒られた。

なんだよココ、メンドクサイ世界だな…。


…。


翌朝、オレ達は裁判所を後にして糧品宅のあるマンションへと向かう。瑠羽ママの安全を確保する為だ。

そして自衛隊と接触できたことで、確かな情報を幾つか入手することもできた。

ダンジョンスタンピードの第一波が起きて以降、自衛隊は都内の数か所に部隊を駐留させていた。そのなかで特に規模が大きいのは市ヶ谷本部と、有明から夢の島に渡って展開していた陸上自衛隊の部隊だ。

裁判所を拠点にしていた路亜さんらは、市ヶ谷から東進してきた部隊だそうだ。

現在は市ヶ谷からと、有明方面から陸上自衛隊の部隊が都内に溢れ出たモンスターを駆逐しつつ救助活動を行っているという。

問題は都内の数か所に展開していた部隊の方で、彼らはダンジョン駆除任務の為にスタンピード発生時もダンジョンに潜っていた。つまりはダンジョンを駆除できるレベルの一線級超人自衛官が、スタンピード発生時の地上にほとんど不在だった事。

勿論普通の自衛官だってダンジョンで強化されているが、やはり一線級とは錬度が違うそう。さらには救助すべき人と駆除すべきモンスターが入り混じったような市街戦が、事態により混迷の色を深めている状態といえた。

それでも陸上自衛隊のみなさんのおかげで、ゴブリンやオーク、アンデットといった厄介なモンスターの姿は見かけない。やはりそれらの発生するダンジョンは、優先して駆除されていたようだ。

(とすると瀬来さんのバイトしてたダンジョンショップパレードのゴブリンダンジョンには、もう潜れないだろうなぁ)

別にゴブリンの事を懐かしいとは思わないが、初めて瀬来さん達と冒険をしたダンジョンなだけあって、無くなると思うとすこし淋しく感じる。

「ほんならウチらはここで。ほんまおおきにぃ」
「はい、本来ならお引き止めしなければならないところですが…どうぞお気をつけて」

大きな十字路に差し掛かったところで、仁菜さんが傍を歩いていた自衛官に声を掛けた。

現在は裁判所から最寄りの公民館へと、避難民たちがぞろぞろと移動中。裁判所は自衛隊で拠点として利用する為、一時的に収容されていた避難民は食糧備蓄のされている学校や公民館に移る必要があったのだ。

別れの挨拶をする自衛官さんが、仁菜さんの持っているエクスカリバールに眼を向ける。

もはやぐにゃぐにゃにひん曲がり、持ち手の部分には手の跡まで付いている。武器を返却してもらう時に、『なんだコレ…』と自衛官さん達でさえ舌を巻いたシロモノだ。

『…よくもまぁこんなになるまで戦ったものだ』と自分達でも思う次第。

だが、バールや金テコが武器でなければ、ここまで戦えなかっただろう。現在の技術で丈夫に鍛造されたバールですらこの有様なのだ。もし日本刀なんかを武器に使っていたら、恐らくは一波戦闘を終える前に折れてしまっていたに違いない。

勿論、『日本刀を使えない武器だ』などと言うつもりは毛頭ない。

それなりの使い手が日本刀を手にしたならば、それは凄まじい威力を発揮するだろう。だが、オレ達はそんな剣術の使い手ではない。刀というのは決まった方向に向け、決まった理で振るってこそ初めて活きる武器。

つまり素人が適当に振り回したところで、高が知れているのである。

特に乱戦では『決まった方向に決まった理で…』なんてお行儀よくなど振ってはいられない。横からモンスターに襲いかかって来られれば柄で殴り返したり刃の腹で払ったりもしなければならないし、刃の部分で受けるにしても切れ味の落ちることを覚悟して受けなければならない。

その点でいえば、バールや金テコはどんなにひん曲がろうが折れたり威力が落ちたりという事がない。まぁ曲がり過ぎて多少持ち難くなるってことは、度々起きたけど…。

そう、鍛造品であっても過度な力や衝撃が加わると、簡単に曲がってしまうのだ。

うまく切っ先を当てられれば問題はないのだが、下手に武器のなかほどで叩いたりするとグニャリと曲がってしまう。戦国時代の合戦で使われた刀剣ですら、『一戰終えた後では反りが無くなっていた』なんて話が残っているくらい。

で、2トンのパンチを放てる程の腕力で振り回せば、当然そうなってしまう。

「みんな、武器が金属疲労で折れそうだったら直ぐに言うんだよ。塩の武器を出すから」

念を入れて生み出した塩の武器なら岩石ほどの強度があるし、2~3時間はそのまま使える。その分重いのが難点だが、今の彼女たちならばもうその重さも問題ではないだろう。

「は~い!でもまだ大ジョブそう。それに手に馴染んでるから、扱いやすいんだよねコレ」

ぐにゃぐにゃにひん曲がったエクスカリバールを軽く振ってみせ、そう笑って見せる瀬来さん。マスクはしっかりと被っているが、フェイスオープンしているのだ。

「せやねぇ。なんだかんだで曲がっても、案外使えるモンやねぇ」

仁菜さんも同様に、エクスカリバールを軽く振って光らせる。

うん、エクスカリバール+1には威力強化のスクロールが付与されているから、魔力を乗せれば攻撃力が増す。状態はぐにゃぐにゃになってしまっているが、その効果の方はしっかりと続いている様子。

「わたしもだいじょうぶです。コーチの武器も好きですけど、やっぱり使い慣れた武器の方がいざという時に安心なので」

瑠羽も同じように、バットを持ってオレに微笑をくれる。

小柄な瑠羽は、軽くて扱いやすいカツオくんバットをずっと愛用している。ていうかソレ、オレがゴミ捨て場で拾った何の変哲もない子供用バットよ…?

ソレを数々の乱戦を経てもなお、未だ折る事も損傷させることもなく無傷で使い続けている。なんだかモンスターの血を吸ってだいぶ赤みが増してるような気もするけど…なんともない?ねぇ、だいじょうぶだよねソレ…??
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