214 / 660
ダンジョンスタンピード第二波 急襲
しおりを挟む
世の中がモンスターの溢れ出た大変な状態になってしまい、『もうお先真っ暗』といった辛そうな表情で歩く避難民たちの列が遠ざかっていく。
うん、そんな彼らと別れたオレ達はゴーイングマイウェイ。我が道を往くだけだ。
彼らからすれば、きっとオレの精神などはもはや『ぶっ壊れ』もいいトコだろう。モンスターを危険視する意識はしっかりと残っているが、だからといって過剰に怖がったり忌避するような感覚はすでに消え失せている。
というかだ。この胸には塩の精霊やら妖精の女王やらが仲良くシェアハウスしているので、彼女らの感覚にも引っ張られて『モンスターも普通の生き物』という認識の方が優ってきてるのかも。
で、そんなオレに引っ張られてか、美人女子大生たちの順応力も目覚ましい。
元々ケンカ度胸だけはつよつよだった瀬来さん。数々のガチ戦闘を経験し、そのクソ度胸にさらに磨きをかけた。なのでもはや、ちょっとやそっとでは悲鳴すらあげなくなっているワルキューレだ。
「なにあれゾンビ?やだ気持ちわる~い!江月さんデスソルトで倒しちゃってよぉ!」
「デスソルトってなんだ?そんな塩持ってないぞ」
「えぇ~!江月さんの塩ならゾンビも死ぬじゃん!だから『死者さえ殺す!デスソルト』だよ!」
「ん~実際は塩の持つ聖属性でそう視えてるだけで、塩自体がそんな殺傷力を持ってるわけじゃ…ってアレ?やっぱ持ってたわゴメン」
新しいダンジョンか調査漏れなのか、ワラワラと迫りくるゾンビの群れ。
そんなゾンビに『パッパッ!』と雑に塩を撒いて退治。ファンタジーゲームなんかで聖職者の使うとされる『ホーリーライト』ではないが、アンデットには抜群の威力を発揮する塩。うむ、これはまさに『ホーリーソルト』ですな。なんて事を思いながらも出所を見つけると、千引の岩ならぬ巨大岩塩で蓋をして封印しておく。
「コォチ、あっちからも変なの来とるよ!あの大きいのって、アーマードリザードちゃうん!?」
「アーマードリザードって、それって亀の事じゃないの仁菜さん?て、わ…ッ!確かに亀だかトカゲだか解らんヤツが来たな!むぅ、ここは仕方ない…喰らえ『忍法普通乗用車返し』ッ!!」
解説しよう。『忍法普通乗用車返し』とは路上に放置されている車をモンスターにひっくり返してぶつける攻撃で、バレると器物損壊の罪に問われてしまうという非常に危険な諸刃の剣なのだ。
「グゲェェエエエエ~~ッ!!」
「なぁコォチ、あれじゃすぐに抜け出て来てしまうよ!?」
「ふむそうか…、ならここは延焼の心配がなさそうだから燃やしてまおう。『化学忍法・火の車!』チェストファイヤー!!」
さらに解説しよう。『化学忍法・火の車!』とは、モンスターにぶつけてガソリンの漏れた車に火を放つ攻撃で、バレると放火の罪に問われてしまうという非常に危険な諸刃の剣なのだ。
『ボンッ!…ぼぉぉおおおおおッ!!』
「グギャアアァァ~…!」
「ホッ…あんならバッチリやなぁ。ほな誰かに視られんうちに早よ移動しよ!」
オレが誰かの車を派手に壊そうが燃やそうが、サラッと移動を提案してくれる豪胆な仁菜さん。うん、こんな行動を取ってるのを誰かに視られたら大変だ。とっととこの場を離れよう…。
『ゴッ…!ガッ…!ボグゥッ!』
「んッ…ンっ…ンッ…!」
そして、ただただ無言でバットを振り下ろしているのは瑠羽。
脚を折っては機動力を削ぎ、嘴を砕いては攻撃力を削ぎ、確実にモンスターを追い詰め絶命させていく…。
真面目な瑠羽らしく一切奇をてらわず、教えた通り堅実着実にモンスターを仕留めていく。そんな瑠羽を視ていると、『戦時下の少年兵って、こういう風にして作られていくんだろうな~』などと、自分が指導してきた事ながら空恐ろしくも感じてしまう。
「この先は何もいないみたいです!早くおかあさんに会えるよう急ぎましょう!」
「う、うん…!そうみたいだね。よし、じゃあ急ごうか!」
気丈に明るく振る舞っているのか、それともナチュラルテンションでコレなのか。ともかく瑠羽も、もうちょっとしたモンスターなんかでは怯んだりはしない強い子に成長したぞ。
きっとあの質の悪い避難民らを連れての移動で何度も押し潰されそうになった経験が、彼女らを数段強く逞しくしたようだ。
……。
「あ~あ、私も江月さんみたいに魔法がたくさん使えればいいのに…」
モンスターの姿が視えない区域に入り休憩を入れていると、瀬来さんがそんな事を口にする。
「…確かにスキルがあれば便利だけど、最後にモノをいうのはやっぱり地力だよ。その点でいえば瀬来さん達は今どんどんと地力が伸びているのだから、実に理想的な成長をしていると言える」
まぁコレにはとっても丈夫でモンスターからの攻撃を受けてもビクともしない戦闘スーツを、初めから装備出来ていたというのが大きい。でなければ途中で大怪我をして治療に専念せねばならなかったろうし、その分だけダンジョンで戦う経験を積む時間も減っていた事だろう。
アレだな、『オーバースペックな主人公メカに乗ってればまず死なない。故に成長しちゃう!』みたいな感じか。
「え…えへへ、そうかな?」
「そやで万智ぃ。下手に無理してみぃ?コォチかて左足失いような大怪我しとるんやから。ウチらがそうならないようにって考えてくれとるんやから、ワガママ言うたらあかんよ?」
うん、そう!まさに仁菜さんの言う通り!
あとは皆に覚えさせたいスキルで、丁度いいのが無いってことなんだよな。個人的に覚えて欲しいのは、攻防ともに優秀な【粘液】なんだけどねぇ…。
「でもこんな事になるのなら、皆に無理を言っても【粘液】くらい覚えてもらっておけば良かったな」
「それは…ごめんなさい」
瑠羽が謝ったのは以前に【粘液】をそれとなく提案して、それとなく却下された経緯があった為だ。やっぱイメージ的には良くないもんな。
「いや瑠羽、いいんだよ。スキルを扱うにはその人の性格や相性ってのもある。例え同じスキルを持っていたとしても、一概に同じ強さになるとも言えないからね」
「でも【炎】とか【雷】なんてスキルオーブを落しそうなモンスターがいたらさ!絶対狙ってね江月さんッ!」
ふんすと鼻息も荒く、そんなおねだりをしてくる瀬来さん。
「うん…まぁいたらね。でもそんな期待しないでね?」
だって【炎】とか【雷】とか…絶対状態エネルギーの位置が高いから、ひどく扱い辛いと思うよ?
…。
曇天の空の下、灰色の街並みが続いている。人影はおろかモンスターの影もなく、ただ信号機の明滅だけが何も通らない交差点で繰り返されている。
そんな空虚で廃墟都市的な雰囲気を醸す東京の片隅を、バールやバットを持った金ぴか集団が歩いていく。まぁ誰あろうって、毎度の如くオレ達なんだが。
「やけに静かやねぇ…モンスターぜんぜん見かけんやん」
「うん。楽でいいけど、少し不気味よね…」
並んで歩く仁菜さんと瀬来さんが、周囲に気を配りながらもそんな言葉を交わしている。
「ちょっとルウ、危ないからあまり離れないで」
「はい。でもウチまでもう少しです!」
瑠羽はいつしか先頭に立って歩いていた。落ち着いてはいるものの早く母親の無事な姿を視て安心したいと気が逸るのか、次第にその歩みも他より早くなってしまっているのが気にかかる。
などと心配をしていると、そんな嫌な予感が的中したかの如く頭上で怪しく影が走った。
「…瑠羽ッ!?」
咄嗟に放った粘液が瑠羽を捕まえ、カエルの舌に捕われた虫のようにしてその身を『びょん』と引き寄せる。緊急につき攻撃する時と変わらぬ速さ、かつ引き寄せるのも本気の引き寄せ。
「ぅぐッ…!」
その甲斐あって間一髪…。寸でのところで襲いかかってきた脅威から瑠羽を救いだすことが出来た。
『ずだあああぁあああんッ……!!』
「えぇ~!なによアレェ!?」
「な…サソリより大きいやん…!」
ビルの影から瑠羽目掛け飛び降りてきた存在は、なんとも巨大な黒い蜘蛛。二車線ある車道を丸々塞ぐような馬鹿デカさをしている…。
「瑠羽ッ!…怪我はないか!?」
「痛…ッ!く、首が…」
突然カツオの一本釣りみたいにして宙を舞ったが為に、そのせいで瑠羽はムチウチになってしまったようだ。
「すまない瑠羽…手加減する余裕がなかったんだ」
「その話はあと!江月さんアイツこっちに来るよ!」
「む、不味い!一度どこかに…」
「ならとりあえずあそこは!?」
瀬来さんが指差す先には小さなスーパー。人影もなく、開いたままで放置されている様子。対する巨大黒蜘蛛はというと、着地の衝撃で普通乗用車の屋根を踏み抜いており、それを脚から取り外すのにまごついている。
「はよせんと!」
「ああ解った!あそこに逃げ込もう!」
粘液塗れの瑠羽を抱いたまま、スーパーへダッシュ。だがすぐに背後を『がっしゃん!がっしゃん!』という不気味な金属音の足音が追いかけてくる。逃げようとするオレ達を視て、巨大黒蜘蛛が脚に車を填めたまま無理くり追いかけて来た様だ。
「「「うわぁあああぁぁ~~…!」」」
『『ドッがしゃあああああぁぁッ!!』』
仁菜さんと瀬来さんと、最後は団子のように縺れあってスーパーのなかに飛び込んだ。
『『びょんッ!ガス!びょんッ!ガス!びょんッがしゃパリーン!』』
と同時に背後ではガードレールや街灯の支柱をド派手に破壊する音と衝撃が響き、飛び込んだ店内ではキャベツを丸かじりしていた巨大コオロギらがそれに驚いて跳ねまわり、天井に穴を空けて照明を破壊、一瞬にして店内の半分が暗くなった。
この間、スローモーションのように加速した知覚で約0.5秒ほど…。
『ミシリ…バリバリバリ!…がりりッ!………。びゃんッ!!』
だがスーパーのビニール屋根を破壊しつつさらに店内への侵入を試みる巨大黒蜘蛛。…だったが物理的に入るのは不可能だと感じ取ったのか、跳躍するとその場から姿を消した。
(おいおい…なんだよ。まるで怪獣映画じゃないか。巨大赤蠍よりも大きな黒蜘蛛だったぞ?いったいどんなダンジョンから沸いて出てきた??)
「イタタぁ…みんなだいじょうぶぅ?」
「苦しいて…コレ万智の脚やろ?早よどいて」
「待って。江月さんがどいてくれないと、私も身体動かせないよ!」
「ん、ちょっと待ってくれ。…て、どうなってるんだコレは?」
巨大黒蜘蛛の体当たりの衝撃で店内はぐっちゃぐちゃ。まるで震度6の地震の後みたいに商品が散らばっていて、身体を支えようにも掴まるモノが見当たらない。お、でもこれなら…。
「コーチ、それ私のお尻です…!」
「何!?いやこれはスマン!」
細い通路にも関わらず多くの品物を陳列されていたらしく、商品の山に埋もれたオレ達は立ち上がる事すらままならない。
くそう…しかしなんでまた次から次から、あんな馬鹿でかモンスターばかりが出て来るんだよ…。
うん、そんな彼らと別れたオレ達はゴーイングマイウェイ。我が道を往くだけだ。
彼らからすれば、きっとオレの精神などはもはや『ぶっ壊れ』もいいトコだろう。モンスターを危険視する意識はしっかりと残っているが、だからといって過剰に怖がったり忌避するような感覚はすでに消え失せている。
というかだ。この胸には塩の精霊やら妖精の女王やらが仲良くシェアハウスしているので、彼女らの感覚にも引っ張られて『モンスターも普通の生き物』という認識の方が優ってきてるのかも。
で、そんなオレに引っ張られてか、美人女子大生たちの順応力も目覚ましい。
元々ケンカ度胸だけはつよつよだった瀬来さん。数々のガチ戦闘を経験し、そのクソ度胸にさらに磨きをかけた。なのでもはや、ちょっとやそっとでは悲鳴すらあげなくなっているワルキューレだ。
「なにあれゾンビ?やだ気持ちわる~い!江月さんデスソルトで倒しちゃってよぉ!」
「デスソルトってなんだ?そんな塩持ってないぞ」
「えぇ~!江月さんの塩ならゾンビも死ぬじゃん!だから『死者さえ殺す!デスソルト』だよ!」
「ん~実際は塩の持つ聖属性でそう視えてるだけで、塩自体がそんな殺傷力を持ってるわけじゃ…ってアレ?やっぱ持ってたわゴメン」
新しいダンジョンか調査漏れなのか、ワラワラと迫りくるゾンビの群れ。
そんなゾンビに『パッパッ!』と雑に塩を撒いて退治。ファンタジーゲームなんかで聖職者の使うとされる『ホーリーライト』ではないが、アンデットには抜群の威力を発揮する塩。うむ、これはまさに『ホーリーソルト』ですな。なんて事を思いながらも出所を見つけると、千引の岩ならぬ巨大岩塩で蓋をして封印しておく。
「コォチ、あっちからも変なの来とるよ!あの大きいのって、アーマードリザードちゃうん!?」
「アーマードリザードって、それって亀の事じゃないの仁菜さん?て、わ…ッ!確かに亀だかトカゲだか解らんヤツが来たな!むぅ、ここは仕方ない…喰らえ『忍法普通乗用車返し』ッ!!」
解説しよう。『忍法普通乗用車返し』とは路上に放置されている車をモンスターにひっくり返してぶつける攻撃で、バレると器物損壊の罪に問われてしまうという非常に危険な諸刃の剣なのだ。
「グゲェェエエエエ~~ッ!!」
「なぁコォチ、あれじゃすぐに抜け出て来てしまうよ!?」
「ふむそうか…、ならここは延焼の心配がなさそうだから燃やしてまおう。『化学忍法・火の車!』チェストファイヤー!!」
さらに解説しよう。『化学忍法・火の車!』とは、モンスターにぶつけてガソリンの漏れた車に火を放つ攻撃で、バレると放火の罪に問われてしまうという非常に危険な諸刃の剣なのだ。
『ボンッ!…ぼぉぉおおおおおッ!!』
「グギャアアァァ~…!」
「ホッ…あんならバッチリやなぁ。ほな誰かに視られんうちに早よ移動しよ!」
オレが誰かの車を派手に壊そうが燃やそうが、サラッと移動を提案してくれる豪胆な仁菜さん。うん、こんな行動を取ってるのを誰かに視られたら大変だ。とっととこの場を離れよう…。
『ゴッ…!ガッ…!ボグゥッ!』
「んッ…ンっ…ンッ…!」
そして、ただただ無言でバットを振り下ろしているのは瑠羽。
脚を折っては機動力を削ぎ、嘴を砕いては攻撃力を削ぎ、確実にモンスターを追い詰め絶命させていく…。
真面目な瑠羽らしく一切奇をてらわず、教えた通り堅実着実にモンスターを仕留めていく。そんな瑠羽を視ていると、『戦時下の少年兵って、こういう風にして作られていくんだろうな~』などと、自分が指導してきた事ながら空恐ろしくも感じてしまう。
「この先は何もいないみたいです!早くおかあさんに会えるよう急ぎましょう!」
「う、うん…!そうみたいだね。よし、じゃあ急ごうか!」
気丈に明るく振る舞っているのか、それともナチュラルテンションでコレなのか。ともかく瑠羽も、もうちょっとしたモンスターなんかでは怯んだりはしない強い子に成長したぞ。
きっとあの質の悪い避難民らを連れての移動で何度も押し潰されそうになった経験が、彼女らを数段強く逞しくしたようだ。
……。
「あ~あ、私も江月さんみたいに魔法がたくさん使えればいいのに…」
モンスターの姿が視えない区域に入り休憩を入れていると、瀬来さんがそんな事を口にする。
「…確かにスキルがあれば便利だけど、最後にモノをいうのはやっぱり地力だよ。その点でいえば瀬来さん達は今どんどんと地力が伸びているのだから、実に理想的な成長をしていると言える」
まぁコレにはとっても丈夫でモンスターからの攻撃を受けてもビクともしない戦闘スーツを、初めから装備出来ていたというのが大きい。でなければ途中で大怪我をして治療に専念せねばならなかったろうし、その分だけダンジョンで戦う経験を積む時間も減っていた事だろう。
アレだな、『オーバースペックな主人公メカに乗ってればまず死なない。故に成長しちゃう!』みたいな感じか。
「え…えへへ、そうかな?」
「そやで万智ぃ。下手に無理してみぃ?コォチかて左足失いような大怪我しとるんやから。ウチらがそうならないようにって考えてくれとるんやから、ワガママ言うたらあかんよ?」
うん、そう!まさに仁菜さんの言う通り!
あとは皆に覚えさせたいスキルで、丁度いいのが無いってことなんだよな。個人的に覚えて欲しいのは、攻防ともに優秀な【粘液】なんだけどねぇ…。
「でもこんな事になるのなら、皆に無理を言っても【粘液】くらい覚えてもらっておけば良かったな」
「それは…ごめんなさい」
瑠羽が謝ったのは以前に【粘液】をそれとなく提案して、それとなく却下された経緯があった為だ。やっぱイメージ的には良くないもんな。
「いや瑠羽、いいんだよ。スキルを扱うにはその人の性格や相性ってのもある。例え同じスキルを持っていたとしても、一概に同じ強さになるとも言えないからね」
「でも【炎】とか【雷】なんてスキルオーブを落しそうなモンスターがいたらさ!絶対狙ってね江月さんッ!」
ふんすと鼻息も荒く、そんなおねだりをしてくる瀬来さん。
「うん…まぁいたらね。でもそんな期待しないでね?」
だって【炎】とか【雷】とか…絶対状態エネルギーの位置が高いから、ひどく扱い辛いと思うよ?
…。
曇天の空の下、灰色の街並みが続いている。人影はおろかモンスターの影もなく、ただ信号機の明滅だけが何も通らない交差点で繰り返されている。
そんな空虚で廃墟都市的な雰囲気を醸す東京の片隅を、バールやバットを持った金ぴか集団が歩いていく。まぁ誰あろうって、毎度の如くオレ達なんだが。
「やけに静かやねぇ…モンスターぜんぜん見かけんやん」
「うん。楽でいいけど、少し不気味よね…」
並んで歩く仁菜さんと瀬来さんが、周囲に気を配りながらもそんな言葉を交わしている。
「ちょっとルウ、危ないからあまり離れないで」
「はい。でもウチまでもう少しです!」
瑠羽はいつしか先頭に立って歩いていた。落ち着いてはいるものの早く母親の無事な姿を視て安心したいと気が逸るのか、次第にその歩みも他より早くなってしまっているのが気にかかる。
などと心配をしていると、そんな嫌な予感が的中したかの如く頭上で怪しく影が走った。
「…瑠羽ッ!?」
咄嗟に放った粘液が瑠羽を捕まえ、カエルの舌に捕われた虫のようにしてその身を『びょん』と引き寄せる。緊急につき攻撃する時と変わらぬ速さ、かつ引き寄せるのも本気の引き寄せ。
「ぅぐッ…!」
その甲斐あって間一髪…。寸でのところで襲いかかってきた脅威から瑠羽を救いだすことが出来た。
『ずだあああぁあああんッ……!!』
「えぇ~!なによアレェ!?」
「な…サソリより大きいやん…!」
ビルの影から瑠羽目掛け飛び降りてきた存在は、なんとも巨大な黒い蜘蛛。二車線ある車道を丸々塞ぐような馬鹿デカさをしている…。
「瑠羽ッ!…怪我はないか!?」
「痛…ッ!く、首が…」
突然カツオの一本釣りみたいにして宙を舞ったが為に、そのせいで瑠羽はムチウチになってしまったようだ。
「すまない瑠羽…手加減する余裕がなかったんだ」
「その話はあと!江月さんアイツこっちに来るよ!」
「む、不味い!一度どこかに…」
「ならとりあえずあそこは!?」
瀬来さんが指差す先には小さなスーパー。人影もなく、開いたままで放置されている様子。対する巨大黒蜘蛛はというと、着地の衝撃で普通乗用車の屋根を踏み抜いており、それを脚から取り外すのにまごついている。
「はよせんと!」
「ああ解った!あそこに逃げ込もう!」
粘液塗れの瑠羽を抱いたまま、スーパーへダッシュ。だがすぐに背後を『がっしゃん!がっしゃん!』という不気味な金属音の足音が追いかけてくる。逃げようとするオレ達を視て、巨大黒蜘蛛が脚に車を填めたまま無理くり追いかけて来た様だ。
「「「うわぁあああぁぁ~~…!」」」
『『ドッがしゃあああああぁぁッ!!』』
仁菜さんと瀬来さんと、最後は団子のように縺れあってスーパーのなかに飛び込んだ。
『『びょんッ!ガス!びょんッ!ガス!びょんッがしゃパリーン!』』
と同時に背後ではガードレールや街灯の支柱をド派手に破壊する音と衝撃が響き、飛び込んだ店内ではキャベツを丸かじりしていた巨大コオロギらがそれに驚いて跳ねまわり、天井に穴を空けて照明を破壊、一瞬にして店内の半分が暗くなった。
この間、スローモーションのように加速した知覚で約0.5秒ほど…。
『ミシリ…バリバリバリ!…がりりッ!………。びゃんッ!!』
だがスーパーのビニール屋根を破壊しつつさらに店内への侵入を試みる巨大黒蜘蛛。…だったが物理的に入るのは不可能だと感じ取ったのか、跳躍するとその場から姿を消した。
(おいおい…なんだよ。まるで怪獣映画じゃないか。巨大赤蠍よりも大きな黒蜘蛛だったぞ?いったいどんなダンジョンから沸いて出てきた??)
「イタタぁ…みんなだいじょうぶぅ?」
「苦しいて…コレ万智の脚やろ?早よどいて」
「待って。江月さんがどいてくれないと、私も身体動かせないよ!」
「ん、ちょっと待ってくれ。…て、どうなってるんだコレは?」
巨大黒蜘蛛の体当たりの衝撃で店内はぐっちゃぐちゃ。まるで震度6の地震の後みたいに商品が散らばっていて、身体を支えようにも掴まるモノが見当たらない。お、でもこれなら…。
「コーチ、それ私のお尻です…!」
「何!?いやこれはスマン!」
細い通路にも関わらず多くの品物を陳列されていたらしく、商品の山に埋もれたオレ達は立ち上がる事すらままならない。
くそう…しかしなんでまた次から次から、あんな馬鹿でかモンスターばかりが出て来るんだよ…。
43
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~
虎柄トラ
ファンタジー
下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。
意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。
女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。
敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。
剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。
一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。
快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

