うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ダンジョンスタンピード第二波 急襲

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世の中がモンスターの溢れ出た大変な状態になってしまい、『もうお先真っ暗』といった辛そうな表情で歩く避難民たちの列が遠ざかっていく。

うん、そんな彼らと別れたオレ達はゴーイングマイウェイ。我が道を往くだけだ。

彼らからすれば、きっとオレの精神などはもはや『ぶっ壊れ』もいいトコだろう。モンスターを危険視する意識はしっかりと残っているが、だからといって過剰に怖がったり忌避するような感覚はすでに消え失せている。

というかだ。この胸には塩の精霊やら妖精の女王やらが仲良くシェアハウスしているので、彼女らの感覚にも引っ張られて『モンスターも普通の生き物』という認識の方が優ってきてるのかも。

で、そんなオレに引っ張られてか、美人女子大生たちの順応力も目覚ましい。

元々ケンカ度胸だけはつよつよだった瀬来さん。数々のガチ戦闘を経験し、そのクソ度胸にさらに磨きをかけた。なのでもはや、ちょっとやそっとでは悲鳴すらあげなくなっているワルキューレだ。


「なにあれゾンビ?やだ気持ちわる~い!江月さんデスソルトで倒しちゃってよぉ!」
「デスソルトってなんだ?そんな塩持ってないぞ」

「えぇ~!江月さんの塩ならゾンビも死ぬじゃん!だから『死者さえ殺す!デスソルト』だよ!」
「ん~実際は塩の持つ聖属性でそう視えてるだけで、塩自体がそんな殺傷力を持ってるわけじゃ…ってアレ?やっぱ持ってたわゴメン」

新しいダンジョンか調査漏れなのか、ワラワラと迫りくるゾンビの群れ。

そんなゾンビに『パッパッ!』と雑に塩を撒いて退治。ファンタジーゲームなんかで聖職者の使うとされる『ホーリーライト』ではないが、アンデットには抜群の威力を発揮する塩。うむ、これはまさに『ホーリーソルト』ですな。なんて事を思いながらも出所を見つけると、千引の岩ならぬ巨大岩塩で蓋をして封印しておく。

「コォチ、あっちからも変なの来とるよ!あの大きいのって、アーマードリザードちゃうん!?」
「アーマードリザードって、それって亀の事じゃないの仁菜さん?て、わ…ッ!確かに亀だかトカゲだか解らんヤツが来たな!むぅ、ここは仕方ない…喰らえ『忍法普通乗用車返し』ッ!!」

解説しよう。『忍法普通乗用車返し』とは路上に放置されている車をモンスターにひっくり返してぶつける攻撃で、バレると器物損壊の罪に問われてしまうという非常に危険な諸刃の剣なのだ。

「グゲェェエエエエ~~ッ!!」

「なぁコォチ、あれじゃすぐに抜け出て来てしまうよ!?」
「ふむそうか…、ならここは延焼の心配がなさそうだから燃やしてまおう。『化学忍法・火の車!』チェストファイヤー!!」

さらに解説しよう。『化学忍法・火の車!』とは、モンスターにぶつけてガソリンの漏れた車に火を放つ攻撃で、バレると放火の罪に問われてしまうという非常に危険な諸刃の剣なのだ。

『ボンッ!…ぼぉぉおおおおおッ!!』
「グギャアアァァ~…!」

「ホッ…あんならバッチリやなぁ。ほな誰かに視られんうちに早よ移動しよ!」

オレが誰かの車を派手に壊そうが燃やそうが、サラッと移動を提案してくれる豪胆な仁菜さん。うん、こんな行動を取ってるのを誰かに視られたら大変だ。とっととこの場を離れよう…。


『ゴッ…!ガッ…!ボグゥッ!』
「んッ…ンっ…ンッ…!」


そして、ただただ無言でバットを振り下ろしているのは瑠羽。

脚を折っては機動力を削ぎ、嘴を砕いては攻撃力を削ぎ、確実にモンスターを追い詰め絶命させていく…。

真面目な瑠羽らしく一切奇をてらわず、教えた通り堅実着実にモンスターを仕留めていく。そんな瑠羽を視ていると、『戦時下の少年兵って、こういう風にして作られていくんだろうな~』などと、自分が指導してきた事ながら空恐ろしくも感じてしまう。

「この先は何もいないみたいです!早くおかあさんに会えるよう急ぎましょう!」
「う、うん…!そうみたいだね。よし、じゃあ急ごうか!」

気丈に明るく振る舞っているのか、それともナチュラルテンションでコレなのか。ともかく瑠羽も、もうちょっとしたモンスターなんかでは怯んだりはしない強い子に成長したぞ。

きっとあの質の悪い避難民らを連れての移動で何度も押し潰されそうになった経験が、彼女らを数段強く逞しくしたようだ。


……。


「あ~あ、私も江月さんみたいに魔法がたくさん使えればいいのに…」

モンスターの姿が視えない区域に入り休憩を入れていると、瀬来さんがそんな事を口にする。

「…確かにスキルがあれば便利だけど、最後にモノをいうのはやっぱり地力だよ。その点でいえば瀬来さん達は今どんどんと地力が伸びているのだから、実に理想的な成長をしていると言える」

まぁコレにはとっても丈夫でモンスターからの攻撃を受けてもビクともしない戦闘スーツを、初めから装備出来ていたというのが大きい。でなければ途中で大怪我をして治療に専念せねばならなかったろうし、その分だけダンジョンで戦う経験を積む時間も減っていた事だろう。

アレだな、『オーバースペックな主人公メカに乗ってればまず死なない。故に成長しちゃう!』みたいな感じか。

「え…えへへ、そうかな?」
「そやで万智ぃ。下手に無理してみぃ?コォチかて左足失いような大怪我しとるんやから。ウチらがそうならないようにって考えてくれとるんやから、ワガママ言うたらあかんよ?」

うん、そう!まさに仁菜さんの言う通り!

あとは皆に覚えさせたいスキルで、丁度いいのが無いってことなんだよな。個人的に覚えて欲しいのは、攻防ともに優秀な【粘液】なんだけどねぇ…。

「でもこんな事になるのなら、皆に無理を言っても【粘液】くらい覚えてもらっておけば良かったな」
「それは…ごめんなさい」

瑠羽が謝ったのは以前に【粘液】をそれとなく提案して、それとなく却下された経緯があった為だ。やっぱイメージ的には良くないもんな。

「いや瑠羽、いいんだよ。スキルを扱うにはその人の性格や相性ってのもある。例え同じスキルを持っていたとしても、一概に同じ強さになるとも言えないからね」
「でも【炎】とか【雷】なんてスキルオーブを落しそうなモンスターがいたらさ!絶対狙ってね江月さんッ!」

ふんすと鼻息も荒く、そんなおねだりをしてくる瀬来さん。

「うん…まぁいたらね。でもそんな期待しないでね?」

だって【炎】とか【雷】とか…絶対状態エネルギーの位置が高いから、ひどく扱い辛いと思うよ?

…。

曇天の空の下、灰色の街並みが続いている。人影はおろかモンスターの影もなく、ただ信号機の明滅だけが何も通らない交差点で繰り返されている。

そんな空虚で廃墟都市的な雰囲気を醸す東京の片隅を、バールやバットを持った金ぴか集団が歩いていく。まぁ誰あろうって、毎度の如くオレ達なんだが。

「やけに静かやねぇ…モンスターぜんぜん見かけんやん」
「うん。楽でいいけど、少し不気味よね…」

並んで歩く仁菜さんと瀬来さんが、周囲に気を配りながらもそんな言葉を交わしている。

「ちょっとルウ、危ないからあまり離れないで」
「はい。でもウチまでもう少しです!」

瑠羽はいつしか先頭に立って歩いていた。落ち着いてはいるものの早く母親の無事な姿を視て安心したいと気が逸るのか、次第にその歩みも他より早くなってしまっているのが気にかかる。

などと心配をしていると、そんな嫌な予感が的中したかの如く頭上で怪しく影が走った。

「…瑠羽ッ!?」

咄嗟に放った粘液が瑠羽を捕まえ、カエルの舌に捕われた虫のようにしてその身を『びょん』と引き寄せる。緊急につき攻撃する時と変わらぬ速さ、かつ引き寄せるのも本気の引き寄せ。

「ぅぐッ…!」

その甲斐あって間一髪…。寸でのところで襲いかかってきた脅威から瑠羽を救いだすことが出来た。

『ずだあああぁあああんッ……!!』

「えぇ~!なによアレェ!?」
「な…サソリより大きいやん…!」

ビルの影から瑠羽目掛け飛び降りてきた存在は、なんとも巨大な黒い蜘蛛。二車線ある車道を丸々塞ぐような馬鹿デカさをしている…。

「瑠羽ッ!…怪我はないか!?」
「痛…ッ!く、首が…」

突然カツオの一本釣りみたいにして宙を舞ったが為に、そのせいで瑠羽はムチウチになってしまったようだ。

「すまない瑠羽…手加減する余裕がなかったんだ」
「その話はあと!江月さんアイツこっちに来るよ!」

「む、不味い!一度どこかに…」
「ならとりあえずあそこは!?」

瀬来さんが指差す先には小さなスーパー。人影もなく、開いたままで放置されている様子。対する巨大黒蜘蛛はというと、着地の衝撃で普通乗用車の屋根を踏み抜いており、それを脚から取り外すのにまごついている。

「はよせんと!」
「ああ解った!あそこに逃げ込もう!」

粘液塗れの瑠羽を抱いたまま、スーパーへダッシュ。だがすぐに背後を『がっしゃん!がっしゃん!』という不気味な金属音の足音が追いかけてくる。逃げようとするオレ達を視て、巨大黒蜘蛛が脚に車を填めたまま無理くり追いかけて来た様だ。

「「「うわぁあああぁぁ~~…!」」」
『『ドッがしゃあああああぁぁッ!!』』

仁菜さんと瀬来さんと、最後は団子のように縺れあってスーパーのなかに飛び込んだ。

『『びょんッ!ガス!びょんッ!ガス!びょんッがしゃパリーン!』』

と同時に背後ではガードレールや街灯の支柱をド派手に破壊する音と衝撃が響き、飛び込んだ店内ではキャベツを丸かじりしていた巨大コオロギらがそれに驚いて跳ねまわり、天井に穴を空けて照明を破壊、一瞬にして店内の半分が暗くなった。

この間、スローモーションのように加速した知覚で約0.5秒ほど…。

『ミシリ…バリバリバリ!…がりりッ!………。びゃんッ!!』

だがスーパーのビニール屋根を破壊しつつさらに店内への侵入を試みる巨大黒蜘蛛。…だったが物理的に入るのは不可能だと感じ取ったのか、跳躍するとその場から姿を消した。

(おいおい…なんだよ。まるで怪獣映画じゃないか。巨大赤蠍よりも大きな黒蜘蛛だったぞ?いったいどんなダンジョンから沸いて出てきた??)

「イタタぁ…みんなだいじょうぶぅ?」
「苦しいて…コレ万智の脚やろ?早よどいて」

「待って。江月さんがどいてくれないと、私も身体動かせないよ!」
「ん、ちょっと待ってくれ。…て、どうなってるんだコレは?」

巨大黒蜘蛛の体当たりの衝撃で店内はぐっちゃぐちゃ。まるで震度6の地震の後みたいに商品が散らばっていて、身体を支えようにも掴まるモノが見当たらない。お、でもこれなら…。

「コーチ、それ私のお尻です…!」
「何!?いやこれはスマン!」

細い通路にも関わらず多くの品物を陳列されていたらしく、商品の山に埋もれたオレ達は立ち上がる事すらままならない。

くそう…しかしなんでまた次から次から、あんな馬鹿でかモンスターばかりが出て来るんだよ…。
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