うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ダンジョンスタンピード第二波 突発

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『ぱぁあああああ…!』

巨大黒蜘蛛から生命エナジーが光の奔流となって溢れ出し、その金色の輝きがオレ達を包み込む。

(はぁ…。倒せた…)

なんだか最後はパチンコで偶然突発アタリひいたみたいだったけど、勝ちは勝ちだ。

『ぱぁあああああ…!』

身体に吸収される生命エナジーにより細胞のひとつひとつまでもが活性化されてゆくようで、寝不足によりこびりついた感じで残っていた疲労すらも癒されていく。

「すごい…!なんてパワーなの…!?」
「ほんま、前とぜんぜんちゃうなぁ…!」

瀬来さんと仁菜さんが、巨大黒蜘蛛から溢れ出る凄まじいまでの生命エナジーに驚いている。

うん、この生命エナジーの量は見るからに桁違い。今まで彼女らが浴びた植物ダンジョン地下3層にいた赤吸血人参や、地下5層にいた邪悪林檎魔物の生命エナジーを軽く凌駕している。

(おっとそうだ。いかんいかん…)

巨大黒蜘蛛の体内に潜ってしまったミスリル靴箆を回収しておかないと。

なんか魔力を注ぎ過ぎたせいか、今も水圧のかかり過ぎたホースみたいにして巨大黒蜘蛛の体内を暴れ回っている。このまま放っておいたら、思わぬ事故にもなりかねない。

(もどってこいミスリル靴箆よ。オーラパワー念動…照射!)

気力を練り上げて生成するオーラ。

これにある種の指向性と特性を持つようにして作用させると、俗にいう超能力と同じ効果が得られる。なのでこうして、『理力の力で武器が手元に戻ってきます』みたいな芸当も可能となるのだ。

(そうだ。ついでに魔石も頂いておこう…)

ミスリル靴箆が派手に引っ掻き回してくれたおかげで、巨大黒蜘蛛の体内はすっかりグズグズ。戻ってきたミスリル靴箆が胸板を切り開くと、溶けたような肉を掻き分け大きな魔石も姿を現す。

(む、またもや青い魔石…)

モンスターのドロップする魔石は、赤と相場が決まっている。

だというのに蠅の女王、巨大赤蠍と続いて3つ目の青い魔石。いずれもバチクソ強いボス級モンスターから出た魔石なので、きっとなにか意味があるのだろう。

にしても、なんなんだこのミスリル靴箆のデタラメな破壊力は…。

柄を掴むと内在する魔力を散らして、白く発光する発動状態を停止させる。アレかね…元々は微細な振動を起こして摩擦の抵抗を減らし、『スルッと気持ちよく靴の履ける効果』が付与されていたのだと思う。

でもそれが過剰な魔力を供給されたせいで、異常な作用を齎してしまったようだ。

微細な振動の筈が、なんかもう歯医者さんが歯石除去に使う道具みたいにゴリゴリと…って、いや、そうじゃないな。コレはそんな生優しいモンじゃなくて、もはや高周波ブレードじゃん。安全装置とかないの?めちゃくちゃ危なくね??。


『ぱぁあああああ…!』

「ハァ…ハァ…く、くるしい、コーチ…!」
「ウ、ウチもこれ以上はあかん…」

て、あれ…?まだ生命エナジー止まらないのッ!?なんかずっと出まくってるんですけど…。

「むッ…いかん!今逃げ道を作るから、ふたりともすぐ離れるんだ!」

「うぅ、気持ち悪いです…」
「瑠羽ちゃん、ほらこっちから逃げよ…」

粘液を操作して滑り台を作ると、瑠羽と仁菜さんがそれを使って巨大黒蜘蛛の上から離脱。

突発アタリから確変に入ってしまったのか、壊れたように出玉エナジーが止まらない巨大黒蜘蛛。おかしいだろ…。すでに生命エナジーが湧きだしてから2分が過ぎているというのに、未だ収まる気配がない。

『ぱぁあああああ…!』

「さ、瀬来さんも早く!」
「ぐぅ…、まだいけるぅ…!」

いや、こんな所でそんな意地張らなくても…って、気持ちはすごく解るけど。ま、オレも耐えられるのなら、ギリギリまで生命エナジーを吸おうとするだろう。でも、流石にこの量はマズイ…。

オレは御霊システムにより、強制的に吸収した生命エナジーが自動分配される。

故にピクシークィーンと塩太郎、それにレッドスライムと仲良く分けっこしてるので負荷も全てが1/4。だから濃厚な生命エナジーを浴びていてもこうして耐えられる。が、瀬来さんのレベルでこんな濃い生命エナジーを直に浴びていては、身体が持たないはず。

「ほら、無理しないで早く」
「ま、まだまだ…ゴハッ…!!」

(わぁッ!瀬来さんが吐血した!)

フルフェイス状態なので顔は視えないが、吸気口からボタボタと血を噴いている。過剰な生命エナジーを吸収すると、こんなことも起きてしまうのか…。

「クィーン!塩太郎!レッドスライム…!」

その場に御霊たちを呼び出すと、すぐさま瀬来さんを抱えてリングアウト。後の吸収はかれらに任せよう…。

…。

こうして7分余りも溢れ続けた巨大黒蜘蛛の生命エナジー。巨大赤蠍だって2~3分だったのに、ぶっ壊れもいいとこだ。

「あぁ、メッチャしんどい…」
「あ、頭がいたいです…」

結果、巨大黒蜘蛛の生命エナジーを浴びた全員がグロッキー状態に陥ってしまった。

かくいうオレも、減圧症のような症状に襲われている。内側からパンパンに圧がかかっているみたいで、酷く辛い。眩暈に耳鳴り、それに全身の筋肉痛と関節痛。

最後まで粘っていた瀬来さんに到っては、意識不明の重体だ。

「うぅ、こんな所をモンスターに襲われたら大変だ…」
「せやね、早くどっかに身を隠さんと…」

完封勝利で勝った筈、なのに一瞬でグロッキーになってしまったオレ達。は、早くどこか安全な場所に隠れないと…。

…。

身を引き摺る様にして部屋へと転がり込む。筋肉と関節がどうにも痛くて、思うように身体が動かない。

それでもピクシークィーンと塩太郎、それにレッドスライムの手を借りてなんとか3人を安全な場所へと運びこんだ。

「ああ、おまえもありがとな…」

意識を失った瀬来さんを背に載せて運んでくれたのは、第三珈琲コオロギ。

オレ達が巨大黒蜘蛛を倒したのを視て敵わないと観念したのか、自らカード化したのだ。縛り上げて無理くり珈琲ガバガバ飲ませたのは餌付けにはならないだろうし、たぶんそうだろう。

ともかくもうひと踏ん張り…と、なんとか3人をベッドの上に寝かせると、そこで力尽きオレも意識を失った…。


……。


気付くと粗末な部屋にいて、向かいにはレザースーツを着たダンディマッチョなおっさんが。

ただ粗末に感じるのは清潔で綺麗な近代建築物を知っているからであって、この西部劇にでも出てきそうな内装の部屋も、恐らくこの世界では上等な部類に入るのだろう。で、おっさんは延々とオレに小言を並べていた。

どうやらまた、あの異世界モノな夢の続きらしい。

「おいソルト、聞いてるのか!?」
「え、ああ。うん」

う、ボケッとした顔でもしていたのか、またおっさんにきつく睨まれたよ。

するとそんなおっさんの隣で、クスリと笑う片眼鏡モノクルをかけた美人秘書といった感じのお姉さん。う~ん、さすが夢。いつの間にやら向かいのソファーにはイケメンマッシブなおっさんと、美人秘書風味なお姉さんが並んで座っていた。どっちも美男美女で、いと羨まし。

「で、おまえの名前はソルトで間違いないんだな?」
「はい。ところでおふたりの名前もお聞きしても?」

とりあえず、オレからもふたりの名を訊いてみる。

「ふん…、俺はこの冒険者ギルドの事業部部長で、ハイロウだ」
「私もここの職員で、ネザーリと言います。どうぞよろしく、ソルトさん」

へぇ~、冒険者ギルドに事業部なんてのがあるんだ…意外。

そんでレザースーツのおっさんはそこの部長と、ふ~ん…やっぱり結構偉いのね。ギルドマスターなのかと思ったけど、そこはニアピン賞。で、名前はハイロウさんと。

ネザーリさんの方は藍色の髪色をした美人さんで、年齢の割に落ち着いた雰囲気。でもふざけて冗談とかを言っても、雑に返さずウケてくれそうな愛嬌も感じさせる。うん、いうなれば場慣れた才媛タイプだな。

今も木のボードを持って藁半紙よりも質の悪そうな紙に、聞き取った内容をペンで記している。

「…気付いたらこの村の近くにいて、モンスターに襲われた。で、それ以前の記憶がない…と?」
「はい、まぁ…なんかそんな感じで」

夢の取り調べに何と答えるべきかと思ったが、すでに色々と答えていたらしい。

「…隣国からのスパイでしょうか?」
「馬鹿いえ。来て早々に問題を起こすようなのが、そんな器用な真似できはせんだろう。むしろコイツは陽動で、本命はすでに潜り込んでいるかもしれん…。よし、宿屋にそれらしい人物が潜伏していないか探りを入れてみろ」
「解りました」

なにやらオレの視ている前で、堂々と諜報対策を講じるふたり。あれ…オレってバカかと思われてる?

「にしても黒髪で男前なんて…、まるで伝説の御方みたいですね」
「おい、滅多な事を口にするな。不敬罪にでも問われたらどうするつもりだ!」

立ち上がったネザーリさんが意味深な事を口走ると、なぜだか急にハイロウさんが取り乱す。はて、なんのことだ…?

「あの、伝説の御方って…?」
「おまえは知らなくていい話だ!」

おぅ…思いっきりシャットアウトされたじゃん、なんだよ…。

そんな様子に肩を竦めたネザーリさんが部屋の扉を開けると、『おっとっと…』と、引かれたドアノブに釣られるようにしてこれまた輝くようなイケメン騎士が入ってきた。

(あれ、なんて言ったかなコイツ?の…ノース…ん??)

「ああ、ようやく来たか、不細工リディス」
「ちょっとぉ、気にしていることをズケズケ言わないでくれます?それにハイロウさんだって人の事は言えないでしょ」

(え…不細工?こんなイケメンを掴まえて?それにハイロウさんも…?どういうことだ??)

「ハハハ、それもそうだな。で…リディス。コイツと出会った時の事を詳しく教えてくれ」
「ああ、何かと思ったらそれで呼び出されたんですか。いいですよ、ソルトの奴が村はずれでゲオウルフに囲まれてたんで、助太刀してまるごと退治してやったんですよ」

「本当か?」
「ええ。やけにゲオウルフの数が多かった以外には、特にコレといった事も…。ああ、解体のジーノが受付してますから、奴からも話を聞けばいいですよ」

「ふぅむ…」

へぇ…ハイロウとリディスって、結構仲良いんだ。お互い気兼ねなさそうにして話してるもんな。でもさっきネザーリさんが部屋から出ていく時も、オレの事を男前なんて言ってたよな…?

(どういうことだ…?)

鏡かがみ…と探すと、暖炉の上に置かれた金属製の皿を発見。

調度品らしく綺麗に磨かれている。他に鏡になりそうなモノもないので、それを覗きこんで自身の顔を映してみる。が、映り込んだのは最近ではなく昔の顔。まぁ、夢の中だしな。

「おいおいソルトくん、こんな時まで顔の事を気にするのか。それは僕達に対する嫌味かね?」
「え…?いやこの皿、随分と綺麗だな~と思っただけさ」

「ハッ…随分と呑気なもんだ。下手をすれば衛兵に突き出されてもおかしくはない立場なんだぞ?」
「え、そうなの!?」

…まぁそうか、街中で魔法を使ったんだ。元の世界なら街中で銃をぶっ放すのとおんなじだもんな。

「にしても男前だよオマエ。ほんと、あやかりたいよ…」

そんな事はどこ吹く風で、なんだかオレの事を羨むイケメン騎士リディス。

えぇ…、オレからすると輝くようなイケメンのリディスからそんなことを言われる方が、よっぽど嫌味に聞こえるぞ。でもこの世界ではそんなリディスが不細工で、オレのような微妙な顔が凄いイケメンなのか…。

う~む…なんだかこの世界、色々と盛り過ぎだろ…。
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