うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ダンジョンスタンピード第二波 仁義

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さて、アパートに戻ってきてから2日後。オレと瀬来さんは再びダンジョンスタンピードの起きた街
ぶらり旅2週目へと出立した。

というのもスタンピードの影響で合体モンスターと化した巨大カニと巨大ムール貝。

大量に死んだコイツ等を食材として加工し、持ち運べるように梱包する作業にめちゃクソ手間取られたせいだ。当初は江戸川を下り巨大赤蠍の外殻を回収した後は、サクッとシャーク女子高の様子を見に窺うだけの予定だったのに。

しかし自衛隊にモンスターと間違われ、不意打ち狙撃された事から事態は一変。

被弾しながらも川へと逃れ粘液カプセルでドンブラコッコ。それによりシャーク女子高を通り過ぎて自宅のアパートまで避難する羽目とあいなった。

銃で撃たれた箇所はドコも、放置し過ぎたお灸みたいに酷い火傷にはなっていた。

が、弾がめり込んで摘出手術が必要な大怪我には至らなかったのは、幸いだったろう。うむ、コレも蟲王スーツの装甲と疑似しんしゅつ液に似せて成分調整を行った潤滑粘液のおかげといえる。

それに伴い穴だらけになってしまったスーツの補修とメンテナンスの時間も必要だったので、1日時間を設けて充分に準備を行なった次第である。

なわけで外に出てきたオレの出で立ちは、バイク用ヘルメットとリュック着用な蟲王スーツ姿だったりする。

うん、コレはアレよ。蟲人間風味満載な蟲王マスクを着用していると、どうしても周りからはモンスターと間違われてしまう。それで自衛隊にもモンスターと間違われてしまった訳だし。

そこで蟲王マスクを外し、頭防具は市販のバイク用ヘルメットに変更。

そして片側だけになってしまった背部の増設アームも外して、普通のリュックを背負った。なので傍目には『派手なバトルスーツを着込んだライダー』に視えるハズ。

うむ、これならばモンスターに間違われることはないだろう。もう銃弾なんか浴びたくないからな。

そして同じく瀬来さんもまた、蠅女王スーツの上にトレーナーを着込んでいる。マスクはそのままだが、こちらも服を着ていればモンスターとは思われないハズ。

さらに大きな変更点ではないが、ふたりとも潤滑粘液を増量している。

これは地上でのスーツ着用で体内に熱が籠ってしまうというデメリットを、僅かながらも緩和する為の措置。スーツは密閉性が高い為、どうしても熱が籠ってしまう。そこで潤滑粘液に冷却水の役目も担って貰う為、約2割ほど増量した。

まぁオレ自身は自分で粘液を交換できるから問題ないのだが、スキル【粘液】を持たない瀬来さん達にはそれが適わない。スキル【酸】で粘液を代用できなくもないが、それだと徐々に潤滑性能が落ちて動きにくくなってしまうという問題がでてきてしまうのだ。

まぁなんにせよ今思いついて出来ることはしっかりと行ったので、大丈夫だろう。

瀬来さんもオレがスーツを補修しているのを視て真似しながら、自分のスーツについた小さな傷なんかを消してたしね。

「それじゃいこっか!」
「だな。気を付けて進もう」

街並みは戦時下というよりは、暴動かお祭りのあった後の様。路上には普段は見かけないゴミが散乱し、人気は全くない。

当初は興奮してダンジョンから出てきたモンスターも、知らない場所に警戒してか物陰に身を潜めているようだし、人間は言わずもがな。オレ達みたいにこんな時にウロつくアホ以外は、ジッと安全な場所で息を殺しているハズ。

な感じだったので無人の野を行くが如く、サクサクと進むことが出来た。

が、2時間ほど移動して駅にほど近い商店街を通過しようとした時に、なにやら戦闘音が聞こえてきた。

「シャアア!キシャアア!」
「オラ、来いよオラぁ!」

そこで音のした方向へと眼を向ければ、ヤクザ風の男とプチリザードマンが路上で対峙していた。

ヤクザ風の男は尖った印象を受ける紫のスーツ姿に、黒い三角グラサン。ボリュームの少ないリーゼントっぽい髪型をしている。

対するプチリザードマンは、まんまちっさいトカゲ。

といっても体高60~70cm程はあるから、そこそこの大きさともいえる。しっかりと後ろ脚で立ち、牙を剥いて威嚇している。俊敏そうな体つきで、フットワークも軽そう。ていうかオレ達が巨大赤蠍に追われてた時にも、モンスター集団に混じってたヤツだ。

「来いよ!オラ来いヤぁ!」

ヤクザ風の男は声を荒げてプチリザードマンを挑発。

路上に黄色いビールケースが転がっているのを視るに、ビールケース投げつけ攻撃は容易く躱されてしまったのだろう。しかし荒事には慣れているらしく、相手が俊敏だと分かった後はカウンター狙いかしきりに攻撃を誘っている。

「シャアアァ!」
「うらぁッ!」

そうしてわざと隙を作ってみせ、そこを狙ってきたところにカウンターでヤクザキックを見舞う。だがプチリザードマンはその蹴りを身体を捻って躱してみせた。ヒットするにはしたが、いわゆるカス当たりというヤツだ。

「お、今のは惜しかったな~」

「ねぇ、あんなの視てないで早く行こうよ」
「ああ、そうだな」

ここまでの道中にも、モンスターと人が戦っている場面には少なからず遭遇した。ま、いずれも見捨て…いやゲフンゲフン!スルーしたけどね。

だってさ、ああいうのに関わると超絶メンドいんだもん。

下手に手を出して助けると『ありがとうございます』からの『あの、ドコソコまで連れて行ってもらえませんか?』と、始まるのだ。だから瀬来さんを冷たい人間などとは思わないでほしい。つい先ほどもそんな事があったので、今は心がささくれてるのだ。

進行方向が同じだからとまぁ承諾したものの、目的地に着いて手持ちの財布から¥2000ぽっちを渡されてもねぇ。足の遅い避難民を何度もモンスターから身を盾にして守ってやって、¥2000とか…。ホント、『なんだかなぁ』ってな気持ちになるってモンですよ。

気持ちといえばそれまでだが、モンスターと身体を張って戦ったコチラとしては『するってぇとナニかい?それがアンタの命の値段てことかい??』などと、落語口調でツッコミを入れてみたくなる。天才無免許外科医みたいにべらぼう金額を請求するつもりはないが、命を守った報酬なんだから10万20万はあってもいいんじゃない?とか思っちゃうよ。


「グゲコココココココココ…ッ!」

「んッ!?」
「なにアレ?」

さてと、戦いを尻目にその場を離れようとした時、プチリザードマンが咽喉を膨らませよく響く独特な鳴き声をあげた。

チャンスと踏んだヤクザ風の男が追い撃ち掛けるのを大きく後ろに跳んで避けた後、まるで遠吠えをする狼の如く顎を天に向けて、ブロック塀の上で…。

『『『(シャ…!シャシャシャ~ッ!)』』』

するとたちまちのうちに集まるわ集まるわ。

水中を泳ぐ魚のような素早さで次々とプチリザードマンが姿を現した。路地裏や建物の影から、小さいので『エッ!そんなトコからも!?』ってな場所からも顔を見せる。

ふぅむ、プチリザードマンは仲間を呼んだ。

ヤクザ風の男1人に対して、集まったプチリザードマンの数は約40。これにより挑発カウンターで有利に立っていたヤクザ風の男の優位性は、完全に失われてしまった。

「アレ、助けようか」
「え、助けるの?もぉ~しょうがないなぁ!」

基本、他人とは極力接点を持たないオレ。まぁボッチ特化だし。でもヤクザ風の男がその背におよそ荒事の苦手そうなナヨナヨとしたおっさんを庇っているのを視て、ちょっと気が変わった。

一般人であるからして暴力団関係者っぽい人間とは絶対関わり合いになりたくはないのだが、そういう姿を見せられるとまた違ってくる。

少なくともあのヤクザ風の男は、『モンスターと戦う意志』を持っていた。

コレはその戦闘を視ていたので、しっかりと確認済。そして同時に、『人を守る優しさ』も持っていた。コレがオレのように自分の愛する女性とかならまぁ話は解るが、その背に護っているのはなんだか弱弱しい感じの中年男性。

そのことから、あのヤクザ風の男が『義理人情に厚い人物』という事が窺える。

ヤクザというのが世間で忌避されながらもヤクザ映画なんてモノがたくさんあるように、人は義理人情の部分に訴えられるときっと弱いモノなんだろう。

「や!酸霧(アシッドフォグ)ッ!」


と、ここでオレが粘液を使う前に、フライングで瀬来さんが酸霧を発動。それに慌てて前方にいる男達に声をかける。

「えッ!?あ、おい!屈んで息を止めろッ!」

『『『シャギィ!?ギャ!ギャギャッ!?』』』

酸霧に飲まれた何体かのプチリザードマンが、その眼と喉を焼かれ悲鳴をあげる。おっさんとヤクザはそれを視てギョッとした顔をみせるが、すぐにかけられた声の意味を理解して姿勢を低くした。

「瀬来さん、人が近くにいるとこで酸を使っちゃダメだよ?」
「えへへ、ついね。ゴメン…」

「まぁ解ってくれればいいけど。ヨッ!」

瀬来さんが酸を使ったのでオレもまた戦法を変え、小砂利のような岩塩を手の中に生み出してプチリザードマンの固まっている辺りに投げつける。

『『『バガガガッ…!!』』』
『『『ギャー…ッ!!』』』

岩塩散弾を浴びると容易くその身を貫通して倒れ込み、即死か瀕死の状態に。

まぁ商店街に降りてるスチールシャッターをも貫通する威力だ。そうなるわな。そしてアスファルトに跳弾して威力の落ちた岩塩を浴びたプチリザードマンも『塩攻撃は二度ビクッ!となる』の効果が発動し、その痛みに跳び上がって逃げ散っていった。

「タケちゃん!ちょっとタケちゃん大丈夫!?」
「ああ、少し噛みつかれただけだ…」

後の残ったのはヤクザ風の男と、その怪我をしきりに心配するナヨいおっさん。そんなナヨいおっさん。見てくれは小柄の中肉中背だが、目元になぜか紫のアイシャドウが入っている。いったいどんな関係なんだか?

「アナタたち、ほんと助かったわ!モゥ、一時はどうなることかと思った!でももう安心ね。そうだ!ふたりともお腹空いてるでしょ!?ね、すぐに何か作るからお礼に食べてってヨ!!」
「いや、急ぐのでお構いなく…」

どうやらナヨいおっさんは、オカマなおっさんだった模様。

「モゥ、そんな事言わずに!ね、タケちゃんからも何か言ってあげてよ!」
「兄ちゃん達。こんな状況じゃ食べ物も手に入らなくてうろついてたんだろ?なら遠慮なく食べてけ」

オレと瀬来さんは、今朝も有り余るダンジョン食材でしっかりと腹ごしらえして出発した。なのでそう腹が減っているという訳でもないのだが…。

「ほらほら!あそこがあたしのお店なの。今は食材が足りなくって大したモノは出来ないけど、命の恩人だもの!今日は腕によりをかけてお料理するから、食べてってヨ。ね!ほら!!」

でもなんだかメシ食わないと解放してくれないような空気になってしまったので、しかたなくふたりで御相伴に与る事にしたのだった。
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