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ダンジョンスタンピード第二波 大臣
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ここは避難所となってしまったスーパー銭湯。今日も次々に怪我人が運び込まれ、医師や看護師たちが大わらわでその対応にあたっていた。
「ほれ、もうすぐ縫い終わるぞ?包帯はまだか!」
「ハ、ハイ!もう少しです!」
引退していたという白髪の飛張医師に急かされ、都奈美は手にした鋏で急いでタオルを裁断していく。ここには自衛隊もいるのに頼んでも医療物資が届かず、急場を凌ぐためスーパー銭湯のタオルを包帯代わりとしていたのだ。
政府は前回のダンジョンスタンピードが起きた時、その復興支援と防災のために特別補正予算案を組んで準備を行なっていた。
が、スタンピードの発生する期間が想定以上に短かった事と、一部の地域が被災したのではなく日本全土が同じ状況下に置かれた事で、物資の何もかもが足りない状態であった。
そんななかにまた、新たな怪我人が運び込まれてくる。
「道を空けてッ!通してください!」
「先生ッ!しっかりしてください先生ッ!!」
しかし道を空けるようにと声を張る野太い自衛官の声に混じって、なにやら焦っている甲高い男性の声もいっしょに近づいて来た。
「医師、すみませんがこちらの方を先に診ていただけませんか?」
カーペットの敷かれた床にドスドスと軍靴の音を響かせながらやって来た大勢の自衛官の中から位の高そうな人物が前へと出ると、治療をしている飛張医師に声をかけた。
「おい、視て解らんのか?いま手が離せん。治療中じゃぞ」
「はい、承知してます。ですがそこを曲げてお願いします…」
無理を言う自衛官にジロリと眼を向け、不満を露わにする飛張医師。
それを傍で見ていた都奈美も、自衛官が口にした『こちらの方』という言い方が気になった。普段彼らも怪我を負った人の事は『怪我人』とか『負傷者』と呼んでいたはず…。
「…他にも怪我人がおる。順番じゃ」
「(それが…、運んできた怪我人は大臣なのです…)」
小声でそう知らせる自衛官。しかしそれを聞いた飛張医師は、目を剥いて咆えた。
「なに、大臣じゃと!?お大臣様だから優先して先に診ろか!?大臣が治療の割り込みをするのか!!なんじゃ、いつから日本国民は憲法のもとに平等じゃなくなったんじゃ!?」
すると背広の肩が破れ眼鏡にはヒビの入っているという酷い有様の男性が自衛官の人垣を押し退けて現れ、そのまま飛張医師の腰にすがりついた。
「ああァ医師ぃ~!どうか、どうか大原黒先生をたすけてくださぃ~ッ!!」
「なんじゃと大原黒ッ!?あの大原黒太郎か…?」
大原黒太郎。産業大臣を歴任し、財界にも政界にも顔の利く大物。そして度々政治献金などの黒い噂の立つものの、その影響力で握りつぶしてしまえるほどの力を持っていると言われている政界の怪物だ。
それを聞いて、都奈美も納得した。
であれば自衛官たちが人垣を作り、怪我人の姿を一切見せないようにしているのにも頷ける。しかし秘書と思しき人物が不用意に大声を上げてしまったことで、周囲には興味をひかれた野次馬が集まりだしてしまった。
「おい、いま大原黒だって…」
「え、マジかよ?」
「本物なの…?」
そんな注目を集めてしまったことに今になって気付いた秘書風の男が、アワアワと集まってくる野次馬たちに慌てている。
その間に飛張医師と話していた自衛官が、小声で経緯を説明。
「(大臣の乗った車がモンスターを突っ切って自衛隊と合流しようとしまして…、コントロールを失いそのまま自衛隊車両に衝突したのです)」
「ふぅむ、そういうことじゃったか…」
現職の大臣が自衛隊車両に衝突して死んだとあっては、貰い事故とはいえまた自衛隊への風当たりが強くなってしまう。故にそれを恐れて無理を言ってきていたのだと飛張は悟った。
「そうか、では一応は診てやろう。ああすまんが、あと縫っといてくれ」
「え?わ、私がですか…ッ!?」
と、突然に患者とまだ糸の繋がったままの針を渡され、都奈美は激しく動揺する。
「なぁに、おまえさんは器用で仕事も丁寧だ。それにずっと見とったんだから、もうこれくらい縫えるじゃろ?」
『(…ぺこり)』
「ちょ!え…えぇ!?」
その言葉に困惑し『そんな!?』と患者さんに目を向けるも、患者さんにまで頭を下げてお願いされてしまった。しかも他の看護師たちも手が離せず、これはホントに都奈美が縫うほかないようで…。
「どれどけ。診せてみろ…ムッこりゃヒドイ、脳漿が顔に滲んどるじゃないか…」
「ヒッ…!」
自衛官らによって周囲からは見られぬようオイルマッサージ用のベッドへと運び込まれた大臣。だがカーテンが閉められる瞬間にチラリと見えた顔は、半分以上が潰れていた。
「ほれ、優先して診てやるんだから誰かメモを取れ。まず頭蓋骨…前頭右部に陥没骨折。右の鼻骨も頬骨も同様…。陥没状態が酷く傷口からは脳漿が流出、こりゃすこし身もはみ出とるな。ふむ、じゃが上唇は失くなっとるが下顎の方は無事のようじゃぞ」
「先生は助かるでしょうかッ!?」
「ワシの専門は脳外科ではない。が…今すぐ必要なモノを用意できたなら、最善を尽くそう」
「は、はい!ありがとうございます!で、何がいったい必要ですか??」
「うむ、まずは清潔な手術室!それと優秀な脳外科医じゃ!」
「そ、そんな…今すぐにだなんて、到底無理です!!」
するとカーテンの中から出てきた飛張医師が、忌々し気に手にしていた匙を放り投げた。
「ならワシにもどうにもできん!もうお手上げじゃ!」
『チーン!キン…カンキロリリン!』
(あ…!)
それを見た都奈美は『あ…医者ってホントに匙を投げるものなんだ』と、不謹慎ながらも得体無い事を思ってしまうのだった…。
でも投げたのは匙じゃなくて、喉を診る為に舌をおさえる金属ヘラだったけれど。
「ほれ、もうすぐ縫い終わるぞ?包帯はまだか!」
「ハ、ハイ!もう少しです!」
引退していたという白髪の飛張医師に急かされ、都奈美は手にした鋏で急いでタオルを裁断していく。ここには自衛隊もいるのに頼んでも医療物資が届かず、急場を凌ぐためスーパー銭湯のタオルを包帯代わりとしていたのだ。
政府は前回のダンジョンスタンピードが起きた時、その復興支援と防災のために特別補正予算案を組んで準備を行なっていた。
が、スタンピードの発生する期間が想定以上に短かった事と、一部の地域が被災したのではなく日本全土が同じ状況下に置かれた事で、物資の何もかもが足りない状態であった。
そんななかにまた、新たな怪我人が運び込まれてくる。
「道を空けてッ!通してください!」
「先生ッ!しっかりしてください先生ッ!!」
しかし道を空けるようにと声を張る野太い自衛官の声に混じって、なにやら焦っている甲高い男性の声もいっしょに近づいて来た。
「医師、すみませんがこちらの方を先に診ていただけませんか?」
カーペットの敷かれた床にドスドスと軍靴の音を響かせながらやって来た大勢の自衛官の中から位の高そうな人物が前へと出ると、治療をしている飛張医師に声をかけた。
「おい、視て解らんのか?いま手が離せん。治療中じゃぞ」
「はい、承知してます。ですがそこを曲げてお願いします…」
無理を言う自衛官にジロリと眼を向け、不満を露わにする飛張医師。
それを傍で見ていた都奈美も、自衛官が口にした『こちらの方』という言い方が気になった。普段彼らも怪我を負った人の事は『怪我人』とか『負傷者』と呼んでいたはず…。
「…他にも怪我人がおる。順番じゃ」
「(それが…、運んできた怪我人は大臣なのです…)」
小声でそう知らせる自衛官。しかしそれを聞いた飛張医師は、目を剥いて咆えた。
「なに、大臣じゃと!?お大臣様だから優先して先に診ろか!?大臣が治療の割り込みをするのか!!なんじゃ、いつから日本国民は憲法のもとに平等じゃなくなったんじゃ!?」
すると背広の肩が破れ眼鏡にはヒビの入っているという酷い有様の男性が自衛官の人垣を押し退けて現れ、そのまま飛張医師の腰にすがりついた。
「ああァ医師ぃ~!どうか、どうか大原黒先生をたすけてくださぃ~ッ!!」
「なんじゃと大原黒ッ!?あの大原黒太郎か…?」
大原黒太郎。産業大臣を歴任し、財界にも政界にも顔の利く大物。そして度々政治献金などの黒い噂の立つものの、その影響力で握りつぶしてしまえるほどの力を持っていると言われている政界の怪物だ。
それを聞いて、都奈美も納得した。
であれば自衛官たちが人垣を作り、怪我人の姿を一切見せないようにしているのにも頷ける。しかし秘書と思しき人物が不用意に大声を上げてしまったことで、周囲には興味をひかれた野次馬が集まりだしてしまった。
「おい、いま大原黒だって…」
「え、マジかよ?」
「本物なの…?」
そんな注目を集めてしまったことに今になって気付いた秘書風の男が、アワアワと集まってくる野次馬たちに慌てている。
その間に飛張医師と話していた自衛官が、小声で経緯を説明。
「(大臣の乗った車がモンスターを突っ切って自衛隊と合流しようとしまして…、コントロールを失いそのまま自衛隊車両に衝突したのです)」
「ふぅむ、そういうことじゃったか…」
現職の大臣が自衛隊車両に衝突して死んだとあっては、貰い事故とはいえまた自衛隊への風当たりが強くなってしまう。故にそれを恐れて無理を言ってきていたのだと飛張は悟った。
「そうか、では一応は診てやろう。ああすまんが、あと縫っといてくれ」
「え?わ、私がですか…ッ!?」
と、突然に患者とまだ糸の繋がったままの針を渡され、都奈美は激しく動揺する。
「なぁに、おまえさんは器用で仕事も丁寧だ。それにずっと見とったんだから、もうこれくらい縫えるじゃろ?」
『(…ぺこり)』
「ちょ!え…えぇ!?」
その言葉に困惑し『そんな!?』と患者さんに目を向けるも、患者さんにまで頭を下げてお願いされてしまった。しかも他の看護師たちも手が離せず、これはホントに都奈美が縫うほかないようで…。
「どれどけ。診せてみろ…ムッこりゃヒドイ、脳漿が顔に滲んどるじゃないか…」
「ヒッ…!」
自衛官らによって周囲からは見られぬようオイルマッサージ用のベッドへと運び込まれた大臣。だがカーテンが閉められる瞬間にチラリと見えた顔は、半分以上が潰れていた。
「ほれ、優先して診てやるんだから誰かメモを取れ。まず頭蓋骨…前頭右部に陥没骨折。右の鼻骨も頬骨も同様…。陥没状態が酷く傷口からは脳漿が流出、こりゃすこし身もはみ出とるな。ふむ、じゃが上唇は失くなっとるが下顎の方は無事のようじゃぞ」
「先生は助かるでしょうかッ!?」
「ワシの専門は脳外科ではない。が…今すぐ必要なモノを用意できたなら、最善を尽くそう」
「は、はい!ありがとうございます!で、何がいったい必要ですか??」
「うむ、まずは清潔な手術室!それと優秀な脳外科医じゃ!」
「そ、そんな…今すぐにだなんて、到底無理です!!」
するとカーテンの中から出てきた飛張医師が、忌々し気に手にしていた匙を放り投げた。
「ならワシにもどうにもできん!もうお手上げじゃ!」
『チーン!キン…カンキロリリン!』
(あ…!)
それを見た都奈美は『あ…医者ってホントに匙を投げるものなんだ』と、不謹慎ながらも得体無い事を思ってしまうのだった…。
でも投げたのは匙じゃなくて、喉を診る為に舌をおさえる金属ヘラだったけれど。
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