うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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笹山さん

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門を開けると、笹山さんの運転する林業トラックが庭へと入ってくる。まぁもう問題ないとは思うけど、念の為いつも門は固く閉ざされている。

「こんにちは、おじさん」

そうして降りてきた笹山さんに声をかけ、近づく瀬来さん。

「おお万智ちゃん。それに江月くんも。いい匂いだな、燻製してるのか?」
「ええまあ。チップはいい匂いのする薪を、適当に選んだ砕いたなんちゃってですけどね」

手作り燻製窯を珍しく思ったのか、笹山さんも瀬来さんと並んでオレの元へとやってくる。

「いや、若いのにたいしたモンだ。さすが清兵衛さんとこにいる子らは違うな。それに比べてあいつらときたら…」

そういって舌打ちをするように脇を向く笹山さん。ふむ、どうやら今日は、ご機嫌斜めのご様子だ。

「おじさん?どうしたの、なにか変よ?」
「ああ。来て早々で悪いんだが、ふたりともまた肉を分けちゃくれないか?」

言い難そうに笹山さんが切りだしたのは、またも食料の無心だった。

「はぁ。まぁまだたくさんあるんで構わないですけど、いったいどうしたんです?この間はこれだけあれば半月は持つって言ってたじゃないですか。あれからまだ一週間も経ってないですよ?」
「う~ん、それなんだがなぁ…」

すると笹山さんは申し訳なさそうにしながらも、事情を説明しはじめた。

それによると、大量の肉が手に入ったという情報が知れ渡ると避難民以外の人達もシシ肉を貰いに詰めかけてしまったのだという。物価高に加え物流の停滞ありし昨今。そんななかに突然降って湧いた肉フィーバー。

それにこのビッグウェーブに乗るしかないと、近隣住民も殺到してしまったのだとか。

だが笹山さんからすればそういった人達もみな顔なじみであり、なかには避難していた人達の為に食料を提供してくれていた方の姿も。そんななかで「アンタは良くて、アンタはダメ!」という訳にもいかず、かなりの肉がその分配により消えてしまったのだという。

さらに問題はそれだけではなくて、そんな状況を見ていた若い連中までもが避難民たちの為の肉を勝手に持ち帰ったり焼肉パーティーをはじめる始末で、オレ達の届けた肉はこの数日であっという間に底をついてしまったのだと言うではないか。

まさにんなアホな、といった話である。

「すまん…。面目次第も無い」

呆れた顔をするオレ達に向け笹山さんはそういって監督不行届を詫びるが、そもそもがボランティア。なんか全体的にフワッとした感じで、明確な組織として機能していた訳でもない様子。今回はそんな不明瞭な組織の悪い点が、露呈してしまったケースのようだ。

「そういう事情でしたか」
「もう、なにやってんのよ。あいつらったら…」

「ああいや。そうはいっても無償でボランティアをしてくれてるんだ。あいつらの見回りのあるおかげで、街に化け物が近づかないのも確かさ。だから変にキツく叱って、臍を曲げられても困るんだよ」
「う~む、なるほど。そういった側面もありますか」

自衛隊と同様に、いまは警察組織もボロボロの状態。

獲物狩れないボーイズでも、ガヤガヤと騒がしく山に分け入ってればモンスター避けくらいの役には立っていたのだな。それに無償奉仕とはいえ、多少は役得がないとツマラナイのも確か。度を越してしまうのは困りものだが、多少は目をつぶらないと人は使えないか。

「そういうことなら解りました。肉だけならお爺さんの了承もいらないんで、すぐトラックに詰み込みますよ」
「そうね。こうして燻製にしないといけないくらい余ってるから。おじさんは積み込みの終わるまでお茶でも飲んで、マサルのことでも観ててよ」

「ん、誰だいマサルって?」
「カンガルーのこと。あ、ほら、あそこで椿の葉っぱ齧ってるでしょ?」

「おわっ!?本当にカンガルーがいるなおい…」

ふふ、笹山さんでもカンガルーは珍しかったらしく、マサルを見て驚いている。ところで野良カンガルーを拾ったら、届出って役所でいいの??


……。


「悪いなこんなに。それに毛皮まで貰っちまって」

肉と毛皮を満載したトラックに乗り込んだ笹山さんが、運転席からオレ達に向けぺこりと頭をさげる。

「いいのよ別に。おじいちゃんにも邪魔だから早く何とかしろって言われてたもの」
「……」

それでも笹山さんは申し訳なさそうな表情で、恐らくは毛皮の価値を知っているであろうオレに向け目顔で謝ってみせる。ああいやいや、いいんですよ笹山さん。ホントに持て余してるモノだし。それにコレで服とか作っても、どうせ山賊ファッションにしかならないだろうから。

なのでここはオレも、笹山さんにむけ笑顔でサムズアップしておくことに。

「そうか、なら遠慮なく。この礼はまた日を改めて返すからな。ああそれと、最近空き巣の被害が増えててな。あちこち荒らされてるんだ。この辺りも無人の家が多いから、少し気にしてやってくれないか?」
「そうなの?でもわかったわ。この盆地にはいま私たちしかいないみたいだし。変な車が来たりすれば、すぐに解ると思う」

「俺もなにか解ったら、すぐ知らせるようにするから。じゃあ頼むな万智ちゃん」
「うん、まかせといておじさん!」

そうして、笹山さんは来た時と同じようにクラクションを一度鳴らすと、去っていった。今回は過積載にならぬよう重量も加減したし、無事街まで戻れるだろう。

にしても空き巣か。物騒なことだ。タロには夜警を頑張ってもらうとして、果たしてマサルのヤツは防犯の役に立つんだろうか??
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