うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ヴィクトリー

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ふてぶてしい態度で碌にいうことを聞かず、たびたび小憎らしく思うマサル。だがここでは絶対にいうことを聞けとその瞳を覗きこみ、無理にでもいうことを聞かせる。

「ぶっふふん!」
「いいから聞け!おまえは、オレをアイツの上にまで連れて行けばそれでいい!あとは全部オレがやるッ!!」

とはいえマサルまで道連れにするつもりはない。ただオレを、あのボスモンスターの上まで運んでくれればいいだけだ。

するとマサルは一度背後の壁に向かって跳ねだすと、三角飛びで反動をつける。さらには姿勢を低く跳ねて加速し、そこから大きく跳躍した。

(そうだ、それでいい!)

これによりグレートアント達の囲みから抜け出すことに成功。そして高く跳ねあがったことで、ドーム状な洞窟の天井がみるみる近づいてくる。

(ヨシ。ココから先は、オレの仕事だ…)

そこで天井スレスレまで近づき、あとは慣性でも超巨大アブラムシまで到達できると踏んだ場所でカラダを傾け、マサルの背中からこぼれ落ちた。

(…ッ…ッ…ッ!)
(ああ、塩太郎…。おまえまで付き合わせて悪いが、頼むぞ!)

落下が始まると同時に、塩太郎にはスーツの上から身体を覆う硬い岩塩を生み出してもらう。

決死のジェリ缶ボム特攻。だが少しでも生存率は高めておきたい。コレならうまくすればまた、手足を失う程度のダメージで助かるかもしれない。

(この戦い…。彼女たちが無事で、オレの命が残ってればそれで御の字だ…)

毒により朦朧とする意識が途切れぬよう、懸命に歯を食いしばる。だがそれでも視界は目が回ったように揺れ、思うように狙いは定まらない。

(当たってくれ、もうそれだけでいい!)

と、思考が不確かで時間の感覚すらももおかしくなったなか。

高跳び台から水面に飛び込んだ時のような衝撃に包まれる。どうやら超巨大アブラムシの外皮を貫き、そのまま体内に潜り込んだようだ。

(命中したのか…、なら…、バクダンを爆発させないと…)

衝撃に瞑っていた目を開けると、視界は一面黄緑色。それでも手探りで口に咥えていた発煙筒から、ヤスリのついた樹脂製キャップを外す。

(コレに火をつけジェリ缶のなかに突っ込めば、たちまちドカンだ)

『(しゅがッ!ブ…ブジュぼぼぼぼぼぼ…!!)』

酸素を多分に含んでいる火薬は、水気の中でもこうして火がついてくれる。

これで、これであとは脇に抱えていたジェリ缶の口をと姿勢を変えたところで、今まで朦朧として最悪だった気分が、なぜだか急に回復してきている事に気が付いた。

(ん、いったいナゼ…?)

と、ここでいままで発煙筒を咥えていた口の中に、妙な甘みがあることにも気付く。

(ハッ、もしや超巨大アブラムシの体液には、蟻を治していた回復効果だけでなく毒消しの効果まであるのか??)

そう思い口の中に入ってきた甘い体液を飲み下してみると、よりいっそうカラダに感じていた不快感が消えていく。。。

すると。

(力が出せる…!それに、これなら魔力だって練れるぞッ!!)

やった。であれば爆弾抱えた特攻なんてのは、即中止だ。作戦を変更し、練り上げた魔力でもって身体を覆っている岩塩を全方向に強力発射してやる。

(むぅんチャクラオン!岩塩ソルト大粉砕メガバーンッ!!)

しかし全方向に打ち出した岩塩が近くにあったジェリ缶も撃ち抜いてしまったらしく、漏れ出たガソリンにまだ燃えていた発煙筒の火が引火。

オレの目の前は一瞬にして黄緑色から真っ赤に染まったのだった…。

『『『キュボムッ!!』』』


……。


キーンと馬鹿になってしまった耳に、ザバザバという水音が…、音が戻ってきた。カラダはひどく痺れ傾いでいるが…、どうやら無事なよう。

視れば頭上からはダンジョンの青白い光が木漏れ日のように。

で、球状だった超巨大アブラムシの外皮は穴だらけになり、まるで雨が通り過ぎた後のようにシトシトと体液が降ってきている。なんだか雨上がりの森にでもいるみたいだ。

そして胸の位置まである黄緑色の体液が、流れ出るにつれその水位をさげていく。

(あ、そういえばこの体液…。このまま失うには惜しい!)

毒消し効果も回復効果もあるというならば、それはもう万能回復薬ではないか。そこで魔力を練って新たな空間庫を生み出すと、口をひらいてそのままザーザーと体液を流し込む。

「―江月さん!ねェ江月さんてば!無事なのッ!?」

そこへ外から瀬来さんの声が響いてきた。

「ああ!だいじょうぶだ!」

そう返すと自分でも思った以上に声が出て、球状の空間にわんと響く。

「ああ~、よかったぁ!もぉ、心配させないでよぉ~!」
「悪かった。…そうだ!おもての蟻は!?」

「ソッチは大丈夫!硬かったけど、魔法の攻撃には弱かったみたい!」
「そうか…。ならピクシー達の攻撃で倒せたんだな…」

すると低い位置に空いた穴から、瀬来さんが中を覗きこんでいる姿がみえた。

「でもまだこのボスが残ってるよ。アレ、やるんでしょ!」
「ああ、ではタイミングを合わせよう!」

「わかった!なら合わせるから大きな声でね!ねぇシズゥ~、アレやるってェ!!」
「ほんなら合唱せんとねぇ!」

どうやらおもての敵はオレが爆発に巻き込まれている間に全て片付いたらしく、仁菜さんの余裕を感じさせる声も聞こえてきた。

超巨大アブラムシはもはやボロボロ。内部で爆発の起きたことで体内組織のほとんどをやられ、まさに虫の息。だがその大きさと昆虫らしい生命力の高さで、未だに生きていた。

「さぁではどうやってコイツにトドメを刺すかだが…。お、アレがいいな」

体液の水位が下がってきたことで視えてきた臓物のなかに、膜に包まれたなにやらオレンジ色に光る物体が…。そこでサバサバとソレに歩み寄ると、両手を添えてみる。

うん。バスケットボールほどの大きさでいかにも重要な器官ぽくゆるく明滅している。たぶんコイツが弱点だろう。

「ヨシ、じゃあゆくぞ!我と戦い果つるを誉とし―」

「「「すべてを差出しここに命の終焉を迎えん。スキル【簒奪】発動ッ!!」」」

3人声をそろえると、おもてと内から同時にファイナルアタック。するとその一撃でボスモンスターの身体は光の粒となって分解をはじめ、金色をした生命エナジーの奔流があふれだす。

「さぁあつまれ!みんな、みんなよくやってくれた!!」

ピクシー達が光のなかを舞い踊っている。

ピクシークィーンと並んで、瀬来さんも仁菜さんも無事。マサルも鼻をひくつかせウロついている。そこへ焦げた臭いのするレッドスライムが肩まで登ってきたところをみるに、どうやらジェリ缶ボムの爆発からオレを守ってくれたのは、コイツだったようだ。

(そうか、そうだったのか…、たすかったぞ。よくやってくれた)

そうだ、これはみんなに支えられた勝利だ。
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