うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

文字の大きさ
423 / 660

kindness

しおりを挟む
姿をみせたマサル。だがこちらにやって来る気配は一向にみせずに、対岸で鹿たちと屯っている。

「あれ、カンガルーぜんぜんこっち来ないな?おーい、マサル~ッ!」

シャークが湯に浸かりながらそう呼びかけても、マサルはすっとぼけて違う方向を向いたまま。

「ま、元々なにを考えてるのかよく解らないヤツだったしな。それに鹿たちの手前、人間と仲良くする姿は、見せられないのかもしれないぞ?」

「そうね。見知らぬ人間がいるのを警戒してるのもあるんでしょうけど、ここまで顔を見せに来ただけでも充分義理は果たした、とか思ってそうよね」

うん、そうだな。マサルと鹿とで会話が通じてるのかは不明だが、もし通じているのだとすれば人間は鹿を襲う者と理解していてもおかしくはない。

「ちぇっ、アタシもカンガルー乗ってみたかったのになぁ~」

「べつに乗り心地は江月さんとそう変わらないわよ。それに硬いし口もくさいし」
「え~なんだ、それならいいや」

ちょ、ヒドくないッ!

「それじゃあ万智さんは、江月さんに乗ったことがあるんですか?」

て!結月ちゃんもへんなトコ気にしてほじくらないでいいのよ!

「え?ああうんそう!き、機動術、機動術の訓練の時にね~!」
「あ、そうだったんですか」

「ああ。アレは気持ちイイもんな。なぁジャング、帰りもまた頼むな~!」

そういうとシャークは湯に浸かっていたオレの背に、腹ばいで乗りあげてくる。


こらこら。兄弟が多いから男にも慣れてるのだろうが、女子高生が水着姿でそんなことしちゃいけません。

「あの、江月さん。ところでそろそろピクシーちゃんたちを呼んでもらってもいいですか?」


「ん、そうだな。じゃ、あの子らも呼んで遊ばせてあげるか」

自由にさせてたけど、マサくんユキくんが来たことでカードに戻ってもらっていたピクシーたち。まずは陸に上がって蟲王スーツのもとへ。そしてその装甲の隙間に設けた収納部から銀板を取り出すと、魔力を注いで宙へと放る。

「「「ぴぴぃ~~!」」」


「わぁ~~!」

ふはは、喰らえ!秘儀、湯煙ピクシー桃源郷の舞い!これを思う存分たのしい夏の思い出にするがいいわ!

……。

「はぁ~~ッ…」

大きく腕を伸ばし、ゆったりと湯に浮かびながら青く澄んだ空を見上げる。ああ、なんとも贅沢な気分。

視界の端には結月ちゃんがピクシー達に囲まれ、陶然としてすっかり夢の国ワンダーランドに入り込んでいるのが視える。対岸ではマサルの連れてきた鹿たちが、温泉から出たり入ったりして遊んでいる姿。

瀬来さんもシャークも温泉に浸かり楽しそうにしている。

いやはや、ダンジョンの無くなった後に沸いたこの温泉は、まさにパラダイスだな。お、今度は親子連れで猪までやってきたぞ。ふむ、これはいい。猪・鹿・ピクシーで500文だ。

なんて事を考えていると、泳いでそっと近づいて来たシャークが小声で話しかけてきた。

「(おいジャング、獲物だ。アイツ捕まえようぜ…)」

と、いまさっき温泉に到着したばかりの猪に目線を送る。しかしここでオレが口を開く前にその声を聞きつけた瀬来さんが近づいてきて、指先でシャークの頭をツンとつつく。

「いた」
「よしなさいシャーク。ここにいるのはせっかく生き残った子達なんだから…。今この山は、ダンジョンのできたせいでひどく傷ついてるのよ」

おお、さすがは作物を愛で生き物を愛する農戦士・瀬来清兵衛さんの孫。山にいる時の瀬来さんは、まるでいつもの瀬来さんじゃないみたいだ。

でもその意見には、オレも賛成。

「そうだぞ。よく視てみろ。湯に浸かってる鹿たちのなかにも、怪我をしてるようなのが何頭もいるだろう?それに…、マサルが視てる。マサルはオレ達としばらく一緒にいたが、それはアイツなりに目的があったからだ。あの鹿たちを守るっていうな」
「そうよ。だからそんなマサルの前であの猪を殺してごらんなさい。マサルが私たちのことをなんて思うか、考えてみた?」

「う、それは…」

そう、マサルとオレ達は一時いっときいっしょにいた。

というかアイツが無理くりついてきた。でもそれはアイツなりに人間―つまりオレ達ならばモンスターという訳のわからない連中をやっつけられると考えたからだろう。で、結果はまぁその通りになった。

しかしアイツは動物で、コッチは人間。まぁ人間も動物ではあるが、その価値観に大きな隔たりがあるのは確か。

カンガルーのマサルと鹿とで会話が成立するのか知らないが、仮に成立しているとするならばマサルは人間が鹿を襲うという事も知っているはず。だから鹿の群れからは離れず、オレ達のところには来なかったのだろう。

そうしていつか、山の傷も癒え鹿の頭数も増えたら、また作物への被害なんかも問題になるかもしれない。

でも、それは今ではない。

ならマサルと鹿たちに、ひとときの平穏があってもいいのではなかろうか。きっと山ゴブリンや超巨大猪に散々追いかけ回されて、生きた心地もしない日々を過ごしていたのだろうから。

「ちぇっ…、わかったよ」

そう説明すると、すこし心残りはあるようだがシャークは納得してくれた。

「うむ、えらいぞシャーク。強いヤツってのは、攻め時も引き際も弁えてるもんだ。おまえもまた一歩、サンドラに近づいたな」
「ふふ、そうね」

すると今まで静かだった結月ちゃんが急にザバリと湯から立ち上がると、大きな声で口をひらいた。

「そうれすよるりちゃん!ここは天国なんらから、そんなひどいことしちゃメ~ですよぉ!うふふふふふ…」

ああ…うん、そうね。アレかな?結月ちゃんはちょっと、ノボせちゃったのかな??
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...