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kindness
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姿をみせたマサル。だがこちらにやって来る気配は一向にみせずに、対岸で鹿たちと屯っている。
「あれ、カンガルーぜんぜんこっち来ないな?おーい、マサル~ッ!」
シャークが湯に浸かりながらそう呼びかけても、マサルはすっとぼけて違う方向を向いたまま。
「ま、元々なにを考えてるのかよく解らないヤツだったしな。それに鹿たちの手前、人間と仲良くする姿は、見せられないのかもしれないぞ?」
「そうね。見知らぬ人間がいるのを警戒してるのもあるんでしょうけど、ここまで顔を見せに来ただけでも充分義理は果たした、とか思ってそうよね」
うん、そうだな。マサルと鹿とで会話が通じてるのかは不明だが、もし通じているのだとすれば人間は鹿を襲う者と理解していてもおかしくはない。
「ちぇっ、アタシもカンガルー乗ってみたかったのになぁ~」
「べつに乗り心地は江月さんとそう変わらないわよ。それに硬いし口もくさいし」
「え~なんだ、それならいいや」
ちょ、ヒドくないッ!
「それじゃあ万智さんは、江月さんに乗ったことがあるんですか?」
て!結月ちゃんもへんなトコ気にしてほじくらないでいいのよ!
「え?ああうんそう!き、機動術、機動術の訓練の時にね~!」
「あ、そうだったんですか」
「ああ。アレは気持ちイイもんな。なぁジャング、帰りもまた頼むな~!」
そういうとシャークは湯に浸かっていたオレの背に、腹ばいで乗りあげてくる。
こらこら。兄弟が多いから男にも慣れてるのだろうが、女子高生が水着姿でそんなことしちゃいけません。
「あの、江月さん。ところでそろそろピクシーちゃんたちを呼んでもらってもいいですか?」
「ん、そうだな。じゃ、あの子らも呼んで遊ばせてあげるか」
自由にさせてたけど、マサくんユキくんが来たことでカードに戻ってもらっていたピクシーたち。まずは陸に上がって蟲王スーツのもとへ。そしてその装甲の隙間に設けた収納部から銀板を取り出すと、魔力を注いで宙へと放る。
「「「ぴぴぃ~~!」」」
「わぁ~~!」
ふはは、喰らえ!秘儀、湯煙ピクシー桃源郷の舞い!これを思う存分たのしい夏の思い出にするがいいわ!
……。
「はぁ~~ッ…」
大きく腕を伸ばし、ゆったりと湯に浮かびながら青く澄んだ空を見上げる。ああ、なんとも贅沢な気分。
視界の端には結月ちゃんがピクシー達に囲まれ、陶然としてすっかり夢の国ワンダーランドに入り込んでいるのが視える。対岸ではマサルの連れてきた鹿たちが、温泉から出たり入ったりして遊んでいる姿。
瀬来さんもシャークも温泉に浸かり楽しそうにしている。
いやはや、ダンジョンの無くなった後に沸いたこの温泉は、まさにパラダイスだな。お、今度は親子連れで猪までやってきたぞ。ふむ、これはいい。猪・鹿・ピクシーで500文だ。
なんて事を考えていると、泳いでそっと近づいて来たシャークが小声で話しかけてきた。
「(おいジャング、獲物だ。アイツ捕まえようぜ…)」
と、いまさっき温泉に到着したばかりの猪に目線を送る。しかしここでオレが口を開く前にその声を聞きつけた瀬来さんが近づいてきて、指先でシャークの頭をツンとつつく。
「いた」
「よしなさいシャーク。ここにいるのはせっかく生き残った子達なんだから…。今この山は、ダンジョンのできたせいでひどく傷ついてるのよ」
おお、さすがは作物を愛で生き物を愛する農戦士・瀬来清兵衛さんの孫。山にいる時の瀬来さんは、まるでいつもの瀬来さんじゃないみたいだ。
でもその意見には、オレも賛成。
「そうだぞ。よく視てみろ。湯に浸かってる鹿たちのなかにも、怪我をしてるようなのが何頭もいるだろう?それに…、マサルが視てる。マサルはオレ達としばらく一緒にいたが、それはアイツなりに目的があったからだ。あの鹿たちを守るっていうな」
「そうよ。だからそんなマサルの前であの猪を殺してごらんなさい。マサルが私たちのことをなんて思うか、考えてみた?」
「う、それは…」
そう、マサルとオレ達は一時いっしょにいた。
というかアイツが無理くりついてきた。でもそれはアイツなりに人間―つまりオレ達ならばモンスターという訳のわからない連中をやっつけられると考えたからだろう。で、結果はまぁその通りになった。
しかしアイツは動物で、コッチは人間。まぁ人間も動物ではあるが、その価値観に大きな隔たりがあるのは確か。
カンガルーのマサルと鹿とで会話が成立するのか知らないが、仮に成立しているとするならばマサルは人間が鹿を襲うという事も知っているはず。だから鹿の群れからは離れず、オレ達のところには来なかったのだろう。
そうしていつか、山の傷も癒え鹿の頭数も増えたら、また作物への被害なんかも問題になるかもしれない。
でも、それは今ではない。
ならマサルと鹿たちに、ひとときの平穏があってもいいのではなかろうか。きっと山ゴブリンや超巨大猪に散々追いかけ回されて、生きた心地もしない日々を過ごしていたのだろうから。
「ちぇっ…、わかったよ」
そう説明すると、すこし心残りはあるようだがシャークは納得してくれた。
「うむ、えらいぞシャーク。強いヤツってのは、攻め時も引き際も弁えてるもんだ。おまえもまた一歩、サンドラに近づいたな」
「ふふ、そうね」
すると今まで静かだった結月ちゃんが急にザバリと湯から立ち上がると、大きな声で口をひらいた。
「そうれすよるりちゃん!ここは天国なんらから、そんなひどいことしちゃメ~ですよぉ!うふふふふふ…」
ああ…うん、そうね。アレかな?結月ちゃんはちょっと、ノボせちゃったのかな??
「あれ、カンガルーぜんぜんこっち来ないな?おーい、マサル~ッ!」
シャークが湯に浸かりながらそう呼びかけても、マサルはすっとぼけて違う方向を向いたまま。
「ま、元々なにを考えてるのかよく解らないヤツだったしな。それに鹿たちの手前、人間と仲良くする姿は、見せられないのかもしれないぞ?」
「そうね。見知らぬ人間がいるのを警戒してるのもあるんでしょうけど、ここまで顔を見せに来ただけでも充分義理は果たした、とか思ってそうよね」
うん、そうだな。マサルと鹿とで会話が通じてるのかは不明だが、もし通じているのだとすれば人間は鹿を襲う者と理解していてもおかしくはない。
「ちぇっ、アタシもカンガルー乗ってみたかったのになぁ~」
「べつに乗り心地は江月さんとそう変わらないわよ。それに硬いし口もくさいし」
「え~なんだ、それならいいや」
ちょ、ヒドくないッ!
「それじゃあ万智さんは、江月さんに乗ったことがあるんですか?」
て!結月ちゃんもへんなトコ気にしてほじくらないでいいのよ!
「え?ああうんそう!き、機動術、機動術の訓練の時にね~!」
「あ、そうだったんですか」
「ああ。アレは気持ちイイもんな。なぁジャング、帰りもまた頼むな~!」
そういうとシャークは湯に浸かっていたオレの背に、腹ばいで乗りあげてくる。
こらこら。兄弟が多いから男にも慣れてるのだろうが、女子高生が水着姿でそんなことしちゃいけません。
「あの、江月さん。ところでそろそろピクシーちゃんたちを呼んでもらってもいいですか?」
「ん、そうだな。じゃ、あの子らも呼んで遊ばせてあげるか」
自由にさせてたけど、マサくんユキくんが来たことでカードに戻ってもらっていたピクシーたち。まずは陸に上がって蟲王スーツのもとへ。そしてその装甲の隙間に設けた収納部から銀板を取り出すと、魔力を注いで宙へと放る。
「「「ぴぴぃ~~!」」」
「わぁ~~!」
ふはは、喰らえ!秘儀、湯煙ピクシー桃源郷の舞い!これを思う存分たのしい夏の思い出にするがいいわ!
……。
「はぁ~~ッ…」
大きく腕を伸ばし、ゆったりと湯に浮かびながら青く澄んだ空を見上げる。ああ、なんとも贅沢な気分。
視界の端には結月ちゃんがピクシー達に囲まれ、陶然としてすっかり夢の国ワンダーランドに入り込んでいるのが視える。対岸ではマサルの連れてきた鹿たちが、温泉から出たり入ったりして遊んでいる姿。
瀬来さんもシャークも温泉に浸かり楽しそうにしている。
いやはや、ダンジョンの無くなった後に沸いたこの温泉は、まさにパラダイスだな。お、今度は親子連れで猪までやってきたぞ。ふむ、これはいい。猪・鹿・ピクシーで500文だ。
なんて事を考えていると、泳いでそっと近づいて来たシャークが小声で話しかけてきた。
「(おいジャング、獲物だ。アイツ捕まえようぜ…)」
と、いまさっき温泉に到着したばかりの猪に目線を送る。しかしここでオレが口を開く前にその声を聞きつけた瀬来さんが近づいてきて、指先でシャークの頭をツンとつつく。
「いた」
「よしなさいシャーク。ここにいるのはせっかく生き残った子達なんだから…。今この山は、ダンジョンのできたせいでひどく傷ついてるのよ」
おお、さすがは作物を愛で生き物を愛する農戦士・瀬来清兵衛さんの孫。山にいる時の瀬来さんは、まるでいつもの瀬来さんじゃないみたいだ。
でもその意見には、オレも賛成。
「そうだぞ。よく視てみろ。湯に浸かってる鹿たちのなかにも、怪我をしてるようなのが何頭もいるだろう?それに…、マサルが視てる。マサルはオレ達としばらく一緒にいたが、それはアイツなりに目的があったからだ。あの鹿たちを守るっていうな」
「そうよ。だからそんなマサルの前であの猪を殺してごらんなさい。マサルが私たちのことをなんて思うか、考えてみた?」
「う、それは…」
そう、マサルとオレ達は一時いっしょにいた。
というかアイツが無理くりついてきた。でもそれはアイツなりに人間―つまりオレ達ならばモンスターという訳のわからない連中をやっつけられると考えたからだろう。で、結果はまぁその通りになった。
しかしアイツは動物で、コッチは人間。まぁ人間も動物ではあるが、その価値観に大きな隔たりがあるのは確か。
カンガルーのマサルと鹿とで会話が成立するのか知らないが、仮に成立しているとするならばマサルは人間が鹿を襲うという事も知っているはず。だから鹿の群れからは離れず、オレ達のところには来なかったのだろう。
そうしていつか、山の傷も癒え鹿の頭数も増えたら、また作物への被害なんかも問題になるかもしれない。
でも、それは今ではない。
ならマサルと鹿たちに、ひとときの平穏があってもいいのではなかろうか。きっと山ゴブリンや超巨大猪に散々追いかけ回されて、生きた心地もしない日々を過ごしていたのだろうから。
「ちぇっ…、わかったよ」
そう説明すると、すこし心残りはあるようだがシャークは納得してくれた。
「うむ、えらいぞシャーク。強いヤツってのは、攻め時も引き際も弁えてるもんだ。おまえもまた一歩、サンドラに近づいたな」
「ふふ、そうね」
すると今まで静かだった結月ちゃんが急にザバリと湯から立ち上がると、大きな声で口をひらいた。
「そうれすよるりちゃん!ここは天国なんらから、そんなひどいことしちゃメ~ですよぉ!うふふふふふ…」
ああ…うん、そうね。アレかな?結月ちゃんはちょっと、ノボせちゃったのかな??
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