うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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childbirth

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最近、地元の友人関係で悩みを抱えていた様子の瀬来さん。そんな瀬来さんのやや焦った表情に、いよいよ何かトラブルかと緊張感を高めた。

だがそんなオレをよそに、瀬来さんは車を降りたお爺さんに近づくとまったく予想だにしなかったことを口にする。

「あのねおじいちゃん!今おじさんから連絡があって、馬が産気づいたから助けてほしいって!」

(は…、なんですとッ?)

瀬来さんのいうおじさんとは、笹山さんのことだろう。しかしなぜそんなSOSがまた、お爺さんに向けて?だがそういった疑問が浮かぶ間にも、通話状態の通信端末を受け取ったお爺さんが会話を進める。

「うむ、儂だ。ふむ…ほう、そうか、逆子なんか?そら難儀じゃな」

むむ、それによるとすでにお産は始まっており、仔馬は逆子でかなり難産な模様。

で、そんな会話内容を聞きつつも、様子がおかしいことに気付いて集まってきたシャークや結月ちゃんとも顔を見合わせる。うむ。大変な事態だというのは理解したが、さりとて相手がお産ではオレ達には手の出しようがない。

「よし、またでかけるぞ。コーイチ、おまえも手伝え」
「え?あ、はい!」

「あ、ならアタシも行くよ!」
「私もお手伝いします!」

しかし通話を終えたお爺さんによって、オレ達もお手伝いをすることが決まったのだった。

…。

こうして笹山さんからのSOSで向かった先はというと、ハイソでオシャンティな乗馬クラブだった。ちなみに瀬来さんはこれから友人が来るというので、同行していない。

「急に呼び付けたりして悪いなぁ、清兵衛さん。それに江月くんたちも、来てくれてありがとう」

そしてオレ達の到着をロビーで待っていたハンターファッションな笹山さんに、開口一番でそう礼を言われた。

なんでも笹山さんはここのオーナーに罠の設置と周囲の見回りを頼まれているらしく、今日も見回りに来たところで、馬が産気づいている場面に出くわしたのだそうだ。

うん、馬などがいれば、当然山ゴブリンなんかのモンスターがそれに眼をつけ襲撃してきたりもするだろう。それを笹山さんは、罠と猟銃を用いて防いでいたのだな。

「悪いなぁ。今は怪我で入院したり別の土地に避難したりで、馬のお産を手伝える人間がみつからなかったんだよ」

皆を連れ馬房へとやや足早に向かう途中で、笹山さんがこれまた早口に説明してくれる。なるほど、それで経験豊富なお爺さんを頼った訳か。

そうして馬房へとやってくると、長靴作業着姿の職員さんたちが苦しむ馬を前に、どうしたものかと酷くオロオロしていた。

(ああ、なるほど。これは確かに…)

乗馬クラブの職員さんたちは見るからに若く、その経験不足からくる動揺でかなりオタついていた。

これではお爺さんを呼びたくなるのも納得だ。なにせ瀬来さんのお爺さんは、作物と生き物を愛する農戦士。馬のお産だって、難なくこなしてくれそうである。

しかして当のお爺さんはというと、大汗かいて息を荒くしている母馬をみるとすぐに「水は?」と、誰にともなく訊いた。

「それが、今この建物は断水中で…、でもすぐ近くに川があります!」
「そんならすぐに汲んでこい。このままじゃ馬の体力が持たんぞ」

答えた職員にそう指示を出す。どうやらお爺さんの見立てでは、熱くなったカラダを冷やしてやらないことには、母馬の体力が持たないらしい。

「よし、それならばオレ達の出番だ。さ、早くその川へ案内してくれ」
「ハ、ハイ!」

慌てる職員にそう促し、川へと案内させる。

スキルの粘液で冷やすこともチラと考えたが、考えるまでもなく川の水の方が冷たい。それにデリケートで臆病といわれる馬に、見知らぬ粘液など浴びせては驚かせてしまうだろう。なのでここは素直に、川から水を汲んできた方が良さそうだ。

…。

そうして向かった先は、川というより沢に近いような細い川。また降り口も狭い為、ひとりしか降りられない。

そこでオレが降りていって金バケツに水を汲むと、それをシャークに渡す。

「よし!じゃ、先に行くぜジャング!」
「あ、待ってよ!るりちゃん!」

「慌てて転ぶなよ、シャーク」

バケツを持って走り出すシャークの背にそう声をかけ、早く私にもと手を伸ばす結月ちゃんにも、水を汲んだバケツを渡す。

そんなふたりを見送り、持ってきていた大きな金ダライへと手を伸ばすと、残っていた職員が手伝ってくれる。いや、別にわざわざコレを選んだわけじゃなくてね。たまたま眼についたのがコレだっただけよ。

「それじゃあ、私も戻っても?」
「ああ、ありがとう。これくらいなんでもないから、もう戻って大丈夫だよ」

ここまで案内してくれた職員さんも馬の事が気になるのか、オレを待たずに戻りたい様子。しかしあとはタライに水を汲むだけなので、先に戻ることを了承した。

「では、すいません」

こうして後に残ったオレも金ダライにもなみなみと水を汲み、それを両手で持って急ぎ帰路につく。

だがここで、自身のある変化に気がついた。

(おお…、すごいぞ。いつのまにか、盥の水を波立たせることもなく運べるじゃないか!)

そういえば最近は、薪に使う丸太の上に乗って精緻な足捌きの修練を積んでいたからな。うむ、これは素晴しい進歩。よし、あともう少しだ…。

しかしそれに気を良くしてスピードアップしたところで、なぜか突然ツルリと右足が滑った。そこで左足で身体を支えようとするも、あろうことか今度は左足もツルリと。

(えっ!?)

そのため金ダライを抱えたままで大きくバランスを崩し、身体が宙に浮いてしまう。それでもなんとかカラダを支えようと、視界に入った綱へと咄嗟に手を伸ばす。

「ヒヒィン!!」
(なっ!?)

が、オレが握ったのは綱ではなく、どうやら馬の尻尾だったらしい。

次の瞬間には大きな蹄が眼前に迫り、ガッと激しい衝撃と共に目に火花が散った。そうしてグラリと揺れた視界に、ひどく澄んだ、夏の深い青空を視た気がした…。
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