うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

文字の大きさ
435 / 660

death?

しおりを挟む
意識が混濁している感覚を覚え、それが深い海から浮上してきたように薄れていく。

(なんだ…?ああ、そうだ。馬に蹴られたのかオレは…)

どうやらそれで、気を失ったらしい。

しかしまさか、馬に蹴られて気を失うなんて。しかも不意を突かれたとはいえ、おもいきり良いのを貰ってしまった。まったく、盥の水を零さず運べたなどと喜んでいたら、もうコレだ。

つい調子にのってしまうのは、オレの悪い癖だな。

(む、だが待てよ?なんだこの苦しさは?それに、何度まばたきししようとしても、まるで目が開かないぞ…??)

どういう訳か吐き気と息が出来ないような苦しさを覚え、なおかつ目も視えない。

そこで他の感覚へと意識を向けてみても、それもまた反応がない。それどころか、苦しさ以外の身体の感覚がまるで感じられないのだ。

ならばと苦し紛れにオーラ視を発動。

すると、青いガラス越しに景色を見るような感じで、全周囲が視えた。

(ふぇッ?いったいこれは…ッ!?)

前後左右に上下。360度どころか、足元の地面も頭上の空も同時に視えている…。そしてそんな青い視界のなかに、白目を剥いて倒れている自分をみつけた。

(なッ!?)

厩舎に向かう途中には、外で馬を待機させておくちょっとした小屋があった。

そこになぜか、黒い馬が前後を逆に納められていたのだ。産気づいた馬のせいで、従業員が慌ててこんな風に収めてしまったのだろうか。で、その前でオレは―というかオレのカラダが倒れている。

そしてどうやら、その黒い馬に蹴られノビてしまったらしい。

(うむむ…。盥を持っていて、気付かず馬糞を踏んでしまったのか。なんてことだ。しかしオレがあそこに倒れていて、ここにもオレが?これはいったい…??)

視ればまた魔力の途切れてしまったせいで、空間庫に入れていた荷物がカラダの傍で山になっている。そして乱雑に積みあがった荷物からは、瓶が割れてしまったのか万能回復薬らしい液体が地面に染みを作っていた。

だがそうして事態の理解に努めようとしていると、不快に感じていた苦しさがさらに強まってくる。それに風に吹かれでもするようにしてゆるく揺れる視界も相まって、なんとも言えぬ不安と心細さを覚えた。

(ハッ、もしや死んだのかオレ!?)

そんな馬鹿な。どんなに恐ろしいモンスターと戦っても、ここまで生き残ってきたのに。それがまさか、馬に蹴られた程度で死んでしまうなんて…。

(いや!きっとまだセーフ!幽体離脱なだけで、カラダに戻れればセーフなんじゃ!?)

うん、そうだ。こうして意識はあるのだし、死んだなどとは考えたくない。

それに、せっかく人生が楽しくなってきたところ。なのにこんなところで死んでなどいられない。そこでさっそく身体へ戻ろうとするのだが、どういうわけかちっとも前に進めない。

(ん、あれッ!?って、今のオレ人魂なんッ!?ちょっ!手も足もないやんけ!!)

不審に思い自身に意識を向けてみると、ツルリと丸く手も足も無かった。うぬぬ、道理で全周囲が視えるわけだ。意識だけで、カラダに該当する部分がひとつもないではないか。

(ねぇちょっと!どっかにバーニアとかスラスターって付いてない??…って、落ち着けオレ!そうだ、オーラ視できたんなら、念動で移動をッ!)

そう自身を勇気づけ、襲いくる苦しみに耐えつつも念動を発動させる。すると、ユルユルと僅かながらも前に進むことができた。

だが、遅い…。

カラダまで目測わずか8メートルほどの距離が、とてつもなく遠く感じる。これは肉体から離れたことで、まるで気が練れないせいなのか?魂だけだと、こんなにも力が発揮できないものなのか…。

(むおッ?)

しかしここで、そのカタツムリよりも遅い移動に、なぜかピタリとブレーキがかかってしまう。

そこでなんだろうと意識上の背後へ視線を向けてみると、そこにはいつの間にか黒い人影が地面から上半身をヌッと生やすような感じで存在していた。

そしてオレに向け、てろりてろりと不気味な手招きを繰り返しているではないか。

(ま、まさかアレが死神!?いや、ぜんぜん!全然呼んだりしてませんからね!!ほかの誰かと間違っちゃいませんか!?)

…。

ズゴゴゴゴゴゴゴ…。

ひとの恋路を邪魔するヤツは、馬に蹴られて死んじまえ。などと言うらしいが、その渦中の人となってしまったオレ。

さらにはオレのことを迎えに来た死神なのか、不気味な黒い影が行う手招きにより前にも進めなくなってしまった。

(ハッ、そうだ。だがオレはひとりでもひとりじゃない!なぜなら魂を共有化した御霊たちがいるのだから!ならふたりの力を借りよう!お~い、塩太郎!しおたろぉ~~ッ!)

声にはならぬ必死の叫び。

その文字通り魂の叫びで塩太郎に救援を乞う。すると白目を剥いて倒れているオレのカラダから、ピョコリと塩太郎が顔をだした。

(やった!…ああいや違う、そっちじゃない!コッチコッチ!たすけて塩太郎!このままじゃ死神に連れてかれちゃうッ!!)

あたりをキョロキョロと見回していた、非常口マークそっくりな塩太郎。だがオレのことに気が付くと、懸命にこちらに向け駆けてくれる。

(ッ…ッッ!)

よし!…あ、でも、なんか塩太郎まで動きが遅い。

どうやら塩太郎もオレが死んだショックで、今まで気を失っていたようだ。しかしその間にもオレは、どんどんと死神の方へと引き寄せられていってしまう。

(ガ、ガンバレ塩太郎!早く!て、クィーン!ピクシークィーンも助けてッ!!)

自分でどうにかしたくても、手も足もなく気すら練れないのではどうすることも出来ない。さらには苦しくてどうしようもなく、かろうじて保っている意識すら飛んでしまいそうだ。

(うぐぐ!魂だけの状態というのは、こんなにも苦しいのか…。ああ不味い…もう!!)

もはや黒い影は間近に迫り、高度もどんどんと落ちていく。このままあの影の手の中に納まったりしたら、完全にオシマイな気がする…。

(ッ、ッ…ツッ!!)

しかしそんな危機的状況に、駆け込んだ塩太郎が渾身のダイビングレシーブをオレに決めてくれる。それにより宙高く浮かび上がり、視界がひろがる。

(おぉ、やったぞ塩太ぶべッ!?)

だが突然、さらに強烈な衝撃に見舞われる。

しかしそれは倒れた身体から飛び出てきたピクシークィーンが矢のように飛び、人魂状態なオレを猛烈アタックした為らしい。


その竜巻妖精女王アタックにより、尋常ではない回転が加わったオレ。

それにより全周囲の視界がめまぐるしく回転し、吐きそうな程の苦痛を味わう。そうして気持ち悪いオーラをまき散らしながら、オレは自身のカラダへと突き刺さったのだった。。。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...